第67話 関所
とがった大きな岩のそば。
リネとミリが待っている。
2人ともラアムから降りていた。
ミリは大きく手を振っている。
リネ「どう?調子は」
エミカ「かなり疲れました」
リネ「そう」
ミリ「アルジ、ちゃんとお手伝いしたの?」
アルジ「したぜ」
リネ「ここでまた交替しましょうか」
アルジ「交替か」
リネ「今度は私とエミカ、アルジさんとミリで
それぞれ行きましょう」
ミリ「え!私がアルジと?」
リネ「はい」
アルジ「よろしくな」
エミカ「ミリ、気をつけろ。
一気に重たくなるから。
でも、これも特訓だと思って頑張るんだ」
ミリ「頑張る…!」
アルジ「………」
ミリ「リネさんと乗るとスイスイ進むよ」
エミカ「楽しみだ」
リネ「疲れてきたし休んじゃうかも」
エミカ「そんな…」
リネ「冗談です。さあ、行きましょう。
ここからもう少し進めば、ヤッタカ村です。
その先が、トドナ町。どちらにも寄りません。
休憩なしで一気に国境まで行きますよ」
エミカ&ミリ「はい!」
アルジ「おう!!」
アルジたちは乗る。
アルジとミリがナアムに。
エミカとリネがラアムに。
再び走り出す2頭の魔生体。
日は大きく西へ傾いている。
ラアムが先を行く。
前にリネ、後ろにエミカを乗せて。
ナアムはそれを追いかける。
前にミリ、後ろにアルジを乗せて。
ミリ「先生も結構疲れてきてるみたい」
アルジ「昨日も今日も魔術使いまくりだもんな」
ミリ「だから交替することにしたんだろうね」
アルジ「オレも力になりたいとこだけど」
ミリ「大丈夫!私の力でなんとかする」
アルジ「そっか、頼んだ」
トウオウ道を進み続ける。
平らで幅の広い道が続く。
何人もの旅人たちとすれ違った。
中には魔生体に乗る者の姿もあった。
大きな四足獣を思わせる魔生体が3頭。
それぞれに男が1人ずつ乗っていた。
小さく会釈し、彼らは通り過ぎていった。
アルジ(あの人たちも魔術師か。
でも、雰囲気が全然違う。
ナキ村に現れた3人とは。
あいつらは怪しかった。
悪さしようと企んでるような…。
さっきの人たちには感じない…。
きっと善良な魔術師なんだろな。
エミカ、ミリ、リネみたいに)
ミリ「あの人たちも魔術師だね」
アルジ「さっきのあれも魔生体だよな」
ミリ「うん、そうだよ。
でも、ラアムとナアムの方がかわいいね」
アルジ「ああ。それにこっちの方が速い」
ミリ「任せてよ!」
緩やかな登り坂を飛ぶように駆け上がる。
前を走るラアムについて行けている。
アルジ「ミリ」
ミリ「何?」
アルジ「魔術院には行かないのか?」
ミリ「………」
アルジ「リネはすごく期待してるみたいだぜ。
どうしても行けなんて…言えないけどさ」
ミリ「んー…」
アルジ「都にも住めるんじゃないのか」
ミリ「よく考えるよ」
アルジ「ああ」
ミリ「アルジは?」
アルジ「なんだ?」
ミリ「なんで剣士になろうと思ったの?」
アルジ「なんでだろうな」
ミリ「………」
アルジ「戦うしかない。そう思ったからかな。
それで、村にこの剣があった。
村の宝剣、勇気の剣だ。
だから、剣の腕を磨いた。
そんなところだな」
ミリ「戦うしかない」
アルジ「始まりは村の宝が奪われたことだ。
悪い魔術師に安定の玉が奪われたことだ。
宝を取り返すには力が必要だと思った。
北土の魔術師に負けないくらいの力が。
強くならなきゃと思った。
だからオレは選んだ。剣で戦うことを選んだ。
そういう感じだ」
ミリ「じゃあ、もし玉が奪われてなかったら?」
アルジ「…何をしてたんだろうな」
ミリ「………」
アルジ「…ずっと村で暮らしてただろうな。
誰とも戦わないで。楽しく、のどかに。
魔術研究所のことも、大前隊のことも、
知らないままで」
ミリ「そっか」
アルジ「父さんの工房を継いだかもな」
ミリ「アルジのお父さんは職人さんなの?」
アルジ「ああ、レンガ職人をやってる」
ミリ「そうなんだ」
アルジ「手伝いもよくやったな。
いい品ができたとき、
父さんは嬉しそうだった。
多分やりがいのある仕事なんだと思う」
ミリ「そうなんだ」
じりじりとラアムとの間に距離が生まれる。
だが、その間隔は簡単には広がらない。
ミリ「嫌になることはないの?戦ってて」
アルジ「そりゃあ…あるぜ」
ミリ「どんなとき?」
アルジ「大事な人が死んだときだな」
ミリ「そっか」
アルジ「友達と先生が…目の前で死んだんだ」
ミリ「…そうなんだ」
アルジ「先生はオレの手で…」
ミリ「………」
アルジ「いい先生だった。
オレたちの面倒を見てくれた。
あのとき、先生は操られてた。
マスタスの変態魔術で。
やらなかったらこっちがやられてた。
だから、戦った。倒すしかなかった。
この手で…先生を…」
ミリ「辛かったね」
アルジ「まぁな」
ミリはコクリとうなずいた。
何かを飲み込むように
ミリ「私も実はそうなんだ」
アルジ「え…?」
ミリ「私が学校で暴れてしまったとき、
大好きだった先生を巻き込んじゃったんだ。
私の悩み事を聞いてくれて、いい先生で。
どんなときでも私の味方をしてくれてた。
だけど、もう会えない。
私のせいでもう会えないんだ」
アルジ「…そうだったのか」
ミリ「あのときは頭がごちゃごちゃしてた。
でも、覚えてるんだ。
ちゃんと今も覚えてるんだよ。
ああ、やっちゃったって。
やっちゃいけないことを。
本当にやっちゃいけないことを。
やっちゃったって。
リネさんは私が忘れてると思ってるみたい。
だけど、私はちゃんと覚えてるんだ。
そのことを。それでね…」
アルジ「…ああ」
ミリ「このことは…リネさんには言えないんだ」
アルジ「…そっか」
空が暗くなり始める。
ヤッタカ村を通り過ぎる。
ラアムとナアムは走り続ける。
ミリ「アルジ、ごめんね」
アルジ「なんだ?急に」
ミリ「失礼なこといろいろ言ったよね」
アルジ「いや、別に」
ミリ「今のうちにまとめて謝っとくよ」
アルジ「いいぜ。別に気にしてない」
ミリ「本当?」
アルジ「たまに頭に来るけどな」
ミリ「やっぱり。はは」
緩やかな曲がり道。
右へ、右へ、ラアムとナアムは弧を描いて走る。
ミリ「この旅が終わったら、
ナキ村へ連れていってね」
アルジ「ああ」
ミリ「みんなで行くよ。エミカもリネさんも」
アルジ「来てくれよ」
ミリ「工房も見せてもらおうかな」
アルジ「ああ、そのときは父さんに言っとく」
ミリ「ありがとう」
やがてトドナ町の家並みが見えてくる。
ラアムとナアムはトウオウ道を走り続ける。
日が沈みかけた頃、関所が見えてきた。
クユの国とナラタの国。
その境がもう近くにある。
ラアムとナアムから降りて歩き出す。
大きくふらつくミリをエミカが支えた。
エミカ「大丈夫か?」
ミリ「うん…ありがとう」
リネ「………」
アルジ「ミリ、ありがとう」
ミリ「…いいよ。大丈夫、大丈夫」
アルジ「………」
ミリはアルジに笑いかける。
魔力を使い果たし、ひどく疲れた様子だった。
◆ クユの国 国境 ◆
国境を流れるのは、セラギ川。
大陸有数の広く長い川。
いくつもの国を通って海へ出る。
その川の近くに関所があった。
役人の詰所、旅人の宿屋なども並ぶ。
その並びの中に大きな門がそびえる。
門の向こうには大きな橋が架かっている。
セラギ川を越えてナラタの国へつながる橋が。
アルジたちは門の方へ歩いていく。
辺りは静まり返っている。
アルジ「なんか様子が変じゃないか」
エミカ「静か過ぎる」
リネ「そうですね」
ミリ「とりあえず行ってみようよ」
アルジたちは見つけた。
倒れている人の姿を。
門の近くに5人。
1人は死にかけ。
ほかの4人はすでに息がなかった。
全員が体中に大きな傷を負っている。
死にかけの男が声を上げる。
腹の底から絞り出すように。
彼は関所の役人。
役人「ぐう…」
アルジ「しっかりしろ」
役人「ああ…」
リネ「今、治療します」
リネはしゃがみこみ、両手をかざす。
柔らかい光が男の体を包み込む。
見る見る傷が治っていく。
役人「…これは…」
リネ「大丈夫ですか?」
ゆっくりと起き上がる役人。
役人「あなたも…魔術師か」
リネ「はい。一体何があったんですか?」
役人「…魔術師だ。黒い服を着た…
女の魔術師が現れて…強引に通ろうとした。
金も払わずに。
だから、オレたちは止めようとした…!
そしたら、猛獣だ!猛獣の群れが…!
現れたんだ…!
どこからともなく湧いたように…!」
リネ「猛獣の群れ?どこからともなくって…」
役人「そいつらがオレたちを…!許せん!!」
リネ「落ち着いてください。
魔術師の仕業なんですね?」
役人「そうだ…。女の魔術師…黒い服の…」
エミカ「リネさん」
リネ「ええ、これは…」
そのとき。
リネは大きくよろめき、気を失った。
倒れそうになる彼女の体をアルジが支える。
ミリ「リネさん!」
アルジ「…リネも限界だったようだ。
今日はひたすら進みまくったもんな。
とりあえず今日のところは休もうぜ」
エミカ「そうしよう」
日が沈む。
辺りは夜の闇に包まれた。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 15
◇ HP 933/933
◇ 攻撃
25★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★
◇ 防御
22★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★
◇ 素早さ 16★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力 4★★★★
◇ 装備 勇気の剣、雅繊維戦衣
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、朔月斬り
◇ エミカ ◇
◇ レベル 13
◇ HP 630/630
◇ 攻撃 9★★★★★★★★★
◇ 防御 12★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ 12★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
22★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★
◇ 装備 魔樹の杖、深紅の魔道衣
◇ 魔術 火球、火砲、火樹、火海、王火
◇ ミリ ◇
◇ レベル 10
◇ HP 522/522
◇ 攻撃 4★★★★
◇ 防御 7★★★★★★★
◇ 素早さ 10★★★★★★★★★★
◇ 魔力
24★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★
◇ 装備 魔石の杖、紺碧の魔道衣
◇ 魔術 氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
◇ リネ ◇
◇ レベル 26
◇ HP 921/921
◇ 攻撃 7★★★★★★★
◇ 防御
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ 13★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
29★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、創造の杖、聖星清衣
◇ 魔術 雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療薬 25




