お嬢様の欲しい花 第1話
「ごきげんよう。」
「ごきげんよう。」
わたくしの名前は高宮春江。新学期を迎えて3週間。わたくしは2年生になり新しい教室、新しい級友達と過ごしております。
「ねえ、ご覧になって?今年の新入生。」
「ええ。どの娘も素敵だわ。」
「あら、市ノ瀬さんだってお手紙もらっていたじゃない。あの娘にするの?」
市ノ瀬さんは1年生の時も同じ教室でしたの。新入生からお手紙をもらったと話していますわ。
「ねえ、春江様は?!」
「あの、何の話ですの?」
わたくしは市ノ瀬さん達に話を振られ聞き返す。
「何って、いやね。エスよ。エス。」
エスというのは初等部にいた頃からお噂で耳にした事がございます。上級生と下級生か特別親しくなり上級生をお姉様、下級生を妹と言う。英語の「sister」の頭文字を取って「エス」というのです。わたくしにも昨年3つ上のお姉様がおりましたが結婚が決まり中退。わたくしは今独り身なのです。2年生になると下級生が入ってくるので妹が持てる事を楽しみにしてる娘もおります。
「春江様だってこんなにお手紙頂いてるじゃない。さすがは宮家のお嬢様。」
「市ノ瀬さん、宮家とは親戚にあたるだけですわ。それにお手紙だってエスの申し込みかどうかも分かりませんわ。」
「でしたら読んでみましょうよ。」
市ノ瀬は勝手に手紙の中を見ようとするのです。
「市ノ瀬さん、おやめになって。手紙の中ぐらいわたくし自分で見るわ。」
中を見ると全て1年生からの物、内容も案の定エスの申し込みでしたわ。
「まあ、春江様は引く手あまたあっていいわね。だけど春江様はあの娘ではなくて?同じ倶楽部の」
市ノ瀬さんが話題にしたのはわたくしと同じ倶楽部の1年生の成田紫乃という娘です。あの娘とは倶楽部の時にはよくお話するしとても楽しいとは思います。ですが
「いえ、あの娘とは今のままが宜しいわ。」
「ではお手紙をくれた娘の中からお選びに?」
「いいえ。」
わたくしは市ノ瀬さんにはそれだけ答えました。
昼休みになりました。
「春江様、一緒にお昼食べましょう。」
市ノ瀬さんが誘ってきます。
「ごめんなさい。わたくしお昼は教室では食べませんの。」
市ノ瀬さんに断りを入れると中庭へと向かいます。中庭は薔薇の庭園になっており、わたくしのお気に入りの場所なのですの。そして中庭でお昼ご飯を食べるのはそれだけが理由ではございませんの。
「春江様、やっと来て下さいましたね。」
「ごめんなさい級友と少し話していたものですから。」
中庭のテーブルに座って待つ長身の少女の向かいにわたくしも座ります。