第45話 処分
リネはアルジたちに話す。
彼女をさらに驚かせたマスタスの行動について。
◆◆ 18年前 ◆◆
◆ 研究員寮 マスタスの部屋 ◆
変態魔術。
その新魔術を目の当たりにして驚くリネ。
マスタスは彼女に見せる。
乱れた彼女の心に追い打ちをかけるように。
マスタス「ほら、見て」
つかんだコガネカマキリを彼女の顔に近づける。
マスタス「こいつの目のところ、よく見てくれ」
リネ「!!?」
マスタス「見えたか?見えるよね。
君ほどの魔力があれば、わけなく見えるよな」
リネ「ああ、なんてこと…」
コガネカマキリの目の奥に渦巻くもの。
それはマスタスの闇の魔力。
蘇生魔術は死んだものを生き返らせる。
生きていたときの姿を再生させる。
しかし、変態魔術はそれとは違う。
魔力を注ぎ込み、生き返らせる。
生き返らせたものの中に魔力はとどまる。
そして、その魔力を使って動かす。
生き返らせたものを、意のままに。
その性質の悪さに彼女は震えた。
リネ「うっ…」
めまいがして、よろけてしまう。
近くに置いてあった屑籠を蹴ってしまう。
屑籠が横倒しになる。
中から何かが床に撒かれた。
細かいチリやカスが大量に。
リネ「ごめん!」
マスタス「いいよ。すぐに掃除する」
マスタスは腰を落とし、手ですくう。
ぱらぱらと籠にいれる。
その大量の何かのチリやカスを。
リネ「手伝う」
マスタス「いいって」
リネもしゃがみ、手伝おうとしたそのとき。
リネ「!!これ…!」
マスタス「ああ、何度も試したんだ。
外の虫を使ってね。
どうやったら、うまくいくかって。
どうやったらダメなのか…」
大量のチリやカス。
それは彼が外で捕まえた虫の体の一部だった。
リネ「う…!」
彼女は叫びそうになるが、我慢する。
ふと目に入ったのは、飼育容器。
彼が大切に飼っていた仲間たちの飼育容器。
いつものように整然と並べられている。
それらに目が行ったのは偶然ではなかった。
彼女は確かに感じ取ったのだった。
これまで気にしていなかった魔波に。
飼育容器から漏れ出ている闇の魔波に。
リネは容器越しに恐る恐るヘビの顔をのぞく。
ヘビの目の奥にもぐるぐると渦巻いていた。
マスタスの闇の魔力が。
虫もカエルもトカゲもみな同じくそうだった。
マスタス「…気づいたか」
リネ「ひどい!あなたって…!
あなたって人は…!」
マスタス「言うことを聞くようになったんだ。
前よりもずっと。ずっと愛らしくなった」
リネ「ミイタは?ミイタはどこ?」
マスタス「ああ、ここにいる」
彼の懐からミイタは出てきた。
マスタス「もう逃げなくなった。
オレの手元から。だからいつもここにいるよ」
ミイタはその小さな顔をリネに向けた。
その目の奥にもマスタスの魔力が渦巻いていた。
リネ「!!最低だ!!あなたは最低!!」
マスタス「どうして…?」
リネ「帰る!私、もう帰るから!」
マスタス「そんな!待ってよ!!」
リネはマスタスの部屋から出ていった。
◆◆ 現在 ◆◆
当時を思い出し、深いため息をつくリネ。
リネ「彼は仲間たちをすべて殺してから、
変態魔術で生き返らせていたのです」
アルジ「なんてことをするんだ…」
エミカ「ミイタも…」
リネ「はい」
ミリ「せっかくリネさんが生き返らせたのに」
リネ「その日から私たちは…
ほとんど口を利かなくなりました。
魔術の研究だけは一緒にやりました。
やりかけのものがいくつかあったので。
でも、最小限の会話しかしませんでした」
アルジ&エミカ&ミリ「………」
リネ「ですが、しばらくして…急に…
彼から私に話しかけてきました。
あれは…私が研究所から帰る途中…
イシナ茶屋でお茶を飲んでいたとき…」
◆◆ 18年前 ◆◆
◆ イシナ茶屋 ◆
リネは1人、窓際の席で茶を飲んでいる。
キラキラと輝くイシナ川の水面を眺めながら。
マスタス「隣…いいかな」
リネ「!」
マスタス「だめか?」
リネ「…いいよ」
マスタス「ありがとう」
◆ マスタスも座り、茶を飲む。
マスタス「この前はごめん」
リネ「………」
マスタス「オレは間違っていたと思う」
リネ「………」
マスタス「全部、処分したんだ」
リネ「処分した?」
マスタス「燃やして捨てた」
リネ「捨てた…」
マスタス「ヘビも、虫たちも…ミイタも。
すべて燃やして…捨てたんだ」
リネ「え…?」
マスタス「オレは間違ってた。
あのとき、オレがあいつらを殺めた時点で、
本当のあいつらはもう、この世にはいなくて…
それをオレの力で生き返らせてやろうなんて…
それは…命を軽んじる行為で…許されなくて…
あと、何より…寮って虫とか飼うの禁止だろ。
だから、すべて終わらせた。燃やして捨てて。
今更なんだけどさ。ははは…」
リネ「………」
マスタス「なあ、リネ。旅をしないか?」
リネ「旅?」
マスタス「都に行ってみないか?」
リネ「都…」
マスタス「ああ。都だ。
都はいろんな人や物が行き交っている。
いろんなことが起きていて、
ここよりずっと賑やかだ。
市場で買い物してもいいし、
何か演劇を観てもいい。
魔術院に行ってみるのもいいかもな。
魔術院を見に行かないか?
オレたち魔術師だし。
新しい刺激とか発想をもらえるかもしれない」
リネ「行ってみたい」
マスタス「ありがとう。
あとで早速、計画を立てよう」
◆◆ 現在 ◆◆
リネの光玉が放つ光は弱くなり始める。
リネ「あのとき、おかしいと思った」
アルジ「………」
リネ「仲間をすべて処分してしまうなんて」
エミカ「そうですね」
リネ「だけど、私は同時に安心していた。
ああ、これで普通に戻ってくれたんだって。
もうあの虫やヘビたちがいないのなら、
あんなひどいこともしないだろうって。
私は安心していた。異常だと思いながら!」
ミリ「ちょっと…分かります」
リネ「彼に旅行に誘われたのも…
初めてだったしとても嬉しかった。
浮かれてしまった。あのときの私は…。
それで、もうそれ以上追求できなかった。
止めるなら、彼の変態魔術を止めるのなら、
もう2度とあの魔術を使わないでって…
止めるなら…あのときが、絶好の機会だった。
でも、私は…」
アルジ&エミカ&ミリ「………」
光玉はさらに明るさを失っていく。
リネ「彼の話は…もうこの辺にしましょう。
私の魔力も…かなり減ってきました。
次は、これからの旅について話しましょう」
アルジ「北土の魔術研究所へ行くんだろ?」
リネ「はい」
アルジ「マスタスは研究所にいるのか?」
リネ「彼がどこにいるのかは分かりません。
おそらく北土の魔術研究所にはいない…」
エミカ「どうしますか?」
リネ「探ります。研究所で。
彼の居場所について。
手がかりとなるものを。
そのために私は…研究所長と話をします」
エミカ「研究所長…」
リネ「ホジタ所長…彼と話します」
北土の魔術研究所、所長ホジタ。
彼は大陸中にその名が通っている。
権威ある大魔術師。
アルジ「研究所長なら…」
リネ「はい、何か知っていると思います。
彼の現在について」
ミリ「教えてくれるといいですね」
リネ「ええ」
エミカ「リネさんが…
最後にマスタスと会ったのはいつですか?」
リネ「彼と都を旅して、帰ってきて、
少ししてからのこと」
アルジ「それから…ずっと会ってないのか?」
リネ「はい。彼は突然、研究所を去りました。
それから、彼の行方は分かっていません。
研究所のほとんど誰も。
ですが、ホジタ所長なら…」
ミリ「所長はマスタスと知り合いなんですか?」
リネ「ええ。
私とマスタスが研究所に入ったとき、
彼は私たちにとって指導担当者の1人でした。
マスタスが研究所を去るときも。だから…」
アルジ「何か知ってるかもな」
リネ「そういうことです」
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 11
◇ HP 494/494
◇ 攻撃
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御 14★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ 12★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力 3★★★
◇ 装備 勇気の剣、銀獣の鎧
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃
◇ エミカ ◇
◇ レベル 10
◇ HP 403/403
◇ 攻撃 8★★★★★★★★
◇ 防御 12★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ 10★★★★★★★★★★
◇ 魔力
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 魔樹の杖、深紅の魔道衣
◇ 魔術 火球、火砲、火樹
◇ ミリ ◇
◇ レベル 8
◇ HP 315/315
◇ 攻撃 4★★★★
◇ 防御 7★★★★★★★
◇ 素早さ 9★★★★★★★★
◇ 魔力
19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 魔石の杖、紺碧の魔道衣
◇ 魔術 氷弾、氷柱、氷乱
◇ リネ ◇
◇ レベル 24
◇ HP 751/751
◇ 攻撃 7★★★★★★★
◇ 防御 16★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ 11★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
27★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、創造の杖、聖星清衣
◇ 魔術 雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療薬 25




