第8話 助言
大魔術師リネが姿を現す。
まっすぐに伸びた背筋。
涼やかな表情。
たおやかに歩く。
身にまとうのは、白く華やかな衣装。
衣装には金、銀のきらびやかな装飾。
魔波が出ている。
強く、清らかな魔波が全身から。
リネ「魔術師リネの館へようこそ。
あなたがアルジさんですね」
アルジ「オレのことを知ってるのか」
リネ「ええ、村長さんからのお手紙で」
アルジ「そっか」
リネ「初めまして。私が魔術師リネです」
アルジ「ああ、よろしくな」
ミリ「ちょっと!無礼ですよ!
言葉遣いに気をつけなさい!」
アルジ「!!…どうも、初めまして」
リネ「そんなに固くならなくていいのです。
どうぞ、楽にしてください」
アルジ「…ああ」
エミカ「リネ先生」
リネ「エミカ、よく戻ってきました」
エミカ「はい」
リネ「…いろいろ学んできたようですね」
エミカ「はい」
アルジ「………」
リネ「今、この大陸は乱れてきています。
正されるべき誤りが放っておかれている。
そして、それが広まって、増えている。
…そんな気がしてなりません」
エミカ「…はい」
リネ「私たちは正さなくてはなりません。
それが魔力を持つ者の使命です」
エミカ「はい」
アルジ「…?一体、なんの話だ?」
リネ「今は分からなくても大丈夫…」
アルジ「大丈夫って言われてもな…。
…オレは、北土の魔術師を追ってるんだ。
安定の玉っていう村の宝が奪われちまって…。
大魔術師様ならいい助言をくれるだろうって
村長に言われてきたんだけど…。
どうしたらいいか教えてくれないか?」
リネは自分の頬を指先でそっとなでた。
リネ「いいでしょう。1つずつお話しましょう」
アルジ「ああ」
リネ「奪われた安定の玉。
あれは星の秘宝と呼ばれるもの。
とても強い魔力が封じ込まれています。
その力が発揮されるとき、
まばゆい光を放つといいます。
まるで夜空に輝く星のように。
これが、星の秘宝と呼ばれるゆえんです」
アルジ「………」
リネ「星の秘宝は安定の玉だけではありません」
アルジ「そうなのか」
リネ「はい。星の秘宝は全部で3つ。
1つは破壊の矛。壊す力を秘めた秘宝。
1つは創造の杖。創る力を秘めた秘宝。
そして、安定の玉。
安定させる力を秘めた秘宝…。
3つを集めた者は、新たな統治者になる。
古くからそんな言い伝えがあります」
アルジ「新たな統治者…?」
リネ「どんな体制も壊してしまえる。
新しい時代や社会を創ることができる。
そして、それを安定させられる。
そんな言い伝えがあるのです」
アルジ「壊して創って安定させる…か。
本当にそんなことができるのか?
3つの宝を集めるだけで…」
リネ「…どうでしょうね。
言い伝えは言い伝えですから」
アルジ「………」
エミカ「先生、何かいい方法はありませんか?
北土の魔術師を探し出して
安定の玉を取り返すための…」
リネ「そうですね…」
アルジ「そうだ、言い伝えはともかく、
オレは手がかりが欲しいんだ。
宝を奪った魔術師たちはどこにいるんだ?」
リネ「彼らに会うのはまだ早い」
アルジ「…え?」
リネ「北土の魔術師。彼らはとても強い。
今のあなたでは到底かないません。
見つけ出したところで、勝負になりません」
アルジ「そうなのか…?」
エミカ「それなら、どうしたら…」
リネ「旅をするのです。
安定の玉を探し求める旅を…。
大陸を巡り、人と出会い、悪と戦うのです。
正されるべきことを正していくのです。
多くの人たちの信頼を得るのです。
そうすることで知らなかったことを知り、
分からなかったことが分かってきて、
道は自ずと開けてくるはずです」
アルジ「なんだかのん気な話だな」
リネ「…それが最も確実な道です。
旅を続け、あなたの名が世に広まれば、
いつかたどり着くことでしょう。
安定の玉を奪った北土の魔術師たちに…。
そして、その頃にはきっと彼らと戦える…
私はそう信じます」
アルジ「北土の魔術師って一体何者なんだ?
安定の玉を奪って、何を考えてるんだ?」
リネ「彼らの本当の企みは私にも分かりません。
ただ、はっきり言えるのは…
すべての星の秘宝が奪われてはいけない…
彼らの手に渡ってはいけない…ということです」
アルジ「ほかの2つも奪われたら
やばいってことか」
リネ「そうです。ですが、心配はいりません」
アルジ「なんでだ?」
リネ「創造の杖は私が持っています」
アルジ「なんだ!そうなのか」
リネ「先祖代々伝わる宝として管理しています。
大切に。厳重に。私は決して人に渡しません。
ですから、心配いりません」
アルジ「そっか、それならよかったぜ!!」
リネ「3年前、安定の玉が奪われたあの日…
急激にナキ村の地盤の安定が失われました。
私は心配でした。村が滅ぶのではないかと。
地盤が崩れ、ナキ村は沈むのではないかと」
アルジ「………」
リネ「村長さんから依頼があって、
私はナキ村の様子を見に行きました。
崖崩れのあったところ、
これから発生しそうな場所を見て回りました。
現地を見るだけではありません。
魔力を感じるのです。地中の魔波を。
そして、どれほど危ないかを知るのです」
アルジ(地中から出る魔波…。
タラノス先生もそんなこと言ってたな)
リネ「ナキ村とその周辺は不思議な場所。
地中から魔波が出てくると言われています。
その原因は今も分かっていません。
そして、その魔波が地盤をもろくしている。
最初は心配しましたが、分かってきました。
今はかなり持ち直してきているようだと。
地下から出る魔波も今はほとんどない」
アルジ「そうだったのか。
調べてくれてありがとう」
リネ「ですが、いつ限界がくるか分かりません。
放っておけば、ナキ村はいずれ滅ぶでしょう。
それまでにあなたが間に合ってよかった」
アルジ「間に合うって…?どういうことだ?」
リネ「勇気の剣の使い手として
ふさわしい力をあなたは得た」
アルジ「この剣か」
リネ「はい」
アルジ「この剣も、もしかして星の秘宝か?
前に光ったことがあるんだ。この剣も。
それで、とんでもない力が出たんだけど…」
リネ「星の秘宝はさっき言った3つだけです」
アルジ「そうか…」
リネ「ですが、村長から聞いておりました。
その剣は大変貴重なナキ村の宝だと。
持ち主の心の強さを攻撃力に変えてくれると。
どういう仕組みでそういうことが起きるのか。
私にも分かりません。とても不思議な剣です。
実際にその剣が光を放ち、強い力を生むのなら、
星の秘宝と同じくらい価値がある…と
言ってもいいのかもしれませんね」
アルジ「心の強さを攻撃力に…か」
リネ「私はいつも応援しています。
安定の玉を取り返せるよう願っています。
…私が今お話できるのはこんなところです」
アルジ「ありがとう」
エミカ「ありがとうございました」
アルジとエミカは館を出た。
◆ ワノエ ◆
アルジたちはマノトノ食堂へ向かう。
エミカが案内する。
エミカ「あとはここをまっすぐだ」
アルジ「そっか、分かった。それにしても…
さっきはぼんやりした助言だったな」
エミカ「リネ先生の言葉か」
アルジ「ああ。
旅をして人に会って悪と戦えって…。
そんなことを言われてもな」
エミカ「分からないんだと思う」
アルジ「分からない?」
エミカ「先生もはっきり言えないんだ。
どこへ行って何をすべきか。
分からないんだと思う。
大魔術師とされている先生でも…」
アルジ「そうか」
エミカ「ああ。自分で考えなさい。
遠回しにそう言われた気がする」
アルジ「考えろ、か」
エミカ「先生は真剣に考えてくれてる。
そのことは間違いない。
悩むとき、頬を触る癖があるから。
さっきもそうだった」
アルジ「そうなのか。そんな癖が…。
よく知ってるな。エミカは…
一緒にあそこに住んでたんだもんな」
エミカ「ああ。2年くらいだけど、
リネさんの館に住んでたよ」
アルジ「そのあとはどうした?
魔術を習い始めたのは3年前…なんだよな。
3年前にあの館に行って…2年住んで…」
エミカ「えっと…」
アルジ「北土の魔術研究所に行ってたのか?」
エミカ「!!」
アルジ「やっぱりそうか」
エミカ「どうして…」
アルジ「さっき館の女が言いかけてただろ。
ミリっていう魔術師。ちょっと聞こえたぜ」
エミカ「………」
アルジ「安定の玉を奪ったのは北土の魔術師だ。
エミカも北土の魔術研究所にいた…。
…でも、オレは別に気にしないぜ。
何があったのか。気が向いたら教えてくれ」
エミカ「なんで…」
アルジ「いろいろ事情がありそうだしな。
簡単には言えない、込み入った事情が」
エミカ「私は魔術を学びに行ってただけだ。
先生の勧めで」
アルジ「そっか」
エミカ「安定の玉を奪った魔術師たち…
あいつらは悪いやつらだ。
でも、北土の魔術師はみんながみんな
悪人ってわけじゃない」
アルジ「分かってる。エミカが悪人のわけない」
エミカ「………」
アルジ「さっきの様子だ」
エミカ「様子?」
アルジ「本気だった。オレのために
本気で聞き出そうとしてくれていた。
リネ先生から、どうしたらいいのかを。
悪人だなんて思えないぜ。ありがとう」
エミカ「………」
煮込まれた料理の香りがしてくる。
近くの建物から賑わう声が聞こえる。
小さな看板が目に入る。
「マノトノ食堂」と書いてある。
アルジ「…あれか」
エミカ「そうだ」
アルジたちはマノトノ食堂へ入った。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 4
◇ HP 145/145
◇ 攻撃 8★★★★★★★★
◇ 防御 4★★★★
◇ 素早さ 4★★★★
◇ 魔力 1★
◇ 装備 勇気の剣、革の鎧
◇ 技 円月斬り
◇ エミカ ◇
◇ レベル 4
◇ HP 127/127
◇ 攻撃 2★★
◇ 防御 2★★
◇ 素早さ 5★★★★★
◇ 魔力 7★★★★★★★
◇ 装備 術師の杖、術師の服
◇ 魔術 火球
◇ オオデン ◇
◇ レベル 10
◇ HP 336/336
◇ 攻撃 4★★★★
◇ 防御 4★★★★
◇ 素早さ 3★★★
◇ 魔力 2★★
◇ 装備 鉄の短剣、錆びた鎧
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療薬 9