第78話 説得
街道は伸びている。
緩やかに曲がりながら。
リネの光玉が前を照らす。
夜空に雲はなく、星がよく見える。
アルジたちは歩き続ける。
町の明かりはまだ見えてこない。
ミリ「夜の散歩だね」
エミカ「ちょっと懐かしいな」
リネ「3人がそろうのは久しぶりね」
3人はよく一緒に散歩した。
夜遅くに、ひっそりと。
ワノエの町を出て、リネの館に帰る。
小さな声で、とりとめもなく話をしながら。
時間を気にせず、行く先を決めず。
ゆっくり歩く。
散歩の途中3人で団子を食べることもあった。
月明かりの下、適当な場所に腰を下ろして。
団子はリネがこしらえたもの。
彼女の家庭菜園でとれた野菜を使った団子。
その優しい味わいがエミカもミリも好きだった。
ミリ「リネさんの団子また食べたいな」
リネ「帰ったら作ってあげる」
ミリ「やった。ありがとうございます」
エミカ「私も食べたいです」
リネ「ええ。今年もおいしくできそう。
期待してて」
エミカ「楽しみです」
ミリ「楽しみ」
アルジ「オレも…」
リネ「ええ」
アルジ「おっしゃあ!」
エミカ「喜び過ぎだ」
リネ「…ふふ」
エミカ「………」
急に深刻な顔になるエミカ。
エミカ「あの…
リネさんに伝えたいことがあります」
リネ「え?何?改まって…」
エミカ「私、強くなれました。
本当に…強く…。
こんなに強くなれるなんて…
思ってませんでした」
ミリ「私もです」
リネ「ええ。
あなたたちは本当に強くなったと思う。
王火も王氷も磨きがかかっちゃって…。
私の王雷も…出番がなくなっちゃいそう」
その言葉に少し照れるエミカとミリ。
リネは続ける。
少し口調を厳しくして。
リネ「でもね、魔術の道はまだまだ先が長い。
果てしないから。
極めたなんて思っちゃだめだよ。
まだまだたくさん学ぶことはある。
力をもっとうまく調節したり、
生活に役立てたり…」
エミカ&ミリ「はい」
リネ「…なんて言ってるけど、
実は私もまだまだです。
学びたいことがたくさんあるんだから」
ミリ「リネさんでもそうなんですね」
リネ「ええ。一緒に頑張りましょう」
リネは小さく笑う。
エミカとミリは立ち止まる。
エミカ&ミリ「………」
リネ「…?」
リネも立ち止まる。
道の真ん中で3人は向き合う。
アルジも立ち止まり、彼女たちを見る。
アルジ「…ん?」
リネ「どうしたの?」
エミカ「私たち…」
リネ「何?」
エミカ「この先どんな敵が現れても負けません。
どんなに強い魔術師が出てきても負けません。
負けませんから。私たち倒してみせますから。
ですから、リネさんは安心していてください。
ミリと力を合わせてどんな敵も倒しますので」
ミリ「倒そう」
エミカ「ああ」
リネ「嬉しいじゃない」
エミカ「マスタスも…」
リネ「………」
エミカ「マスタスも倒します。力を合わせて…」
リネ「………」
エミカ「倒してみせます。リネさんがだめなら…
マスタスをどうしても倒せないと言うのなら…
私たちの魔術で倒してみせますから」
リネ「彼は…」
しばらく沈黙するリネ。
エミカ「彼は…なんですか?」
リネ「彼はとても強い。
あなたたちも…確かに強い。
強いけど、彼も強い。
闇の魔術は本当に恐ろしい。
あなたたちはまだ知らない。
闇魔術の本当の恐ろしさを。
マスタスを倒します。
口で言うだけなら簡単だ…。
すごく簡単だよ。
でも、本当に倒せるかどうかは…」
エミカ「やってみないと分かりません」
リネ「………」
ミリ「エミカと私でやってみせます」
リネ「………」
エミカ「リネさん」
リネ「………」
ミリ「リネさん!」
リネ「戦う前に…まずは彼と話をさせて」
エミカ&ミリ「………」
リネ「…と言っても、
彼は今どこにいるかも分からない。
だから、研究所へ行って聞きましょう。
ホジタ所長に。彼の居場所について。
ね、まずはそれでいいよね」
エミカ&ミリ「………」
リネ「居場所が分かってから、
また話し合いましょう。
彼と対面したら、どうするか。
話すのか、戦うのか」
エミカ&ミリ「………」
リネ「今、彼がどこにいるのか。
それが分からなかったら意味がないんだから。
彼と会ったらどうするかについて
いくら私たちで話し合ったところで。
ね、そうでしょ?」
エミカ「でも…」
肩を落とすエミカ。
涼しい顔でリネは歩き出そうとする。
ミリ「私はやるよ!」
大きな声だった。
リネは立ち止まり、振り返る。
ミリ「お話がしたければすればいいよ。
気が済むまですればいい。
だけど、私はやるよ」
リネ「何を言ってるの。ミリ」
ミリ「私はやる。やるって決めてるから。
マスタスを。私の中で決定してるんだ。
マスタスがリネさんを…
少しでも傷つけようとしたら…
そういうのが少しでも分かったら…私は撃つ」
リネ「そんな…ねえ…そんなこと…」
戸惑うリネ。
アルジ「………」
リネ「分からないの?」
ミリ「何がですか?」
リネ「だって意味がないじゃない!」
ミリ「意味ですか?」
リネ「分かってよ。
さっきも言ったじゃない。分かってよ。
私たちはまだ分からない。
彼が一体どこにいるのかも。
分からないのに、ああする、こうするって
話したって…」
アルジ「意味はあるだろ」
リネ「アルジさん」
アルジ「意味はある。決めておこうぜ。
どうするのか。戦うなら戦う。
話すなら話す。決めておくんだ」
リネ「どうして…」
アルジ「今日、ロニは現れた。オレたちの前に。
マスタスだって、近くにいるかもしれない。
突然現れて、攻めてくるかもしれないだろ。
そうじゃないって、リネは言い切れるのか?
…3年前、ナキ村に現れたときも突然だった」
リネ「………」
アルジ「突然攻めてきたとき、どうするか。
オレたちに話し合う時間はあるのか?」
リネ「………」
エミカ(アルジ…ありがとう)
アルジ「オレは戦う」
エミカ「私も戦う」
ミリ「私も!」
リネ「………」
ミリ「いいでしょ?」
リネ「それは…」
ミリ「リネさん!いいでしょ?」
リネ「………」
ミリは声の調子を落として尋ねた。
ミリ「…止めるの?」
リネ「え?」
ミリ「私たちが戦うのを止めるつもりなの?」
リネ「何を言って…」
ミリ「とめられるの?リネさんに…今の私を」
リネ「…!」
ミリ「私の魔術、王氷を近くで見てましたよね。
大丈夫です。大丈夫ですから。心配無用です。
さっきの戦いよりも静かに速く撃ちますから。
マスタスも気づかないうちに仕留めますから」
リネは額に手を当て、天を仰ぐ。
大きなため息をついて言う。
リネ「ミリ、あなたは…」
ミリ「なんですか?」
リネ「あなたは…悪い弟子だね」
ミリ「…!」
リネ「こんなことを言う子なら…
助けなきゃよかったわ…」
ミリ「!!!!!!!?」
エミカ「リネさん!!それはあんまりです!!
ミリはリネさんに危険が及ばないように…!」
リネ「とにかく私に話をさせて!5分!
5分でいいから!まずは対話!!
対話で解決したらそれでいいじゃない!」
エミカ&ミリ「………」
リネ「誰も傷つかないで済むのなら!
それが1番じゃない!!」
エミカ「………」
ミリ「私は…!」
リネ「それとも何?そんなに人を殺したいの!?
魔術で!!獣を退治するだけじゃ!
満足できなくなったとでも言うの!?」
ミリ「そんなつもりじゃありません!!」
リネ「そうでしょう!!」
ミリ「リネさん…!」
リネ「戦いは最後の手段!最後の手段だから!
まずは対話で!戦いは最後の手段です!
はい、お話は終わり!さあ、行きましょう!」
リネは歩き出す。
アルジ、エミカ、ミリを置き去りにして。
アルジ「説得の機会はまだある」
エミカ「………」
ミリ「…アルジ」
振り返るリネ。
リネ「さあ!早く行きましょう!」
リネはさらに歩いていく。
光玉は彼女の近くに1個だけ。
アルジ&エミカ&ミリ「………」
彼女が離れていくほど周囲は暗くなる。
エミカ「闇の魔術は…使い手によって千差万別」
アルジ&ミリ「………」
エミカ「何が出てくるか分からない」
アルジ「マスタスが使うのも…
変態魔術だけじゃないんだよな」
エミカ「そうだ。だから、協力しなきゃ。
少しでも勝てるようにみんなで協力しなきゃ」
アルジ「リネにも力になってもらいたいよな」
エミカ「ああ。もちろんだ。
リネさんの魔術がないと…だから、
みんなで考えて、確実な作戦を立てないと…
倒しにいかないと…最悪の場合…
みんなやられる…」
アルジ「…ああ」
エミカ「精神操作…五感鈍化…変態魔術…
ほかにもあるかも。マスタスには。
私たちがもっと強くなっても…
勝てるかどうかなんて分からない。
闇魔術で力を打ち消されてしまったら…
あるいは…私たちの力を逆に利用されたら…
危ない…」
ミリ「だから私が…!」
エミカ「だめだっ!!!」
ミリ「!!!!!」
エミカ「1人で突っ走ったら、それこそ危ない!
だから、みんなで…!みんなで行かないと…!
戦うならみんなで…!」
アルジ「オレもやる!」
エミカ「やろう!!」
近づく足音。
小さな光に照らされる。
アルジたちは視線を移す。
光の方へ。
そこにはリネが立っていた。
彼女は戻ってきた。
頬には涙の跡。
リネ「ミリ」
ミリ「………」
リネ「さっきはひどいこと言っちゃった」
ミリ「………」
リネ「ごめんね」
ミリ「…いいえ」
ミリはリネの元へ。
リネが抱きしめる。
ミリは静かに泣く。
アルジ&エミカ「………」
リネ「ごめんね…」
ミリ「いいえ…」
泣きやんでから、4人は再び歩き出す。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 23
◇ HP 1639/2277
◇ 攻撃
34★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
26★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 素早さ
28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 魔力 5★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、雅繊維戦衣
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、朔月斬り
◇ エミカ ◇
◇ レベル 19
◇ HP 1006/1452
◇ 攻撃 9★★★★★★★★★
◇ 防御 12★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
33★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 魔樹の杖、深紅の魔道衣
◇ 魔術 火球、火砲、火樹、火海、王火
◇ ミリ ◇
◇ レベル 16
◇ HP 831/1008
◇ 攻撃 4★★★★
◇ 防御 7★★★★★★★
◇ 素早さ
17★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
34★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 魔石の杖、紺碧の魔道衣
◇ 魔術 氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
◇ リネ ◇
◇ レベル 27
◇ HP 1011/1011
◇ 攻撃 7★★★★★★★
◇ 防御
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ 14★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
31★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、創造の杖、聖星清衣
◇ 魔術 雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療薬 25




