2・いざ、冒険へ!
流れた音声は現代の言葉ではないので、何を言っているのか分からない。
「おい、なんだよ、やっぱり魔獣じゃないのか?」
「魔獣だったら人が座れる座席なんかないって」
「なんて言ってんだろう?入るなとか言われたのかな?」
皆でそんな事を話ていると、再び音声が鳴る。
『☆※てりゅー ♯$\ダー』
全く分からない。
「何?何って喋ってるの?」
「俺たち、何も悪くないよ」
「本当に魔獣じゃないんだろうな」
僕にもよく分からない。ただ、古代語の簡単な文字なら、遺跡から色々なモノを発掘して使っているので推測可能だ。
それによると、目の前の機器に書かれた文字から、これは間違いなく戦車の類だろうというのは分かった。けど、そこまでだった。
「ねえ、出た方が良いんじゃない?」
ユウキのそんな声に皆が従おうとした時だった。
『言語解析完了、搭乗目的は何でしょうか』
とうとう僕らの言葉で問いかけて来た。
「俺が見つけたんだ。だから乗ったんだよ。お前を作った国はもうない。何百年も前に滅んでるよ」
ケンタが即答する。果たしてそれで良かったのかどうかは分からない。返答を待っていると
『・・・・・・現状の確認を終了。乗員者登録を実施します。ヘッドギアを装着してください』
という音声が流れる。ちょうど目の前に掛けられていたヘルメットがあるのでそれを被るが、他の三人は何のことか分からないらしい、
「目の前にある兜をかぶるんだよ。きっと」
と、声を掛ける。胴体側の2人は直接見えないが、隣のユウキが被るのが見えた。
それから少しの間何も起きなかったが、
『登録を完了しました。システムを起動します』
という音声とともに、ヘッドギア上に映像が映し出された。
「何だこれ!」
「凄い!凄い!」
「外が見えるよ」
という声が聞こえてくる。ただ、だからと言って動かし方が分かる訳でもないので、それ以上何もできず、ただ騒ぐだけだった。
そこで僕はふと思いつく
「トレーニングモードとかないの?まずは動かし方を覚えたい」
すると、騎体の方も応えてくれた。
『トレーニングモードを起動します』
その音声と共にヘッドギア上に古代文字が浮かんでくるが、知らない単語が多すぎる。
「音声での説明は出来る?」
そう言うと文字が消え、音声での説明が始まった。
ケンタの席が操縦席、トモヤの席が装填手席、ユウキの席が騎長、僕が砲手席だった。
その状態で各自がヘッドギアの説明に従って弄ってみたが
「難しいわ。これ。誰か替わってくれよ」
というケンタの声が聞こえ、ユウキも同じくであった。
その二人が席を交替し、改めてトレーニングモードで動かしてみる。
トレーニングモードなので騎体自体は動かず、操作はギアの映像にのみ反映されている。
ユウキに操縦が代わるとそれまでのヨチヨチ歩きがウソのように騎体が進むようになり、少々自分勝手ながら、ケンタの指示は的確であった。
その後、射撃モードではトモヤが弾を生成して僕が射撃を行う。
弾の生成が魔力というのにも驚いたが、それ以上に射撃の魔力要求量にビックリする事になった。ただ何となく座った砲手席だったけど、これは僕じゃないと動かせそうにない。
この砲は火薬や火魔法ではなく、レールガンの様に弾を魔力で加速させる構造らしく、映像の中では容易く標的を破壊していく。
ある程度動かせるようになったところで、古代の歴史について聞いてみた。
返って来た解説はとても驚くもので、古代文明はAIまで実用化していたらしい。
『チャン・ハンで開発された統治魔導知能は人間に代わって多くの行政を担っていました。初めは国の政策に反対する勢力の排除のみでしたが、次第に人間自体を行政の障害であると排除しはじめ、国が混乱してしまいます。そして、AIを停止しようとしたチャン・ハンは失敗し、逆に人間側が排除され、魔力源として機器に人間が取り込まれはじめたのです』
という恐ろしい事実を語り出した。
危機感を持った周辺国はAIのアルゴリズムを人間主導のものに限定する事にしたものの、チャン・ハンでの混乱は周辺に波及、当時大国であったチャン・ハンから流入する暴走AIを完全に阻止するには至らず武力に訴えたものの、チャン・ハンからの攻撃によって世界中にその被害が及び、この地にあった国も被害を受け、この騎「アマノオハバリ」を開発中だった研究所も被害を受けた。それがここに残る最後のデータであるらしい。
「え?じゃあ、魔獣って機械と人間が合体してるのか?」
ケンタのそんな声が聞こえて来た。
『確認された事例によりますと、人間だけでなく魔力を有する動物と融合したという例も存在しています』
との事で、英雄譚や冒険譚に出てくる様々な魔獣なる物とも符合すると思う。この騎はチャン・ハンから溢れたそうした魔獣を狩るために作られた騎体らしく、戦争というより討伐を目的としていたらしい。
ただし厄介なことに、魔獣はAIを有する事から連絡を取り合い連携して攻撃してくる能力を有していおり、まさしく物語の様な相手という事だった。ただの演劇だと思っていたものは半ば事実であるらしい。
「でも、この辺りには居ないんだよね?見たことないんだし?」
と、不安そうに問うトモヤ。
『現状は不明ながら、データから推測すれば、より増殖し、各地に拡散、生息しているものと思われます』
という事だった。村では演劇でしか魔獣は知らない。ただし、話を全く聞かないという訳ではなく、行商や旅一座から遠く別の村や町の噂として聞くことはあった。
「なら、やろうぜ、討伐を!」
ケンタは元気にそう宣言し、この騎を駆って冒険を始める気でいる。
アマノオハバリのAI自身も、ケンタの「国は滅んだ」という言葉で魔獣討伐の任を僕らに任せることにしたらしい。
「でもさ、まずは入り口がほとんど塞がってるのをどうにかしないと無理だよ?」
というユウキの言葉通りである。冒険を始める以前に、まずはここから出ないと話が始まらない。