第93話 回収
◆ 都 シノ姫の間 ◆
ガシマは前へ出た。
ガシマ「私は納得できません」
シノ姫「………」
ガシマ「その3人を倒すため、
今は待機すべきだと?」
シノ姫「………」
ガシマ「誰ですか?誰なんですか!?
その3人とは!」
シノ姫「しかるべき時が来たら教えましょう」
ガシマ「今は教えられないということですか!
そんな者どもと戦うために今は待機しろと!?
危機を放置しろというのですか!!?」
シノ姫「放置しろとは言ってません」
ガシマ「待機は放置も同然ではないですか!?」
次に声を上げたのは、オンダク。
オンダク「オレは行くぞ。命令がなくても。
国を守ることこそが我らの使命なのだから!」
シノ姫「………」
ユイ「ガシマさん、オンダクさん、私も行きます」
ユイは、今年一隊に昇格したばかり。
剣術と火術が得意。
一隊の最年少はエオクシ。
彼女は次に若い。
ガシマとオンダクを見て実力を高めてきた。
ゆくゆくは三頭に。
隊の中でそんな評価もある。
ヒデイシャ「オレも行こう」
ロクヤン「オンダク、お前に賛同する」
スゲチ「オレもだ。オレもやる」
オンダク「よし、行くぞ!みんな!!」
隊員たち「オオオオオオオオ!!!」
それぞれが武器を掲げる。
シノ姫「…許しませんよ」
静まり返る部屋の中。
シノ姫「ふふふふふふ…」
ガシマ「……!」
シノ姫の不気味な笑い声が響く。
部屋の空気が変わっていく。
隊員たちの勢いが失われていく。
シノ姫「そんなことを言ってると、使いますよ」
隊員たち「…?」
シノ姫「いいんですか?使いますよ」
ガシマ「使うとは…なんのことでしょうか?」
シノ姫「あら!ご存知でしょう。
大前隊の皆さんなら!
もう知っているはずでしょう」
隊員たち「………」
シノ姫「秘術です」
隊員たち「…!」
シノ姫「使いますよ」
隊員たち「………」
シノ姫「死にたくないなら、言うことを聞いて。
命令に従い、待機しなさい。
従えないというのなら、ここで私が殺します。
魔獣退治はさせません。
それでも構わないのなら、どうぞ行きなさい」
隊員たち「………」
シノ姫「ふふっ…」
ガシマ(正気なのか…!!こいつは…!
だが…死ぬ!!秘術を使われたら…死ぬ!
それでは…元も子もない…!)
隊員たちは武器を下ろす。
1人、また1人。
オンダクもユイも武器を下ろした。
最後にガシマが力なく斧を下ろす。
シノ姫「それでいいのです」
シノ姫は右手に意識を集中させる。
シノ姫「見えますか?」
右手から光が放たれる。
青白く、怪しい光が。
シノ姫「秘術の力はなくても…
あなたたちにも見えるでしょう」
隊員たちはじっと見ている。
危うさを感じさせる、その奇妙な光を。
シノ姫「これがただの光じゃない…
ってことは分かるでしょう?
秘術使いでなくても。
命令に背く者は、この力で殺します」
隊員たち「………」
シノ姫「ですから、
今日のところは言うことを聞いて」
隊員たち「………」
シノ姫「どうなんですか?」
隊員たち「………」
シノ姫「黙っていても分かりません。
隊長さん。あなたはどうするつもりですか?」
ミチマサ「従います」
シノ姫「よろしい。みんなに改めて命じて。
あなたから」
ミチマサ「はっ!」
ミチマサは命じる。
隊員たち全員の顔を順に見てから。
ミチマサ「みんな!待機だ!待機するぞ!!」
隊員たち「………」
そして、彼らは去っていく。
連なって城の中を歩く。
その足取りは力ない。
ぞろぞろと城を出る。
大前隊の待機所へと入っていく。
城の敷地内にその建物は建っている。
3階建てのその施設。
武器庫、貯蔵室、会議室、休養室…。
戦いのための設備が整っている。
隊員たちは無言で会議室の床に座り込む。
そして、目を閉じ、静かに過ごした。
現地の隊員たちの武運を願いながら。
危機の収束を祈りながら。
ガシマは歯を食いしばる。
近くに座っていたユイがそれに気づく。
◆ 都 センケン通り ◆
夜が明けようとしている。
エオクシの戦いは続いていた。
もはや満身創痍。
ともに戦う者はない。
現地で戦っていた二隊員は全滅した。
ただ1人エオクシだけが戦い続ける。
右腕を失い、左脚を折られ、頭部に傷を負って。
1歩でも前へ進めば、全身が悲鳴を上げる。
だが、彼は戦意を失わない。
戦おうとしていた。
最後の最後まで。
気を失い、体が動かなくなるまで。
剣をつかむ左手はほとんど感覚がない。
辺りに散乱するヤマエノモグラモンの死体。
その数23。
彼は、閉じかけた目で辛うじて捉える。
歩いてくるヤマエノモグラモンの姿を。
残るは1体。
じっとその場で立って待つ。
相手が襲いかかるのを。
反撃の一撃。
それですべて終わらせる。
それが彼の狙い。
もはや天裂剣も地破剣も出せない。
だが、敵の急所は分かる。
一撃で倒せる急所がどこなのか。
彼は連戦の中で完全に把握。
その急所を残りの力で斬る。
その瞬間をじっと待つ。
大きな炎がゆらりゆらりと揺れている。
センケン通りのあちらこちらで。
炎の光に照らされながら近づいてくる。
ヤマエノモグラモンが1歩、また1歩。
エオクシ「来やがれ…!!」
すっかりかすれた声で叫ぶ。
振り上げられるヤマエノモグラモンの長い腕。
身をかがめ、かわす。
エオクシ(そこだ!!!)
剣を振ろうとした瞬間。
エオクシ「…!!」
するりと剣が手から滑り落ちた。
転倒するエオクシ。
彼の背中に容赦なく降り注ぐ爪の嵐。
何度も、何度も、深く刺す。
エオクシ「…か…はっ…!!!」
そのとき。
強力な冷気がヤマエノモグラモンを包む。
近くにいた消火隊が放った氷術だった。
エオクシへの攻撃がやむ。
ヤマエノモグラモンは倒された。
ガチガチに凍った状態で。
走ってきたのは3人の魔術師。
その1人はアヅミナ。
真夜中、彼女は消火隊から支援を求められた。
強い氷術使いの力が必要とされたために。
彼女は引き受けて消化活動に参加していた。
エオクシのそばでしゃがみこむ。
彼の肩にそっと手で触れる。
アヅミナ「エオクシ…」
エオクシ「………」
彼はもはや虫の息。
目を閉じ、静かにしている。
熟睡しているかのような穏やかな顔で。
アヅミナ「エオクシ、起きて」
エオクシ「………」
ほかの2人の魔術師は炎を消しに行く。
消火活動はまだまだ必要。
そして、夜が明ける。
センケン通りに転がっている。
24体のヤマエノモグラモンの死体が。
倒された大前隊の戦士たちが。
その中にエオクシの姿も。
アヅミナは彼に寄り添い続けた。
消火活動が終わりを迎えたとき。
エオクシの死体は回収された。
シノ姫が派遣した魔術師たちによって。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アヅミナ ◇
◇ レベル 35
◇ HP 404/404
◇ 攻撃 1★
◇ 防御 2★★
◇ 素早さ
40★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
47★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 装備 大法力の魔杖、漆黒の術衣
◇ 魔術
火弾、火矢、火球、火砲、火羅、火嵐、王火
氷弾、氷矢、氷球、氷刃、氷柱、氷舞、王氷
暗球、精神操作、五感鈍化、魔病感染、
酷死魔術