第289話 建前
◆ ナキ村 公会堂 ◆
戸が開けられる。
出てきたのは、ナキ村の警備隊員。
警備隊員「誰だ?お前たちは…って、アルジ!」
アルジ「帰ってきたぜ」
アルジ。
その名前に村人たちが反応する。
立ち上がり、玄関の方へ続々とやってくる。
彼らはアルジの姿を見て、次々と声を上げた。
村人A「アルジ!!」
村人B「帰ってきたのか!」
村人C「無事だったんだ!」
村人D「安定の玉は…?」
アルジは荷物入れから取り出し、差し出す。
安定の玉を。
アルジ「これだ。取り返したぜ」
村人たち「おお…!おおお…!!」
奥の方から老人がゆっくりと歩いてくる。
ナキ村の村長だった。
アルジの目の前まで来て、安定の玉を受け取った。
村長「よくやった。よくやったぞ。アルジ」
アルジ「ああ」
それから、村長はじっと安定の玉を見つめる。
見る角度を変えて、その色、形をよく確かめる。
そして、大きな声で言う。
村長「安定の玉だ!!本物だ!!間違いない!!」
村人たち「うおー!!」
公会堂内は一気に盛り上がる。
そこに集まっていたのは全部で44人。
それ以外のほとんどはすでにワノエへ避難。
アルジ「ここは危険だ。早く避難しろ」
村長「いや…」
アルジ「………」
村長「ワシらは最後までこの地に残ることにした」
アルジ「何言ってんだ」
村長「先祖代々暮らしてきた大切な土地だ。
離れて捨ててしまうなど無理なことだ」
アルジ「防衛隊は?避難命令が出てるんだろ」
村長「ワシらの意思を尊重する。
そう言って、去っていった」
アルジ「なんだって…?帰ったのか?」
村長「いや、ゼゼ山のふもとにいる。
新たな異状がないか見張ってくれておる。
いざというときはこちらに知らせる約束だ」
アルジ「知らせがあったときはどうするんだ?」
村長「何もせん。
ただここで最後の時を待つとしよう」
アルジ「何言ってんだ!そんなのはダメだ!!」
村長「………」
アルジたちを迎えた警備隊員が言う。
警備隊員「なあ、大丈夫なんじゃないのか?」
アルジ「え…?」
警備隊員「安定の玉がこうして戻ってきたんだ。
地盤が安定して…
ゼゼ山の崩落も収まるんじゃないのか?
この村も助かるんじゃないのか?」
アルジ「それが…そうじゃないんだ」
警備隊員「………」
困惑し、ざわめく村人たち。
シノミワが前に出る。
公会堂の中へ。
足を踏み入れる。
シノミワ「私から説明させてください」
警備隊員「あんたは一体…」
シノミワ「政府の関係者でございます。
総合統合官として大君に仕えておりました。
シノミワと申します」
警備隊員「!…は!?総合統合官様が…!!?」
村人たち「…!!!」
村長「…ほう」
玄関のすぐ近く。
戸が開け放たれた広い部屋。
村人たちはその部屋に集まっていた。
シノミワはその部屋の中を指差して言う。
シノミワ「あちらのお部屋を使わせてください。
大切なお話がございます。少しで結構です。
みなさんのお時間をください」
村人たち「………」
村長「…いいでしょう。上がってください」
公会堂の中へ進むアルジたち。
部屋へ通される。
アルジたちは奥へ進んだ。
村長「どうぞ、楽にしてください。
そこへ座ってください」
シノミワ「…はい」
アルジ、エミカ、シノミワ、メイニナ。
そして、3人の操縦士。
村長をはじめとする44人の村人たち。
双方が向かい合い、床に座る。
シノミワが立ち上がり、話を始めた。
シノミワ「みなさんも…
気づいておられると思いますが、
今回のゼゼ山の崩落…
これは、ただの崩落ではございません」
村人たち「………」
村長「よく分かっておる。
防衛隊も言っておった。
土砂やら何やらで、村が潰れるかもしれんと。
だから、すぐに避難せよと…」
シノミワ「その程度の話ではないのです」
村長「何…?」
シノミワ「この村が潰れる。
それだけではないのです。
クユの国、さらには、大陸全土が危ういのです。
そのような大きな危険が迫っているのです」
村長「大陸全土が…?そんなバカな話が…」
警備隊員「嘘だろ…」
アルジ「本当だ!!!!!!」
村長&警備隊員「…!!」
村人たち「………」
アルジ「だから、シノミワさんの話を聞いてくれ」
シノミワ(…アルジさん、ありがとう)
シノミワは続ける。
シノミワ「昨日、緊急の大政会が行われました。
そこで扱われたのは、大陸の危機について。
魔真体が目覚めたとき、どうするか。
政府の幹部、専門家、そして、アルジさん。
多くの民が見守る中、公然と話し合われました。
どんなことが話し合われ、結論はどうなったか。
クユの国から正式な発表があることでしょう。
あるいは、間に合わないかもしれない…」
村人たち「…?」
シノミワ「魔真体は恐ろしい怪物でございます。
古代国家を滅ぼした過去がございます。
ひとたび目覚めれば、どうなるか分かりません。
村や町…いいえ、国の1つや2つ…一瞬で…
簡単に…吹き飛ばしてしまうかもしれません」
村人たち「…!」
シノミワ「それが今、目覚めようとしています。
経緯はいろいろありますが、時間がありません。
省略します。現状について端的にお伝えします」
村長「もしや…魔真体とやらは…」
シノミワ「…お察しのとおり」
警備隊員「まさか…!」
シノミワ「ゼゼ山の下にそれはおります。
私どもは、学術院の学者から話を聞きました。
古代国家を専門に扱う者たちでございます。
彼らから聞きました。
ほぼ間違いなく、それはそこにいる。
そして、今まさに目覚めようとしている。
そういうお話でございました」
村長「今回の崩落は…」
シノミワ「その前兆に過ぎません」
村長「それなら…」
シノミワ「すぐに避難が必要です」
村長「…待ってください」
シノミワ「………」
村長「大陸全土が危険なら…
ワノエに避難したところで…」
シノミワ「ご安心を…」
村長「………」
シノミワ「3日後…
政府の討伐隊がここに集結します。
今は十分な戦力を集めているところです。
大前隊から、防衛隊から、警備隊から、
強者を選び、招集しております。
彼らが来れば、魔真体は必ず倒せます」
村長「それならば…ここにいても…」
シノミワ「どのような戦いになるか。
それは分かりません」
村人たち「………」
シノミワ「魔真体がゼゼ山から出てくれば…
この村全体が瞬く間に火の海と化すでしょう。
魔真体は倒せても、あなた方が危ういのです。
魔真体に殺される。それは、ひどい死に方です。
村とともにいたい。愛する村で最期を迎えたい。
そのような話では断じてございません。
得体の知れない怪物に焼かれ、潰され、死ぬ。
あなた方はそのような最期をお望みですか?
そうではないでしょう。ですから、避難を…」
警備隊員が立ち上がって言う。
警備隊員「本当に…大丈夫なのかよ」
シノミワ「………」
警備隊員「一瞬で…
国をぶっ壊せるような化け物なんだろ。
政府の討伐隊で…そんなもんを…
本当に倒せるのかよ」
シノミワ「確実に倒す…」
警備隊員「………」
シノミワ「そのために私たちがここへ参りました」
シノミワの言葉を聞き、アルジも立ち上がる。
アルジ「そうだ…!!だから、オレたちが…」
シノミワ「事前の調査をしにきました」
警備隊員「………」
アルジ「…え…?」
エミカ(…そういう建前…なのか)
アルジ(調査だって?)
エミカ(…魔真体は討伐隊が倒す。
3日後、ここに集まって。
それが政府の公式発表…。
その前に…どこかの誰かが勝手に戦う…
そんなこと…あってはいけない。
刺激して飛び出してきたら、大変だから…。
でも…間に合わない。
間に合わないから、私たちがやるしかない!
私たちの戦いは…隠されるべきもの…
この先の戦いは…秘密の戦い…)
エミカが座ったままアルジの手をつかむ。
アルジ「エミカ…?」
エミカ「…ここはシノミワさんに任せよう…」
アルジ「………」
エミカが小さな声でアルジに言う。
エミカ「…3日後じゃ間に合わない…」
アルジ「………」
エミカ「…このことは、まだ誰も知らない…」
アルジ(…そうか。そういうことか。
少し分かった…。シノミワさんの考えが。
オレたちの戦いは…みんなには秘密…。
そういうことか)
アルジは力なく座る。
シノミワは説明を続ける。
少しでも村人たちを安心させるために。
シノミワ「幸いにも…
魔真体はまだ完全に目覚めていません。
今のうちに魔真体がどんな力を持っているか、
私たちがよく調べて、討伐隊に報告します。
そして、最も確実な方法で討伐隊は戦います。
ですから、不安に思うことはございません」
村長「…ふむ。そうですか」
村長がゆっくりと立ち上がる。
そして、村人たちに向かって問いかけた。
村長「みなさん、ここはどうだろう」
村人たち「………」
村長「このお方に…
アルジに…任せてはどうだろうか?」
村人たち「………」
警備隊員「安定の玉も…取り返してくれたしな…」
村長「…そうだ」
警備隊員「信じて、任せよう」
そして、村人たちから声が上がる。
村人A「…異議なし」
村人B「異議ありません」
村人C「異議なし!」
村人D「お願いします」
村人E「調査、頑張ってください」
村人F「アルジ、頼んだぜ!!」
シノミワがほほえみ、操縦士たちに合図を出す。
操縦士たちは素早く立ち上がる。
そして、村人たちに告げた。
操縦士A「私たちがみなさんを連れていきます」
操縦士B「カルスに乗っていただきます」
操縦士C「ワノエまでわずかな時間で行けます」
村人たち「…!!」
村長「それは…素晴らしい…」
操縦士A「申し訳ありませんが、
2回に分けてお送りします」
操縦士B「カルスにも限界がございますので」
操縦士C「最初の便に乗られたい方は、どうぞ」
譲り合う村人たち。
1回目の飛行に誰が乗るのか。
なかなか決まらない。
操縦士A「村長さん」
村長「あ…はい」
村長が村人1人1人に声をかけて決めていく。
そして、最初に乗る20人が出ていった。
操縦士たちに連れられて。
村長を含めた残りの24人。
彼らは公会堂にとどまった。
シノミワが告げる。
シノミワ「カルスが戻り次第、
操縦士がまたここへ来ます。
みなさんをご案内しますので、お乗りください。
それまでここでしばらくお待ちください」
村人たち「………」
村長「…分かった。待つとしよう」
アルジが村長に近づき、声をかける。
アルジ「村長」
村長「アルジ…」
アルジ「旅の途中…ゲンダさんに会った」
村長「ゲンダ…?」
アルジ「…見てくれ。その人がオレにくれた。
欠けていた勇気の剣の先端を」
村長「お…おお…!あいつか!!
元気にしていたか!?」
アルジ「ああ。今は猟師として活躍してる」
村長「そうだったか…」
アルジ「見てくれ。勇気の剣は完全な形になった」
村長「なんと…くっついたのか…!」
アルジ「ああ。不思議な力で…な」
村長「………」
アルジ「村長、資料を…」
村長「…は?」
アルジ「資料を見せてほしい。この剣についての」
村長「………」
アルジ「ナキ村にあるんだろ?
ゲンダさんから聞いたんだ」
村長「ああ…あるにはあるが…」
アルジ「この剣がなんなのか。
オレはもっと知りたい」
村長「………」
シノミワ「どこにありますか?」
村長「資料館だ。
郷土資料と一緒にしまってあるが…」
アルジ「そうか、なら、今から行こう。
見せてくれ!」
村長「あ…ああ」
シノミワ「2回目の飛行に間に合わないときは、
改めてあなたを乗せてワノエに送ります」
村長「…そうですか」
エミカ「資料館までは?
遠かったらラアムとナアムで行こう」
アルジ「大丈夫だ。歩いてすぐだから」
エミカ「そうか」
アルジ、エミカ、シノミワは公会堂から出ていく。
村長を連れて資料館へ向かう。
警備隊員「なあ、村長!
アルジ!!総合統合官さんも!!
…行っちまうのか?」
アルジ「用が済んだらすぐに戻ってくる」
警備隊員「…そうか」
村人たち「………」
不安そうな顔で床に座り続ける村人たち。
落ち着いた声でメイニナが彼らに言う。
メイニナ「ご安心ください。私はここに残ります。
心が安らぐお守りをお配りしましょう」
村人たち「………」
シノミワ(…メイニナ。ありがとう)
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 34
◇ HP 4787/4787
◇ 攻撃
59★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
55★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
54★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、闘主の鎧
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、
壮刃破竜斬撃、雷刃剣
◇ 魔術 雷動
◇ エミカ ◇
◇ レベル 32
◇ HP 3388/3388
◇ 攻撃 11★★★★★★★★★★★
◇ 防御
32★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
45★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★
◇ 魔力
58★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、濃色魔術衣
◇ 魔術 火弾、火球、火砲、火樹、火海、王火
氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術
天火
◇ シノミワ ◇
◇ レベル 41
◇ HP 822/822
◇ 攻撃 4★★★★
◇ 防御
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 秘力
40★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備
秘術道具(幻印、例札、思針、心糸)、高護貴帯
◇ 魔術 火弾、火砲、火刃
◇ 秘術 赤画、赤封、赤除、赤洪、赤滅
青画、青封、青跡、青結、青葬
白紋、白掃、白限、白威、白廃
黒紋、黒弦、黒貫、黒壊、黒破
◇ メイニナ ◇
◇ レベル 33
◇ HP 1947/1947
◇ 攻撃 7★★★★★★★
◇ 防御 16★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 魔力
29★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★
◇ 秘力
44★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★
◇ 装備 秘術道具(感紙、覚布)、風雅装衣
◇ 魔術 雷弾、雷砲、雷波、雷突、雷進、王雷
光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術
◇ 秘術 赤折、赤拡、赤絡、赤結、赤包
青折、青縮、青絡、青結、青包
白曲、白重、白束
黒曲、黒貫、黒巻
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 30、活汁 4
◇ 創造の杖、安定の玉




