第44話 条件
リネは話した。
マスタスが変態魔術に目覚めた経緯について。
リネ「最初は小さな虫が対象でした」
アルジ「試したのか?」
リネ「はい。そのとおり。
マスタスはあの日から変わった。
外で虫を捕まえ、寮に連れ帰り、
殺して、暗球を当てる。
そういうことを繰り返すようになりました」
ミリ「想像訓練ですね?」
リネ「ええ」
アルジ「想像訓練って…なんだ?」
エミカ「魔術の基本的な訓練方法の1つだ。
使いたい魔術を頭の中で思い描くんだ。
それで、自分の魔力を解き放つ。
思いどおりにうまくいくことを想像して」
アルジ「そういう訓練があるのか」
ミリ「マスタスも覚えようとしたんですか?
蘇生魔術を…」
リネ「ええ。だけど、それは無理」
アルジ「なんでだ?」
リネ「マスタスは闇の魔術師だから。
蘇生魔術は光の魔術です。
闇の魔術の使い手がどんなに努力しても、
どんなに才能に恵まれた闇の魔術師でも、
蘇生魔術を習得することはないのです。
絶対に」
エミカ「光の魔術と闇の魔術。
2種類のうち覚えられるのは1種類だけ。
両方は習得できない…原則ですね」
リネ「ええ。多くの魔術書に書かれています。
もはや常識。私もそうだと思っていました。
だけど、彼は…」
アルジ「できてしまったってわけか」
リネ「はい。正確に言えば…
彼は闇の魔術で実現した。
蘇生魔術に似た効果の魔術を。
今度は私が驚かされました」
◆◆ 18年前 ◆◆
研究所の帰り道。
リネとマスタスはイシナ川のほとりを歩く。
イシナ川は研究所の近くを流れる美しい川。
川沿いには公園があり、多くの人が訪れる。
公園内にはイシナ茶屋という店があった。
リネとマスタスはそこでよく語り合った。
魔術について、そして、将来について。
その日も茶屋で語り合い、寮へ帰るところ。
マスタスは1匹の甲虫の死骸を見つける。
さっと拾い上げる。
マスタス「あ…」
リネ「?」
マスタス「これじゃダメだ」
死骸を草むらの中へ放り投げる。
リネ「何?どうしたの?」
マスタス「いや、リネに見せたいものがあって」
リネ「何?」
マスタス「寮に着くまで楽しみにしていて」
リネ「………」
◆◆ 現在 ◆◆
リネはそのときの気持ちをアルジたちに明かす。
リネ「公園で道を歩いている最中だった。
どうして?…って、私は疑問に思った。
どうしてそんなことをするの?って。
恋人と2人きりで道を歩いているとき、
地面に落ちた虫の死骸を拾うなんて。
言い知れない不安を私は覚えました」
アルジ&エミカ&ミリ「………」
◆◆ 18年前 ◆◆
イシナ川のほとりを歩くリネとマスタス。
マスタス「よし、これなら大丈夫だな」
再び虫の死骸を拾い上げるマスタス。
拾ったのはコガネカマキリという虫の死骸。
リネ「何が大丈夫なの?
そんなの拾ってどうするの?」
マスタス「だめなんだよ。
大事な部分が欠けているとだめなんだ」
リネ「…?」
マスタス「こいつは残念ながら
寄生虫に食われて死んだ。
腹のところから。ほら。な?」
リネ「………」
マスタス「でも、大丈夫なんだ。これなら。
頭とかほとんど無傷のようだし。
死んでから時間もそんなに経ってない。
まだあんまり硬くなってない。
そんなわけだから、大丈夫なのさ」
リネ「もしかして…」
マスタス「しっ!寮に着くまで何も話さないで」
リネ「………」
◆◆ 現在 ◆◆
リネは明かす。
リネ「彼が話した、その、大丈夫という条件。
それは、蘇生魔術の条件と同じだったのです。
蘇生魔術を成功させるため、必要となる条件。
それと同じことをあのとき彼は言ったのです。
私はその条件をマスタスに教えていなかった。
だけど、彼は実験を繰り返して、知った…」
アルジ&エミカ&ミリ「………」
◆◆ 18年前 ◆◆
◆ 研究員寮 マスタスの部屋 ◆
マスタス「さあ、お見せしよう」
リネ「何を見せてくれるの?」
リネは笑顔を作って問いかける。
マスタスは答えず、そっと置く。
机の上にコガネカマキリの死骸を。
マスタス「さあ、見てくれ」
リネ「……」
マスタスの指先に生じる黒い球。
闇の魔術、暗球。
それは次第に大きくなる。
リネはそれまで何度も見ていた。
研究室や魔術の実演場で。
だが、その日の暗球は少し雰囲気が違う。
リネ(何をする気?)
暗球がコガネカマキリに触れる。
さらに暗球は大きくなった。
死骸をすっぽり包み込む。
マスタス「全部を。そうだ!
全部を包み込んでやらないと…!」
リネ「………」
小声で数字を数え始める。
マスタス「1、2、3」
リネ「どうするの?何が起きるの?」
マスタス「よし!!」
暗球が消える。
隠されていた死骸が現れる。
プルプルと小刻みに震え出す。
ポツポツと小さな黒い斑点が表面に現れる。
斑点は大きくなり、やがて死骸を埋め尽くす。
墨で塗りつぶされたように真っ黒になった。
マスタス「目覚めよ…」
その一言で死骸の震えが止まる。
死骸を覆っていた黒い色が消える。
そして、それは動き出す。
歩き出してカマを振り上げた。
コガネカマキリは生き返った。
マスタスの変態魔術によって。
リネ「嘘でしょ…?」
マスタス「…ふぅ」
マスタスは額に浮かんだ汗を服の袖でふく。
それから、コガネカマキリを指先に乗せた。
マスタス「どうだ?」
リネ「すごい…。信じられない…。
こんなことって…」
マスタス「あるんだよ」
◆◆ 現在 ◆◆
リネはアルジたちに打ち明ける。
そのときの率直な気持ちを。
リネ「決定的な違和感。
言葉にするならそういうもの。
彼の新たな魔術の習得を素直に喜べない…。
彼の成長を嬉しく思うことを妨げる…
そんな決定的な違和感があったのです。
それは決して嫉妬心などではありません。
蘇生魔術を真似されて嫉妬していた…。
そうではないことをはっきり言っておきます」
アルジ&エミカ&ミリ「………」
リネ「違和感の正体は…
彼が生き返らせた虫にあったのです」
◆◆ 18年前 ◆◆
◆ 研究員寮 マスタスの部屋 ◆
マスタス「飛べ!」
コガネカマキリは羽を広げる。
そして、部屋の中を飛び回る。
マスタス「戻れ!」
マスタスの指に止まった。
マスタス「生き返らせたやつは、
言うことを聞いてくれるんだ」
リネ「そんな…!」
マスタス「ただ蘇生させるだけじゃない。
この魔術で生き返らせたものは…
オレの意のままに動いてくれるようになる」
リネ「!!」
マスタス「相手の状態を一変させる…
この魔術…オレは決めた。名前を決めたぞ。
この魔術の…名前を…」
リネ「名前…それは…何…?」
マスタス「変態魔術だ」
リネ「へ…変態…魔術…!」
◆◆ 現在 ◆◆
リネは当時を思い起こす。
苦しそうな表情を浮かべる。
エミカ「リネさん」
リネ「………」
エミカ「リネさん!」
リネ「あ…」
エミカ「大丈夫ですか?」
リネ「ええ…平気です」
アルジ「分かってきたぜ。変態魔術について。
そんなもんをいきなり見せられたら…」
リネ「まだです」
アルジ「え?」
リネ「まだなんです。あの日の出来事は。
私の心を強くかき乱す…もっと…もっと…
信じられないことが待ち受けていたのです」
アルジ&エミカ&ミリ「………」
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 11
◇ HP 494/494
◇ 攻撃
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御 14★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ 12★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力 3★★★
◇ 装備 勇気の剣、銀獣の鎧
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃
◇ エミカ ◇
◇ レベル 10
◇ HP 403/403
◇ 攻撃 8★★★★★★★★
◇ 防御 12★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ 10★★★★★★★★★★
◇ 魔力
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 魔樹の杖、深紅の魔道衣
◇ 魔術 火球、火砲、火樹
◇ ミリ ◇
◇ レベル 8
◇ HP 315/315
◇ 攻撃 4★★★★
◇ 防御 7★★★★★★★
◇ 素早さ 9★★★★★★★★
◇ 魔力
19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 魔石の杖、紺碧の魔道衣
◇ 魔術 氷弾、氷柱、氷乱
◇ リネ ◇
◇ レベル 24
◇ HP 751/751
◇ 攻撃 7★★★★★★★
◇ 防御 16★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ 11★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
27★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、創造の杖、聖星清衣
◇ 魔術 雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療薬 25




