3・鋼の騎士で村へ凱旋!
盛り上がっているケンタだったが、たった一言で現実に引き戻されてしまった。
「そうだけど!今それを言うなよ!」
騎長席でそんな事を叫んでいるが、現実は変わらない。
『当騎はハンガー出入り口を通行可能です』
と言って来るが、その出入り口の大半は土砂で埋まっている。
「その出入り口を抜けた先が埋まってんだよ」
と説明するケンタに対し
『ハンガー出口まで移動してください』
と言うのでユウキが扉まで移動させ、みんなで扉を開いた。
『主砲によって開削可能と判断します』
通路の状況を確認したアマノオハバリがそう宣言する事に驚く僕たち。
「ちょっと待て。それ、爆発魔法じゃないのか?」
ケンタが代表してそう問うた。
『当騎の主砲は魔導投射砲のため、爆裂魔法は封じられていません。超高速硬質弾を用いて標的を破壊します。爆発するように見えるのは、固形化魔法体に与えられた運動エネルギーと標的が接触した事で双方が干渉し合い、その場で魔力が解放された結果に過ぎません。前方の土砂に対して砲弾を撃ち込んだ場合も同様に作用し、土砂を吹き飛ばす事になります。通路への影響は少なく、脱出可能と判断します』
という説明を信じ、
「分かった。タツキ、やれ」
というケンタの号令一下、トモヤが弾を生成し、僕は指示された魔力量を込めて引き金を引いた。
砲口にわずかな光を残し、轟音と共に土砂が弾け飛ぶ。
「スゲェ」
ケンタがその光景にそんな感想を口にし、僕は唖然と見る事しか出来なかった。
「・・・ハッ、ユウキ。前進」
我に返ったケンタの声に「あ、う、うん」という返事をしたユウキが騎体を慎重に前進させ、程なく通路を抜ける事ができた。
『付近での電波、念波を検出できませんでした』
というアマノオハバリの報告を聞き、周りには魔獣が居ないらしい事を確認する。そして、
『周辺地形の変化を検出しました』
と言って騎内データにある地形図が投影された。
「おい、何だよコレ。そんな高い山があったのかよ」
今出て来た通路のさらに後方には山がそびえており、研究所はその麓に作られた地下施設であったらしい。その周辺にも複数の軍事施設が置かれていたらしく、先ほど聞いた通り、ここもチャン・ハンによって攻撃されたという。
その攻撃によって山は崩壊し、現在の小山が連なる地形に変貌した事が理解できた。
「でも、中に人なんて居なかったけど?」
という疑問を口にするトモヤ。
『チャン・ハンの政府機関より事前通告があり、研究所の所員はシェルターへ避難しました』
との説明を受ける。どうやらAIによる暴走を止めようとしたチャン・ハンの人々が警報を発していたのだろう。それがどれ程の人々を救ったのかは分からない。ここの現状を見る限り、かなり威力のある兵器が使われたはずで、避難していたからと助かったかどうか分からない。
「そのシェルター?ってのは、どこ?」
と聞くユウキに反応し、その場所が示された。
「ああ、村の遺跡だったのか。え?他にもあったの・・・」
どうやらシェルターは他にもあったらしいが、山体崩壊に巻き込まれた場所や山と共に吹き飛んだ場所もあったらしい事が分かった。
『地形データの更新が必要です。データ収集を奨励します』
という言葉に促され、ユウキは周辺を歩行させ、変貌してしまった地形情報を騎体へと見せる様に移動していった。
結局、村へたどり着くまでに地形把握のためだと寄り道ばかりしていると日が沈みはじめ、辺りは暗くなっている。それでも聞きなれない音を聞いて集まった村人が警戒しながら僕らと対峙しながらの帰還で緊張しない訳もなく、ケンタがヘッドギアを脱いでハッチから身を乗り出し、誰であるかを伝える。
恐る恐る近づいて来る村人たちを前に、ユウキはアマノオハバリの脚を折って待機姿勢にして動きを止め、僕ら三人もヘッドギアを脱いでハッチを開ける。
「お前らか。ソイツはなんだ?」
村の男衆が当然の疑問を口にすると
「鋼の騎士だ!」
ケンタが誇らしげに宣言し、騎体から降りていく。
僕らもそれに従い、四人が地面に降りると自動的にハッチが閉まる音がした。
「何だ?今の音は」
集まった男衆がそんな疑問を口にしながらアマノオハバリへとにじり寄り、騎体を弄くるが、ハッチが開く様子はなかった。
「おい、どうなってるんだ?これ」
好奇心からそう聞いてくる青年に対し
「僕らが騎士に認められたんだ。僕ら以外は中に入れないっぽい」
と、簡単な説明をする。実際は少し違うが、特に問題はないだろう。
「なるほど、それは凄い事だが、何処で見つけて来たんだ?」
どうやらケンタは崩れた斜面に穴がある事を村に伝えず、僕らを誘って先に探検に出たらしい。
巻き込まれた僕らは説教を受けるだけで解放されたが、ケンタは村長の処へと連れて行かれてしまった。