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アルジ往戦記  作者: roak
99/300

第99話 左手

◆ 魔学校マス ◆

マスタスは雨具を脱いだ。

玄関で雨露を払い落とす。

細い廊下を進み、教室へ向かう。

歩きながら魔力を込める。

右手の人差し指に。

その指先に小さな火が現れる。

それを使って、点火して回る。

いくつも置かれた魔灯火台に。

廊下で、教室で、点火していく。

暗い校内に広がる魔灯火の明かり。

橙色の光が1つ、また1つ生まれる。

魔灯火は、ぼんやりと照らし出す。

暗闇に沈み、静まり返っていた校内を。

マスタスは教室に入る。

校舎に設けられた、ただ一つの教室に。

教室の奥には教壇が1台。

そのそばには1脚の椅子。

彼は椅子に向かっていく。

そして、静かにそっと腰掛けた。

そこから教室を見渡す。

机と椅子が並んでいる。

横一列に、整然と。

誰もいない6人分の席。

ぼんやりと眺めてから彼は立ち上がる。

そして、勢いよく取り払う。

窓を覆った黒く分厚い目隠しの布を。

開け放たれた大きな窓。

その向こうには小さな校庭。

柔らかな光が差し込んでくる。

爽やかな風が舞い込んでくる。

じっとりした暗闇で満たされていた教室に。

マスタスは眺めた。

その小さな校庭を。

学生たちと種をまき、木を植えたその校庭を。

いくつもの白い花が咲いている。

しとしとと雨の降る音が聞こえる。

鳥の声も聞こえる。

植えた木から小鳥の鳴き声。

遥か上空からは猛禽類の鳴き声。

マスタスは目を閉じて聞き入る。

雨の音、鳥の声を。

そうしていると背後から声をかけられる。


リネ「マスタス…」


マスタスは目を開け、振り返る。


マスタス「リネ、よく来たね」

リネ「勝手に入ってごめん」


リネは教室に入っていく。


マスタス「いいんだ。やはり君だったか。

 本当に来てくれたんだね」

リネ「うん」

マスタス「歩いてたら懐かしい感じがした。

 とても。そうだ、とても。懐かしい魔波だ。

 暖かくて、心地よくて、柔らかい。

 君のそんな魔波を感じたんだ。

 町を歩いていて、感じた。

 店の方から。それで、のぞいてみた。

 外から、店の中を」

リネ「来てくれたらよかったのに。

 お店に入って声をかけてくれたら…」

マスタス「オレはそういうことする男か?」

リネ「…ふっ」


リネは吹き出した。


リネ「できない」

マスタス「そうだろ…」


マスタスは不安そうな顔で問いかける。


マスタス「一緒にいたのは誰?」


そのとき、アルジたちも姿を現した。

教室の戸は開かれていた。

だが、教室に入る手前で足を止める。

リネとマスタスの姿を廊下から見ている。

リネはマスタスに紹介した。

簡潔に。


リネ「旅の仲間」

マスタス「仲間か」


マスタスはアルジたちをちらりと見た。

それから、リネの顔を見つめる。


マスタス「リネ、魔術を教えてるのか?

 その3人に」

リネ「そうだよ」

マスタス「そうか。やっぱり。

 3人とも魔波が少し君に似ているから。

 君が教えているのかと思った」

リネ「分かるんだね」

マスタス「分かるさ。オレも先生をしてるから。

 魔術を人に教えることは素晴らしいことだ。

 離れていても同じようなことをしているね」

リネ「そうだね」


2人は和やかだった。

アルジ、エミカ、ミリは教室に入らない。


アルジ(なんだ?仲良さそうに話してて…

 ちょっと入りづらい気がするぜ…。だが!)


意を決してアルジは足を踏み入れる。

1歩、教室の中へ。

さらにもう1歩。

次の瞬間。

リネの冷たい視線が送られる。


リネ(来ないで)


その目ははっきり言っていた。


アルジ「…!!」


アルジは後退りする。

そして、再び教室の外へ。

元の場所に戻った。


リネ「驚いた。学校を開いていたなんて」

マスタス「まあ、そうだろうな…。

 でも、よく分かったね。この場所が」

リネ「ホジタ所長から聞いた。

 研究所に立ち寄って」

マスタス「ああ、やっぱりそうか」

リネ「所長はあなたの特別講義すごく褒めてた。

 したんでしょ?前に、研究所で」

マスタス「ああ、やったよ。

 なかなかいい経験だった。

 オレ自身も指導者として成長できたと思う。

 受講者の反応が刺激的だったんだ。

 想定してない質問をいくつももらって…。

 …そうか、所長はオレを褒めてくれたのか」


彼はうつむき、静かに笑う。


リネ「変わってない」

マスタス「…?」

リネ「そうやって照れたときの仕草、

 変わってない」

マスタス「そうかな」

リネ「変わってない」

マスタス「…不思議な感じがする。

 いつかこういう日が来るような気がしてて…

 今日…本当にこうやって会えて…」

リネ「私も」


アルジたちは静かに見ている。

2人の対話を。


マスタス「急にいなくなって、ごめんな」

リネ「寂しかった。あのときの私は」

マスタス「…ごめんな」


悲しげな顔を見せるマスタス。


マスタス「事情があったんだ。あれには事情が。

 並々ならない事情が。分かってほしいんだ」


リネは近づいていく。

マスタスの元へ。

吸い寄せられるように。


リネ「変わった」

マスタス「………」

リネ「あなたは変わった」

マスタス「変わった。オレの一体何が?」

リネ「前よりも…朗らかになった」

マスタス「朗らか。そうかな…」

リネ「そうだよ。前はもっと…」

マスタス「陰気臭かった…か?」

リネ「そんなことは…」

マスタス「いいんだ。それは本当のことだから。

 オレもいろいろ考えた。

 なぜ周りのみんなはオレを避けてしまうのか。

 なぜ誰もオレに声をかけようとしないのか。

 なぜ声をかけても、避けられてしまうのか。

 研究所で君と出会って、親しくなるまで

 心を許せる人なんて1人もいなかった。

 あるとき、ホジタ所長が言っていた。

 闇の魔術師は何かと苦労をすると。

 普通に社会生活を送りたいだけなのに、

 何かと苦労をして、損をしてしまうと。

 疑われたり、嫌われたり、恐れられたり、

 ときにはあらぬ誤解を招いてしまうことも。

 オレはたくさん経験した。小さな頃から。

 たくさん、たくさん、オレは経験したんだ」

リネ「………」

マスタス「ホジタ所長は教えてくれた。

 そんな闇魔術師が周囲になじむための秘訣を。

 周りの人たちとうまくやっていく方法を」

リネ「それはどんな方法?」

マスタス「隠すんだ」

リネ「隠す」

マスタス「魔波をうまく制御して、隠すんだ。

 自分が闇の魔術師であるということを。

 闇の魔術師が持っている近寄り難さ。

 その原因は無意識に発している不気味な魔波。

 だから、意識して、それを隠す。

 分からないように。

 そうすれば、ほかの人たちと変わらない。

 ほかの人たちと同じように生活できる。

 だけど、それは…」

リネ「それは?」

マスタス「ひどく悲しいことだ」


マスタスは笑う。

それから、寂しげな目でリネを見つめた。


リネ「ホジタ所長から聞いたんだけど…」

マスタス「何を?」

リネ「大遊説のこと。それと…魔真体のことも」

マスタス「………」

リネ「驚いた。信じられなかった。

 一体どういうことなの?星の秘宝は…」

マスタス「リネ、聞いてくれないか。

 今、どうしても、ここで話したいことがある」

リネ「…何?」

マスタス「魔術の話だ」

リネ「魔術の?」

マスタス「もう少しで完成しそうなんだ!

 長い年月をかけて研究してきたオレの魔術が」

リネ「どんな魔術?」

マスタス「まったく新しい魔術だ!

 おそらくまだ誰もやったことのない魔術」

リネ「新しい魔術…。それはすごい」

マスタス「オレはこの魔術が完成したら、

 正式に発表するつもりだ。魔術界に。

 論文の原稿は、もう9割以上できている」

リネ「どんな魔術なの?

 大遊説や魔真体と関係があるの?」

マスタス「あると言えばある。

だから、聞いてくれないか?」

リネ「聞くよ。だから、どんな魔術なの?」

マスタス「ああ、どんな魔術か。教えるよ。

 だけど、その前に2つのことを話したい」

リネ「2つのこと?」

マスタス「ごめん、回りくどくなって。

 でも、2つのことは話しておきたいんだ。

 新しい魔術がどんなものかを説明する前に」

リネ「どんなこと?2つのことって」

マスタス「過去のことだ」

リネ「過去のこと」

マスタス「そうだ。

 何も言わずにオレは君の前から消えた。

 さっき、事情があったと言ったよね。

 そのことについて、話しておきたいんだ。

 新しい魔術がどんな魔術か君に教える前に。

 話しておかなきゃならないと思うんだ。

 過去、何があったのかについて。

 聞いてくれないか」

リネ「聞かせて。どんな話?」

マスタス「1つはオレが研究所を去った理由」

リネ「何があったの?教えて」

マスタス「ああ、もちろん。教えるよ。

 もう1つはオレがこの学校を開いた経緯」

リネ「それも聞かせて」

マスタス「ああ、君には聞かせたい。

 いや、聞かせなきゃ。教えなきゃならない。

 君にもオレにも大事なことだと思うから」

リネ「早く聞きたい。あなたのことを」

マスタス「ああ、もちろん。

 だから、最後まで聞いてほしい。

 怒らないで、悲しまないで、

 最後まで聞いてほしい。

 そして、オレのことを許してほしい」

リネ「許してほしい…?」


その瞬間をエミカとミリは見逃さなかった。


ミリ「…エミカ…!」

エミカ「…ああ…左手だ…!」


彼女たちはとても小さな声で話した。


アルジ「…左手が…どうした…?」

エミカ「…一瞬見えた…。

 …マスタスの暗球が左手に…」

アルジ「…!」


アルジにはまったく見えなかった。

だが、呼吸を整え、心の準備をする。

いつでも戦いを始められるように。

いつ合図が出ても動けるように。



◇◇ ステータス ◇◇

◇ アルジ ◇

◇ レベル 23

◇ HP   2277/2277

◇ 攻撃

 34★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★

◇ 防御

 26★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★

◇ 素早さ

  28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★

◇ 魔力  5★★★★★

◇ 装備  勇気の剣、雅繊維戦衣がせんいせんい

◇ 技   円月斬り、剛刃波状斬撃、朔月斬り


◇ エミカ ◇

◇ レベル 19

◇ HP   1452/1452

◇ 攻撃  9★★★★★★★★★

◇ 防御  12★★★★★★★★★★★★

◇ 素早さ

  18★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 魔力

  33★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★

◇ 装備  魔樹の杖、深紅の魔道衣

◇ 魔術  火球、火砲、火樹、火海、王火


◇ ミリ ◇

◇ レベル 16

◇ HP   1008/1008

◇ 攻撃  4★★★★

◇ 防御  7★★★★★★★

◇ 素早さ

  17★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 魔力

  34★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

  ★★★★★★★★★★★★★★

◇ 装備  魔石の杖、紺碧の魔道衣

◇ 魔術  氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷


◇ リネ ◇

◇ レベル 27

◇ HP   1011/1011

◇ 攻撃   7★★★★★★★

◇ 防御

 18★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 素早さ 14★★★★★★★★★★★★★★

◇ 魔力

 31★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★

◇ 装備  天界石の杖、創造の杖、聖星清衣せいせいせいい

◇ 魔術  雷弾、雷砲、雷柱、王雷

      岩弾、岩砲、岩壁、王岩

      光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術


◇ 持ち物 ◇

◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 20

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