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アルジ往戦記  作者: roak
97/300

第97話 異界

出された茶と菓子。

誰も手を伸ばさない。

重たい空気がアルジたちにのしかかる。


リネ「余計なことはしないでよ」

ミリ「…!」

リネ「言ったでしょ?

 私がすべての責任を取るって…」

エミカ「だけど…」

リネ「だけど、じゃないの」

エミカ「………」

リネ「どうしても…

 あなたたちがそうしたいのなら…

 彼と…戦いたいのなら…」

アルジ「………」

リネ「競争だね」

エミカ「競争…?」

リネ「どちらが早く彼の攻撃を見抜けるか。

 私はあなたたちが合図を出すよりも速く動く」

エミカ「そんなこと…」

リネ「エミカ、ミリ。

 あなたたちは確かに強い。強いよ。

 強くなった。この旅を通して。

 見違えるほどに」

エミカ&ミリ「………」

リネ「だけどね、

 それは結局強くなったってだけ」

エミカ&ミリ「………」

リネ「あなたたちは…

 確かに立派な武器を持っている。

 あなたたちの王火や王氷は

 容易に出せるものじゃない。

 それは認める。

 でもね、魔術は出せるだけじゃだめ。

 それをうまく扱えて、初めて一流の魔術師。

 その点あなたたちはまだまだ。まだまだだよ。

 あなたたちは強いけど優れた魔術師ではない。

 優れているとはまだ言えない。

 繊細な魔力の制御。鋭敏な魔波の感知。

 そういう部分でまだまだ。まだまだなんだよ。

 あなたたち、自分でも分かるでしょ?」

エミカ「それならリネさんも合図を」

リネ「したくない」

ミリ「どうしてですか?」

リネ「私1人で責任を取るから。

 何度も言わせないでよ!」


沈黙。

卓上には4つの湯飲み。

それぞれから湯気が上る。

奥の席の老夫婦がアルジたちを見る。

老年の店主は小さく口を開けていた。

何かを言いたげに。


アルジ「ちょっと待ってくれ。オレたちは…

 ここまで一緒にやってきたじゃないか」

リネ「………」

アルジ「ここに来て、それはないだろ。

 合図はしたくない…1人で責任を取る…

 ここに来て、それはないんじゃないのか。

 オレは戦うつもりだ。

 あいつがどれだけ強くても。

 準備はできている。オレは魔術は使えない。

 だけど、接近戦に持ち込めたら…。

 エミカもミリも一緒に戦ってくれる。

 オレは…いや、オレたちは勝てると信じてる。

 力を合わせれば…マスタスに。

 だから、リネも…」

リネ「あなたたちは分かってない…。

 何度聞かせても分からないようだから、

 また言う」

アルジ&エミカ&ミリ「………」

リネ「闇の魔術には…覆す力がある。

 どんなに不利な状況も…たった1発の魔術で…

 ひっくり返してしまう力がある。」

アルジ&エミカ&ミリ「………」

リネ「複数人に囲まれても、

 明らかに魔力の強い者が相手でも、

 闇の魔術の使い手は…

 そんな不利な状況を覆すことができる。

 その恐ろしさをあなたたちは知らない。

 愚かだ。愚か過ぎる。

 猛獣を…裸で手懐けようとするくらい愚か」


再び沈黙。

茶は冷めかけていた。


アルジ「…ぐ…!」

エミカ&ミリ「………」

アルジ(いくら話しても同じことの繰り返しだ!

 リネ!なんでだ!協力してくれないのか!)


アルジの肩にそっと手が置かれる。

その手は、エミカの手。


アルジ「…エミカ?」

エミカ「………」


彼女はアルジにほほえみかける。

それから、リネを見た。

まっすぐに、自信に満ちた顔で。


エミカ「よく分かりました」

リネ「………」

エミカ「リネさんの考えはよく分かりました」

リネ「………」

エミカ「それなら、競争しましょう」

リネ「………」

エミカ「それしかありませんね。競争です」


リネはほほえむ。

余裕を感じさせる表情だった。

弟子の小さな反抗。

それを笑って許してやるかのような。


リネ「受けて立ちましょう」

アルジ&ミリ「…!!?」


雨が降り出す。

ミリが茶に口をつける。

アルジ、エミカもそれに続く。

その間、リネは窓から外を眺めていた。



◆ オノレノ ◆

町の外れ。

静かな山野に着陸するカルス。

地面に降り立つ6人。

大前隊の5人がアヅミナを囲む。

前方にガシマ、オンダク。

左右にスゲチ、シンモク。

そして、後方にユイ。

その配置を崩さずに歩き出す。

一切言葉を発さずに。

町の中へ。

賑やかな大通りを突き進む。

集める人々の視線。

物々しい空気を町人たちは感じ取る。

あちらこちらで小さく響く声。


町人A「見ろ、大前隊だ…!」

町人B「また来たのか!あの魔術師」


そのようないくつもの声。

アヅミナたちの耳にはっきり届くものもあった。

だが、黙って進む。

声の主には一切関心を示さずに。

ただひたすら目的地に向かって。

北土の魔術研究所へ。

やがてそれは見えてくる。

小高い山の中腹に。

アヅミナたちは坂を上っていく。

数人とすれ違い、数人を追い越した。

近くにいた研究者たちが足を止める。

アヅミナの異様な魔力に反応して。

それから、ほとんど同時に気づく。

彼女を囲んで歩く戦士たちの迫力に。

後ろ姿を見送って、研究者たちは予感する。

何かが起こると。

アヅミナたちは研究所に到着する。

開け放たれた両開きの扉。

それを通り抜け、建物の中へ。

受付係のレミが素早く立ち上がる。

アヅミナが放つ不穏な魔波を感知して。

警護人たちが玄関広間に駆けつける。

5人、6人と現れて、隊列を組む。

さらに、魔生体。

四足獣の姿をした6体の魔生体。

奥の方から続々と現れた。

強烈な魔波を発する。

アヅミナたちの前に立ち塞がる。

その場に居合わせた研究者たちは息を飲む。

レミはアヅミナをにらみつける。


レミ「…また来たの。魔術院のアヅミナ」

アヅミナ「………」

レミ「直ちにここから立ち去りなさい」

アヅミナ「それは無理。

 大君の命令で来てるから」


ガシマとオンダクは武器を構えた。

彼らに続いて、ほかの3人の隊員も構える。


ガシマ「大歓迎ってところだな」

警護人たち「………」

オンダク「おい、お前たち。バカじゃあるまい。

 見れば分かるだろう…」

警護人たち「………」


警護人たちは厳しい表情を崩さない。

だが、その額にはじっとりと汗が浮かぶ。


オンダク「オレたちは前回来た連中とは違う。

 二隊ではない。正真正銘、大前隊の第一隊。

 お前たち、それでも戦うつもりか?」


オンダクの低く、大きな声が玄関広間に響く。

立ち塞がる6人の警護人。

彼らは1歩も退かない。

6体の魔生体は低いうなり声を上げている。


レミ「愚かな連中。退く気はないみたいね…」

ガシマ「その言葉、そのままお前らに返すぜ。

 本当に戦うつもりなのか?ここで。

 勝てると思ってんのか?あ?おい!」

レミ「…!!」

ガシマ「お前らは、逆らうつもりなのか?

 政府に…大君に…どうなんだ?おい!!

 そういうことなら…オレはためらわない。

 全員の首をはねるだけだ」


ガシマは腰を落とす。

持っている斧を今にも振り回しそうな体勢。


ガシマ「大前隊をなめるなよ。

 すぐに終わらせてやる」


レミの頬を大粒の汗が伝う。


レミ(厳しい…!これは…本当に厳しい…!

 アヅミナはともかく…今回の戦士たち…。

 前回の連中とは、明らかに格が違う…。

 私たちに向ける闘争心が…!

 大君への忠誠心が…!

 そして何より…戦闘力が…!違う!

 明らかに違う!

 研究所に入ってきたときからすぐに分かる…!

 彼らの一挙手一投足を見ていれば…

 簡単に分かる…!

 この程度の警備では…どうにもならない!

 これが本当の大前隊…!第一隊の戦士たち…!!

 前回から研究所の警備は強化されているのに…

 彼らの強さは想定の遥か上…!

 すぐに終わらせる…!?

 あの言葉は…おそらく本気…!

 …なら、どうする!?

 彼らに…魔術を撃ち込んだら…

 武器を振り上げたら…もう退けない…!

 どちらかが全滅するまで…!

 そして…互いの戦力から見て…負けるのは…)

ガシマ「…おい!」


アヅミナが歩き出す。

大前隊5人の中から抜け出して。

レミの目の前まで歩いていく。


レミ「…なんだっ!」

アヅミナ「私たち、所長に話があって来ただけ。

 余計な戦いはしたくないんだけど」

レミ「………」

アヅミナ「やめないなら、これであなたを殺す」

レミ「!!」


それは、突然現れた。

胸元で天に向けられたアヅミナの手のひら。

その上に、人の目玉ほどの小さな暗球。

ふわりふわりと浮いている。

その球は、果てしなく暗い。

生あるものを拒絶する異界に通じる穴のよう。

その球は、見る者に植えつける。

強い不安感を。

しゃがみ込み、頭を抱えたくなるような。


ユイ(あんな魔術が…!)

シンモク(こいつは危ねえな…!)

スゲチ(あれは果たして…!

 この世のものなのか…?)


その球をレミの顔の近くへ持っていく。

レミの体は、恐怖で動けない。

彼女の目はすっかり奪われていた。

その暗球が宿している危うさの深みに。


アヅミナ「これ…よく見て。

 酷死魔術っていうの」

レミ「………」

アヅミナ「闇の魔術。精神操作を応用した魔術。

 触れた人は苦痛を感じて死んでしまう」

レミ「………」

アヅミナ「その苦痛は、ただの苦痛じゃない。

 外傷は一切ない。脳と神経が苦痛を感じる。

 肉が裂けたり骨が折れたりすることはない。

 切り傷とか、かすり傷も負うことはない。

 脳と神経が苦痛を感じるだけ。それだけ。

 だけど、その苦痛は死んじゃうくらい強い」

レミ「ふぅ、ふぅ…!」

アヅミナ「この球に触れたら、その人は死ぬ。

 丸1日のたうち回って叫んで死んでしまう。

 気を失うかどうか、ぎりぎりの苦痛。

 そういうのを全身で1日中味わって、

 それから、疲れてそのうち死んでしまう。

 もしも戦うつもりなら、これをあなたに使う。

 使うことにするから」

レミ「…ふぅ!…ふぅ!…ふぅ!」

アヅミナ「嫌でしょう?戦うの嫌になったでしょ」

レミ「…ふぅ!…ふっ!……ぶっ!!!…」


レミは大量の汗をかき、顔面蒼白になり、卒倒。

アヅミナは、今度はその暗球を警護人に向ける。

何人かが恐ろしさのあまりうめき声を上げた。

傍観していた研究者は不安に耐えきれず叫んだ。


男の声「その辺にしなさい」


悲しみに満ちた声。

玄関広間に響く。

奥の方から現れる1人の男。

ゆったりとした足取りでやってくる。

アヅミナたちの方に。

警護人が、魔生体が道を開ける。

現れたのは、ホジタだった。


アヅミナ「…来た」

ガシマ「あいつがそうか」


ホジタとアヅミナは向かい合う。

ホジタの後ろには3人の秘書がいた。


ホジタ「私が話を聞こうじゃないか。

 だから、君、その物騒な球をしまいなさい」

アヅミナ「………」


アヅミナは暗球を消す。

秘書の1人が指を弾く。

ふわりと巨大な魔籠が受付台の奥から現れる。

その魔籠は、10人は優に乗れる。

ホジタと3人の秘書はそれに乗った。


ホジタ「君たちも乗りなさい」


アヅミナたちも乗る。


ホジタ「これから私の部屋に案内しよう」

アヅミナ「………」

ホジタ「おい、アヅミナさん」

アヅミナ「………」

ホジタ「ここはどうだ。

 仲良くしようじゃないか。

 私たちは同じ闇の魔術師なのだから」


ホジタは不敵に笑う。

3人の秘書が魔籠に魔力を込める。

静かに最上階へと上がっていく。



◇◇ ステータス ◇◇

◇ ガシマ ◇

◇ レベル  33

◇ HP   2178/2178

◇ 攻撃

 36★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

  ★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 防御

 27★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★

◇ 素早さ

 30★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

  ★★★★★★★★★★

◇ 魔力  10★★★★★★★★★★

◇ 装備  練磨の大斧、金剛武道着

◇ 技   激旋回斬、大火炎車

◇ 魔術  火弾、火砲


◇ オンダク ◇

◇ レベル 35

◇ HP   2841/2841

◇ 攻撃

  28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★

◇ 防御

  39★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 素早さ

  19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 魔力  9★★★★★★★★★

◇ 装備  竜牙の長槍、超重装甲

◇ 技   竜牙貫通撃、岩撃槍

◇ 魔術  岩弾、岩壁


◇ ユイ ◇

◇ レベル 33

◇ HP   1711/1711

◇ 攻撃

  31★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

  ★★★★★★★★★★★

◇ 防御

  24★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

  ★★★★

◇ 素早さ

  29★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

  ★★★★★★★★★

◇ 魔力

  19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 装備  煌石剣こうせきけん連花戦闘衣れんかせんとうい

◇ 技   千刺連撃せんしれんげき、炎舞剣

◇ 魔術  火弾、火砲、火柱


◇ スゲチ ◇

◇ レベル 31

◇ HP   1933/1933

◇ 攻撃

  31★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

  ★★★★★★★★★★★

◇ 防御

  33★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

  ★★★★★★★★★★★★★

◇ 素早さ

  25★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

  ★★★★★

◇ 魔力

  17★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 装備  聖鋼せいこうの槍、白鋼はっこうの鎧

◇ 技   輝乱気嵐撃きらんきらんげき嵐身乱心撃らんしんらんしんげき

◇ 魔術  氷弾、氷柱

      雷弾、雷砲


◇ シンモク ◇

◇ レベル 34

◇ HP   1693/1693

◇ 攻撃

  18★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 防御

  19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 素早さ

  32★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

  ★★★★★★★★★★★★

◇ 魔力

  20★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 装備  魔波集攻剣まはしゅうこうけん魔布戦闘着まふせんとうぎ

◇ 技   火炎剣、雷断剣、炎雷剣

◇ 魔術  火弾、火球

      雷弾、雷砲、雷刃

      光球、治療魔術


◇ アヅミナ ◇

◇ レベル 35

◇ HP   404/404

◇ 攻撃   1★

◇ 防御   2★★

◇ 素早さ

 40★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 魔力

 47★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★

◇ 装備  大法力の魔杖、漆黒の術衣

◇ 魔術

  火弾、火矢、火球、火砲、火羅、火嵐、王火

  氷弾、氷矢、氷球、氷刃、氷柱、氷舞、王氷

  暗球、精神操作、五感鈍化、魔病感染、

  酷死魔術


◇◇ 敵ステータス ◇◇

◇ ホジタ ◇

◇ レベル 41

◇ HP   2056

◇ 攻撃  9★★★★★★★★★

◇ 防御

 31★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★

◇ 素早さ

 22★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★

◇ 魔力

 34★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★

◇ 装備  司魔杖しまじょう司魔衣しまい

◇ 魔術

氷弾、氷剣、氷槍、氷盾、氷壁、氷嵐、王氷

 岩弾、岩砲、王岩

  暗球、精神操作、五感鈍化、

  希薄暗球型精神操作、八射銅鑼暗黒演舞やしゃどらあんこくえんぶ

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