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9月7日(土)-5

 華嬢の登場に、私たちは呆然としていた。

 突如現れた、美しい女性。それだけで、その場にいた圭以外の男性陣の動きは止まってしまう。

 仕方がない。鬱々とした雰囲気の中に現れた華嬢は、まるで砂漠の中で一輪だけ咲く薔薇の花のようだ。

 言い過ぎたか。いや、言い過ぎではないはずだ。


「来たのか、華」

「情報が足りないのではないかと思って」


 華嬢の答えに、圭は苦笑しながら「まあね」と答えた。


「もっとさ、事前情報がもらえていたらよかったんだけど」

「通常の手順では渡せなかったから、仕方がないわ。私も、今しがた手に入れたばかりだから」


 華嬢はそう言い、空美に「あの」と話しかける。


「私も話に加わって、よろしいでしょうか」

「ええ、勿論です。社長さん自らいらっしゃるなんて、思いもしなくて」


 空見の言葉に、なぜかぶっと圭が噴き出す。


「社長さんって、なんか、なんかさ」


 くつくつと笑う圭に、華嬢は軽くにらみながら「失礼よ」と返す。

 華嬢はコツコツとこちらに近づき、すっと頭を下げる。


「改めまして、株式会社浄華 代表取締役社長 鈴駆 華、と申します」

「あ、あの、桶田 総司です」

「村長の、三枝、です」


 二人ともぎこちない。


「桂木 圭でーす」


 にやにやしながら圭が続ける。


「知ってるわ」


 小さく華嬢が笑う。私も続けばよかったのか。ちらりと華嬢を見ると、私の視線に気づいた彼女は「大丈夫ですよ」と言ってくれた。優しい。


「桂木、この村についてはどこまで分かった?」

「人形の歌子による、川の水を介した守りという名の村の把握を行っていること。村に新しい人間が増えた際には挨拶をすべきなのに、それを今年度から怠っていたこと。それにより、人形の威圧が始まったこと。その威圧は既に口頭の謝罪では収まらないこと」

「人形については?」

「何らかのものを封じ込めていることしか分からない。文献も口伝もないし、当の人形は怒るばかりで何も言わない」


 華嬢は圭の話を聞き「よろしい」と微笑んだ。


「なら、私の情報は生かされる」

「合格か?」

「そうね、思ったよりできていたわ」


 華嬢はそう言うと、懐から一枚の紙を出して広げた。村の地図のようだが、真ん中に赤くバツ印がついている。


「この家は、ちょうどここにある。村の中心ね。北側がほぼ山だから分かりにくいけれど、この村の中心は確かにこの家なの」

「単なる中心って言うだけで、この家を建てたって?」

「ここを中心にして、村を作ったという方が近いわ」


 華嬢がそう言うと、圭の目つきが変わった。今までの、ちょっとふざけるような様子が、一切なくなる。


「ここを中心にして村を作る……高台……人形……水」


 ぽつりぽつりと、圭は単語を口にする。


「桂木、苦手でしょうけれど、視覚に集中させなさい。上を、よく見て」


 華嬢に言われると、圭は空を見上げる。それに倣って、私や総司たちも空を見上げる。


 綺麗な青空が広がっている。ところどころに雲が揺蕩っているものの、ぎらぎらとした日差しは変わりがない。

 まだ夏なんだなぁ。

 そんなのんびりした思考を巡らせていると、圭が「なんだ、これ」と呟いた。


「くそ、傘型の結界か!」


 結界?

 ゲームや漫画、ラノベの世界だ。結界を張って、敵の攻撃をはじいたりするんだよな。

 まさか、そんな言葉を現実世界で聞くことになるとは思わなかったけれど。


「そうか、水に力を入れるなら、気化だってするか。空気にも溶けて、どこかに行こうとするのを留めるか。くそ、全然気づかなかった」


 圭が悔しそうに言う。


「分からなくても仕方がないわ。あなたはそちらに特化しているわけではないし、これだけ川が蔓延しているのならば、傘状になっていることに気づかなくてもおかしくはないのだから」


 華嬢がフォローしているようだが、驚くほど私は話についていけていない。まるで、目の前で劇が行われているかのようだ。

 今、流行っているんだよな。2.5次元舞台っていうやつが。

 私がきょとんとしているのに気づいたか、同じように話についていけていない圭以外の人間の存在に気づいたか、どちらかは分からないが、華嬢がこちらに改まった。


「日本という土地は、自然災害が多いということは、ご存じだと思います。地形上、また気候上、仕方のない事なのです」


 華嬢はそう言うと、手にしていた村の地図を圭に手渡す。圭はその地図を食い入るように見ながら、またぶつぶつと呟いている。


「昔から、災害対策が行われてきました。災害が起こっても被害が少ないようにする工事然り、遭遇したときの対策然り。その中で『土地神』システムというものに着目したのです」


 土地神、っていうのは、システム制だっただろうか。

 疑問に思ったが、まだ華嬢が話しているため、口にはしない。


「人間の手に負えない自然災害から、守ってもらおうと、人間たちが自分たちの存在以上のものに願い、祈る。供物を携え、何事もなければ守ってもらえたと礼を言い、何かあれば守ってほしいと願う。信仰心により、人間外の力は現実化する」

「現実化、するんですか?」


 恐る恐る尋ねると、華嬢は「はい」と頷く。


「言霊、という言葉を聞いたことがありませんか? 口にする言葉が現実化する、というものです。不可能かと思うことを口にし続ければ、それが本当にできるようになる。または、悪い事を口にし続けると、それが本当に起こってしまう」

「すべての言葉が、そうなるわけではないですよね?」

「当然です。だからこそ、この世というもののバランスがとれているのですから。ですが、繰り返しが多ければ多いほど、心からの言葉が強ければ強いほど、それは確かな力となる」


 華嬢はそう言い、微笑んだ。


「それを、人為的に行ったのが、この水越村なのです」


 きっぱりと言い放つ華嬢に、私は「なるほど」と頷いた。

 やっぱり、実感がわかなかったし、よく分からなかった。

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