第295話 変更
9月24日に完結します。残りあと5話です。
長めの物語ですが、読んでいただけたら幸いです。
ご評価、ご感想もいただけたら嬉しいです。
エミカは急いで魔力回復薬を飲む。
苦しんでいるシノミワを回復させるために。
メイニナ「…無理です」
エミカ「え…?」
メイニナ「魔術では治せません」
エミカ「………」
うずくまったままのシノミワ。
彼女の肌に浮かぶ、赤と黒のいくつもの斑点。
じわり、じわりとそれらは大きくなっていく。
メイニナは布を取り出す。
大きく広げてシノミワに被せる。
頭から足元まですっぽりと覆う。
メイニナ「私の秘術で応急処置を施します」
アルジ&エミカ「………」
防衛隊員「何が…起きたんだ…?」
メイニナ「私にも分かりません」
シノミワ「ウウウウ…ウウウウウ…」
布が青白く光る。
シノミワのうめき声がやむ。
メイニナはきょろきょろと見回す。
ゼゼ山のふもとに広がる林の中を。
アルジ「秘術の攻撃か?」
メイニナ「…そのようです。…あ」
あちらこちらに日の光が差し込む。
そんな光に照らされた地面。
そこにメイニナは見つける。
1本の小さな杭を。
近づき、引き抜き、彼女は見つめる。
メイニナ「なるほど…」
アルジ「どうしたんだ?」
メイニナ「これは『秘術返し』…ですね」
アルジ&エミカ「………」
メイニナ「あらかじめ仕込まれていた。
番人たちが倒れたとき、力が作用するように。
聞いたことはあります。そういう秘術のこと。
ですが、実際に使ってくるとは…まさか…」
メイニナはさらに探して、見つける。
地面に打たれたいくつもの杭を。
2本目、3本目、4本目。
引き抜いて、眺めて、荷物入れにしまう。
5本目を見つけて、引き抜いたとき。
彼女はもうそれ以上探すのをやめた。
手にしていた5本目の杭は足元に投げ捨てる。
メイニナ「………」
アルジ「メイニナさん、
シノミワさんは治せるのか?」
メイニナ「………」
アルジの声はメイニナに届かない。
それだけ彼女は思考に集中していた。
メイニナ(助からない…。
このままでは…シノミワさんは。
赤と黒…。
これらの斑点が出ているうちはまだ大丈夫。
青と白…。
これらが出てきてしまったときは危ない…。
都まで間に合うだろうか。都まで行けば…)
エミカが問いかける。
エミカ「私たちに…できることはありませんか?」
メイニナは我に返る。
メイニナ「申し訳ございません」
アルジ&エミカ「………」
メイニナ「大変申し訳ございません」
アルジ「…どうしたんだ?」
メイニナ「当初の予定では、魔真体を倒したあと、
私たちはカルスに乗って都へ戻る予定でした。
合離蝶を使って操縦士たちを呼んで、
迎えにきてもらうのです」
メイニナは懐から合離蝶を出して見せる。
メイニナ「これです」
アルジ「…ああ」
メイニナ「都に着いたら、お城へ行き、
大君と総合統合官に報告する予定でした。
魔真体を倒したと。それが当初の予定でした」
アルジ「ああ」
メイニナ「その予定を変えなければなりません」
エミカ「シノミワさんは…」
メイニナ「このままでは助かりません」
アルジ&エミカ「………」
メイニナ「今…シノミワさんは害されています…。
番人たちがこっそりと仕掛けていた、
杭を用いた卑劣な秘術で…。
赤と黒、さらに青と白の力で害されています。
私の力でできるのは、食い止めることだけ…。
食い止めることはできても、
原因を取り除くことは…」
アルジ「それなら…」
メイニナ「今、ここで…
シノミワさんを治すことはできません」
アルジ&エミカ「………」
防衛隊員「何がどうなってるんだ…?
秘術、秘術って…一体なんの話だ…?」
メイニナ「隊員さん」
防衛隊員「ああ…」
メイニナ「背負っていただけますか?」
防衛隊員「背負う…?」
メイニナ「…はい。シノミワさんのことを…。
ここから…村にたどり着くまで。
重篤な状態なのです…。
命に関わる危険な状態なのです。
ですので、どうかお願いです…」
防衛隊員「ああ…いいだろう!」
メイニナ「ありがとうございます」
シノミワは地面に伏せていた。
全身の力が抜け、ぐったりとした様子。
そんな彼女を防衛隊員は背負う。
メイニナの布で全身を覆ったまま。
背負われたシノミワ。
彼女の背中を見つめてメイニナは思う。
メイニナ(今こそ…ご恩をお返しするとき…。
道場のみんなで力を合わせれば…解けるはず。
シノミワさんにかけられた秘術は…
きっと…解けるはず。待っていてください…。
それまで死なないでください…。
私たちが…絶対に…治してみせますから!)
メイニナはアルジとエミカに言う。
メイニナ「申し訳ありませんが、
私たちはここでお別れです」
アルジ&エミカ「………」
メイニナ「シノミワさんと私は…
都へ戻らなければなりません」
アルジ&エミカ「………」
メイニナ「大変…申し訳ございません」
アルジは問いかける。
力の抜けた声で。
アルジ「戦いは…どうする…?」
メイニナ「………」
悲しげな顔でメイニナは黙り続けた。
アルジはさらに問いかける。
さっきより声に力を込めて。
アルジ「魔真体と戦うのは、どうするんだ?」
メイニナ「………」
メイニナは肩をすくめて、歯を食いしばる。
それから、震える声で答えた。
メイニナ「それは…」
アルジ「………」
メイニナ「私が決めることではございません」
アルジ「………」
メイニナ「予定を変更しなければならない今…
戦うか、戦わないか、
それを決めることはできません」
アルジ「………」
メイニナ「少なくとも…
シノミワさんと私には…
戦うという選択肢はございません」
アルジ「それは…分かる」
メイニナ「はい」
アルジ「都に帰るな…なんて言うつもりはないぜ」
メイニナ「ご理解くださりありがとうございます」
エミカが不安な顔で問いかける。
エミカ「これから…魔真体とどう戦ったら…?
シノミワさんとメイニナさんの…
秘術がなかったら…」
メイニナ「戦わなくても…いいと思います…」
アルジ&エミカ「………」
メイニナ「政府はあなた方を責めません」
アルジ&エミカ「………」
メイニナ「正式な命令や依頼ではありませんし…。
戦うことをやめても、誰も責めません」
アルジ&エミカ「………」
メイニナ「むしろ…
あなた方はよくやってくださいました。
赤と青の番人の討伐は…
あなた方がいてくれたからできた。
その働きだけでも十分過ぎると…私は思います。
面倒な番人がいなくなったので…
討伐隊も魔真体との戦いに専念できます」
アルジ「待ってくれ」
メイニナ「………」
アルジ「討伐隊は…間に合わないんだろ」
メイニナ「誤解なさらないでください」
アルジ「…?」
メイニナ「魔真体は…
今すぐにでも倒さなければならない」
アルジ&エミカ「………」
メイニナ「これは確定事項ではありません。
学術院の学者たちが言っているだけです。
今すぐ倒さなければ、大陸が滅びてしまう。
必ずそうと決まっているわけではありません。
ですから、この点を誤解なさらないでください」
アルジ&エミカ「………」
メイニナ「3日…。たった3日です。
まだ分かりません。
討伐隊が来れば、魔真体を倒して、終わりです。
今回の危機は…」
そのとき。
シノミワ「ううう…ううううう…」
防衛隊員「おい!大丈夫か!!」
メイニナ「いけない…」
防衛隊員はシノミワを背負い続けていた。
メイニナが駆け寄り、布に力を込める。
シノミワのうめき声がやむ。
メイニナ「申し訳ございませんが、
私たちはこれで…」
防衛隊員「よし、行くぞ!」
アルジ&エミカ「………」
メイニナ「やっぱり…少し待ってください」
防衛隊員「…?」
メイニナはアルジとエミカの方へ歩いていく。
メイニナ「もし、よろしければ…
一緒に来ませんか?
都に…私たちと…来ませんか?
戦わないのなら…」
アルジ&エミカ「………」
メイニナ「考える時間が…必要なようですね」
アルジ「ああ…」
メイニナ「これを差し上げます」
アルジ「………」
メイニナは茶の入った容器を荷物入れから出した。
アルジはそれを受け取る。
メイニナ「どうぞ…。
心を落ち着けて、悔いのないご判断を」
アルジ「今まで…ありがとう。メイニナさん」
エミカ「…ありがとうございました」
メイニナ「こちらこそ…」
アルジ「じゃあな。気をつけて」
エミカ「…さようなら」
メイニナ「あなた方も…どうか無理なさらず…」
メイニナは背を向けて歩き出す。
防衛隊員はアルジとエミカに一礼する。
林の中、2人は去っていく。
シノミワも防衛隊員に背負われ、運ばれていく。
ナキ村の方へ。
◇ シノミワは仲間から外れた。
◇ メイニナは仲間から外れた。
アルジとエミカ。
2人だけが残された。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 35
◇ HP 4787/5005
◇ 攻撃
60★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
57★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
56★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
20★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、闘主の鎧
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、
壮刃破竜斬撃、雷刃剣
◇ 魔術 雷動
◇ エミカ ◇
◇ レベル 32
◇ HP 3388/3577
◇ 攻撃 12★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
32★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
48★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 魔力
60★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、濃色魔術衣
◇ 魔術 火弾、火球、火砲、火樹、火海、王火
氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術
天火
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 20、活汁 4
◇ 創造の杖、安定の玉