(魔導師クラウス目線)お守りの効能
棚の奥で本を探しあてたクラウスは、部屋の隅から机まで本を持って移動し、子供……ユイと名乗っていた……の様子を眺めた。いつもの習慣で、手に持っている本を無意識に机に置くとかすかな音が響いた。
本を置いた音が聞こえたのか、ふいにユイが振り向いた。
「あ、あの」
暖炉の側からいそいで離れて、手に持っていた布の小さな袋を持って差し出してくる。
「食べたいって言ってたから、お菓子作ってきたの」
差し出された布切れをクラウスは手のひらで受け取り、テーブルに小皿を出した。布を開くと白くて丸い菓子が入っていた。
クラウスはそのいかにも稚拙な菓子を一かけらつまんで、口に入れた。
「味が足りないな」
不味い、とは言えなかった。
「どんぐりの味、しなかった?」
怪訝そうな表情になったユイは、残っているお菓子をひとつ口に入れた。その頬が美味しそうに笑みをかたどるのを、不思議に眺めた。
甘くもなく、塩気もない。ただ、少し苦いような、木の実の味がする。年端も行かない子供が自分で菓子を作ったのも、この子が自力で作らざるを得なかったからだろう。
美味しいのになぁとうったえかける瞳に出会う。
「どんぐりは嫌い?」
答えを見つけたように目を輝かせたユイの言葉に、正直に答えることにする。
「そのようだ」
子供のよく変わる表情を見ていると、おだやかな気分になった。
「そうかー、でもユイはこれしか作れないんだもん」
悲しげに眉を寄せるユイに、クラウスは何も言えることがない。しかたなくもうひとかけら、口に運ぶ。
やはり不味い。
ユイはしょんぼりしながらも、白い布に菓子を回収した。置いておいても、仕方ないとわかってくれたようだ。
「魔導師様、ユイね、ずっと傍にいたいな。お菓子ももっと上手に作れるように、練習するよ。ダメかな……」
人が傍にいるのは久しぶりのこと。このクラウスの傍にいたいと言う人間は、この数年はなかった。
罠から助けた時に、守護の首飾りを指でさしたので、必要なのだろうと与えた。道に迷うこともなくなり、よい願いについては方向を指し示す効能があるお守りだ。
子供であるユイが、術で隠遁されている屋敷にたどり着き、中に入れたのもそのせいだ。与えたのは己であり、天に言わせると、これも偶然ではないのだろう。
子供の世話をしたことはないが、問題ないだろう。
「好きにしたらいい」
子供は目を輝かせてうれしそうに「はい」と頷いた。ほころぶような笑顔を見せてから、メイドに座るようにと示された暖炉のそばのソファに戻ると、心底安心した笑顔になった。
こんな魔導師さんです。




