24.気がかり
「――やっぱり、なにか変だよな?」
「あァ。噂によると、何やらコソコソ動いてやがる連中がいるらしい」
一月二十六日、ディストピア開始から三十三日目の朝。
今日もレベリングのために集合場所へ向かうと、カズさんと謎の大男が話し込んでいた。グレンさんと紅丸さんの姿はまだ見えない。
「おっ、来たかユッキー」
「おはようございます、カズさん……そちらの方は?」
「ラルフだ、よろしくなァ少年。カズの兄ちゃんとは年末に餃子を囲った仲よォ」
全面兜の頭からくぐもった声が聞こえる。そういえば、カズさんが年末に他の前線プレイヤー達と会ったと言っていた。ラルフさんもきっとその内の一人で、今朝偶然会ったのだろう。
僕らのいる東門は最も狩場に近い出口で、ここで待ち合わせるプレイヤーは多いから。
「カズさんと同じパーティーのユキオです。こちらこそ、よろしくお願いします」
「イイだろ、オレの自慢のユッキーだぜ」
「そうだなァ、若ェのに俺よりしっかりして見えるぜ。レベルと装備も良い感じだなァ」
どうやら褒めてくれているみたいだが、僕の目と頭は彼の頭上、『lv30』の表示に夢中だ。
今までに会ったどの人よりも高い数値。グレンさんや紅丸さんよりも強い人がまだ居るなんて思わなかった。
「そういえば、さっきは何の話をしてたんですか?」
話題を変える。最近は己の弱さを痛感させられてばかりなので、レベルの話はあまりしたくなかった。
「『小鬼の森』の話だ。オレらも前に少し話したろ?」
「どうも気になるんだよなァ。もうゲーム開始から一月は過ぎたのに、モンスターが全滅しねえってのが――」
あぁ、その話か。それなら確かに、三日前くらいにグレンさん達と話したことがある。
『蟲の国』の甲殻地帯――いま僕らが狩場にしている場所は『小鬼の森』と隣接しており、街に帰還するときは必ずそこを経由する。
そして、プレイヤー全体がゲーム攻略に乗り出したことで『小鬼の森』の怪物はみるみる狩られ、今はもうほとんど安全に通ることができる。
もちろん多大な犠牲が出たが、それでも目に見えてゴブリン達の出現頻度が少なくなったと、帰り道で話したことを覚えてる。そして、その森の平和さに反してあのときのような通知が中々訪れないことも。
『――通達。豊花の街周辺の草原に生息する怪物が全て討伐されました。街の発展が進みます。現在の魔領侵食率は39%です』
ゲーム開始初日で草原の怪物は全滅した。だからプレイヤー全体が攻略に乗り出した今、草原と大して変わらない規模の『小鬼の森』もすぐに狩り尽くされると思っていた……いや、実際ほとんど狩り尽くされたと言っていい。そう言えるほどに、今の『小鬼の森』には危険が少ない。
しかし、年明けから三週間以上経った今も全滅の通知は来ない。
そしてそのことを不審に思っていたのは、僕らのパーティーだけじゃなかったらしく――。
「――俺の予想だと、獲物を隠してやがる奴らがいるなァ」
「隠す…………?」
「そうだ。まァ獲物というより、獲物がいる場所をだな」
ラルフさんが予想外の予想を口にする。怪物を隠すなんて攻略のためにならないこと、一体誰がするのか…………いや、違うな。
獲物を独占したいのだ。モンスターのいる場所、すなわち狩場を他人の目から隠すことで、自分がより多くの経験値を得る。そのための行為なら筋が通る。
封鎖や誘導、人目を欺く方法なら無くもない。元々が見つかりにくい狩場の可能性だってあるだろう。
「……でも、オレらにそれを責める資格はねェよな」
「それは……そうだなァ、たしかに一理ある」
カズさんは正しい。狩場の隠蔽を責める資格は僕らにはない。独占こそしていないが、『限りある獲物をより多く頬張る』という意味では僕らも同じことを行っているからだ。
早期から攻略を始めて、狩場が飽和する前にレベルを上げて先へ進む。もちろん他プレイヤーは残り物を大勢で分けて食べるので脱落者――次の狩場の適性レベルに達しないものは増えていく。
それでも狩りは止めない。もし全員が足並みを揃えて進み、平等に成長しても先はないと、僕らは推察しているから。
だから僕らは走り続けることを誓った。限りある資源を喰らい前線に立つことで、強者の義務を――ゲームのクリアを成し遂げるのだ。
「――っと、ツレが来たみたいだ。俺ァそろそろ行くぜ。またな、カズの兄ちゃんと少年」
街の通りから近づく人影を見てラルフさんが別れを告げる。そこにはちょうどやって来たグレンさんと紅丸さんの姿もあった。
「……『小鬼の森』で何が起きてるかは知らねえが、オレらが気にしてる場合じゃねえよな」
「そうですね。順調に攻略できている今は、先へ進むことに専念しましょう」
狩場の隠蔽は少し気にかかるが、いま調べても仕方のないことだ。結局は誰かがゲームクリアしないといけない訳だから、前線に立つ僕らはこのまま攻略を進めるべきだ。
そうして僕は、胸に僅かなしこりを残しながら今日もレベリングに向かった。




