温室の妖精 第2話
1人の女学生が袴の振り袖を揺らしながら手を挙げました。彼女は私と同じ教室の城山美令さんです。美令さんは成績優秀の級長です。春江様に憧れてお手紙を書かれたという噂を耳にします。彼女も私と同じで春江様の妹の座を狙っているのでしょうか?
「どうされました?」
「あの、カードは3枚という事は妹は3人という事でしょうか?同時に複数のお姉様や妹を持つなんて聞いた事ありません。」
美令さんはよく物事に気付く方です。彼女の言うようにエスは上級生と下級生、姉と妹で対になる者です。複数の姉や妹を持つ者等いるはずがありません。
「城山さん、いい気付きですわね。わたくしは隠したカードは3枚です。ですが1枚だけ伝言が書かれています。」
カードの3枚のうち1枚にはフランス語で
「J'offrir mon amour」と書かれている。意味は「汝の愛そなたに送る」です。
それを見つけた人が春江様の妹になれるのです。つまり後の2枚は外れなのです。
「カードは庭園のどこか、わたくしの好きな場所に隠して在ります。では皆様頑張って下さい。」
皆それぞれ散り散りになって庭園へと向かいます。振り袖を振りながら。庭は広くてどこを探したら良いのか分かりません。ある者はテラスの椅子の下やテーブルの裏を探します。またある者は桜の木の上によじ登って全体を見渡そうとします。
「春江様の好きな場所ってどこかしら?」
私は以前倶楽部で春江様が話してくれた事を思い出しました。それは春江様の隣でお花を生けてる時のことです。
「素敵な花ね。百合もすみれも。でもわたくしは洋花が好きだわ。薔薇の花。香りも華やかで今度薔薇の花生けてみようかしら?家に温室があるの。」
私はその言葉を思い出し温室を目指します。ほどなくして白い建物が見えてきました。中には彩りの薔薇の花が咲いています。
私は白い封筒を探そうと赤い薔薇の中を手でかぎ分けていきます。
「いたっ!!」
手が刺に刺さってしまいました。
「大丈夫?」
誰かの声で振り返ります。
そこには桃色の振り袖に赤いリボンを身につけた少女がいました。彼女も私と同じ参加者なのでしょうか?
「血出てるじゃない。」
指から出血していた。
「しっかりなさい。薔薇の花には棘があるのだから。」
少女は白いハンケチで止血してくれます。
「ありがとうございます。でもカードを探さなくては。」
「私は先ほどから探してるけど見なかったわよ。それに行かなくていいの?そろそろ時間よ。」
「そうね、貴女も一緒に行きましょう。」
「貴女先に行ってらして。私は落とし物を見つけてから行くから。」
私は彼女を置いて先に戻る事にしました。