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13. パーティーに隠された思惑

 ――結局、ライノアとは会わないまま、パーティー当日なっていた。



「ちょっと……この衣装は何なんだ?」

 

 確かにさ、昴と星野さんが会いに来てからも、王宮に足を運ばなかったのは俺だけど。

 

 早朝に王宮からの使者やって来て、そのまま馬車に乗せられて、着いた先では服を剥かれて全身ピカピカにされ、仕上がったのがこの姿。


「あれだけ言ったのに、前もって確認に来なかった望月君が悪いわ」


 ピシャリと言った星野さんは、ザ・聖女様といった清楚かつゴージャス(?)な衣装で、仁王立ちしている。

 助けを求めるように昴を見るが、諦めろといった視線をよこした。それでもつい言ってしまう。


「昴も嫌じゃないのか?」

「ふん。俺の意見なんて通るわけないだろ」

「え……そうなのか?」

「諦めろ。奴らには敵わない」

「奴ら?」

「リステアードとか大神官とか、まあ色々」


 一体だれのことを言っているのだろうか。

 今、俺に分かったのは、こっちの世界でも勇者の扱いは雑……あまり意見を聞いてもらえないらしい。

 仕方ないので、言われた通り聖女と勇者の隣に並ぶ。この順番で会場に入らなければならないそうだ。

 

 絶対に場違いだって……。もう泣きそうだ。


 美男美女の二人は、めちゃくちゃ聖女と勇者の衣装が似合っているが、なぜか俺まで勇者とほぼお揃いの衣装。

 まあ、救いは色が全く違うところだが。

 昴は鮮やかなブルーに金の刺繍がふんだんに施され、真っ赤なマントをつけている。とにかく高級そうな生地だ。


 対して俺はマントは無く、品の良い淡いグレーの衣装で銀糸の刺繍が施されている。

 装飾を含め、ちょっとだけライノアの色みたいで、胸がキュッとなった。パートナーの色を纏う意味を、あっちの異世界で学んだせいだ。

 ライノアのパートナーでもないし、この衣装は神殿の意向でしかないというのに。


 そして、あっという間に入場の時間となった。




 ◇◇◇



 

 王族の入場が終わり、いよいよ次だ。


「聖女シオリ・ホシノ様、勇者スバル・シブサキ様、聖剣レン・モチヅキ様のご入場です!」


 ──は? 


「行くぞ」と昴に引っ張られ、王族の並びに立たされた。

 何がなんだかサッパリわからない。

 正面には、華やかなドレスの女性や盛装した男性がひしめき合っていて、こちらをキラキラとした瞳で見ている。


 いや、聖女と勇者は理解できる。

 聖剣て何だよ! 物? 俺、いつ人やめたんだ?

 せめて、剣聖とかじゃないのか? いや、それはまぁ、だいぶ烏滸がましいけどさっ。


 リステアードが、今回の討伐の立役者である聖女と勇者の活躍を、会場に集まっているいかにも有力そうな貴族たち向かって声高に話していく。


 そして。


「勇者スバルと聖剣レンは、二人で一人の勇者だったのだ! 此度の魔王バスチアンには、魔力を持っていては敵わなかった。故に、神は勇者の聖剣として魔力を持たないレンを、勇者と共に遣されたのだ! そうだな、大神官?」


「その通りでございます」とインガル大神官。


 は……なんだって? 

 

 この国で最も高貴な国王陛下の、有り難いはずの感謝の言葉も、耳を通り抜けて行く。全く頭に入って来ない。


 俺、リステアードに今回の件は、あまり関わっていないことにしてって頼んだよな?

 真っ青な俺を無視して、星野さんは会場に祝福として光魔法を降らせて、歓喜を煽っている。昴は全てを知っていたのか、俺から視線を逸らした。


 呆然としながら会場を見渡すと、アダルハード聖騎士団長の横、聖騎士団の正装で立つライノアの姿が。にこやかな笑顔で、こっちを見て……って!


 あれはライノアじゃない!! ノアだっ!

 くっそおぉぉ……何で居るんだよ。また、やられた……みんなグルだっ!




 ◇◇◇




 ダンスタイムが始まると、俺はライノアに化けたノアを追いかける。

 色々と訊きたいことだらけだ。 


 ノアは俺が追いかけているのを気づきながら、人の波を縫うように、優雅に会場の中を進んでいく。

 そして、庭園へ出ると更に歩くスピードを速めた。


「ちょ……ちょっと待って、ノア!」


 歩いていたノアに対して、俺は全力疾走。魔族チートはズルすぎる。

 ゼェハァと膝に手をつき、前屈みで呼吸を整えてから、顔を上げた。目の前には、ノアの後ろ姿。


「どういう事だよ! ちゃんと説明しろよっ」


 振り向いたノアは、今度はライノアだった。

 

「ライノア?」

「なんだか……久しぶりですね、レン」

「あ、うん。久しぶりだな。あのさ……さっき会場に居たのはノアだったよな?」


 ライノアは驚いたのか目を見開く。


「よく分かりましたね。彼の変身した姿には、誰もが私にしか見えなかったようですが」

「そりゃわかるよ。ライノアとノアじゃ、全然違うからな。俺……ライノアの笑顔、好きだからさ」


 こんなことノアに聞かれたら、凍てついた視線で氷漬けにされそうだが。

 

「そんな風に言われたら、私は自惚れてしまいますよ?」


 言葉とは裏腹の、泣きそうなライノアの笑顔。

 俺は、余計なことを言ってしまったみたいだ。


「レンは、あちらの世界に帰るのですか?」

「ライノア……」


 本当は、帰りたくない。ライノアとずっと一緒にいたい。


 だけどやっぱり、俺に帰らないという選択は無理そうだ。いつまでも逃げてないで、ライノアにはきちんと伝えなきゃいけない。

 意を決して口を開きかけると、ライノアが先に話し出した。


「ちょっと卑怯ですが、言わせてください」

「……うん」

「私は、レンに初めて会った時から惹かれていました。戸惑うシオリ様とスバル様の隣で、お二人を庇うように、澄んだ瞳で周囲を見つめる凛としたレンの姿。私の心は奪われ、目が離せなくなりました」

「……凛と? マヌケな顔じゃなくて?」

「はい」


 ライノアはクスッと微笑む。


「私は、異世界からの召喚の義をずっと反対していました。国のためとはいえ、その方の歩んで来た人生を……無情にも奪い取ってしまうのですから。何とも言えない気持ちでいたところ、スバル様とレンの話を聞いてしまいました」

「あー、自殺って誤解されたやつ?」

「はい。話を聞けば、レンの境遇に驚きました。ですが、卑屈になることもなく素直で、どこか達観しているのに、剣を持てば真っ直ぐで情熱的で。反対していた召喚に感謝してしまうほどに、共に過ごす日々は、私にとって幸福そのものでした」


 ライノアは膝をついて、俺の手を取る。


「どうかこの先、私がレンを愛し続けることを許してください」

「ライノア……でも、俺は」

「レンに帰るなとは言っていません。レンがこの世界から離れても、私はあなたを愛し続けるという宣誓です」

「はあ!? 俺にずっと縛られるなんて、そんなのダメだろ! ライノアには侯爵家だってあるし」

「私は長男ではありますが、シュタイン侯爵家は領地に居る弟が継ぎます。私がレンだけを一生想い続けることに、何ら問題はありません」

「それって、一生ライノアは一人でいるってこと?」

「きっとレン以外に、私をこんな気持ちにさせる人は現れないでしょう。ですから、許してくれませんか?」

「……そんなこと言うの、卑怯だよ」

「はい。ですから、最初にそう言いました」


 儚く笑うライノアの、微かに震える手から伝わる体温に、俺の気持ちは大きく揺さぶられていた。


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