第5話 出発
村長は真顔で前のめりになる。
村長「頼みとは、村の警備だ。
今後も土砂崩れなど起きるかもしれない。
安定の玉を失ったことで」
アルジ「………」
村長「崩れた地面から魔波があふれ出し、
昨日のように魔獣が攻めてくるかもしれない。
だが、それも4、5日で落ち着くだろう…
昨日、ワノエの占い師様はそう話していた。
だから、お前たちに村の警備を頼みたい」
アルジは立ち上がり、村長に問いかける。
アルジ「オレは旅に出るんじゃないんですか」
村長「旅はまだ先の話だ」
アルジ「先っていつだ?」
村長「勇気の剣に見合った者になるまでだ」
アルジ「オレは…選ばれたんだよな?
オレは勇気の剣の使い手として
合格したんじゃないのか」
村長「合格ではない。昨日お前は倒れた。
ヤマグマを倒したあと気絶した。
それはまだ使い手として未熟ということ。
あの剣を使いこなすには鍛錬が必要なのだ」
アルジ「…そうか」
オオデン「オレは5日間ここにとどまる。
連れてきた部下の隊員とともにな。
オレはお前に戦い方を教えない。見て学べ」
アルジ(偉そうなやつだ)
それから5日間、村の警備に当たった。
オオデンとその部下とともに。
だが、予想に反して何事も起こらなかった。
土砂崩れも魔獣の襲来も。
5日が過ぎる。
オオデンたちはナキ村を去った。
そして、ゼゼ山の登山道は封鎖される。
タラノスはどうなったのか。
ヤマグマ襲撃後、大規模な捜索が行われた。
彼の消息を探るために。
村の体力自慢で結成された捜索隊。
それにはアルジも含まれていた。
彼らはゼゼ山を広く探して回った。
しかし、タラノスはついに見つからなかった。
これだけ探しても見つからないのはなぜか。
ヤマグマが跡形もなく食べてしまったから。
そんな結論に落ち着いた。
アルジは毎日欠かすことなく鍛錬を重ねる。
ナキ村の警備隊の訓練には毎回参加した。
訓練がない日も1人で特訓した。
野山を走り、清流を泳ぎ、剣を振る。
力を伸ばし、技を磨いていった。
そして、3年の歳月が流れた。
◆◆ 現在 ◆◆
◆ ナキ村 ◆
旅立ちの儀式は終わりを迎える。
アルジ「元気でな。行ってくるぜ」
村長「北土の魔術師には十分に気をつけよ」
アルジ「分かってる」
ナキ村の北、北土と呼ばれる地域。
そこに大きな魔術研究所がある。
北土の魔術研究所という。
そこに所属している魔術師が北土の魔術師。
彼らは日々魔術の研究をしている。
多くの魔術師が高い成果を上げている。
しかし、近年は黒い噂がささやかれている。
魔術に関する貴重な品を各地で奪っている。
その品々を使って重大な悪事を企んでいる。
そんな黒い噂がささやかれている。
3年前、安定の玉を村長から奪った者たち。
彼らも北土の魔術師。
村長「アルジよ。月を見ろ」
アルジ「月?」
村長「綺麗な満月だ」
アルジ「そうだな」
村長「3年前のヤマグマへの一撃。見事だった」
アルジ「あのときの力は、オレ自身の力じゃない。
この…勇気の剣がくれたものだ」
村長「剣から力を引き出したのはお前自身だ。
だから、あれはお前の実力のようなものだ」
アルジ「…そうかな」
村長「どうだ、あのときの一撃、
今一度、ここで見せてはくれないか?」
アルジ「いいぜ!」
アルジは呼吸を整えて勇気の剣を構える。
そして、大きく速く振り抜いた。
3年前、ヤマグマを斬ったときと同じように。
風を裂く音が清々しく響く。
剣の残像が見た者の視界に美しく刻まれる。
村人たち「…!!」
村長「素晴らしい技だ!
今宵の満月に劣らない美しさ」
アルジ「ははっ…そうかな…」
アルジは満月を見上げる。
アルジ「この技を円月斬りと名づけよう」
村長「円月斬り…か。いい名だ」
◇ アルジは円月斬りを習得した。
アルジ「じゃあな!みんな!元気で!」
村人たちは声を上げてアルジを送り出す。
アルジは力強く歩き出す。
最初の目的地は、隣町のワノエ。
アルジは助言を求めることにしていた。
その町で暮らす名高い占い師に。
ワノエへ行くには峠を越える必要がある。
峠の名は、トノク峠。
アルジは夜の闇の中を1人で歩き続ける。
満月の明かりを頼りにして。
峠に差しかかったところでアルジは気づく。
アルジ「誰だ!姿を見せろ!」
何者かが前方にいる。
獣ではない。
岩陰から1人の女が姿を現す。
黒衣を着て一本の杖を手にしている。
見るからに魔術師という格好。
???「魔力を感じとれるようだな」
アルジ「誰だお前は!」
???「私の顔に見覚えがない?」
アルジ「ないな」
???「まったくひどい男だな」
女は指先に意識を集中させる。
赤い火の球が現れる。
見る見るうちに大きくなっていく。
アルジ(魔術か!!)
アルジは初めて魔術を目の当たりにした。
???「思い出せ!私の顔を。私の名前を。
忘れたというなら、焼いてしまうぞ!」
アルジ「なんだと!!?」
火の球が女の顔を照らし出す。
アルジの記憶は呼び起こされた。
アルジ「…お前は!」
???「やっと思い出したか」
アルジと彼女の出会いは約4年前のこと。
ナキ学校とワノエ学校の合同運動会でのこと。
合同運動会は年に1回行われる。
学校対抗で得点を競い合う。
いくつも競技が行われ、残すは最終競技。
ナキ学校936点、ワノエ学校1021点。
最終競技は総合運動対戦。
これに勝った学校は100点が与えられる。
つまり、ナキ学校にも勝利の可能性があった。
ナキ学校の大将がアルジ。
そして、ワノエ学校の大将がこの魔術師。
エミカだった。
2人の実力は両校に知れ渡っていた。
総合運動対戦は、合戦形式で行われる。
陣形を組み、戦い、点を奪い合う競技。
序盤、中盤は両校互角。
しかし、終盤になってアルジが本領を発揮。
少数精鋭部隊で敵陣へ何度も突撃。
次々と相手を倒していった。
そして、ナキ学校が逆転勝利。
こうして、その年の合同運動会は終わった。
アルジの活躍は華々しいものだった。
両校の生徒、さらには教員も称賛した。
閉会後、エミカは悔しくて足早に帰宅。
結局、2人が言葉を交わすことはなかった。
だが、互いに好敵手として意識してはいた。
アルジ「エミカ…か」
エミカ「そうだ」
アルジ「大人になったから気づかなかった」
エミカ「それはどういうことだ?」
アルジ「………」
エミカ「ほめてるのか?」
アルジ「そう思っといてくれ」
エミカ「………」
エミカは指を弾いて火の球を消した。
アルジ「魔術師になってたのか」
エミカ「そうだ。強くなる…。
その一心で私は魔術師になった。
あの日の運動会は今でも覚えてる。
一緒に組んでた仲間は元気にしているのか?」
アルジ「組んでた仲間…」
エミカ「マサとトア…っていったか」
アルジ「!!」
エミカ「どうした?」
アルジ「あいつらは…死んだよ」
エミカ「!!」
アルジ「3年前、ヤマグマに殺された」
エミカ「ごめん。余計なことを聞いたな」
アルジ「別にいいぜ…」
エミカ「これからワノエに行くんだろ?」
アルジ「ああ」
エミカ「案内するよ。この辺は魔獣が出る。
魔術を使える者がいた方がいいだろ」
アルジ「それは助かる。だが、どうして…」
エミカ「先生に頼まれたんだ。
様子を見にいくようにと」
アルジ「先生…」
エミカ「占い師で大魔術師リネという…」
アルジ「リネ!!村長が教えてくれた名前だ!
まずはその人に会いに行けって言われたんだ」
エミカ「リネ先生は私に魔術を教えてくれた」
アルジ「そっか。エミカは弟子みたいなもんか」
エミカ「そうだ。習い始めたのは3年前。
先生の館で魔術を習っていたんだ。
住み込みで先生のお手伝いをしながら。
私もいれば、少しは話もしやすくなるだろう」
アルジ「ああ、助かる。よろしく頼む」
エミカ「よろしく」
◇ エミカが仲間になった。
アルジたちはトノク峠を歩いていく。
ワノエの町を目指して。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 4
◇ HP 145/145
◇ 攻撃 8★★★★★★★★
◇ 防御 4★★★★
◇ 素早さ 4★★★★
◇ 魔力 1★
◇ 装備 勇気の剣、革の鎧
◇ 技 円月斬り
◇ エミカ ◇
◇ レベル 4
◇ HP 127/127
◇ 攻撃 2★★
◇ 防御 2★★
◇ 素早さ 5★★★★★
◇ 魔力 7★★★★★★★
◇ 装備 術師の杖、術師の服
◇ 魔術 火球
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療薬 9