焼き菓子はダメでした
低い感情のない声が応えてくれた。
「そうかー、でもユイはこれしか作れないんだもん」
せっかく食べてもらえたのに、美味しくなかったのが悲しくて、ユイはしょんぼりと下を向いた。
視界の端で、魔導師がもう一つお菓子を手に取って口にしたが、黙っている。
おいしくないのに、もう一つ食べてくれた?
ユイがしょんぼりしたから、食べてくれたんだ。どんぐりが嫌いなのに。やっぱり魔導師は優しい。ちっとも怖くない。
そうだ、ユイもここで一緒に暮らせば、美味しいお菓子を作ってあげられるかもしれない。もっと練習したらおいしくできるかも。
変なメイドさんはいるけど、独りきりじゃ寂しいだろうし。でも、追い出されちゃうかな。
行くところはないし、冬の真ん中で人々は家にこもっている。よそ者の子供を迎え入れてくれる場所は、たぶんない。
ダメなら、雪のかまくらを作って、春まで過ごしたらいいかもしれない。
よし、聞いてみよう。
「魔導師様、ユイね、ずっと傍にいたいな。お菓子ももっと上手に作れるように、練習するよ。ダメかな……」
魔導師は不思議そうにユイを少し眺めると、何事もなかったかのように机の椅子に座った。
「好きにしたらいい」
ユイには「いてもいいよ」と聞こえる、好きにしていいだった。魔導師様は、ユイと一緒にいてくれるんだ!
体の奥からうれしさが湧き上がってくる。ほっぺたに温かさが集まって、飛び跳ねたいくらいだ。
「はいっ」
大きな声で返事をした。
さきほどのメイドが暖炉の近くにあるソファをしめして、座ってもいいよと教えてくれる。
ユイは、本を読み始めた魔導師の邪魔をしないように、ソファに行って座った。革張りのソファには、温かそうな毛布があり、ユイが座るとメイドがかけてくれた。
暖炉の音がして、あたたかくて、涙が出るほどうれしかった。
探検!の前のエピソードがごっそりと抜けていました。追記しています。探検はもっと後でした…。
次は魔導師目線です。




