第96話 合図
◆ カルスの上 ◆
山岳地帯を越えて、さらに進む。
広い平野が見えてきた。
アヅミナ「みんな聞いて」
隊員たち「………」
アヅミナ「研究所へ行ったとき、
注意してほしいことがある」
ガシマ「…なんだ?」
カルスは高度を下げていく。
アヅミナ「研究所の所長について。
私たちが、これから会う男について」
ガシマ「ホジタって人だろ」
アヅミナ「ええ。
彼の魔術には気をつけてほしい」
ガシマ「一体どんな魔術を?」
アヅミナ「闇の魔術を使う」
ガシマ「………」
カルスは少しずつ速度を落としていく。
ガシマ「闇魔術か。そりゃあ厄介だな」
アヅミナ「前回行ったときも調べてはいた。
ホジタの情報を集めてから会った。
強力な闇の魔術の使い手であること、
魔力の制御が抜群に優れていること、
そんな情報を集めてから研究所へ行った。
だけど、実際に会ってみたら、もっと厄介。
思っていたよりもずっと厄介な魔術だった」
ガシマ「何がどう厄介なんだ?」
アヅミナは隊員たちに告げる。
ホジタが使う闇魔術の名前を。
アヅミナ「希薄暗球型精神操作」
ガシマ「希薄暗球…」
アヅミナ「希薄暗球型精神操作。
それが彼の得意とする魔術。
そういう魔術があるってこと知ってはいた。
だけど、実際に使う人がいると思わなかった。
彼はそれを使う。暗球を限りなく薄める。
広げる。それで、対象者を包み込む。
精神操作を使う。暗球はとても薄い。
だから、包まれてても気づかない」
ユイ「そんな恐ろしい魔術が…」
アヅミナ「普通はできない。
だけど、ホジタはできる。
あの人は、魔力を極限まで制御できる。
本来、真っ黒な暗球。
それを極限まで薄くできる。
高い魔力の持ち主でも…見破れない」
ガシマ「でも、お前は分かった」
アヅミナ「同じ闇魔術師だから」
ガシマ「…前もそんなこと言ってたな」
アヅミナ「同じ闇魔術師同士だから感じ取れる。
見破れる。そういうことは結構ある」
オンダクは顔を曇らせる。
オンダク「気をつけろと言われてもな…。
実際に精神操作をされちまったら…」
アヅミナ「大丈夫。
ホジタはそういう魔術を使っている。
意識するだけでいい。
希薄暗球型精神操作はとても弱い魔術。
希薄というだけあって、
強力な精神操作はできない。
味方同士で戦わせるとか、
そういうことはまずできない。
心を正常に保つように注意し続けていれば、
精神操作されることはまずないから…」
ガシマ「ホジタは何を狙ってるんだ?
その弱い精神操作で何をしてくるんだ?」
アヅミナ「考えていることや手の内を話させる」
ガシマ「………」
アヅミナ「話させること。それこそが彼の狙い。
前回、同行した二隊の隊員がそれにかかった。
私にはすぐに分かった。これ操られてるって。
そして、危うく彼は話すところだった。
こっちの狙いを。さらにはシノ姫のことも」
ガシマ「そんなことがあったのか」
アヅミナ「彼の魔術は自白剤のように効く。
あの人の部屋に長くいると、心が侵されてく。
知らないうちに。彼の部屋は満たされている。
ごくごく薄い暗球に。それは見破れない。
普通の魔術師では…まず見破れない」
スゲチ「興味深い。そんな魔術師がいるとはな」
シンモク「そういう魔術を使いまくって、
上り詰めたのかもしれねえな。今の地位に」
地上に町が見えてくる。
分厚い雲の下をカルスは飛び続けた。
ユイ「そのときはどうしたの?」
アヅミナ「…え?」
ユイ「前回、研究所へ行ったときのこと。
一緒にいた二隊の人が操られたんでしょ。
それで、話そうとしたんだよね。
シノ姫のこととか…」
アヅミナ「ああ…」
オンダク「…どうしたんだ?知らなかったぞ。
そんなことがあったとは。
どうした?報告したのか?
大君やシノ姫に」
アヅミナ「してない」
オンダク「な…!」
アヅミナ「切り抜けたから。
結局、何事もなく済んだから」
ユイ「どうやって切り抜けたの?」
アヅミナ「私がその場で精神操作した。
その隊員を」
ユイ「え…?」
アヅミナ「私の精神操作でその隊員を黙らせた。
力比べなら、負けないから」
ガシマ「もっと強い精神操作で打ち消した…
…ってわけか」
アヅミナ「そういうこと」
オンダク「なるほどな」
ガシマ&ユイ&スゲチ&シンモク(恐ろしい…)
やがてオノレノの町が見えてくる。
◆ テノハ ◆
アルジたちは待つ。
魔学校マスの前で。
しかし、マスタスは現れない。
日は上り、昼になろうとしていた。
ミリ「来ないね」
リネ「………」
エミカ「どこかで休憩しませんか?」
リネ「そうだね」
アルジたちは歩き出す。
静かな町の中を。
1軒の茶屋を見つける。
上品で開放的な外観が人目を引く。
魔学校マスから少し離れたところ。
それはひっそり建っていた。
アルジ「あの店に入るか」
ミリ「そうしよう」
店に入る。
空は急に曇ってきていた。
老年の店主が出てきて席を案内した。
小さな円卓の席を4人で囲む。
大きな窓から外の景色がよく見えた。
店主は品書きを1枚、そっと卓上に置く。
ほかの客は、老夫婦が1組。
奥の席で静かに茶を飲んでいた。
ミリ「お腹空いた」
エミカ「そうだな」
アルジ「何か食っとくか」
リネ「私はいい」
アルジ&エミカ&ミリ「………」
リネ「みんなは食べて」
店主が注文を取りにきた。
茶と焼き菓子を注文する。
奥へ消えていく店主。
ミリ「リネさん、あの…」
エミカ「ミリ」
ミリ「言おうよ。今しかない」
エミカ「…うん」
リネはエミカとミリの顔を見つめる。
小さく首を傾げながら。
声を潜めてミリは伝えようとする。
リネに、戦闘開始の合図について。
ミリ「リネさん、私たち、決めたんです」
リネ「…何?」
ミリ「合図です。私たちだけが分かる合図です」
リネは視線を落とし、卓上を見つめる。
そして、1回大きく息を吸い、吐いた。
視線を上げて、ミリの顔をじっと見つめる。
ミリは、思わず黙り込む。
彼女は見つけた。
リネの目の奥に。
怒りの炎のようなものを。
リネ「つま先で床を1回…でしょう?」
ミリ「…!」
アルジ&エミカ「!?」
窓から外をぼんやりと眺めるリネ。
小さな声で言う。
リネ「私が聞いてないとでも思ったの…?」
店主が現れる。
4人分の茶と3人分の焼き菓子が置かれた。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 23
◇ HP 2277/2277
◇ 攻撃
34★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
26★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 素早さ
28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 魔力 5★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、雅繊維戦衣
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、朔月斬り
◇ エミカ ◇
◇ レベル 19
◇ HP 1452/1452
◇ 攻撃 9★★★★★★★★★
◇ 防御 12★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
33★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 魔樹の杖、深紅の魔道衣
◇ 魔術 火球、火砲、火樹、火海、王火
◇ ミリ ◇
◇ レベル 16
◇ HP 1008/1008
◇ 攻撃 4★★★★
◇ 防御 7★★★★★★★
◇ 素早さ
17★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
34★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 魔石の杖、紺碧の魔道衣
◇ 魔術 氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
◇ リネ ◇
◇ レベル 27
◇ HP 1011/1011
◇ 攻撃 7★★★★★★★
◇ 防御
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ 14★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
31★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、創造の杖、聖星清衣
◇ 魔術 雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 20