第75話 成長
◆ ユカリテ ◆
日が大きく西に傾いた頃。
アルジたちは1軒の店を訪れる。
そこは町の外れの飲食店、ミナトノ亭。
海産物をふんだんに使った料理が売りの店。
アルジたちは案内されて席に座る。
客はそれほどいなかった。
ミリ「料理は何があるのかな?」
リネ「『おまかせ』だけのようですね」
アルジ「おまかせ…」
ミリ「おまかせ?」
エミカ「何を出すかはお店が決めるんだ」
ミリ「そうなんだ」
リネ「仕入れの状況で変わるんでしょうね」
アルジ「そういうことか!」
席からは調理台がよく見える。
1人の料理人が大きな魚をさばいていた。
鋭い包丁を巧みに動かす。
1匹、また1匹と魚を切身に変えていく。
洗練されたその動きにアルジは見入る。
料理が次から次へと運ばれてくる。
エミカは小皿に盛られた料理を口に運ぶ。
エミカ「わっ…!おいしい!」
リネ「お値段が張るだけありますね」
アルジ「…うまいな」
エミカ「食材がどれも新鮮だ」
ミリ「海、近かったっけ?」
エミカ「そんなに近くはないよ」
ミリ「それなら、どうして…?」
店員がやってくる。
3枚の大皿を持って。
それぞれに料理が盛られている。
切って盛りつけた生魚。
柔らかく煮つけた魚。
そして、蒸し焼きにしたエビ。
店員は食材と調理法について簡単に説明した。
アルジ「どれもうまそうだな」
店員「ごゆっくり召し上がれ」
店員が去っていく。
背の高い太った女もやってくる。
彼女はミナトノ亭の女将。
華やかな衣装に身を包んでいる。
女将「ようこそ。お味はいかがですか?」
リネ「とてもおいしくいただいています」
女将「それはよかった!」
アルジ「なんでこんなに新鮮なんだ?」
女将「お教えしましょう。特別に」
アルジ「頼む」
女将「このミナトノ亭では、
食材をニビイカ市場から仕入れてます。
専属の買付け人を市場に置いて、
その方と密に連絡を取り合って、
その日、最もおいしい食材を仕入れるのです」
ユカリテの隣の、さらに隣の町。
海に面したオカイオの町。
そこに、ニビイカ市場はある。
毎朝、大量の海産物が取引されている。
ミリ「専属なんだ」
女将「はい。とても信頼のおける目利きです。
それと、食材の運搬にも秘密が…」
エミカ「どんな秘密ですか?」
女将「…これも特別にお教えしましょう」
エミカ「いいんですか?」
女将「いいんです」
ミリ「なんですか?」
女将「運搬の秘密…。それは…魔術です。
これまた専属の運搬人がいて、
大切に運んでくれています。
魔術で食材を冷たくして、
鮮度を保ってくれるのです」
エミカ「そうだったのか」
ミリ「へえ」
リネ「その方は魔術師ですか?」
女将「魔術師と呼べるほどの者では…。
ですが、10年以上修行して、
その方はとうとう習得したのです。
氷の魔術を使った食材の特別な保存方法を。
ここは、そんなに海から近くありません。
しかし、魔術のおかげでとても新鮮な状態で
届けてもらえるんです」
アルジ「10年…か」
女将「それでは、引き続き、どうぞごゆっくり」
女将は会釈し、ほかの客のところへ行く。
アルジ「こういう店でも魔術が使われてるのか」
リネ「そうですね」
ミリ「魚を冷たく…か。私にもできるかも」
アルジ「できるんじゃないか。
でも、10年も修行して魚の保存って…」
リネ「珍しいことじゃありません」
アルジ「………」
リネ「魔術の習得はとても時間がかかるもの。
魔力を身につけて、魔力を火や氷に変える。
それには、素質と努力が求められます。
10年魔術を学んでも使えない人は多いのです。
魔力を生み出すことができなかったり、
魔力が身についても、応用できなかったり」
アルジ「そっか」
リネ「今は分かりやすい指導書がいくつもあって
独学でも大分学びやすくなったといえます。
ですが、人に教わるのが最もよいでしょう。
本当に魔術を使えるようになりたいのなら。
なるべく能力の高い魔術師に教わるのです。
それでも…誰もが魔術を使えるようになる…
というわけではありませんが」
アルジ「そっか。難しいんだな。
魔術を習得するって」
エミカ「私たちのこと、見直したか?」
アルジ「ああ」
ミリ「もっと敬いなさい」
アルジ「そう言われるとなんかムカつくぜ」
エミカ「でも、結局のところは…
リネさんの教え方がいいからなんですけど。
こうして魔術を使えてるのは」
リネ「ほめても何も出てきませんよ」
エミカ「あはは…」
リネ「…でも、ここのお料理はごちそうします」
ミリ「さすがです!リネさん!」
食事を終えて店を出る。
空は暗くなり始めていた。
リネ「さて、どうしますか?」
エミカ「行きましょう」
ミリ「行こう」
アルジ「進むのか。さらに」
リネ「ここから先、
トウオウ道を進むと2つの村があります。
ミシツ村とカヤモキ村。
その先にあるのがオノレノ町。
北土の魔術研究所はオノレノ町にあります。
順調に行けば日が沈む頃には着けるはず。
オノレノ町までなんとか行けるでしょう」
アルジ「そっか。もう少しだな」
リネ「どうしますか?エミカもミリも…」
エミカ「行けます」
ミリ「大丈夫!」
リネ「素晴らしい」
アルジ「さすがだな」
リネ(王火…王氷…あれだけ使ったのに…
ここまで魔生体を動かしてきたのに…
まだナアムを動かせるっていうの?
こんな成長を目の当たりにできるなんて…
なんて嬉しいこと)
ラアムとナアムは進む。
ラアムにアルジとリネが乗る。
ナアムにエミカとミリが乗る。
旅人の一団とすれ違う。
あとはもう道に人の姿はない。
薄暗い道を軽快に進んでいく。
リネは光玉を2つ出す。
その玉は2頭の前方を照らす。
遠くにいくつも民家の灯り。
ミシツ村だった。
予定どおり通過。
さらに、カヤモキ村も通過。
荒野の中、街道は続く。
ラアムが立ち止まり、ナアムも立ち止まる。
エミカ「…どうしました?」
リネ「魔獣です」
ミリ「あ…いますね。すごい量だ!」
エミカ「…本当だ」
地面に降り立つ4人。
近づいてくる足音。
何かの群れが押し寄せてきている。
そんな音。
リネ「倒して進みましょう。それでいいですね?」
アルジ「いいぜ」
エミカ「はい」
ミリ「やっちゃいましょう」
現れたのはノイシシ
ノイ地方に生息する。
ノイオオカミほどではないが凶暴な獣。
強い魔力を得て魔獣化している。
リネ(またしてもノイ地方の獣…。
ロニの魔術と関係が…?)
アルジ「オレがやろう」
アルジが剣を構えたとき。
エミカとミリが前に出る。
エミカ「私たちがやる」
ミリ「アルジは休んでなよ」
2人の急激な魔力の高まり。
アルジはビシビシ感じる。
アルジ「…!」
リネ「ここは2人に任せたら?」
アルジ「そうするか!」
前方をじっと見るエミカとミリ。
暗くて獣の姿はほとんど見えない。
だが、魔波の感知で把握した。
向こうから走ってくる獣の群れを。
振り返らずにエミカは問う。
エミカ「リネさん」
リネ「何?」
エミカ「ここから先…
歩いても行けますよね?オノレノ町まで」
リネ「ええ。無理じゃない。
着くのは真夜中になるかもしれないけど…」
ミリ「なら、大丈夫だね」
エミカ「思い切りやろう。
魔力を使い切るまで!」
リネの出した2つの光玉。
そのうち1個が飛んでいく。
エミカとミリの前へ。
その玉の光は照らし出した。
おびただしいノイシシたちの姿を。
土石流のように押し寄せてくる。
リネ(エミカ、ミリ。
あなたたちは見せつけられた。
アルジさんに。
今日のスイオウジャとの戦いで。
あのとき、誰もが無理だと思った。
倒せないと思った。
だけど、アルジさんは違った。
たった1人で戦って、倒した。
それを目の前で見せられて、
何も感じないわけがない。
今度はあなたたちが見せてやりなさい。
アルジさんに。魔術の素晴らしさを!)
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 19
◇ HP 1639/1639
◇ 攻撃
32★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
22★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★
◇ 素早さ
21★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★
◇ 魔力 5★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、雅繊維戦衣
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、朔月斬り
◇ エミカ ◇
◇ レベル 16
◇ HP 1006/1006
◇ 攻撃 9★★★★★★★★★
◇ 防御 12★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ 15★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
27★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 装備 魔樹の杖、深紅の魔道衣
◇ 魔術 火球、火砲、火樹、火海、王火
◇ ミリ ◇
◇ レベル 13
◇ HP 831/831
◇ 攻撃 4★★★★
◇ 防御 7★★★★★★★
◇ 素早さ 13★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
29★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★
◇ 装備 魔石の杖、紺碧の魔道衣
◇ 魔術 氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
◇ リネ ◇
◇ レベル 27
◇ HP 1011/1011
◇ 攻撃 7★★★★★★★
◇ 防御
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ 14★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
31★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、創造の杖、聖星清衣
◇ 魔術 雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療薬 25
◇◇ 敵ステータス ◇◇
◇ ノイシシ ◇
◇ レベル 16
◇ HP 1205
◇ 攻撃
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
17★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
17★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力 4★★★★
◇ 魔術 火弾




