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8. 出発

「ほう」と、リステアードは形の良い眉を片方上げた。

 何か言いたげな視線を感じたが、とりあえずそっちは無視しておく。


 昴は俺の言いたいことが解ったみたいだ。大切な人を失いたくない――俺が一番思っていることだと。

 途中から転校してしまった昴は、引き取られて来た義妹の日向とは直接会ったことがないだろうが。小さな市や町では、俺たち家族の話を知らない人は居ないに等しい。


「小学生の頃の約束は……ごめん、ちょっと覚えてなくて申し訳ないんだけど。これから先、元の世界に戻れて、もしも違うことで困ったら。その時は、昴に助けてほしい。俺、人間関係とか色々不器用だからさ」

 

「……わかった」と、昴は頷いてくれた。

 

 本当に約束は全く覚えていないが。自殺(勘違いだけど)を止めようとしてくれたり、ずっと気にかけてくれていたことには感謝しかない。

 俺、異世界じゃなくても、ちゃんと友達がいたんだな……。


「ところで、もしかして星野さんもその約束に関係してる?」

「栞? 約束は関係ない。あいつは幼馴染だから、昔から俺の気持ちを知ってるだけだ」

「そっか。素敵な彼女だね」

「は? 彼女?」

「え、付き合っているんでしょ?」

「いや、付き合ってない。あいつは無理だ。腐ってるから」

「腐……」


 なんだか聞いていけないことを聞いてしまった。クラスの、高嶺の花的存在が腐女子。


「言うなよ。あいつ、でっかい猫かぶってるから」

「……わかった。口が裂けても言わない」


 てか言えない。リステアードに頬を染めていた理由が、別物だったと理解してしまったから。相手は……詮索すまい。してはいけない。

 シンプルな地味顔の俺には興味ないだろうが、なるべく星野さんには近づかないようにしようと決めた。

 



 ◇◇◇




 それから数日が経ち、出征の日がやって来た。


「レン、そのバックでいいのですか?」

「あ、うん! いらない教科書は出したから軽いし。保護魔法もかけてもらって丈夫になったからね」


 俺は神殿から支給された、ライノアともお揃いの聖騎士団の白くカッコいい制服を身に纏い、通学用の黒いリュックを背負っている。ちょっとカッコ悪いが、どうせイケメンではない俺だし、これでいい。


 剣は、ライノアが用意してくれていた。長さといい、重さといい、俺が使いやすそうな剣を厳選してくれたみたいだ。手に馴染むし、自分の剣があるってめちゃくちゃ嬉しい。

 どこぞの聖剣もどきは、本当に最悪だったからな。


 重たい瓶入りのポーションは、空間魔法が付与されたマジックポーチにいれて、すぐ取れる腰に下げてある。リュックもそのポーチにと言われたが、なんとなく肌身離さず持っていたかった。空間魔法って次元が違っていて、近くて遠いような気がしてしまうから。

 これも一種のトラウマかなと笑えてくる。

 厄介な魔道具を付けられてしまった片腕を、別次元に残し、片腕だけで訓練に明け暮れた日々。腕が見えるって本当に安心できるよな。


「それには何が入っているのですか?」

「まだ内緒。討伐が終わったら、ライノアにも見せるね」

「そうですか、楽しみにしています」




 それから約十日間をかけ、野営をしながら目的地へと移動した。

 



 辺境伯領に到着すると、報告のあった森へ入る前に、リステアードは辺境伯から直接話を聞く時間を設けていた。


 その間に、他の者は移動での疲労を回復させておく。星野さんが、出される食事に回復魔法をかけておいてくれた。聖女として、たくさんの努力をしてきてくれた成果は大きい。寝る間も惜しんで、上級ポーションを大量に作ったのも星野さんだった。


 やっぱり星野さんは、見た目だけが綺麗なのではなく、聖女に選ばれたのはその内面があってこそなのだろう。カッコいいな。 

 そんな視線に気づかれてしまったのか、星野さんはこっそり俺の方にやって来た。


「望月君、絶対に死なないでね」

「星野さんもね」


 真剣な星野さんの眼差しに俺は頷く。

 お互い「無理はしないように」なんて言えないのだ。勝つためには、どうやっても無理はしてしまうだろうから。ただ、みんなで生き残ることが大事だ。


「どんなに酷い怪我をしても、必ず治して助けるから」

「わかった、ありがとう」

「あと、討伐が終わったら。()()()聞かせてもらうから」

「……えっと。何を?」


 星野さんは、フッ……と不敵に笑った。

 その笑みは、ちょっと聖女に見えないのですが。討伐前に、不安要素を植え付けるのは勘弁してほしかった。



 その日の晩、リステアードは全員を集め、辺境伯から伝えられた新情報を皆で共有した。


 凶暴化した魔獣だけではなく、森の奥には死霊系の魔物が大量に潜んでいるらしいと。魔王の棲家である城を護るように。


「ネクロマンサーがいるなら、術者を倒せばいいが。魔王の能力であれば、いくら屠ってもきりがないだろう。そこで、聖女シオリに聖水を用意してもらう。各自、それを必ず持って行くように!」


 聖水を倒した死霊にかければ、復活できなくなるらしい。星野さんは、もう井戸にむかったようだ。井戸の水を、まるごと聖水に変えるつもりらしい。チート聖女はさすがだ。

 頼もしさを感じる反面、嫌な予感がじわじわと湧いてきていた。


「レン、どうしましたか?」


 解散の合図を受け、ライノアは俺のそばにやって来た。


「死霊系の魔物って、光属性の魔力に弱いよな?」

「ええ。こちらには聖女と勇者いるので、有利でしょうね」

「あのさ。それって、二人を城の中に呼び寄せる罠ってことはないか?」

「罠、ですか?」

「俺たちにとっては厄介だけど、二人ならどんどんやっつけて、魔王のところに行けちゃうだろ?」

「……ですが、魔王そのものが光の力に弱いですから」

「うん、確かにそうなんだけど。嫌な予感がするんだ」


 偽の魔王城を作って、本当の敵を誘き出したとんでもない魔王がいたのだ。

 あの時と違うとはわかっていても、単純に考えることができない。

 

「殿下にレンの話を進言してみましょう。レンも異世界からの召喚者です。レンが何かを感じるなら無視しない方がいい」

「ありがとう、ライノア。二人が城の中に向かうときは、俺もついて行きたい」

「わかりました。何があっても私がレンを守りますから」

「うん」



 この判断を、俺はすぐに後悔することになる。

 ライノアという、頼りになる存在に甘えていた。危機感が足りないことを、この時はまだわかっていなかったのだ。


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