プロローグ
中学生の頃に、今は亡き母方の祖父からPCを買ってもらった。
本来は勉強や調べ物、機械に苦手意識を覚えない為にと与えられた物だったが、友達や同級生に影響されて、いつの間にかこっそりとゲームを始めるようになっていた。
放課後、誰よりも早く教室を出ては急ぎ足で帰宅。一緒に遊ぶ友達は減っていき、その日にあった嫌な事、忘れたい事から逃げるようにモニター画面にかじりついた。
誰かを殴りたくなる程の衝動も、誰かに賞賛されてみたい欲求も、誰かと一緒に歩いていたい寂しさもすべて、ゲームの世界で補完できる。
そんな風に考える人間を、世間がどう思うかは知っている。
だが、そのみっともない評価を受ける現実の僕なんて、僕はとっくに見放していた。だからそこに庇いたい自分など居ないのだ。
そうしてゲームの世界へ逃げ続けて、いつの間にか十八歳。
僕は順調に、オンラインゲーム中毒者になっていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ほらアイツ、六年前まで子役してたなんとか兄妹」
「実の妹としたんでしょ。ホントありえない」
「派手に髪まで染めてさ。承認欲求の化け物って感じ」
どれほど小さな呟きでも、それは僕の耳に届いた。どれほど聞きたくないと拒んでも、それは僕がいる場所に現れた。どれほど間違いを正そうとしても、それは捻じ曲がって返ってきた。
おそらく隠す気も無いのだろう。
心機一転、新たな環境で頑張ろうと地元から遠く離れた所に行き、祖父の家から通い始めた高校生活も良かったのは最初だけ。
僕の名前と噂はどこからともなく広まっていき、僕を傷つけるための大きな小声が流れ続けた三年間。いつまで経ってもそれに慣れることは無く、ただただ自分の名前に敏感になるだけだった。
どこで間違ってしまったのだろうか。いつからズレてしまったのだろうか。
そう考えない日はないが、もう挽回しようとは思わない。後悔も反省も飽きてしまった。僕はここで幸せになるのを諦めた。
「明後日クリスマスだよね、楽しみだなぁ!」
「うっわ、予定あるアピールやめて」
「家族はセーフ? セーフだよね?」
十二月二十三日、世間は既にクリスマス一色。
校舎の最上階からこの玄関まで、そんな話題ではしゃぐ生徒に埋めつくされていた。
「…………絶好のゲーム日和だ」
寄り添い歩くカップル達の間を縫いながら、さっさと正門を出て帰路を辿る。連れの男友達すら居らず一人早足で歩く僕は、寂しい人間と思われているだろうか。
実際にそうだし、家に帰っても祖父祖母とは家庭内別居状態だし、実家にでも行こうものなら玄関の鍵すら開けてくれない。
でも、今年だけは違う。
街を彩る赤白緑も、もはや見飽きたイルミネーションも、耳が覚えるほどに聞いた定番ソングも、今年だけは愛おしく思えた。
なぜなら、数年ぶりに、今年だけは。
クリスマスに予定があったから。




