第47話 朔月
終業の鐘が鳴る。
懐かしい声が聞こえてくる。
マサ「アルジ」
アルジ「マサ!」
トア「アルジ」
アルジ「トア!」
夕刻。
ナキ学校の授業が終わる。
家へ帰るアルジ、トア、マサの3人。
マサ「公園寄ろうぜ」
アルジ「ああ」
トア「行こう」
3人は長椅子に並んで座る。
公園にはアルジたち以外誰もいない。
これといった遊具もない簡素な公園。
向こうには背の低い木々が壁を作るように並ぶ。
トアとマサは、ぼんやりと空を見上げている。
トア「なあ、卒業したら…どうする?」
アルジ「そうだな…」
マサ「オレは役者になりたい」
アルジ「役者か」
トア「いいな」
マサ「オレの演技で多くの人を楽しませたい」
アルジ「いいな」
トア「オレは商人になりたい」
アルジ「商人か」
トア「珍しいものを売り歩くんだ。旅をして。
それで、都に行きたい。都の商人になるんだ。
そこでいろいろ売りまくって、大成功したい」
マサ「オレもだ。オレも都に行きたい。
都にはなんたって、劇場がたくさんあるしな。
オレも都で大活躍して一流の役者になりたい」
トア「いいな」
アルジ「…いいな」
マサ「アルジは?どうする?」
アルジ「うーん…オレか…」
少し強い風が吹き、木々がざわざわと揺れる。
トア「都で大成功したら、結婚したいな」
マサ「ああ、オレもだ」
アルジ「結婚…」
トア「好きな人と、好きだと言い合って、
それで…一生暮らすんだ。
家を建てて、それで、
家族みんなで幸せに暮らすんだ」
マサ「オレもそうしたい」
アルジ「………」
トア「夕食のときとか、
今日はどんなことがあったか、
家族みんなで語り合うんだ」
マサ「一緒に出かけるのもいいよな。遠くへ。
新しい景色を見たり知らない街を歩いたり」
トア「それもいいな」
アルジ「………」
黒い服を着た背の高い男たち。
公園を横切っていく。
マサ「アルジはどうするんだ?」
アルジ「オレは…」
トア「もうすぐ卒業だし、早く決めないとだぜ」
アルジ「ああ」
マサ「どうする?」
アルジ「オレは…村に残るよ」
トア&マサ「………」
アルジ「父さんの工房を継ごうと思う」
マサ「そっか」
トア「それもいいな」
アルジ「トアもマサも…
たまには村に帰って来いよな。
都のみやげ、楽しみにしてるから」
マサ「ああ」
トア「もちろん」
日が沈む。
空が一気に暗くなる。
トア「そろそろ行こうぜ」
長椅子から立ち上がる3人。
アルジ「……!!」
アルジは目が覚める。
さっきまでの出来事が夢だったと知る。
見えているのは、部屋の天井の木目。
外は明るく、もう朝だった。
起き上がり、周りを見るが部屋には誰もいない。
エミカも、リネも、ミリも。
3人の布団は畳まれ、隅に重ねられていた。
外から声が聞こえてくる。
アルジ(リネの声か?)
そっと窓を開け、外を見る。
3人が立っている。
宿の小さな庭で。
真剣な顔で。
彼女たちは魔術衣を着て、杖を手にしている。
小さな声でリネが話している。
リネ「…何があるか…分からないから」
エミカ&ミリ「………」
アルジは着替えて、宿の外へ出る。
アルジ「おはよう」
エミカ「あ…」
ミリ「おはよう」
リネ「おはよう、アルジさん」
エミカ「おはよう。起きたか」
アルジ「どうしたんだ?なんか…深刻な話か?」
エミカ&ミリ「………」
リネ「魔術の話です」
アルジ「魔術の話か」
リネ「はい。ヤマエノモグラモンのように…
この先、どんな敵が現れてもおかしくない。
そんな話をしてました」
アルジ「マスタスとも…戦うしな」
リネ「…はい」
重たい空気がその場を包む。
アルジ「リネ、昨日は…ごめん」
リネ「なんですか?急に」
アルジ「ちょっと、言い過ぎたなって…」
リネ「………」
ミリ「どうしたの?やけにしおらしいね」
アルジ「いや、なんか、その…」
エミカ「?…どうしたんだ?」
アルジ「別になんでもない」
リネ「気にしないで。
私もあなたの気持ち、尊重したい。
アルジさん、マスタスとの会話は…
5分…5分あれば…それでいいから」
アルジ「いや、それは、何分でもいい。
リネの気が済むまで話したらいいと思う」
リネ「………」
居心地が悪くなり、アルジはその場を去る。
アルジ「ちょっと剣の練習してくる!」
アルジは歩き出す。
宿から離れていく。
細い坂道を下る。
近くを流れる川の方へと進んでいく。
思い出したのは、風呂で会った老夫の言葉。
アルジ(己の技を見つめ直せ…か)
川のそばまでやって来て、剣を構える。
せせらぎを聞きながら1回、2回と剣を振る。
空は青々と晴れ渡り、川の水は澄んでいた。
10回、20回と振り続ける。
心地よい汗をかき始める。
アルジ(あいつの技…すごかったな)
思い出したのは、エオクシの剣撃。
牙を斬りつけたときの一瞬の動き。
アルジはまるで反応できなかった。
アルジ(己の技を…見つめ直せ…か。
あいつの技に比べて、どうだろう?
オレの技は…)
円月斬り。
力強く、大きく剣を振り抜く技。
エオクシの一撃は、それとは対照的。
狙いを定め、小さく、速く。
アルジ(こうか?)
シュッと音を立てて、アルジは剣を振ってみた。
アルジ(!!手応えあり…!)
もう1度、さらに、もう1度。
素早く剣を振る。
アルジ(もっとだ!もっと!
斬撃が…目に映らないくらい速く!)
ヒュンと一際いい音がする。
それはまさにアルジが思い描いた一撃。
アルジ「できた…!!この技…この技だ…!
この…見えない斬撃…そうだな…
円月斬りとは対照的…そうだ!
朔月斬りと名づけよう!!」
◇ アルジは朔月斬りを習得した。
エミカ「見事だな」
アルジ「!!」
エミカ「エオクシの技を参考にしたんだな?」
アルジ「そうだ…。ていうか、いたのか!」
エミカ「うん。見てた」
アルジ「見てたのか…!」
エミカ「真剣だったから声をかけられなかった」
アルジ「そうか」
エミカ「さっきはどうしたんだ?」
アルジ「さっき?」
エミカ「リネさんに…急に謝って」
アルジ「なんでもないぜ。別に…」
エミカ「私はアルジと同じ考えだ。
マスタスと戦うべきだと思う。
倒すべきだと思う。
私たちは言葉を交わさず、
すぐに戦うべきだと思う」
アルジ「…そうだよな」
エミカ「まだ旅は続く。リネさんを説得しよう」
アルジ「そうだな」
エミカ「昨日は…
アルジが最後に言ってくれてよかった」
アルジ「………」
エミカは川の水面を見つめる。
アルジ「………」
エミカ「綺麗な川だ」
アルジ「なあ、エミカ」
エミカ「なんだ?」
アルジ「エミカも研究所で訓練したんだよな。
北土の魔術研究所で」
エミカ「ああ、そうだ」
アルジ「この町も通ったのか?」
エミカ「通った」
アルジ「ラアムとかナアムに乗ったのか?」
エミカ「あのときは自分の足で歩いたよ。
魔生体を1人で動かせる力もなかったし…」
アルジ「本当か…。結構かかっただろ?」
エミカ「そうだな。大雨が降ったこともあって、
研究所に着くまで12日かかった」
アルジ「そうか…大変だったな」
エミカ「でも、みんなよくしてくれたから。
宿屋さんも、料理屋さんも、
魔術の修行中だと言うと安くしてくれたり」
アルジ「それはよかったな」
エミカ「うん。よかった」
遠くに見える釣り人が1匹の魚を釣り上げた。
日の光を浴びて鱗がキラリと輝く。
アルジ「そろそろ宿へ戻ろうぜ」
エミカ「ああ、朝食の時間だな」
アルジとエミカは宿へ戻る。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 11
◇ HP 494/494
◇ 攻撃
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御 14★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ 12★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力 3★★★
◇ 装備 勇気の剣、銀獣の鎧
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、朔月斬り
◇ エミカ ◇
◇ レベル 10
◇ HP 403/403
◇ 攻撃 8★★★★★★★★
◇ 防御 12★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ 10★★★★★★★★★★
◇ 魔力
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 魔樹の杖、深紅の魔道衣
◇ 魔術 火球、火砲、火樹
◇ ミリ ◇
◇ レベル 8
◇ HP 315/315
◇ 攻撃 4★★★★
◇ 防御 7★★★★★★★
◇ 素早さ 9★★★★★★★★
◇ 魔力
19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 魔石の杖、紺碧の魔道衣
◇ 魔術 氷弾、氷柱、氷乱
◇ リネ ◇
◇ レベル 24
◇ HP 751/751
◇ 攻撃 7★★★★★★★
◇ 防御 16★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ 11★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
26★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、創造の杖、聖星清衣
◇ 魔術 雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療薬 25




