ありがとうと、焼き菓子を
階段を上がった先にある扉の前につくと、メイドは扉をあけて入るようにしめした。ユイはおとなしく部屋に入った。大きくはないが、豪華な部屋で一人待つことになった。お客様を通す応接室じゃないかと思う。
少し居心地が悪いけれど、外よりもずっと暖かい。
奉公先では絶対に触ってはいけなかったようなソファに座って、ユイは周囲を見渡す。窓の外では、雪が降ってきたようだ。
とても静かだった。
疲れがたまった体には、この暖かさと心地よさ、そして何よりも安心感が眠気を誘発して、ユイはそのままの姿勢で眠っていた。
気がついたら目の前に、無表情のメイドが立っていた。
「あちらへ」
部屋を出て、ぼんやりとした頭でメイドの指すほうへと歩き出す。
「あっち?」
メイドはもう何も言わずに先を歩き始めた。どんどん先に行ってしまう。
廊下の窓を見ると、すでに暗くなっていた。
ユイはもう一度お菓子の包みを見ると、勇気を出してすすんだ。さっき会ったときは、どうしたらいいか分からないくらい怖かった。本当にあのとき罠を外してくれた魔導師様なのかな。
あのときは、魔導師様はとっても眠そうだった。ぼんやりしていて夢を見てるみたいな感じだった。
それにお腹が空いてる気がした。
けれど、今ははっきりと目覚めていて、お腹も減っていなさそうだ。
ユイはメイドが示した方向へ歩いていく。怖くないかと聞かれれば、ちょっと怖い。それでも、うたた寝してしまうほど安心しているのだ。
メイドは少し奥の、ひとつの扉の前で立ち止まった。
「ここ?」
ユイは不安に思って話しかけるが、メイドはすでに背を向けて次の仕事へと向かってしまっている。
ひとり取り残されたユイは、扉のノブに手をかけて静かに開いた。
部屋は広い書斎だった。
扉より左手に広く間取りがあり、壁には窓以外はぎっしりと本棚に本が詰まっている。雑多な印象はなく、むしろきれいだ。
扉からすぐ左にソファとテーブルがあり、その奥に大きな書斎机が置いてある。机の近くにカウチがあった。
入り口から右手には大きな暖炉があり、火がゆらめいている。
廊下より数段あたたかい。ユイは思わず暖炉の側へ歩いていた。あたたかさに息をついて、ほっとして手を火にかざした。
物音がして振り向くと、淡い金髪の魔導師が部屋の奥の机に本を置いていた。
ありがとうって、言わなきゃ。お菓子を渡さなきゃ。
「あ、あの」
自然と足が動いて、机に小走りしていた。お菓子を入れた袋をそっと魔導師に差し出す。
「食べたいって言ってたから、お菓子を作ってきたの」
特に何の表情もなく、魔導師は大きなてのひらをお菓子の下に持ってきたので、ユイはそっと手に乗せた。
魔導師は受け取った袋を開いて、近くにあった小皿にのせた。小皿なんかあったかな、と不思議に思うが、それよりも皿に乗せられた白くて丸い菓子が、
大きかったり小さかったりするのが、少し失敗だったかなと思う。
その中でも小さなものを選んだ魔導師は、そのまま口に運んだ。
食べてくれたっ。
すごくうれしくなって、わくわくしていると、魔導師はほんの少しためらった後に口を開いた。
「味が足りないな」
味? そうかな?
「どんぐりの味、しなかった?」
おかしいなと、皿から一つ自分の口に入れた。ほろほろと崩れるお菓子は、ほんのりとどんぐりの味がする。いつもの味だ。ひさしぶりのお菓子に、ユイ は口元がほころぶのを抑えられなかった。
魔導師はユイが食べるのを見ていたようだ。
「どんぐりは嫌い?」
おいしいけどなと、聞いてみる。
「そのようだ」
低い感情のない声が応えてくれた。




