第43話 実在
リネはアルジたちに話す。
マスタスの変態魔術について。
リネ「彼が変態魔術に目覚めたのは…
ちょっとした出来事がきっかけでした。
彼は…小さな命を大切にする人でした」
アルジ(小さな命を大切にする…か。
そんなやつが…変態魔術を覚えるのか?)
リネ「初めて彼の部屋を訪れたときのことです。
まず驚いたのは、彼と暮らす仲間たちです。
虫、ヘビ、トカゲ、ネズミ、いろいろ…。
彼の仲間たちが部屋で暮らしていたことです」
アルジ(仲間たち…)
リネ「どの仲間も清潔な飼育容器にいました。
彼が心を込めてお世話している。
そのことがとてもよく伝わりました」
エミカ(寮って…トカゲとか飼ってもいいのか?
そんなの今は考えなくていいか…)
リネ「中でも彼のお気に入りだったのが
クロゲネズミのミイタ。
真っ黒な体毛の痩せた小さなネズミです。
ミイタを飼育容器から出して愛でているとき。
彼が浮かべる穏やかな表情は忘れられません。
あるとき、私は彼に聞きました。
どうしてそんなにミイタが好きなのと。
その問いかけには、
少しだけ嫉妬の気持ちが入っていました。
彼があまりにもミイタを大切にしていたから。
ネズミを相手に嫉妬しちゃうなんて…
おかしな話。今にして思えば。
だけど、いてもたってもいられなかった。
それで、私は聞いてしまった」
アルジ「マスタスはなんて答えたんだ?」
リネ「オレに似てるから…と彼は答えました。
真っ黒で、痩せていて、臆病で。
だけど、強い。したたかに生きていて。
自分に似てる気がすると。
ほほえみながら、私に教えてくれました」
アルジ&エミカ&ミリ「………」
リネ「ミイタは、彼の親友だったのです。
辛いときも楽しいときも一緒に過ごしてきた。
大切な大切な親友のような存在だったのです。
彼は私の手のひらにミイタを置きました。
正直な話、ネズミはあまり好きじゃなかった。
でも、ミイタのことはとても愛おしく思えた。
だって、好きな人の大切な友達なんですから。
私はミイタと見つめ合い、自己紹介しました。
そして、指の腹でそっと頭をなでました」
アルジ&エミカ&ミリ「………」
リネ「しばらくしてミイタは死にました」
アルジ「死んだ…」
リネ「ある朝のことでした。
彼に会うと、ひどく落ち込んでいました。
心配して聞くと、教えてくれました。
ミイタが死んだと。
ミイタは病気やケガで弱っていたのではなく、
その死は、本当に突然のことだったようです。
その日のマスタスの悲しむ様子は…見ていると、
こちらまで胸が締めつけられるようでした」
エミカ「リネさん、もしかして…」
リネ「はい。エミカが考えているとおり。
どうしてあんなことをしてしまったのか。
あのとき…どうして…」
アルジ「もしや…使ったのか。あれを…」
リネ「はい」
ミリ「生き返らせたんですね」
リネ「はい」
リネは再び目を閉じ、思い出す。
◆◆ 18年前 ◆◆
◆ 北土の魔術研究所 研究員寮 正門前 ◆
がっくり肩を落として歩くマスタス。
そこにリネが現れる。
寮から出てきて研究所へ向かう。
リネ「おはよう」
マスタス「ああ、おはよう…」
リネ「どうしたの?元気ないね…」
マスタス「ああ…」
リネ「なんかあった?」
マスタス「今日の研究…休もうかな」
リネ「なら、私も休む」
マスタス「…いいのか?」
リネ「うん、君がいない研究なんて退屈」
マスタス「そっか…」
リネ「どうしたの?」
マスタス「ああ…」
リネ「ああ、じゃ分かんない。
嫌なことがあったら言って?
前も言ったよね。
私たち…付き合ってるんだから…」
マスタス「ああ…実は…」
リネ「実は?」
マスタス「ミイタが死んだ」
リネ「え…?」
マスタス「死んだんだ」
リネ「昨日まで元気だったよね?」
マスタス「ああ、元気だった…。
でも…今日…朝起きたら」
リネ「そんな…」
マスタス「動かないんだ…全然…。
目も開けてくれない…。
心臓も止まっている…多分…
死んでしまったんだと思う」
リネ「今すぐ私に見せて!!」
マスタスとリネはミイタのところへ。
机の上に置かれた飼育容器。
ミイタはその中でじっとしていた。
リネ「開けてもいい?」
マスタス「ああ…」
リネは容器を開ける。
リネ「触ってもいい?」
マスタス「ああ…」
リネはミイタをつかみ上げる。
ぴくりとも動かないミイタ。
長く伸びた白い前歯は口から出ている。
リネ「死んでる…」
マスタス「やっぱり…そうだよな…」
リネ「ねえ」
マスタス「なんだ?」
リネ「これから私がミイタにすること…
誰にも言わないでくれる?」
マスタス「何をする気だ?」
リネ「見てて…」
リネは両手で優しくミイタを包む。
柔らかい光がリネの手からあふれ出す。
その光はミイタをふんわりと包み込む。
やがて、ミイタの体そのものが光を放つ。
マスタスは目を見開き、見届けた。
リネの魔術、蘇生魔術を。
リネ「これで…もう大丈夫…」
かすれて消え入りそうなリネの声。
額にはじっとりと浮かんだ汗。
彼女は強いめまいに襲われる。
ぐらりとよろめく。
マスタスは受け止めた。
リネはミイタを蘇生させた。
自らの生命力という代償を払って。
マスタス「リネ!リネ!」
リネの体を揺するマスタス。
そのとき、ミイタが動き出す。
リネの手の中で。
マスタス「!!!ミイタ!?ミイタ!」
マスタスはミイタをそっと容器に戻す。
そして、リネを自分の布団に寝かせた。
マスタス「初めて…初めて見た…!
これが…蘇生魔術…!本当にあったのか!
こんな!!素晴らしい魔術が!!
死んだ者を生き返らせる!魔術が!
実在したのか!!」
目から涙をボロボロ流してマスタスは言った。
リネはそんな彼の姿を見ていた。
ぐったりと布団に横たわりながら
◆◆ 現在 ◆◆
エミカ「リネさん」
リネ「…ああ、ごめんなさい」
リネは目を開ける。
またしても頬を伝う涙。
彼女はそっとふいた。
エミカ「それが、きっかけだったんですね?」
リネ「はい。それから彼は目覚めていくのです。
おぞましき闇の魔術。変態魔術に」
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 11
◇ HP 494/494
◇ 攻撃
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御 14★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ 12★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力 3★★★
◇ 装備 勇気の剣、銀獣の鎧
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃
◇ エミカ ◇
◇ レベル 10
◇ HP 403/403
◇ 攻撃 8★★★★★★★★
◇ 防御 12★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ 10★★★★★★★★★★
◇ 魔力
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 魔樹の杖、深紅の魔道衣
◇ 魔術 火球、火砲、火樹
◇ ミリ ◇
◇ レベル 8
◇ HP 315/315
◇ 攻撃 4★★★★
◇ 防御 7★★★★★★★
◇ 素早さ 9★★★★★★★★
◇ 魔力
19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 魔石の杖、紺碧の魔道衣
◇ 魔術 氷弾、氷柱、氷乱
◇ リネ ◇
◇ レベル 24
◇ HP 751/751
◇ 攻撃 7★★★★★★★
◇ 防御 16★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ 11★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
27★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、創造の杖、聖星清衣
◇ 魔術 雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療薬 25




