第98話 背中
魔籠はふわりと静かに上がる。
玄関広間の吹き抜けを通って最上階へ。
乗るのはアヅミナと4人の大前隊員。
そして、ホジタと3人の秘書。
3人の秘書たちをアヅミナは見る。
それぞれが発する魔波を感じとる。
アヅミナ(前回来たときはいなかった。
魔力は魔術院の上位層と変わらない。
まだこんな強者がいたなんてね)
騒ぎから一転。
研究所内は緊張で静まり返っていた。
魔籠が上昇する間にアヅミナは分析する。
3人の秘書が発する魔波を彼女なりに。
1人目は背の高い太った男。
アヅミナ(火術が得意。とても荒々しい魔力。
その気になれば、魔力が尽きるまで炎を出す。
そんな激しい戦いに自信あり…)
2人目は背の高い痩せた女。
アヅミナ(氷術使い。岩術も使う。
このくせのある魔力の流れ…。
ずる賢い策略家…)
3人目は背の低い太った女。
アヅミナ(光の魔術を使う。
まっすぐで強い魔力。命がけで所長を守る。
そんな覚悟を感じる…)
思いがけない3人の実力者との出会い。
アヅミナは警戒する。
ホジタはそんな彼女を見て笑う。
ホジタ「仲良くしようじゃないか」
アヅミナ「………」
ホジタ「そんな警戒する必要などない」
アヅミナ「………」
ホジタ「我々は対立すべきではない。
友好であるべきだ」
アヅミナ「………」
ホジタ「なあ…」
アヅミナ「それを望むなら、
今日はあたしの話をよく聞いて」
ホジタ「どんな話だ?」
アヅミナ「あとで聞かせる」
ホジタ「楽しみにしよう…」
アヅミナはガシマとオンダクを見る。
アヅミナ「みんなにも聞いてほしい」
ガシマ「…は?」
オンダク「……?」
アヅミナ「大前隊のみんなにも聞いてほしい」
ユイ、スゲチ、シンモクを見る。
アヅミナ「聞いてほしい話がある」
ユイ&スゲチ&シンモク「……?」
そして、ホジタを見る。
アヅミナ「その上で所長さんは話して」
ホジタ「…何をだね?」
アヅミナ「知っていることのすべてを。
隠し事をしたら今度こそ許さない」
ホジタ「それは恐ろしいな…。くく…」
アヅミナ「………」
アヅミナは思い出す。
今朝、北土の出発する前のことを。
◆◆ 早朝 ◆◆
◆ 魔術院 ◆
アヅミナは支度を終える。
魔術院の裏門へ向かう。
外へ出るとき。
1人の女の姿を見つける。
シノ姫だった。
彼女はアヅミナの方をじっと見つめている。
シノ姫「気をつけて」
アヅミナ「…はい」
シノ姫「さっき怒られちゃったの」
アヅミナ「え…」
シノ姫「エオクシに。治療院で」
アヅミナ「………」
シノ姫「それでね、すべてを話すことにした」
アヅミナ「すべてというのは…?」
シノ姫「今までのことを。
過去に何が起きたのか。
大前隊のみんなに話すことにした」
アヅミナ「そうですか」
シノ姫「だから、
あなたももう隠す必要はない」
アヅミナ「………」
シノ姫「いいえ、あなたたちは…
もう隠さなくていいから」
アヅミナ「………」
シノ姫「都に残る隊員には私から伝えます。
今日の昼、みんなを集めて。
これまで何が起きていたのかを。
だから、研究所へ同行する隊員には
あなたの口から伝えて」
アヅミナ「どうやって…」
シノ姫「ありのまま話せばいいから…。
あなたたちが戻ってきたら、
今度は全員で集まりましょう。
そこでまた話し合いましょう。
これからのことを。
これから何が起こるのか。
そして、何をしていくのか」
アヅミナ「………」
シノ姫「だから、任務の成功を祈っています」
アヅミナ「はい」
シノ姫「あなたならきっとできる」
アヅミナ「…はい」
シノ姫「………」
出ていくアヅミナ。
シノ姫は呼び止める。
シノ姫「アヅミナ」
アヅミナ「はい」
振り返るアヅミナ。
シノ姫「移動中はだめです。
伝えるのは研究所で。
ホジタと対面したときがいいでしょう」
アヅミナ「どうしてですか?」
シノ姫「大前隊の戦士たちも所詮人の子。
目的地に着く前に話を聞いてしまったら、
いくらか動揺するかもしれない。
もしかするとあなたの警護に差し支えるかも。
予期せぬ刺客の対処に支障を及ぼすかも。
そんなこと起こり得ないことかもしれない。
だけど、万全を期すために」
アヅミナ「はい」
シノ姫「それと、分かっていると思うけど、
私の力のことは黙っていてね」
アヅミナ「………」
シノ姫「いい?」
アヅミナ「はい」
◆◆ 現在 ◆◆
◆ 北土の魔術研究所 ◆
魔籠は最上階に到着。
ホジタが、アヅミナが降りる。
大前隊も秘書たちも降りた。
ホジタが先頭を歩く。
所長室に到着する。
ホジタ「愉快な対話となることを期待しよう」
◆ テノハ ◆
茶屋の中。
アルジたち4人は静かに過ごす。
茶を飲み、焼き菓子を食べながら。
リネだけは何も口にしない。
ただ窓から外を眺め続けている。
リネ「言っとくけど…」
とても小さな声だった。
リネ「…たら、承知しない」
エミカ「え?」
リネは窓の外に目をやったまま話す。
大きな声で。
その声は、小さな店の中、不穏に響く。
リネ「承知しないと言ってるの」
アルジ&エミカ&ミリ「…?」
店主はじっと見ている。
アルジたちの方を。
重い沈黙が訪れる。
エミカ「何を承知しないんですか?」
リネ「あなたたちが勝手に先走ることを。
彼が、私たちを攻撃しようとする前に、
あなたたちが彼に攻撃を仕掛けることを。
そういうことをしたら、承知しない」
エミカ「そんなことはしません」
リネ「…どうかな。
お願いだから、まずは話をさせて。
彼と。2人で。
それで、どうにもならなくなったら…
そのときは私が責任を取るから。全責任を…」
リネはアルジ、エミカ、ミリの顔を見る。
1人ずつ真剣な顔で。
それから、彼女は湯飲みを手にした。
そして、ほんの少しの茶を口にする。
茶はすっかりぬるくなっていた。
彼女はそっと湯飲みを置く。
ミリ「私も承知しませんから」
リネ「何を…?」
ミリ「もしも、リネさんが…」
ミリがさらに何かを言いかけたとき。
リネは勢いよく立ち上がった。
彼女の視線は窓の向こう。
目を大きく見開き、外の1点を見ている。
何を見ているのか。
アルジたちも外を見る。
アルジ&エミカ&ミリ「!!!」
雨の中。
彼は立っていた。
雨具を着て、たった1人で立っていた。
彼は、じっとアルジたちの方を見ている。
アルジは記憶をたぐり寄せる。
3年前にたった1度だけ見た姿。
確かに目にしたその顔。
アルジの頭によみがえる。
アルジ「マスタス…!!」
エミカ&ミリ「…!!」
リネは走り出す。
何も言わずに店から出ていく。
アルジたちは彼女を追う。
マスタスは歩き出した。
足早に、逃げるように。
リネ「ま…待って!!」
背後から呼びかける。
しかし、彼は振り返らない。
雨の中、スルスルと進む。
リネは追いかける。
小さく見えるその背中を。
リネ「マスタス!!待ってよ!」
マスタスもリネも走っていた。
強い雨に打たれながら。
アルジ、エミカ、ミリも走る。
アルジ「急ぐぜ!」
エミカ「ああ!」
ミリ「リネさん…!リネさん…!」
リネの背中を見失わないように追いかける。
リネ「マスタス!来たの!私、来たんだよ!」
マスタス「………」
マスタスは一瞬立ち止まり、また走り出す。
リネ(逃げている…?いいえ!そうじゃない!!
分かる…!分かってきた…!
今の…彼の気持ちが!私には分かる!
私だから分かる!彼は…そう…彼は!
私のことを導いてくれている…!)
マスタスは鍵を開け、建物の中へ入る。
彼が入ったその建物は魔学校マス。
戸が静かに閉められる。
リネ「待って…!」
リネは勢いよく戸を開けて入っていく。
アルジたちも彼女に続く。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 23
◇ HP 2277/2277
◇ 攻撃
34★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
26★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 素早さ
28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 魔力 5★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、雅繊維戦衣
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、朔月斬り
◇ エミカ ◇
◇ レベル 19
◇ HP 1452/1452
◇ 攻撃 9★★★★★★★★★
◇ 防御 12★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
33★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 魔樹の杖、深紅の魔道衣
◇ 魔術 火球、火砲、火樹、火海、王火
◇ ミリ ◇
◇ レベル 16
◇ HP 1008/1008
◇ 攻撃 4★★★★
◇ 防御 7★★★★★★★
◇ 素早さ
17★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
34★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 魔石の杖、紺碧の魔道衣
◇ 魔術 氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
◇ リネ ◇
◇ レベル 27
◇ HP 1011/1011
◇ 攻撃 7★★★★★★★
◇ 防御
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ 14★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
31★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、創造の杖、聖星清衣
◇ 魔術 雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 20




