第94話 校舎
◆ 都 治療院 ◆
そこは、都の病人、怪我人が集まる場所。
大部屋にいくつも布団が並ぶ。
多くの人々が寝かされていた。
その大半は昨夜センケン通りで負傷した者たち。
今、そこで意識を取り戻した男が1人。
エオクシ「…は!!」
女「エオクシ様。目覚めましたか」
エオクシ「ここは…!?」
起き上がろうとする彼を女はとめる。
女「まだ万全ではありません。
寝ていてください」
エオクシ「いってて…!」
全身に激痛が走る。
彼は思わず顔をゆがめる。
仰向けになって寝る。
エオクシ「おめえは…」
女「魔術院のマユノと申します。
再生魔術、蘇生魔術を専門にしています。
あなたの蘇生の指揮をとっておりました」
エオクシ「蘇生…?オレは…死んだのか?」
マユノ「はい、そうです」
エオクシ「………」
マユノ「あれだけの魔獣と戦ったのですから」
エオクシ「最後…オレはどうなったんだ…?
確か…剣が手から落ちて…うう…
思い出せねえ…」
マユノ「…知りません。
近くで見ていたわけではないので。
…アヅミナさんが近くにおりました」
エオクシ「アヅミナが…?」
マユノ「はい」
エオクシ「なんであいつが…」
マユノ「あなたを気遣っていたのでしょう」
エオクシ「………」
4人、新たに入ってくる。
大部屋は静まり返る。
3人の従者を連れてその人物は現れた。
病人、怪我人、付添人などの注目を集めて。
現れたのは、シノ姫。
彼女はエオクシの布団のそばへ行き、座る。
エオクシ「…シノ姫…様!!」
シノ姫「よかった…。目が覚めたのですね」
エオクシ「はい…今ほど」
シノ姫「素晴らしい生命力です」
エオクシ「………」
シノ姫「あなたは…化け物退治で息絶えた。
それからすぐ…私は要請した。魔術院に。
選りすぐりの光術師を集めてほしい、と。
治療院にも求めた。
特別な治療室を設けてほしい、と。
そして、あなたをそこへ運び、
特別な処置を行いました。
休むことなく蘇生魔術を使ったのです。
ここにいるマユノを中心に…」
マユノはうなずき、エオクシにほほえみかける。
シノ姫「かなり深刻な損傷もありました。
正直なところだめかもしれないと思いました。
ですが、あなたはこうして生き返ってくれた。
切られた右腕も折られた左脚も元どおりです。
優れた光の魔術とあなたの強い生命力…
これらがそろって、こういう結果になった」
エオクシ「………」
シノ姫「24体ものヤマエノモグラモン。
見事に討伐してくれましたね」
エオクシ「…最後の1体は…」
シノ姫「都を救ったのは、間違いなくあなた。
その武功を称えて特別な給与を支給します。
何百回…いえ、何千回…これからずっと…
高級料理屋で飲み食いをしても使いきれない。
それぐらいの金額です」
エオクシ「…………」
シノ姫「あなたの武器、防具も修理します。
都の一流の武器職人を集めて」
エオクシ「……え…」
シノ姫「行きつけの道場も改築させましょう。
狭かったし、古かったし、新しくしましょう。
さらには…」
エオクシ「うるせえ!!!!!!」
シノ姫「!」
大部屋は静まり返る。
多くの者が目を見開き、エオクシたちを見た。
エオクシは仰向けに寝たままシノ姫をにらむ。
エオクシ「どうでもいいんだ!!
そんなことは!!」
シノ姫「………」
エオクシ「説明しろ!!オレたちに!!
何が起きているのか!!
大前隊は何と戦っているのか!!
オレたちに言いやがれ!!」
シノ姫「………」
エオクシ「…レンダは!?…ナダキは!?
二隊の隊員たちは!!?どうなった!?」
シノ姫「…みんな死にました」
エオクシ「!!」
シノ姫「再生不可能な傷を負っていましたから」
エオクシ「生き返ったのは…オレだけか…?」
シノ姫「ほかの一隊の隊員は無事です」
エオクシ「一隊は無事…」
シノ姫「はい」
エオクシ「二隊は…?」
シノ姫「センケン通りで戦っていた者は…
全員死にました」
エオクシ「クソ…!クソッ!!クソォオ!!」
エオクシは目に浮かんだ涙を袖でふく。
静まり返る大部屋。
シノ姫が何かを言いかける。
遮ってエオクシは言う。
エオクシ「これは…士気に関わる問題だ…!!」
シノ姫「………」
エオクシ「オレたち大前隊の…
士気に関わる問題だ!!」
シノ姫「………」
エオクシ「このままでいいわけがねえ!!
都を…大君を守るため…!!話してもらうぜ!!
すべてを…オレたちに…!!」
シノ姫「あなたがそこまで言うのなら…
いいでしょう」
エオクシ「…!」
シノ姫「…みなさんを集めて説明をしましょう」
エオクシ「………」
シノ姫「日時は改めてお伝えします」
シノ姫は静かに立ち上がる。
従者を連れて大部屋から出ていこうとする。
エオクシ「…シノ姫様!」
シノ姫と従者たちは足を止める。
だが、振り返らない。
エオクシ「オレを…生き返らせてくれたこと…
感謝します」
シノ姫「それは…マユノさんに…」
エオクシ「………」
小さくうなずき、シノ姫は部屋から出ていった。
◆◆ 数時間後 ◆◆
◆ 魔術院 ◆
裏門の前でエオクシを除く大前隊第一隊が集う。
しばらくしてアヅミナが現れる。
表情は硬い。
手には、飛行型魔生体カルス。
広がる青空の下、朝日が彼らを照らす。
ガシマ「選べ」
アヅミナ「………」
オンダク「ガシマとオレは行く。あと3人。
誰にするかはお前が決める。
シノ姫はそう言ったんだろう」
アヅミナ「ええ」
アヅミナは隊員の顔を見て伝える。
誰を連れていくのか。
アヅミナ「あなたと、あなたと、あなた」
選ばれたのは、ユイ、スゲチ、シンモクの3人。
ガシマ(魔力重視…)
オンダク(やはりか)
アヅミナは手にしたカルスを3人に見せる。
アヅミナ「魔力の高い人を選びました」
ユイ&スゲチ&シンモク「………」
アヅミナ「カルスを飛ばすのを
手伝ってもらいたいから」
ガシマ「それはつまり…」
アヅミナ「自分の魔力を温存しておきたい。
1人で飛ばすと行くだけで多くの魔力を使う。
そうなったら、存分に戦えない。
それは避けたい。
今度は…戦うことになるかもしれないから」
オンダク「研究所の連中と…か」
アヅミナ「次は何か戦利品を持って帰らないと…」
ガシマ「シノ姫が黙ってない」
アヅミナ「そういうこと」
オンダク「オレたちも最善を尽くそう」
アヅミナの顔が少しだけ緩む。
アヅミナ「今回はみんな強そうで安心した」
ガシマ「おいおい、オレたちをなめるなよ。
第一隊だ」
オンダク「二隊とは格が違う」
アヅミナ「そうだったね。
よろしくお願いします」
アヅミナに選ばれた3人が前へ出る。
ユイ「ユイと言います。よろしく」
スゲチ「スゲチと言う。よろしく」
シンモク「オレはシンモク。よろしくな」
アヅミナ「魔術院の魔術師アヅミナです。
カルスの操縦は乗りながら教えます。
まずは、あたしの魔力を感じてください」
アヅミナはカルスに魔力を込める。
巨大な力が一気に解放される。
彼女の手の中で。
ユイ、スゲチ、シンモクは驚いた。
その桁外れの強さに。
ユイ&スゲチ&シンモク「…!!」
アヅミナ「カルスを展開します。少し下がって」
ユイ(これが魔術院の最上級の魔力…!
私だって…魔術には結構自信あったんだけど…
この人の前じゃ…子どもみたいなものかもね…)
巨大化したカルス。
その上に6人は乗る。
ふわりと浮き上がり、それは飛んでいく。
北土の魔術研究所に向かって。
残された隊員。
オノク、ロクヤン、ヒデイシャ、マサミチ。
4人は空を見上げて彼らを見送った。
◆ テノハ ◆
朝日が宿の部屋を照らす。
アルジたちは目覚めた。
それぞれが外へ出る支度をする。
しばらくして料理が部屋に運ばれてくる。
朝食は宿が用意してくれた。
若旦那「料理人が心を込めて作りました。
どうぞ召し上がってください」
煮た根菜、焼いた川魚、塩辛い汁物。
そして、小さな甘い果実。
リネ「ごちそうさまでした」
エミカ&ミリ「ごちそうさまでした…」
アルジ「…ごちそうさま」
アルジたちは食事を済ませる。
交わす言葉はほとんどない。
アルジ「よし、行くか」
エミカ「行こう」
リネ「そうしましょう」
ミリ「学校を探そっか!」
若旦那が食器を下げに部屋へ入ってくる。
リネ「あの…」
若旦那「なんですか?」
リネ「この町に魔術の学校があると聞きました。
魔学校マスという名前の…」
若旦那「ああ、それなら知ってます」
リネ「どこにありますか?」
若旦那「町の外れの…林の近くで…
えっと、そうだな…地図を持ってきます」
リネ「ありがとう」
若旦那は部屋から出ていった。
リネ「すぐ分かりそう」
アルジ「そうだな」
エミカ「やっと…ですね」
ミリ「緊張してきた」
リネ「心配ないから。大丈夫」
若旦那が再び部屋に現れる。
若旦那「ここです。ここにその学校があります」
1枚の地図を広げて、指で示す。
そこは、本当に町の外れ。
近くに目印になるようなものは特にない。
リネ「この地図、お借りしても?」
若旦那「どうぞ、差し上げます」
リネ「いいんですか?」
若旦那「ええ、いくつもありますから。どうぞ」
リネ「ありがとう」
そして、部屋を出る。
若旦那が宿泊代と食事代を告げる。
アルジ「ここはオレが払うぜ」
リネ「いいんですか?」
アルジ「ああ、そんなに高くもないしな」
リネ「ありがとう」
宿を出て、町を歩く。
地図を見ながら。
町の外れへ進んでいく。
建物が少なくなり、木々が増える。
静かな町の、その中でも特に静かな一角。
そんな場所に彼の学校はあった。
マスタスの魔術学校。
魔学校マス。
その学校には、校門も前庭もない。
簡素で四角い平屋造。
細い道に面したのっぺりとした白壁に扉が1つ。
それが校舎の正面口。
アルジ「…あれか?」
リネ「そうみたい」
エミカ「古い店を改装した感じだな」
ミリ「あれが学校なんて思えないよ。
…あ、でも、校章みたいなのがある」
扉の横にそれは刻まれていた。
風車のような紋章。
その下に学校名。
「魔学校マス」と小さな字で書かれている。
アルジ(こんな怪しい学校に…
生徒がいるのか…?)
アルジたちはしばらく外から学校の様子を見る。
中から声は聞こえない。
とても静かで人の気配はまったくない。
そのとき。
1人の男がアルジたちの方へ歩いてくる。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 23
◇ HP 2277/2277
◇ 攻撃
34★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
26★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 素早さ
28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 魔力 5★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、雅繊維戦衣
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、朔月斬り
◇ エミカ ◇
◇ レベル 19
◇ HP 1452/1452
◇ 攻撃 9★★★★★★★★★
◇ 防御 12★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
33★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 魔樹の杖、深紅の魔道衣
◇ 魔術 火球、火砲、火樹、火海、王火
◇ ミリ ◇
◇ レベル 16
◇ HP 1008/1008
◇ 攻撃 4★★★★
◇ 防御 7★★★★★★★
◇ 素早さ
17★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
34★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 魔石の杖、紺碧の魔道衣
◇ 魔術 氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
◇ リネ ◇
◇ レベル 27
◇ HP 1011/1011
◇ 攻撃 7★★★★★★★
◇ 防御
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ 14★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
31★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、創造の杖、聖星清衣
◇ 魔術 雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 20




