密室の読者
私が読み終わった時、作家・小山田誠は、自宅の密室書斎で死んでいた。
胸を鋭利なペーパーナイフで一突きにされ、椅子にもたれるようにして息絶えていた。
その日は奇妙な日だった。
彼の家に招かれたのは、私一人だけ。
原稿を読ませるから感想を聞かせてくれ――そう言って彼は、わざわざ私を呼んだのだ。
私が部屋に入ると、机の上には一冊の未発表原稿が置かれていた。タイトルは、
『密室の読者』。
そう、これだ。この物語のタイトルと同じ。
原稿を手に取った瞬間、私は強烈な違和感に襲われた。
1ページ目には、こう書かれていたのだ。
「この部屋で起きる殺人事件の犯人は君だ。君はすでに動機を持ち、このページを開いた時点で、運命から逃れられない」
……気味が悪かった。
けれど、読み進めずにはいられなかった。
そして、50ページ目で小山田は死ぬ。
原稿の中で、ではなく、私の目の前で、本当に死んだ。
まるで筋書き通りのように、彼は背後から刺され、机に突っ伏した。
もちろん私は叫んだ。110番もした。
警察が到着し、現場検証が始まった。
刑事は言った。
「ドアは内側から施錠されていた。窓も閉まっていて、侵入口はない。密室です」
私は混乱した。
だが刑事はさらに静かに続けた。
「奇妙ですね。机の上には原稿があります」
私は黙ってうなずいた。
刑事はその原稿を手に取り、パラパラと読み、こう言った。
「この物語には“犯人”が書かれている。……ほら、最終ページです」
私は思わず覗き込んだ。
さあ、誰が犯人?