第40話 突破
アルジたちは泊まる宿を探す。
建ち並ぶいくつもの温泉宿。
選んだのは、古びた小さな宿。
みんなで考えて最後はリネが決めた。
リネ「こういうところの方が落ち着くから」
アルジもエミカもミリも受け入れた。
リネの選択を。
受付を済ませて部屋に行く。
隅に畳まれ、積み上げられた布団。
真ん中に置かれた大きな座卓。
4人分の座椅子。
その上に敷かれた平たい座布団。
恰幅のよい女将が部屋に入ってくる。
女将「ようこそ」
アルジ「いい宿だ」
女将「それは、それは。
お料理にも自信がありまして」
ミリ「楽しみ」
エミカ「何が出てくるかな」
女将「楽しみにしていてください。
お食事までまだ時間がありますから。
それまで、どうぞ、ごゆっくり」
リネ「お風呂に入ってきましょうかね」
女将「どうぞ。心清の湯に」
リネ「心清…」
女将「心を清らかにしてくれる湯です」
アルジ「そんな湯が…」
女将「あるんです」
アルジ「………」
エミカ「入れば、心が綺麗になるってことか」
女将「そのとおり」
ミリ「面白いね」
女将「体の疲れをとる。これ、当たり前。
温泉なら、当たり前。心清の湯は違います」
リネ「心を…清らかに…?」
女将「そのとおり」
アルジ「…面白い」
女将「小話を…」
エミカ「どうぞ」
女将「野蛮な賊がその昔、
この地に住んでおったとさ」
ミリ「うんうん」
女将「家やら店やら押し入って、
荒らして回っていたそうな」
アルジ「それで、どうした?」
女将「ある夜、宿に押し入った。
小さな、小さな旅の宿。
賊の一派は押し入った」
リネ「はい、はい」
女将「金も払わず湯に浸かり、
気持ちよくなり寝ちまった」
アルジ「で、どうした?」
女将「目覚めてみたら、あら大変」
ミリ「どうしたの?」
女将「賊は驚き、考え直す。
こんこん湧き出る見事な湯。
金も払わず浸かるとは、
不届き千万、生き恥よ。
慌てふためき、風呂から上がり、
金を払って逃げたとさ。
めでたし、めでたし」
エミカ「改心したのか」
女将「そのとおり」
アルジ「温泉に入ったくらいで
人間そんなに変わるか?」
女将「だから、心清の湯なのです」
リネ「その話、信じましょう」
女将「ありがとう」
アルジ(…信じるんかい)
ミリ「私も入ってこようかな」
アルジ「ああ、行ってきた方がいい」
ミリ「言っとくけど、私の心は綺麗だよ」
アルジ「それは分かってる」
エミカ「私も入ろう」
アルジ「オレは部屋で留守してるぜ」
ミリ「アルジもあとで入りなよ」
アルジ「ああ、もちろんだ。
せっかくの温泉だからな」
ミリ「たっぷり浸かるんだよ」
アルジ「言われなくてもそうするぜ。あ…
言っとくがオレの心も汚れちゃいないからな」
ミリ「どうかなー」
アルジ「お前なー!!」
女将「ふうふふ!ふふふ!私はこれにて失礼…」
笑顔で部屋から出ていく女将。
ぴしゃんと戸が閉められる。
エミカ、リネ、ミリは支度をして風呂へ。
アルジは茶を飲み、ぼんやりして過ごす。
しばらくしてエミカたち3人が戻る。
3人とも満足した様子。
アルジ「行ってくるぜ」
エミカ「いいお湯だったぞ」
アルジは1人で風呂へ向かう。
のれんをくぐると狭い脱衣所。
客の姿はほかにない。
アルジ(夕飯の時間が近いからかな)
服を脱いで浴場へ。
大きな風呂が待ち構える。
辺りには湯気が立ち込めていた。
かけ湯で体を洗い、湯に浸かる。
アルジ「なるほど…いい湯だ!」
湯はほとんど無色透明。
温度は熱過ぎず、ぬる過ぎず。
アルジ「大前隊…か」
ふと頭をよぎったのは大前隊の3人。
アルジ(あいつら…強そうだったな)
目を閉じる。
剣を構える。
心の中で。
そして、まぶたの裏の暗闇に思い浮かべる。
大前隊の3人の姿を。
斧使いのガシマ。
槍使いのオンダク。
そして、剣使いのエオクシ。
彼らはアルジの方を見て不敵に笑う。
アルジ(…勝負だ)
斧使いガシマが斬りかかってくる。
素早く横に跳んで攻撃をかわす。
そして、右から左へ力一杯腕を振る。
アルジ(決まった…!)
胴体を深く斬り、ガシマを倒す。
想像の中で。
振った腕が湯を激しく飛び散らせた。
次は槍使いオンダク。
彼は動かない。
じっとこちらを見ている。
アルジ(来ないなら…こっちから行くぜ)
何度も、何度も剣を振る。
しかし、分厚い装甲に攻撃は阻まれる。
反撃のためオンダクが槍を構えた。
そのとき。
アルジ(そこだ!!)
顔面をためらうことなく突き刺した。
オンダクは力なく地面に倒れ込む。
アルジの想像の中で。
最後に残ったのはエオクシ。
彼は静かに笑っている。
仲間が倒されたにもかかわらず。
アルジ(…最後はお前だ!)
エオクシが跳びかかってくる。
大きな剣をビュンビュン振ってくる。
目にも止まらぬ速さで。
アルジ(…く!)
アルジも負けじと剣を振る。
しかし、じりじり押されていく。
そして。
アルジ「くあっ!!ぐああああああ!!」
1回、2回、3回、4回。
何度も、何度も斬り刻まれる。
そして、アルジの体はバラバラに。
アルジ(だめだ…!やつには勝てない…!)
アルジは目を開ける。
ふと横を見ると、湯に浸かる老夫が1人。
彼はたくさんの湯を顔面に浴びていた。
アルジが湯の中で腕を激しく振ったために。
老夫「もう少し…静かに入ってくれんか」
アルジ「あ…ああ、すまない」
気まずくなり、風呂から上がろうとするアルジ。
老夫「あんた、剣士だろう」
アルジ「そうだ」
老夫「いい腕の振りだった」
アルジ「じいさん、あんたも…」
老夫「若い頃は…な」
アルジ「そうか」
老夫「精進せい、精進せい。
あんたはもっと強くなる」
アルジ「ああ、オレは強くなる」
老夫「しかし…少し、いや、
かなり分厚い壁に…
ぶち当たってるようだ…」
アルジ「!!」
老夫「そんなときは…どうしたらよいか。
わしゃよく見つめ直したものだ」
アルジ「見つめ直した?」
老夫「青年よ、己の技を見つめ直せ。
そこから始まる。
壁の突破は…そこから始まる。
これがわしの経験則…」
アルジ「自分の技を見つめ直す…か。
そうしてみるよ。
ありがとな、じいさん」
老夫「なんてことないことだ」
アルジは風呂から上がった。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 11
◇ HP 494/494
◇ 攻撃
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御 14★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ 12★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力 3★★★
◇ 装備 勇気の剣、銀獣の鎧
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃
◇ エミカ ◇
◇ レベル 10
◇ HP 403/403
◇ 攻撃 8★★★★★★★★
◇ 防御 12★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ 10★★★★★★★★★★
◇ 魔力
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 魔樹の杖、深紅の魔道衣
◇ 魔術 火球、火砲、火樹
◇ ミリ ◇
◇ レベル 8
◇ HP 315/315
◇ 攻撃 4★★★★
◇ 防御 7★★★★★★★
◇ 素早さ 9★★★★★★★★
◇ 魔力
19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 魔石の杖、紺碧の魔道衣
◇ 魔術 氷弾、氷柱、氷乱
◇ リネ ◇
◇ レベル 24
◇ HP 751/751
◇ 攻撃 7★★★★★★★
◇ 防御 16★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ 11★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
27★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、創造の杖、聖星清衣
◇ 魔術 雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療薬 25