1・遺跡で鋼の騎士を発見!
まさかこんなことになるとは思わなかった。後ろに鎮座する多脚戦車を見上げながら僕はそんな事を考えていた。
僕は前世の記憶がある。日本と言う国で生きた記憶が。
転生先のこの世界でこれまでのんびり生活していたというのに、コイツのせいでガラリと変わってしまった。
あれは6日ほど前の事。
「ほら見ろよ、この間の雨で崩れたんだ、あそこ」
ケンタが威勢よく指差す先には土砂崩れによって開いたらしき穴が見える。
「っても、あれが遺跡って何で分かるの?単なる穴じゃない」
一緒に連れて来られたユウキが不機嫌そうに問うのも仕方がない。
僕らは村の薪拾いをしていたところ、ケンタに強引に引っ張って来られたからだ。
「中を覗いたからに決まってるだろ。遺跡だ。遺跡!」
中はキレイな石造りの回廊になっていたとケンタが力説する。
「じゃあさ、何で僕らを引っ張ってくるのさ。ケンタが探検すればいいじゃん」
追討ちをかけるようにトモヤも不満を漏らす。
「いや、だって中が暗くてさ、ひとりで行くのは、ちょっと、な?」
威勢の良いケンタだが、実は怖がりだ。夜は絶対無理な奴である。
「タツキがほら、魔力多いじゃん?」
と、僕に言ってくる。
「ケンタのライトじゃないんだけど」
僕も当然の様に不満を口にする。
「だってよ、遺跡だぜ、遺跡。お宝あるかも知れない」
それは確かたそうだと思う。特に、僕は前世の記憶があるんだ。ワクワクしていないと言えば嘘になる。
「な?もしさ、鋼の騎士とかあったら凄くないか?」
ケンタはそんな話もしながら、崩れた斜面を登りだす。
みんな、やれやれといった感じで崩れた土砂を登り、穴へと向う。
覗き込むとたしかに建物の通路に見える空間がそこにあった。
「な、すげぇだろ。ほら、タツキ」
そう言ってせがむのでライトを取り出して魔力を流せば、パッと明るくなる。結構な光量のライトで、わずかしか見えなかった通路が随分先まで照らされる。
「なんだよ。階段とか部屋とか見えないじゃないか」
トモヤが中を覗いて文句を言うが、仕方がない。
遺跡と言えば回廊にいくつもの部屋や何処かへ向う階段があると描かれ、演じられている。
僕らの生きるこの世界には、かなり発展していた古代文明があったとされ、各地にその痕跡が残る。
遺跡からは魔道具やその資料などが発掘され、現代を生きる僕らの生活を支えている。
中には鋼の騎士と呼ばれるロボットなどもあり、それを駆って活躍する冒険譚は旅一座が演じる人気の演目だったりもするので、ひじょうに人気もあり、子供なら誰しも憧れるものだ。
僕もロボットには憧れがある。
ただ、前世の記憶から推察すると、古代文明は戦争で滅び、その残骸を僕らが利用している事になる訳で、鋼の騎士というロボットは果たして安全なシロモノであるのかは怪しい。
急かすケンタに促されて通路へと入ると、そこはまさしくコンクリートで作られた空間らしく、遺跡感をヒシヒシと感じる事が出来た。
村にはもう一つ同じ様な遺跡があり、そこからは僕が持つライトをはじめとした魔道具が発掘され、生活を豊かにしてくれている。
ここにも古代の遺産があるのなら、さらに快適な生活が送れるのは間違いない。
そんなワクワクを胸に通路を進んでいくと、ライトが行き止まりを照らす。
「何だよ、階段も部屋もないじゃないか」
みんな期待はしていた様で、不満そうな声をあげたのはトモヤだった。
「いや、隠し扉とかあるかも知れない!」
ケンタは自分が見付けた事もあり、諦め悪く行き止まりへと走って行った。
僕らもそれに続いて行き止まりへ向かうと、ただの壁にしては不思議な窪みを見つける事が出来た。
他の三人はそれを不思議に思っていないらしいが、僕には不自然にしか見えない。
それは見方によっては扉の取手、例えば冷凍室や工場の大きな扉に思えた。
今さら通路を確認してみれば、そこは前世の記憶にある道路トンネルの様であり、三人が思い描く神殿や宮殿の廊下とは趣きが違う気がした。
「おいタツキ、何やってんだよ!」
辺りをベタベタ触ったり叩いたりしていたケンタから声が掛かる。
「いや、これ。取手かなって」
ちょっとした窪みにしか見えないソレは三人には取手とは理解しがたい様子で、呆れた顔をされた。
そんな顔をされたら意地になるのは当然で、僕はその窪みに手を掛け、引いてみる事にした。
すると、意外なほど軽く開いてしまう。
村にあるもう一つの遺跡もそうなのだが、内部は時間の経過を感じさせないほどきれいに保たれていて、劣化していない。
どうやらこの扉もそうだったらしく、僕の力だけでスルスル動かす事が出来た。
人が通れそうな隙間分開き、中を照らす。
するとそこは広々とした空間になっており、ポツンと佇むナニカが照らし出された。
「何だ?アレ」
「虫かな?」
「デカ過ぎだって。魔獣って奴かも」
三人がそんな声を漏らす中、僕には前世のSF作品で見たロボットに見えた。
「鋼の騎士、かな?」
僕の呟きは一緒に覗く三人にも届いた。
「マジか!あれがそうなのか!」
喜ぶケンタ。
「でも、虫だよ?」
疑念を抱くユウキ。
「いや、魔獣の標本とか?」
と、疑うトモヤ。
確かに、演劇で描かれる鋼の騎士は虫の様な多脚ではなく、人型やケンタウロスである。
でも、目の前にあるナニカは、僕の記憶に照らせば、多脚戦車という分類になるのだが。
六本の脚が伸び、昆虫よりも車両の形をした胴体。そして決定的なのは胴体の上にある長く伸びた砲身らしきモノ。
「ほら、胴体の上に伸びるあれって砲身だよ、きっと」
僕はそう指摘する。
「何だよ、砲身って」
皆を代表して尋ねてくるケンタ。
「いや、えっと、魔法を放てる道具?」
疑問形で返すしかない。大砲や鉄砲を見た事がない事を今更思い出し、心の中で頭を抱えた。
「魔法を使える虫って、魔獣だよな?」
冷静にトモヤに返されたが、冷静でないケンタは僕の返事で喜び、ナニカへと掛けていった。気付かれなくて良かった。
「おい、これって入口じゃないか?」
止める間もなく駆け寄ったケンタはひとつのハッチを見つけて叫んだ。
僕も駆け寄ってライトを当てて確かめると、胴体にある蓋が少し浮いて中が見えていた。そんなに広さはなさそうで、辺りを見れば他にもハッチらしき線が見えた。
先ずは浮いて居るハッチを横へと動かせば、中がはっきりと見える。どうやら操縦席っぽかった。
そして、そのとなりのハッチを弄ると、同じ様に浮き上がり、横へとスライドさせる事が出来る。
その仕様は僕の記憶にある戦車に似ている。
さらに胴体へと登って確認すれば、薄い砲塔から砲身が生えているのも分かり、砲塔にもふたつのハッチが確認出来る。
「入口は4つみたいだね」
全てのハッチを開いて中を覗き込むと、それぞれにひとつ座席がある。
動かし方も、何処がどんな役割かも解らず、とにかく好きな席へと皆が乗り込んだ時だった。
『※☆ax ヱァ&%?』
騎内に音声が流れた。