12.スキル
「――行くぞ、ユッキー!」
「はいっ!」
『小鬼の森』の少し開けた空白地帯。
グレンさんの戦闘を見た僕とカズさんは彼の力量を信用し、群れに狙いを定めて狩りを行うことにした。
カズさんは長槍を、僕は買ったばかりの長剣を握り、ハイゴブリンの群れに駆け出した。関節部分以外のほとんどを装甲で覆った『戦士の重鎧』を装備した僕らは、のっしりとした動きで緑鬼に迫る。
グレンさんは少し後方、いざとなればすぐに僕らを助けられる場所で見守りだ。
『グギギィッ!!』
敵は全部で六匹。ガシャガシャと鎧で音を立てながら接近する僕らに気づき、警戒する。
ハイゴブリンとの戦闘はこの世界に来てまだ二回目。一回目は危うく死にかけたこともあり、恐怖心はまだ拭えない。
けれど先刻のグレンさんの戦いぶりを見て勇気が湧いたことも確かだ。重装甲に身を包んだ安心感も相まって、僕の足は竦むことなく一歩を踏み込める。
「【侵入の槍】!」
カズさんがスキルを発動。いつぞやの戦いのように穂先を地に突き、横に長い棒高跳びの如き跳躍を見せる。当然のように空宙で緑鬼の頭を一つ貫き、そのまま敵陣後方へ着地。
そこに気を取られたハイゴブリンの首を、僕が長剣で――斬り飛ばせない。
とっさに腕を上げて防御され、僕の一撃必殺は失敗に終わる。
彼らの腕は太く、厚く、とても固い。皮膚に食い込みはするが極太の骨に阻まれた感触があり、切り落すには至らなかった。
大鎌固有のスキル――出血を促す【深手の赤刃】を使えないので、僕の剣は浅い傷を残すのみ。
長剣はこれが初使用なので固有スキルはまだ無い。これから貰えるかどうかも分からない。
少しだけ後方を見れば、カズさんはもう一匹の首を貫くところだった。
『グギッ!』
『ギギャアッ!!』
「くっ――」
一撃目で倒せなければ、別の鬼が支援に間に合ってしまう。左右からの増援に、剣を振り回すことで牽制しながら後ろに下がる。やはりグレンさんのようにはいかない。
僕は三匹の鬼と対峙する。
「【侵入の槍】ォ!!」
「ッ! カズさん――!」
三匹が僕を警戒しているということは、後方のカズさんから見れば背を向けた敵が奥に三匹居るのと同じ。再び跳躍したカズさんは奇襲を成功させ、鉄槍が二つの頭を貫く。
逆に僕は、カズさんを追いかける後方の一匹へ突撃。【侵入の槍】の機動力を活かして前後の位置を切り替え、敵を攪乱するこの動きは事前にカズさんと決めた作戦だ。
「やァッ!!」
僕じゃ一撃必殺は出来ないことを学んだので、今度は足下を狙った下段から。退いて避ける緑鬼を、さらに追いかけてもう一閃。斬り上げた刃が赤長の傷を残す。もう一歩踏み込み、交差する緑腕の隙間から胸を突き刺した。
『ギギャッ――』
手応えあり。剣を引き抜き、残る一匹に振り向くが――
「――うしっ! 獲ったどーッ!!」
カズさんが既に討ち取っていて、串刺した鬼頭を天に掲げていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「――全然活躍できてなかったね! たぶん長剣向いてないよ!」
「すみません……」
戦闘終了後、グレンさんからの惜しみなき酷評を受ける。
悔しいが彼の言うことは正しい。僕が一匹に手間取っている間にも、カズさんは槍でどんどん敵を仕留めていた。実際、六匹中の五匹はカズさんが倒している。
「そりゃねーだろグレン。今のはオレが奇襲係だから目立ってただけで、ユッキーはしっかり自分の仕事をしてるぜ。ちゃんと敵を引きつけてた」
カズさんのフォローが染み入る。
しかし、囮役だけが僕の仕事というのなら両手に大盾を構えてた方が百倍マシだ。本来なら敵を引きつけるだけでなく、この長剣で敵の首を斬り落とすまでが僕の仕事。実際カズさんも数匹を相手取っていたのに、自分の分担以上のハイゴブリンを倒している。
逆に言えば、僕は自分で倒すべき頭数を倒していない。
カズさんが偶然神がかった平衡感覚を持っていて、偶然それに相性抜群なスキルがあって、偶然空中で敵の頭を貫けるようなセンスがなければ、さっきの群れは捌き切れなかった。
「ユキオくんが何で渋ってるのか分からないけど、俺はやっぱり大鎌が良いと思う」
「渋ってるというか……好みで選んだだけの武器に合わせて、今後のステータスを決めていいのか不安で。命も懸かってますし、武器は慎重に決めたいんです」
「んー、気にしすぎだと思うけどな。『本当はこの武器に適正がある』とか、特化した技能とかじゃなくてさ。君はもう必要なものを既に持ってるんだから」
「必要なものって……?」
「『スキル』だよ」
『玄人っぽくてカッコいい』なんて理由で大鎌を使い続けるのは不安だった。
しかしグレンさんは『スキルがあればそれでいい』という。
たしかに『スキル』は貴重だ。昨晩兵舎に集まったプレイヤー達と話しても、修得条件すらよく分からず、同じ武器種、同じレベルでもスキルの種類や数が違った。
だから、僕の大鎌固有スキルである【深手の赤刃】や【棘の血晶】は有効活用すべきということなのだろうか。
「まあ一度使ってみてよ。俺も見守ってアドバイスとか考えてみるから」
「……そうですね。次は大鎌でいってみます」
ここまで言われてまだ別の武器に固執するほど、僕は頑固者でありたくない。
装備画面を呼び出して換装。『鉄の長剣』から『岩鉄の巨刃』へ。
鉄剣に代わり、僕の背丈ほど長い柄を持つ大鎌を背負う。
僕らはふたたび怪物を探して森を歩いた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「――今度はオレが囮役になる。ユッキーはバンバン敵を斬り倒して、あの温厚野生児を見返してやれ」
「……そうですね。全力を尽くします」
前方二十メートル先、僕らは新たな獲物を見つけた。
数は四、全てハイゴブリンだ。
カズさんは僕に花を持たせたいらしく、自分が敵の気を引きつけるという。
ならば僕もその好意に甘え、足手まといでは無いことを示してやろう。
僕とカズさんは地を蹴り、群れに向かって駆け出した。
『ギ、グギャッ!!』
緑鬼の一団が接近する僕らに気付く。
数歩手前まで来たところでカズさんが宣言通り敵の気を引こうと、僕よりさらに前へ出る。
「【侵入の槍】!」
カズさんがスキルで跳躍。今回は後続狙いの跳びではなく、集団の半ばで着地。一番多く警戒を受ける位置を取る。
【侵入の槍】でいつでも脱出できるとはいえ、危険な位置であることに変わりはない。
早いとこ傷を付けて行かねば。
「はぁッ!」
『グギィッ!?』
【深手の赤刃】を起動した大鎌で群れの前衛に斬りつける。
カズさんが一瞬気を引いてくれたとはいえ、咄嗟の防御で刃は腕に阻まれるが――残した傷の『出血』は加速する。
『グギャッ!?』
『グギッ!?』
最初の一匹に取り合わず、集団の傍を駆けて辻斬りの如く通りざまに、されど浅く傷を残していく。
「カズさん!」
「あいよッ!」
四匹目の腹を雑に薙いでカズさんを呼ぶ。合図を受けた彼はスキルを使い、集団の中央から跳んで離脱。下準備が済んだので危険区域から脱出してもらった。
「ここからはゆっくりで大丈夫です。僕のスキルは多分、そうした方が強い」
「おう、遠くからチクチクやらせてもらうぜ」
そう伝えると、僕らは緑鬼たちと一定の距離を保ちながら、群れの周りをじりじりと回っていく。
一匹で来たら押し返し、複数で襲って来たらさらに距離を取る。素早さは僕たちの方が上だ。
地味で、卑怯で、限りなく見栄えも悪いけど、『スキル』に重きを置くならこれが最善なのだ。
群れを相手に一歩も退かず、速さと技術で押し切る立ち回りも、宙に浮く身体で槍を上手く扱うセンスも僕にはない。
「――【棘の血晶】」
『グギィッ!?』
だからせめて、いま使えるものだけは最大限に活かしてみせる。
【深手の赤刃】で傷から血を垂れ流し続けた緑鬼たちは、地面の血溜まりから突き出る棘に足を貫かれた。
【棘の血晶】は一定以上の面積をもつ血さえあれば、僕の思考操作で棘を生やせる。範囲は僕の目が届く距離まで。
それらの条件さえ満たせば、時間をかけて血を流すだけ、棘の領域は広がっていく。
「【棘の血晶】」
血だまりから抜けようとする緑鬼に棘を追加。腿から膝下の肉を何本もの棘で突き刺す。
四匹のハイゴブリンは身動きが取れなくなった。
「いきましょう!!」
「おう!」
棘を破壊される前に緑鬼へ迫る。こうなれば最後、間合いの外から武器のリーチでじわじわと攻め続ける僕らに対し、緑鬼たちは腕で防御を固めることしかできない。
『アップデート後』のハイゴブリン戦が蘇る。あのときも確か、こんな風に敵をスキルで固めてたなと思い出しながら、僕らは刃を振り続けた。
蹂躙は覆らぬまま、しばらくして傷だらけの死体が四つ生まれた。




