第300話 帰還
エミカの魔力が崩壊していく。
天界石にはいくつもの亀裂。
今にもバラバラになりそうだった。
崩壊魔術 崩球が繰り出される。
杖の先に巨大な濃紺の玉が生まれる。
その球の表面には黒と白の模様。
混沌と形を変えて浮かんでいる。
急激に広がって、飲み込む。
玩具人形のような魔真体を。
圧倒的な魔力で崩壊させていく。
◇ 魔真体に937468のダメージ
魔真体はバラバラになった。
バラバラになった一つ一つのかけら。
それらがフルフルと震える。
アルジとエミカに襲い掛かろうとする。
だが。
エミカ「させるかっ!!!!」
もう1つの崩壊魔術。
壊玉。
小さな濃紺の玉がいくつも生み出される。
勢いよく飛んでいく。
魔真体のかけら1つ1つに向かって。
飲み込み、すべて崩壊させる。
◇ 魔真体に987483のダメージ
膝から崩れ落ちるエミカ。
ありったけの魔力をすべて放出した。
砕け散る天界石。
エミカ「これで…終わった…。
やりました…先生…ミリ…アヅミナさん…」
◇ エミカの魔力は崩壊した。
◇ 天界石の杖を失った。
アルジ「エミカ…」
エミカ「…アル…ジ…」
魔力を失って、放心状態のエミカ。
うつむき、ぼんやり床を眺めている。
そのとき。
アルジは気づいた。
玩具人形が抜け出した抜け殻。
それが赤く強く光っているのを。
核を失い、暴走する。
いくつも突起を飛ばして襲ってくる。
直感した瞬間に彼は駆けていた。
突風のように。
剣を振り上げる。
アルジ「うおおおおおお!!!!!」
駆けていく中、記憶が鮮烈に蘇る。
それは、エオクシと交わした言葉。
◆◆ 3日前 ◆◆
◆ 大前隊 訓練場 ◆
都で戦士を集めて戦った夜のこと。
アルジとエオクシが戦い、互いに倒れたあと。
エオクシの生い立ちについてアルジは聞いた。
道場から破門されたこと。
当主の挑戦を受けたこと。
そして、大前隊に入ったことを。
その話を聞いて、アルジも話す。
話さずにはいられなかったことを。
アルジ「エオクシ」
エオクシ「なんだ」
アルジ「オレの話も聞いてくれ」
エオクシ「なんの話だ?」
アルジ「オレがどうして強くなりたいのか…だ」
エオクシ「おう、聞かせてみろよ」
アルジ「友達が死んだんだ」
エオクシ「………」
アルジ「3年前のことだ。
オレの…大事な友達が2人…殺された。
村に魔獣がやってきて、戦っていて、
オレは剣でそいつを倒そうとした…。
そのとき、一緒に戦ってくれた友達が死んだ。
オレたちは小さな村で暮らしていて、
遊ぶときはいつも一緒だった…。
2人とも…かけがえのない…友達だった」
エオクシ「………」
アルジ「あのとき…!オレが…!!
もっと強かったら…!!あんな魔獣…!!
簡単に倒せてたら…!!あいつらは…!!
あいつらは…死んでなくて…!!今も…!!
今も普通に生きていて…!!3人でまた…!
また…バカなことをやって…!!」
エオクシ「………」
アルジ「死なせたくなかった!
大事な友達を…死なせたくなかった…!!
だから…!!だからオレは…!!
強くなりたかった!!ずっと!!ずっと!!
強くなりたかったんだ!!強ければ!!!
強くなれば…!!仲間を守れる…!!!
誰も死なせないで済む!!そう思った!!」
エオクシ「………」
アルジ「オレが強くなりたいと思ったのは…
そういうことだ…」
エオクシ「………」
訓練場を、熱を帯びた沈黙が満たす。
アルジ「エオクシ…?」
エオクシ「…ああ」
アルジ「………」
エオクシ「…そうか」
アルジ「………」
エオクシはアルジに笑いかける。
2人とも大の字で寝たまま。
エオクシ「今度は守ってやれ」
アルジ「………」
エオクシ「大事な仲間を…」
アルジ「ああ…」
エオクシ「………」
エオクシは天井を見て言う。
エオクシ「ちっとは分かった…。
おめえの強さの理由が…」
アルジ「エオクシ…」
エオクシ「誤解がねえように言っとくが…」
アルジ「…?」
エオクシ「オレは…
おめえに守られるほどもろくねえからな」
アルジ「…!」
エオクシ「守ってやろうなんて思わねえことだ」
アルジ「………」
エオクシ「だが、いざというときは頼んだ」
アルジ「…おう」
エオクシ「それはお互い様だ」
アルジ「ああ…」
◆◆ 現在 ◆◆
◆ ゼゼ山の地下 秘術空間 ◆
真っ赤に光る勇気の剣。
勢いよく振り下ろす。
魔真体を斬り裂く。
アルジ(オレは…もう誰も…死なせない!!)
続けて斬り上げる。
究双勇壮斬撃が命中。
◇ 魔真体に937468のダメージ
さらに。
アルジ「うおおおお!!!行くぜ!!!!!」
剛刃波状斬撃。
◇ 魔真体に475837のダメージ
◇ 魔真体に518273のダメージ
◇ 魔真体に558379のダメージ
◇ 魔真体に628374のダメージ
◇ 魔真体に784722のダメージ
◇ 魔真体に817234のダメージ
◇ 魔真体に901560のダメージ
◇ 魔真体を倒した。
青くなり、白くなり、黒くなる。
そして、どろどろに溶けていった。
アルジ「はぁー……はぁー……」
完全覚醒状態が終わる。
肌の色は元に戻り、力が失われていく。
勇気の剣は崩れていく。
砂団子のようにボロボロと。
◇ アルジの力は失われた。
◇ 勇気の剣を失った。
アルジ「………」
エミカ「アルジ…」
エミカが歩いて近づいてくる。
ふらふらになりながら。
アルジ「…終わった。これで…終わったんだ…」
エミカ「…うん…」
激しい揺れ。
壁も天井も真っ青になる。
アルジとエミカは周りを見回す。
遠くに光る床を見つける。
アルジ「あれだ!!」
急いで走っていく。
2人で光る床を踏む。
その瞬間、ぐにゃりとゆがむ。
壁が、床が、天井が。
上へ、上へ、戻される。
気がつけばゼゼ山の長い穴の中。
エミカが小さな火球を出して灯りにした。
振り返らずに急いで外を目指す。
穴から外に出たとき。
2人はもうへとへと。
倒れ込んで荒い呼吸。
しばらくして支え合って立ち上がる。
ふらふらした足取りで下山を始める。
空は薄暗い。
日が沈もうとしていた。
アルジ「なあ…」
エミカ「…ああ」
アルジ「また…都に行かないとな…」
エミカ「そうだな…報告しないとな」
アルジ「それだけじゃないぜ」
エミカ「…?」
アルジ「懸賞金だ」
エミカ「…ああ」
アルジ「残りも全部もらって…帰ってくるぜ」
エミカ「…もちろん」
アルジ「それと…あ!」
アルジが言いかけたとき。
彼の鎧がバラバラになって落ちた。
魔真体の攻撃を受けて、もはや限界だった。
◆ 都 大君の城 ◆
大君が目覚める。
さっきまで浅い眠りに就いていた。
トキノナガ「………」
世話係「いかが…なさいましたか?」
トキノナガ「夢を見ていたのじゃ」
世話係「どんな夢でございますか?」
トキノナガ「いい夢だったのじゃ」
世話係「それはそれは…」
トキノナガ「ガオスを呼んでくるのじゃ」
世話係「は…」
トキノナガ「大陸の危機は去ったのじゃ」
世話係「…!!?」
トキノナガ「早く呼んでくるのじゃ」
世話係「はい!!」
走っていく世話係。
大君は一人、静かに言う。
トキノナガ「アルジ…!エミカ…!
よくやったのじゃ…!」
◆ ゼゼ山 ◆
鎧を拾い上げるアルジ。
そのとき。
ひらりと1枚の紙切れが落ちた。
アルジ「………」
エミカ「それって…」
アルジ「…ああ」
細長い真っ黒な紙切れ。
そのとき。
エミカが気づく。
エミカ「アルジ…」
アルジ「なん…で…」
ナキ村の村人たちが集まっていた。
遠くからアルジとエミカを見つめている。
村長を先頭にして、静かに立っている。
エミカ「避難先から…?どうして…」
アルジ「あ…」
エミカ「…どうした?」
アルジ「魔真体と戦うってこと…
親にはバレちまったんだった…」
エミカ「…それで広まったのか?」
アルジ「そうかもな…」
2人は歩いていく。
村人たちが待つ、小さな広場へ。
ダオキチもチオリもいる。
アルジが拳を上げる。
大きな歓声が上がる。
それから、アルジは言った。
アルジ「ただいま」
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 4
◇ HP 145/145
◇ 攻撃 8★★★★★★★★
◇ 防御 4★★★★
◇ 素早さ 4★★★★
◇ 魔力 1★
◇ 装備
◇ 技 円月斬り
◇ エミカ ◇
◇ レベル 4
◇ HP 127/127
◇ 攻撃 2★★
◇ 防御 2★★
◇ 素早さ 5★★★★★
◇ 魔力 7★★★★★★★
◇ 装備 濃色魔術衣
◇ 魔術 火球
◇ 持ち物 ◇
◇ 魔力回復薬 20、活汁 2
◇ 創造の杖、安定の玉




