第38話 理由
◆ カルスの上 ◆
エオクシたち4人は並び立つ。
カルスは都に向かって飛び続けていた。
オンダク「なぜ…斬らなかった?」
エオクシ「あ?」
オンダク「魔獣を倒したあの男を…
なぜ斬らなかった?」
エオクシ「言っただろ。斬る気が失せたって…」
オンダク「………」
ガシマ「なぜ失せた?」
エオクシ「………」
オンダク「本当の理由が知りたい」
エオクシ「…言わせんなよ」
ガシマ「言えよ。聞かせな」
オンダク「聞かせろ」
エオクシ「しつけえな」
ガシマ「お前のことだ。
普通じゃない理由があるんだろ?」
エオクシ「まぁな」
オンダク「なんだ?その理由は…」
エオクシ「あのとき、オレは負けると思った」
ガシマ「………」
オンダク「…は?」
エオクシ「もちろん斬ろうと思えば斬れた。
一瞬でな。造作もねえ。簡単なことよ」
ガシマ「でも、負ける?」
エオクシ「そうだ。そうするとオレは負ける。
そう思った。あのとき、そう思った」
オンダク「どういうことか分からんぞ」
エオクシ「とにかく…あのとき…
オレがあいつを斬るのは
負けのような気がした。
あいつ、オレよりもずっと弱えのに、
オレがその気になれば簡単に斬れんのに、
あいつは…1歩も退かなかった…!
それどころか…にらみ返してきやがった…!
このオレを!まっすぐに!!
まばたきの1つもせずに!!
それは…予想外だった…!!
虚を…突かれたような気がした…!」
ガシマ&オンダク「………」
エオクシ「理由は…仲間だ。
後ろにいた仲間たちを…
あいつは守ろうとしていた…!!
負けるのに!戦えば確実に負けるのに!!
それで、オレは思った。
ここでこいつを斬ったら負けだと。
オレの負けだと。これは普通の戦いじゃねえ。
斬れば、相手は死んじまうからな。
一生オレはその負けを背負ってくことになる」
オンダク「斬ったのに負ける?
どういうことだ?はは…」
ガシマ「少し…分かるかもしれない」
オンダク「………」
エオクシ「とにかくオレはそう思ったんだ」
魔術師アヅミナがエオクシの方を向く。
アヅミナ「負けるの嫌いだもんね。エオクシは」
エオクシ「おう。13の頃から負け知らずだ」
ガシマ「アマシロの国、武術大会6連覇中…
だもんな」
エオクシ「もうすぐ7連覇するぜ」
オンダク「密かに応援しよう」
エオクシ「賑やかにやれよ」
ガシマ「ところで大君への報告はどうする?」
エオクシ「…正直に言うさ」
ガシマ「それがいいな」
オンダク「シノ姫がいるからな」
エオクシ「あれはおっかねえからな!」
都に向かってカルスはさらに速度を上げる。
アヅミナはぼんやりと遠くの山を見ていた。
アヅミナ「秘術使い…シノ姫…」
◆ トガワ ◆
サルヤマの突然の死。
困惑する人々。
慌ただしく動き回る役人たち。
村は混乱の様相。
アルジ「魔術か…!?」
リネ「いえ…!そんな感じは…」
ミリ「魔力は特に感じなかったよね…」
エミカ「一体、なんでしょうか?」
リネ「分かりません…。
何者かの攻撃を受けたのか…」
◆ カルスの上 ◆
エオクシはアヅミナの横顔を見ている。
エオクシ「どうした?浮かねえ顔だな。
さっきから」
アヅミナ「さっきの…あの人…
かわいそうだったなって…」
エオクシ「あの人?」
アヅミナ「分かるんだ。あたしも同じ…
闇魔術の術師だから…分かってしまう…」
エオクシ「…魔術のことはよく分かんねえや」
オンダク「勉強が必要だな」
エオクシ「魔術書とか読んでられねえよ。
できねえことはできるやつに頼めばいい!」
アヅミナ「合理的だね…」
ガシマ「魔獣は…一体なんだったんだろうな」
オンダク「二隊の報告では、絶滅したはずの獣…
ヤマエノモグラモンということだったな。
人に見つからず今まで住み着いていた…
とは考え難い」
エオクシ「解析してもらおうぜ!」
剣を天にかざす。
オンダク「剣を…?そうか…!」
エオクシ「こいつに牙の破片が付いている」
アヅミナ「そんなカスみたいなので分かるかな」
エオクシ「大丈夫だろ?審理院にそういう解析が
得意なやつがいるからよ!」
◆ トガワ ◆
アルジたちは村を離れる。
リネ「行きましょう。
騒ぎに巻き込まれないうちに」
アルジ「そうだな!」
オケアの町に向かって街道を進む。
ラアムとナアムに乗って。
日は大きく傾き、空は暗くなり始めている。
ヤマエノモグラモンの死体がある。
その近くを通り過ぎる。
さらに進み続ける。
登り坂が続く。
街道は山間部へ伸びている。
リネは後ろに乗っているアルジに声をかける。
リネ「さっきはよくやりました」
アルジ「え…?」
リネ「大前隊のことです。
エオクシがこちらに来たとき…」
アルジ「ああ…ああするしか…オレには」
リネ「それがよかったんです」
アルジ「…よかったか?」
リネ「はい。エオクシという男…
ただ者ではありません。
もちろん、大前隊のほかの2人も
紛れもない強者でしたが…。
彼は別格のように見えました」
アルジ「ああ、オレもだ。
…あんなやつがいるのかと思った」
リネ「さっき、もしも、あのときあなたが…
少しでも引き下がったなら…
少しでも逃げ腰になったなら…
彼は…容赦なくあなたを斬ったでしょう」
アルジ「…!!」
リネ「あなたは少しもたじろがなかった。
だから…彼は諦めた。そう思います」
アルジ「…そうだな。あいつはずっと格上だ。
認めたくないが…あいつがその気になれば…
オレなんて一撃で…」
リネ「それは気にする必要ありませんよ」
アルジ「………」
リネ「彼はおそらく幼少の頃から武器を持ち、
戦って、勝って、選ばれて…また戦って、
選ばれて…何度も、何度もそれを繰り返し、
今のあの地位にいる。
今、力の差があるのは、当然のこと」
アルジ「………」
リネ「1人でぶっ潰すなんて言ってましたが、
あれは冗談ではなく、本気だったんでしょう。
そして、彼なら本当にできたでしょう。
それも無傷で…」
アルジ「そうだな」
リネ「それに…怒らないで聞いてほしい」
アルジ「なんだ?」
リネ「どこかあなたと似ていた」
アルジ「似てた…?」
リネ「エオクシという男、
あなたとどこか似ている」
アルジ「…そうかな」
リネ「私はそう感じました。あなたはどう?
もしかしたら…エオクシもそう思ったから…
あなたを斬らなかったのかもしれない」
アルジ「どうかな…。
でも、あいつぐらい…いや!あいつよりも…
強くなりたいと思う。あのときオレは思った。
それに…笑われるかもしれないけど…
あいつと向き合って思ったことがある」
リネ「なんて思ったの?」
アルジ「いつかこいつと本気で戦いたいって!」
リネは大声で笑った。
アルジ「そんなに笑わないでくれよ…」
リネ「ごめんなさい…。
でも、そんなこと思ってたなんて…!」
アルジ「………」
リネ「だけど、はっきり言っておきます。
あなたは強くなる。
もっと…今よりもっと…ずっと…」
アルジ「………」
リネ「彼を超えるかどうか。
それは私には分かりません。
でも、その気持ちがあれば…
超えるような気がしています」
アルジ「…ありがとな」
リネ「いいえ」
アルジ「…あのときリネがあいつらに謝って、
事情を説明してくれたから
丸く収まった気がする」
リネ「どうでしょうね。でも、気になることが」
アルジ「北土の魔術研究所…だろ?」
リネ「ええ。なぜ大前隊も探っているのか…」
アルジ「…気になるよな」
登り坂が続く。
街道の両側には背の高い木々が連なる。
日は沈みかけ、辺りはかなり暗くなっていた。
エミカ「待ってくださーい!!」
ラアムは立ち止まる。
後ろから来るナアムを待った。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 11
◇ HP 494/494
◇ 攻撃
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御 14★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ 12★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力 3★★★
◇ 装備 勇気の剣、銀獣の鎧
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃
◇ エミカ ◇
◇ レベル 10
◇ HP 403/403
◇ 攻撃 8★★★★★★★★
◇ 防御 12★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ 10★★★★★★★★★★
◇ 魔力
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 魔樹の杖、深紅の魔道衣
◇ 魔術 火球、火砲、火樹
◇ ミリ ◇
◇ レベル 8
◇ HP 315/315
◇ 攻撃 4★★★★
◇ 防御 7★★★★★★★
◇ 素早さ 9★★★★★★★★
◇ 魔力
19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 魔石の杖、紺碧の魔道衣
◇ 魔術 氷弾、氷柱、氷乱
◇ リネ ◇
◇ レベル 24
◇ HP 751/751
◇ 攻撃 7★★★★★★★
◇ 防御 16★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ 11★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
27★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、創造の杖、聖星清衣
◇ 魔術 雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療薬 25




