第86話 公園
アルジたちは魔籠に乗る。
静かに速く降りていく。
4階から1階へ。
魔籠から降りて出口へ向かう。
受付係のレミがぼそりと言った。
レミ「あなたたち、ただじゃ済まないかもね」
エミカ「…なんか言ったか?」
レミ「よく聞け。これは警告だ」
ミリ「はいはい」
レミ「………」
研究所を出て、長い坂道を下る。
広い庭の近くを歩く。
芝生の上で研究員たちが実験している。
空がキラリと光った。
研究員の1人が雷術を使ったのだった。
その様子を歩きながら見るアルジたち。
リネ「エミカ、思い出すでしょ」
エミカ「そうですね」
アルジ「練習してるのか?」
エミカ「実験だ」
アルジ「実験なのか」
エミカ「魔術が何にどう作用するのか。
正確に分かってないことはまだ多い。
人によって考え方が違っていたり…」
アルジ「そうなのか。
昔から使ってきてるのにな」
リネ「使われていても、
分かってないことは多いのです。
さっきのホジタの話も。
魔術を使った戦いのことも…」
アルジ「戦い…。さっきの昔話のことか」
エミカ「あんな話は初めて聞きました」
ミリ「信じられませんね」
リネ「ええ。
でも、あれがもしも本当だとしたら…」
アルジ&エミカ&ミリ「………」
山を下り、橋を渡り、町の大通りに出る。
リネ「行きたい場所が2つあります。
これから行ってもいいですか?」
アルジ「ああ」
エミカ&ミリ「はい」
リネが先頭を歩く。
大通りから細い通りに入る。
右に、左に、曲がって進む。
そして、1つ目の目的地にたどり着く。
それは民家に挟まれた小さな店。
アルジは小さな立て看板を見つける。
アルジ「薬屋か」
リネ「研究所時代の友達がやってるの」
エミカ「知りませんでした。
こんなところに薬屋さんがあったなんて」
ミリ「少し怪しい雰囲気がありますね」
リネ「分かる?ここ、ただの薬屋じゃないの。
魔術薬を専門に売ってるところ」
エミカ「魔術薬ですか」
アルジ「魔術薬?」
リネ「魔術で効用を高めた薬のこと。
傷を治したり解毒したり
普通の薬よりずっとよく効く。
だから、使い始めるとやめられない」
アルジ「へえ」
リネ「ここのお店、場所が場所だから。
知らない人も結構多いんだよね」
ミリ「どこをどう歩いてきたのか…
全然覚えてないですよ」
リネは戸を開けて中へ入る。
アルジ、エミカ、ミリも彼女に続く。
店主「いらっしゃ…って、リネ!」
リネ「久しぶり。ヤイナ」
ヤイナ「久しぶり!」
リネはその店主と抱き合う。
彼女の名前はヤイナ。
北土の魔術研究所で治療魔術を研究していた。
研究所を退所したのは10年近く前のこと。
リネの退所より2年ほど早かった。
ヤイナは退所とほぼ同時に薬屋を開業。
店の奥から男が出てくる。
大柄でたくましい体つき。
彼は、助手のトシロウ。
魔術は使えないが、豊富な薬の知識がある。
薬を調合するのに彼の知識は欠かせない。
ヤイナ「リネ、急にどうしたの?」
リネ「戻ってきちゃった」
ヤイナ「私に会いたくなった?」
リネ「そんなところ」
ヤイナ「冗談でも嬉しいよ」
リネ「冗談じゃないって」
ヤイナ「あははは」
アルジは店内を見回す。
多くの小瓶が棚に並んでいる。
店の奥には何種類もの薬草。
束ねられ、ぶら下げられている。
店内は薬の匂いに満ちていた。
ヤイナ「例のやつ…欲しくなったんでしょ?」
リネ「当たり」
ヤイナは店の奥へ消える。
助手のトシロウとともに。
アルジ「なんだ?一体なんの薬だ?」
リネ「魔力回復薬」
アルジ「魔力回復薬…」
リネ「アルジさん、私に飲ませてくれたでしょ。
ヤマエノモグラモンを倒したあとに。
小さな粒で、箱に入ってて…」
アルジ「あったな。あれを買いに来たのか」
リネ「うん。あれ、ここのお店で買ったの。
買ったのはもうずっと前のことだけどね。
でも、ちゃんと効いてくれた」
アルジ「そうだったな」
リネ「よそのも試してみたけど全然違う。
これからの戦い、厳しいものになるでしょ。
だから、しっかり備えなきゃって思ってね」
エミカ「だけど、リネさん」
リネ「もちろん分かってる」
アルジ「?」
ヤイナとトシロウが店の奥から戻ってくる。
ヤイナの手には魔力回復薬の入った小さな箱。
トシロウは彼女のそばで静かに立っている。
ヤイナ「副作用に気をつけて」
リネ「分かってる」
ヤイナ「薬の力で強制的に魔力を回復する。
それはつまり…」
エミカ「魔術師生命を縮める…ですね」
ヤイナ「あなたも魔術師だね」
エミカ「はい」
ヤイナ「そっちのあなたも」
ミリ「魔術師です」
リネ「私の弟子。エミカとミリ」
ヤイナ「そっか、リネの弟子…」
リネ「2人ともすごく強いよ」
ヤイナ「ああ。いい魔波だ。素質あるね。
さっき、戦いがどうこう言ってたけど…」
リネ「心配しないで」
ヤイナ「………」
リネ「負けないから」
ヤイナ「何と戦うの?」
リネ「それは…」
ヤイナ「やっぱいいよ。言わなくて」
リネ「………」
ヤイナ「また来て。
そのとき気が向いたら教えてよ」
リネ「そうする。ありがとう」
◇ 魔力回復薬を20個手に入れた。
代金を支払うリネ。
その手に握られていたのは明らかに大金。
アルジ(魔術師の命を縮める薬…。あのとき…
リネに飲ませたのはそういう薬だったのか。
でも、あのとき、リネの魔術がなかったら…)
リネ「そうだ!」
リネは袋から治療薬を取り出した。
ヤイナに渡す。
リネ「これもお願いしていい?」
ヤイナ「いいよ。加工させてもらうね。
少し時間がかかるから…」
リネ「ちょっと外に出てから戻ってくる」
ヤイナ「お昼過ぎには完成するから」
リネ「ありがとね」
アルジたちは薬屋を出た。
細い通りを抜けて、大通りに出る。
薄い雲が空一面に広がっていた。
リネ「もう1つ。行きたい場所があります」
エミカ「どこですか?」
リネ「イシナ茶屋」
エミカ「そのお店は…」
イシナ茶屋。
リネとマスタスが2人でよく訪れた場所。
イシナ川の近くの公園内にある。
イシナ川は研究所の近くを流れる美しい川。
ミリ「思い出の場所ですね。行ってみたいです」
リネ「ここから歩けば、すぐに着くから」
エミカ「………」
リネ「エミカ」
エミカ「はい」
リネ「別に変な気は起こさない。安心して。
決別しに行く。あの場所に。私はこれから。
思い出を…なんて言ったらいいのかな…」
エミカ「いいんです。リネさんが行きたいなら。
行きましょう」
リネ「ありがとう」
アルジ「………」
リネは嬉しそうにほほえんだ。
アルジたちは並んで歩く。
前に2人。
リネとミリが横に並ぶ。
その後ろに、アルジとエミカ。
川沿いの舗装された道。
その上をアルジたちは歩く。
柔らかな日の光を受け、水面が輝く。
若手の研究員たちとすれ違った。
8人でまとまって歩いていた。
語り合い、笑い合い、歩いていた。
研究課題の話、遊びの話、将来の話。
彼らの目は希望の光に満ちていた。
アルジ(あの人たちも研究所の魔術師か。
なんだかやけに楽しそうだ)
エミカ「アルジ」
アルジ「ああ」
エミカ「どうした?考え事か?」
アルジ「エミカもあんな感じだったのか?」
エミカ「あんな感じって?」
アルジ「さっき、すれ違った人たちだ」
エミカ「ああ…」
アルジ「楽しそうだなって思った」
エミカ「楽しむ余裕なんてなかったよ」
エミカは少し笑う。
エミカ「課題をやるので精一杯。
いつも必死だった」
アルジ「大変だったんだな」
エミカ「ああ」
アルジ「なんでそんな苦労してまで研究所に?」
エミカ「それは…」
アルジ「なんで魔術を習うことにしたんだ?」
エミカ「いろいろあったんだ」
アルジ「いろいろか」
エミカ「今度まとめて話すよ。時間があるときに」
アルジ「そっか」
エミカ「もうすぐ着く。あれだ」
アルジ「あれか」
イシナ茶屋が近くに見える。
古いレンガ造りの壁に目を見張るアルジ。
そんな彼にリネとミリがほほえみかける。
リネ「入りましょう」
ミリ「お腹空いてるんじゃない」
アルジ「ああ。空いてきたぜ」
エミカ「いい匂いがする」
ミリ「お昼にしよう」
アルジたちはイシナ茶屋へ入っていく。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 23
◇ HP 2277/2277
◇ 攻撃
34★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
26★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 素早さ
28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 魔力 5★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、雅繊維戦衣
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、朔月斬り
◇ エミカ ◇
◇ レベル 19
◇ HP 1452/1452
◇ 攻撃 9★★★★★★★★★
◇ 防御 12★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
33★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 魔樹の杖、深紅の魔道衣
◇ 魔術 火球、火砲、火樹、火海、王火
◇ ミリ ◇
◇ レベル 16
◇ HP 1008/1008
◇ 攻撃 4★★★★
◇ 防御 7★★★★★★★
◇ 素早さ
17★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
34★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 魔石の杖、紺碧の魔道衣
◇ 魔術 氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
◇ リネ ◇
◇ レベル 27
◇ HP 1011/1011
◇ 攻撃 7★★★★★★★
◇ 防御
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ 14★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
31★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、創造の杖、聖星清衣
◇ 魔術 雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術
◇ 持ち物 ◇
◇ 魔力回復薬 20




