第46話 時間
リネは魔術を解いた。
岩壁は瞬く間に消えた。
エミカ「お話…ありがとうございました」
リネ「いいえ。変態魔術の恐ろしさ…
少しは分かってくれた?」
エミカ「…はい」
アルジ「リネ。話してくれてありがとう。
マスタスという魔術師がどんな人か。
少し分かった気がする」
リネ「それはよかった」
アルジ「3年前、ナキ村に現れた魔術師…
あの中の1人がマスタスだったんだと思う」
リネ「ええ。間違いなく彼はそこにいた。
彼らがなぜ星の秘宝を求めているのか。
それも研究所長が知ってるといいんだけど」
アルジ「そうだな」
ミリは何か言いたそうにしている。
リネ「どうしたの?ミリ」
ミリ「あの、あんまり関係ないんですけど、
都はどうでしたか?行ったんですよね」
リネ「ああ、都…あれは、そうね、よかった。
遠くて大変だったけど、楽しかったな」
ミリ「どんなところへ行ったんですか?」
ミリの目は輝いていた。
リネ「魔術院を見学させてもらった」
ミリ「へえ、魔術院…ですか」
リネ「あとは、大きな市場で買い物したり、
劇場がいくつもあったから、劇を観たり。
とても刺激的で楽しかったな」
ミリ「いいなー!」
リネ「ここからだと遠いけど、
1度は行ってみるといいよ」
ミリ「どうやって行ったんですか?」
リネ「魔生体に乗って。
ラアムとナアムの試作品みたいなもの」
ミリ「試作品があったんですね」
リネ「旅行のためにマスタスと一緒に作ったの。
不格好であまり速く走れなかったんだけど、
当時の私たちは魔力に結構自信があったし、
20日ほどお休みをとって行くことにしたの。
その魔生体に乗って、思い切って、都まで。
移動だけで10日もかかっちゃったけどね。
道中もいろいろあって楽しかった」
ミリ「そうなんですね。
今度詳しく聞かせてください」
リネ「もちろん」
リネの目も輝いている。
リネ「ああ、なんだか不思議」
エミカ「何がですか?」
リネ「思い出そうとすれば鮮明に思い出せる」
アルジ「そうか」
リネ「もうずっと前のことなのに。
そう、もうずっと…でも、不思議。
ついこの前のことのように思い出せる」
ミリ「大切な思い出だから…ですね」
リネ「そうだね」
エミカ「リネさん…」
リネ「私はあなたたちの倍近くも生きてるのに
あの頃を思い出すと、つい錯覚してしまう。
私もあなたたちと同年代なんじゃないかって。
嘘みたいに聞こえるかもしれないけど、
これは本当」
アルジ&エミカ「………」
リネは遠くをぼんやり眺めるような目つき。
ミリ「リネさんはまだまだお若いですよ。
リネさんって、実は同世代かもって
気持ちになること、私もありますから!」
リネ「無理してそんなこと言わなくていいの」
アルジ&エミカ&ミリ「………」
リネ「ここまで…とても早く時が過ぎた。
研究所を辞めて、ワノエに帰って、
家業を継いで、それからが早かった。
本当に早かった。あなたたちも覚えていて。
時の流れは早くなる。感覚的に。
だから、今の時間を大切に」
アルジ&エミカ&ミリ「………」
リネ「大切な思い出とともに…ね」
ミリ「時の流れは、どうして早くなりますか?」
リネ「忘れるのがうまくなるからじゃないの」
アルジ&エミカ&ミリ「………」
リネ「大人になって、仕事していて、ふと思う。
自分の人生って、大体こうなるのかなって。
考えるようになる。それで、大体合ってる。
そう思って、そう生きてると、そうなる。
そうすると、何が起きると思う?」
ミリ「なんでしょう?」
リネ「いらないことは、忘れていくんだと思う。
覚えておくべきことと、そうでないこと。
頭が勝手に振り分けて忘れていくんだと思う。
忘れてもいいことは気づかないうちに。
消していくんだと思う。音を立てず。静かに。
記憶力の節約…なんて言ったらいいのかな。
耳にしたこと、目で見たこと、感じたこと、
残りの人生にとって意味があるか、ないか。
振り分けて、多くのことは不要とみなして、
忘れていくんだと思う。無意識に。無自覚に。
それは自分でも気づけない。
いるものだけ拾って、畳んで、縮めて、
削って、残して。そうすると、薄くなる。
1日1日が、1年1年が、短かくなる。
頭の中で。ふと振り返ったとき、
短く、薄くなっている。
時の流れ早くなってくように感じるのって、
そういうことなんじゃないかって私は思う」
ミリ「なんだか少し寂しいですね」
リネ「寂しくなんかないよ」
ミリ「………」
リネ「だって大切な思い出は…
いつまでも輝いていて、
この胸にしまってあるから」
ミリ「そっか…。そうですね」
リネ「私にとって研究所時代はいい思い出。
とても、とても。今でも鮮明に思い出せる。
彼のことだって。彼ともう1度会えるなら…」
アルジ「…リネ」
リネ「…何?」
アルジ「オレは言っておきたいことがある」
リネ「何?」
アルジ「今ここで…はっきりと…
言っておきたい」
リネ「…だから、何?」
エミカ&ミリ「………」
アルジ「オレはマスタスを許さない」
リネ「!!!!」
アルジ「タラノス先生を…
ひどい目に遭わせたあいつを…
安定の玉を奪ったあいつを…オレは許さない。
許すつもりはない」
リネ「………」
アルジ「大切な思い出があるのは分かった。
リネと…あいつとの間に…
でも、それとこれとは話が別だと思う」
リネ「………」
アルジ「マスタスと話し合うつもりはない。
あいつに会ったら、オレはすぐに戦いたい」
リネ「………」
アルジ「変態魔術の話を聞いていて思った。
あいつは手強い魔術師なんだろう。
だけど、オレは戦うつもりだ。逃げない。
戦って、倒して、安定の玉を取り返す。
そうするつもりだ。それは…だめか?」
リネ「………」
リネはうつむき、口を閉ざす。
リネ「………」
ミリ「リネさん…」
リネ「………」
エミカ「リネさん!」
リネは顔を上げ、アルジの目を見る。
リネ「分かってる…。戦うのは…分かってる。
これは…彼と…決着を付けるための旅だから。
私だって…決意して…ここに来てる。
もちろん…。だけど…1分…いいえ、
5分でいいから…話をさせて…!
彼と…!彼に会ったら…!話をさせて…!
お願い…!!」
アルジ「………」
重苦しい沈黙。
ミリがそれを打ち破る。
ミリ「ねえ、今日はもう寝ようよ!
いろいろあったしさ。早くぐっすり眠りたい」
エミカ「…そうだな」
アルジ「………」
リネ「そうね。また明日、話し合いましょう。
アルジさん、それでいい?」
アルジ「ああ…」
アルジたちは寝支度をして布団に潜った。
リネの言葉を思い出すアルジ。
アルジ(1分、いいえ、5分でいいから…
だって?増えてるじゃねえか!!
頭で分かってても心が…か。
…エミカが言ってたのは本当みたいだな…)
そして、そっと目を閉じる。
アルジの耳に懐かしい声が聞こえてくる。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 11
◇ HP 494/494
◇ 攻撃
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御 14★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ 12★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力 3★★★
◇ 装備 勇気の剣、銀獣の鎧
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃
◇ エミカ ◇
◇ レベル 10
◇ HP 403/403
◇ 攻撃 8★★★★★★★★
◇ 防御 12★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ 10★★★★★★★★★★
◇ 魔力
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 魔樹の杖、深紅の魔道衣
◇ 魔術 火球、火砲、火樹
◇ ミリ ◇
◇ レベル 8
◇ HP 315/315
◇ 攻撃 4★★★★
◇ 防御 7★★★★★★★
◇ 素早さ 9★★★★★★★★
◇ 魔力
19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 魔石の杖、紺碧の魔道衣
◇ 魔術 氷弾、氷柱、氷乱
◇ リネ ◇
◇ レベル 24
◇ HP 751/751
◇ 攻撃 7★★★★★★★
◇ 防御 16★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ 11★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
27★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、創造の杖、聖星清衣
◇ 魔術 雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療薬 25




