第85話 破片
アルジはホジタに言う。
声に熱い感情を込めて。
アルジ「オレはナキ村の剣士、アルジ。
星の秘宝を求めて旅をしている」
ホジタ「………」
アルジ「星の秘宝が一体なんなのか。
あんたの話で大体分かったつもりだ。
教えてくれたことには感謝するぜ」
ホジタ「………」
アルジ「だが、オレはその3人を許さない。
マスタス、ロニ、ラグア。この3人を…」
ホジタ「許さないだと…?」
アルジ「安定の玉はナキ村の宝だ。
村の不安定な土地を安定させるため
必要な宝だ。それをあいつらは奪った」
ホジタ「………」
アルジ「それに…オレの先生は…
マスタスの闇の魔術で心を操られて…
悪人に変えられた」
ホジタ「………」
アルジ「あいつらに会ったら…
オレは戦ってでも
安定の玉を取り返すつもりだ」
ホジタ「…ほぅ…」
アルジ「もちろん話はする。返してくれと。
その玉がどれくらい大切かよく話をする。
それで返ってくるなら、それでいいと思う。
それで安定の玉が返ってくるのなら…。
だけど、あいつらが返すのを拒むなら…」
ホジタ「拒むなら?」
アルジ「オレは倒してでも奪うつもりだ」
ホジタ「ほう…!」
ホジタは顔を伏せて、笑いをこらえる。
ホジタ「お前には返さないだろう」
アルジ「………」
ホジタ「彼らも集めるのに一生懸命だ」
アルジ「………」
ホジタ「村の宝か何かよく知らん。
だが、彼らの意志は固い。
お前が何をどう話そうと
返すことなどないだろう」
アルジ「………」
ホジタ「身の程を知れ!」
アルジ「なら、戦うまでだ」
ホジタ「………」
アルジ「戦って、倒して、奪い返す」
ホジタ「自分が何を言っているか。
分かっているのか?」
アルジ「ああ。戦って、倒して、奪い返す。
それだけだ」
ホジタ「戦って、奪い返す…ほう!
…ほっほっほう!!ほう!ほう!!
戦う…ほう!奪う…ほう!
…ははは…そんなことをしたら…
ははは…おい、おい、おい…おまえ、
そんなことをしたら…はっはっはっ…」
アルジ「なんだ?何が言いたい」
エミカ&リネ&ミリ「………」
ホジタ「そんなことをしたら犯罪だ!!」
アルジ「!!」
ホジタは平手で机をピシャリと叩く。
ホジタ「もっとも…
お前ごときが戦いを挑んだところで
100に1つも勝てる見込みはないだろう。
100に1つも。そうだ、100に1つもな。
おい、リネよ!」
リネ「はい」
ホジタ「こんなバカな弟子、さっさと捨てろ!」
リネ「………」
そのとき、エミカが立ち上がる。
エミカ「…ホジタ所長」
ホジタ「あ?なんだ?」
エミカ「私は研究所に1年ほど在籍していました。
エミカという者です」
ホジタ「お前のことなど知らんな」
エミカ「…知らないでしょうね。
優れた魔術師でもありませんでしたから。
ですが、聞いてください」
ホジタ「………」
エミカ「北土の魔術研究所へ来て
私が最初に学んだこと。
それは、この研究所の理念でした。
魔術による救い。魔術で人々を助けて、
この大陸に光をもたらすこと。
ここへ来て最初に学びました。
この素晴らしい理念を」
ホジタ「………」
エミカ「クユの国から来る途中のことです。
マスタスの魔術にかかった人と戦いました。
その人は正気を失って盗みを働いたそうです。
人もたくさん殺めたそうです。
それが…アルジの学校の教師でした」
ホジタ「………」
エミカ「ヤシズ湖ではロニとも遭遇しました。
あの人はトウオウ道で魔獣を生み出したり、
湖の中で巨大な化け物を作り出したり、
身につけた獣魔術で好き放題やっています」
ホジタ「………」
エミカ「これのどこが魔術による救いですか!
そんなことする人を野放しにするんですか!
所長はさっき言いました!
3人に絶大な信頼を置いていると!
何が信頼ですか!
こんな人たちを信頼するんですか!?」
ホジタ「………」
エミカ「それに、所長はこうも言いました。
3人を高く評価していると。
あんな人たちを高く評価?
笑わせないでください!!」
リネ「………」
ミリ(そうだ…。エミカの言うとおりだ)
ホジタ「………」
ホジタはエミカの顔をじっと見続ける。
湯飲みの底でコンコン机を叩く。
ホジタ「やかましいやつだ…」
エミカ「…!?」
ホジタ「彼らがやろうとしていること。
それは大きな…本当に大きなことだ」
エミカ「………」
ホジタ「並の人間には到底できない。
非常に大きなこと。歴史的なこと。
偉業を成し遂げようとしているのだ」
エミカ「偉業…?」
ホジタ「おう、そうだ!偉業だ!!
今の体制を壊して大陸をよりよくする。
これを偉業と言わずして、なんと言う?」
エミカ「………」
ホジタ「理想を語るのも結構なことだ。
だが、現実も見ろ」
エミカ「………」
ホジタ「歴史的な偉業を成し遂げるとき、
小さな犠牲はつきものなのだ。
…魔人カラタコクラ。1階の像の人物。
約1500年前、彼は魔術で民を救った。
だが、書かれていない。どんな歴史書にも。
『すべての民』を救ったなんてことは。
どんなに古い資料を読み解いても、
どこにも書かれていない。
『ありとあらゆる人』を救ったとは。
書かれていないのだ。
いくらかの犠牲を払いながら
彼も偉業を成し遂げたのだ。
もちろん、実際にどうだったかは分からない。
なんといっても生きた時代が違うからな。
私は当時の様子を見てきたわけではない。
だが、現実的に考えて、そうだと言える。
魔術は万能ではないからだ。限界がある。
魔術師にも、魔術にも、当然限界がある。
何もかもできるわけではないのだ。
だから、できることを彼はやった。
それで多くの人を救った。
だが、『すべての人』ではない。
いくらかの犠牲を払った。そういうことだ」
エミカ「それとはこれとは話が違うだろ!!」
ホジタ「違わん!!!!!」
勢いよくミリが立ち上がる。
ミリ「小さな犠牲だと思ってるの?」
ホジタ「なんだ?お前は」
ミリ「小さな犠牲だと本当に思ってんの?」
ホジタ「…何が言いたい?」
ミリ「小さな犠牲はつきもの。
さっきそう言ったでしょ」
ホジタ「ああ、それがどうした」
ミリ「私たちはたくさん見た。
道で倒れている人たちを。
ここに来る途中、自分の目で見てきたんだ。
ロニって人の魔術で殺された人たちのことを。
あんたは見てないからそう言ってられるんだ!
小さな犠牲なんてふざけたことが言えるんだ!
こんなとこで偉そうにしてないで見てきなよ!
実際に外に出て死んだ人たちを見てきなよ!!」
ホジタ「………」
ミリ「それに、さっき犯罪だって言ったでしょ。
アルジに向かって。
でも、マスタスたちの方でしょ?
先に犯罪やってるのは。
マスタスたちの方が犯罪じゃない!」
ホジタ「やかましいわ!!犯罪なわけあるか!
審理所で審理を受けて!
犯罪と認定されて初めて犯罪だ!
世間のことをもっと勉強しろ!!
おい!リネ!このバカどもをなんとかしろ!
黙らせろ!!」
リネ「………」
ホジタ「おい!リネ!!」
リネ「………」
ホジタ「おい!!返事をしろ!」
リネは顔を伏せて笑う。
肩を震わせながら。
ホジタ「なんだ?何を笑っている…?」
リネも立ち上がった。
リネ「これが私の弟子たちです」
ホジタ「何を言っている…?」
リネ「ここにいる3人こそが…
私の優秀な弟子たちです。
彼らに口汚いことを言わないでください」
ホジタ「…!!なんだと!?」
ホジタは歯を食いしばる。
ホジタ「出ていけ!!」
投げつけられる湯飲み。
リネの顔に飛んでくる。
アルジはそれを素早くつかむ。
そして、その湯飲みを強く握る。
ホジタをにらみつけながら。
強く、強く握る。
携えていた勇気の剣が光り始める。
ホジタ「…!!?」
湯飲みは砕かれた。
アルジの手の中で。
床に落ちる破片。
アルジ「オレの魔術の先生に危害を加えるな…。
クソ野郎が…!!」
ホジタ「…クソ野郎!!?」
リネは笑った。
大きな声を上げて。
リネ「さあ、行きましょう。
出ていけと言われたので」
アルジたちは部屋を出る。
扉の近くでじっと待機していた秘書。
真っ青な顔で石のように固まっていた。
そんな彼女の前をアルジたちは通り過ぎる。
廊下を歩き、魔籠まで戻る。
リネ「最後のあれは名演でした」
アルジ「演技なんかじゃないぜ。
本心だ。今度教えてくれよ。
オレにも。魔術のことを」
リネ「…いいでしょう」
リネは穏やかに笑った。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 23
◇ HP 2277/2277
◇ 攻撃
34★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
26★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 素早さ
28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 魔力 5★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、雅繊維戦衣
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、朔月斬り
◇ エミカ ◇
◇ レベル 19
◇ HP 1452/1452
◇ 攻撃 9★★★★★★★★★
◇ 防御 12★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
33★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 魔樹の杖、深紅の魔道衣
◇ 魔術 火球、火砲、火樹、火海、王火
◇ ミリ ◇
◇ レベル 16
◇ HP 1008/1008
◇ 攻撃 4★★★★
◇ 防御 7★★★★★★★
◇ 素早さ
17★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
34★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 魔石の杖、紺碧の魔道衣
◇ 魔術 氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
◇ リネ ◇
◇ レベル 27
◇ HP 1011/1011
◇ 攻撃 7★★★★★★★
◇ 防御
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ 14★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
31★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、創造の杖、聖星清衣
◇ 魔術 雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療薬 25




