第288話 大切
シノミワは語った。
先代の大君が殺されかけた事件について。
シノミワ「先代様が行事にご出席されたとき。
先代様、政府幹部、護衛が並んで歩きます。
お城から離れた、催し物が行われる会場まで。
護衛が細心の注意を払います。
先代様に身の危険がないように。
ですが、襲われてしまいます。
突然、3人の暴漢が現れます。
先代様に向かって突進します。
長く、鋭い刃物を持って。
それは極めて巧妙な襲撃でした。
護衛の配置の穴を突いたのです。
先代様は腕を負傷なさいました。
ですが、命に別状はございません。
護衛がその場で2人を殺し、1人を捕まえます。
そして、犯人を調べることになりました。
魔術院の魔術師を呼びます。
審理院から調査員を集めます。
襲撃の動機は何か。
どうして護衛の穴を突けたのか。
精神操作によって洗いざらい話させます。
犯人は答えます。私はその場におりました。
一部始終を見て、聞きました。
犯人の答えは、とても恐ろしいものでした」
アルジ「なんて答えたんだ?」
シノミワ「命じられたのだそうです。
反体制的で暴力的な組織から。
その組織はどこの、どのような組織か。
当人もよく知らないとのことでした。
お金をもらって使われただけだったようです。
そして、護衛の穴を突いた方法…
ここに大きな問題がございました。
犯人は護衛の配置を把握していたそうなのです。
政府の機密情報をこっそり仕入れることで。
どうやって仕入れたのか。
情報提供者がいたそうです。
犯人は、はっきりとその名前を告げます。
その人は…」
アルジ&エミカ「………」
シノミワ「私の父でございました」
アルジ「なんだって…?」
シノミワ「父は情報を差し出した。
大金と引き換えに。
そういうお話でございました」
エミカ「もしかして…それは…」
シノミワ「…はい」
アルジ「え?あっ…そっか!」
シノミワ「はい…」
エミカ「シノミワさんの…」
シノミワ「行事に関する資料…
それを私は家に持ち帰っておりました。
父はそれを盗み見たのです。
そして、手紙を書いたのです。
悪しき反体制組織に。
情報をやる。だから、金をよこせと。
…そういうことでございます」
アルジ「なんで…そんなことを…」
シノミワ「父は憎んでいたのです。
政府を、心の奥底で。
父は欲していたのです。
下級文官では到底得られぬ大金を」
エミカ「それは…本当に…」
シノミワ「…本当です。
父も調査を受けましたので。
その調査は、私も秘術で支援しました」
アルジ(…ロニにやったようなやり方か)
シノミワ「調査が終わると、
父はその場で殺されました」
アルジ&エミカ「…!!」
シノミワ「当然といえば、当然です。
大君暗殺未遂事件の発端なのですから。
私は泣き崩れました。
受け入れ難い現実を目の当たりにして。
そのときでございました。
私は優しく包み込まれました。
温かな両腕で包み込んでくださったのは…
ほかでもなく、先代様でございます。
よいのだ、よいのだとおっしゃって、
包み込んでくださいました。
私の涙は、一層多く流れたのでございます」
シノミワは目に涙を浮かべる。
シノミワ「それから…
私は城に住むことを許されます。
先代様は私をシノ姫と呼ぶようになります。
私を一層大切になさってくださいました。
私は心に決めました。
何があろうと大君をお守りすると。
私の秘術でできることは、なんでもすると。
その決意のあと、私の秘力はさらに向上します。
今とほぼ同等の秘術を使えるようになります。
そして、私は…」
シノミワはメイニナの顔を見る。
シノミワ「後進者の育成にも励むようになります」
メイニナ「秘密の道場でビシビシ鍛えられてます」
アルジ「そっか」
シノミワ「私の秘術のお話は、以上です」
アルジ「ありがとう。シノミワさん」
エミカ「ありがとうございました。
お話していただき…」
シノミワ「いいえ」
メイニナ「お茶のおかわりはいかがですか?」
メイニナは茶を差し出す。
アルジたちは喉を潤す。
それからは静かに時を過ごす。
やがて遠くの空が白み始めた。
メイニナ「アルジさん、エミカさん」
アルジ「ああ」
エミカ「はい」
メイニナ「お疲れではありませんか?
ナキ村に着くまで眠っていても構いませんよ」
アルジ「大丈夫だ。全然眠くない」
エミカ「私もです。宿で眠ったから」
メイニナ「そうですか」
シノミワ「そうでしたら…」
シノミワがアルジとエミカに伝える。
シノミワ「今後の予定についてお話を」
アルジ「ああ。いいぜ」
エミカ「お願いします」
シノミワ「青と赤…2体の番人。
そして、魔真体。これらと戦う前に…
私たちはまずナキ村へ向かいます」
エミカ「はい」
アルジ「おう」
シノミワ「そこで村人たちを説得します。
防衛隊の避難命令に従わない村人たちを」
アルジ「ああ。オレも説得するぜ!!」
シノミワ「村人たちには、
ゼゼ山の地下に魔真体がいること、
魔真体は非常に危険な存在であること、
これらの事実をお伝えしましょう。
そして、避難するよう強く求めるのです」
アルジ「ああ」
シノミワ「どんな戦いになるのか。
それは私にも分かりません」
アルジ&エミカ「………」
シノミワ「私たちが勝利するにしても…
ゼゼ山から魔真体が出てきてしまえば…
多くの村人が犠牲になるかもしれません。
避難は絶対に必要です」
アルジ「そうだな」
カルスはすでにいくつかの国境を越えていた。
ナキ村までかなり近づいていた。
シノミワ「飛行は順調なようですね」
メイニナ「はい。早朝には着くでしょうね」
アルジは思いつく。
アルジ「シノミワさん」
シノミワ「はい」
アルジ「ナキ村に着いたら、
頼みたいことがあるんだけど」
シノミワ「なんですか?」
アルジ「シノミワさんは…
古代文字が読めるんだよな?」
シノミワ「はい」
アルジは勇気の剣をシノミワに見せて言う。
アルジ「ナキ村に…
この剣について書かれた資料があるらしい。
人から聞いただけで、
オレは読んだことがないんだけど。
古代文字で書かれている資料があるらしい。
それを読んでくれないか。
それで、教えてほしいんだ。
そこに一体何が書いてあるのか」
シノミワ「…古代文字の資料ですか。
そのようなものが…ナキ村に…。
いいでしょう。
ですが…あまり多くは読めません。
戦いまで時間が残されていませんので…」
アルジ「ああ、分かってる。
少しでもいい…。剣について知れたらいいんだ」
シノミワ「やってみましょう」
アルジ「ありがとう。本当にありがとう」
今度は、エミカがシノミワに聞く。
エミカ「シノミワさん」
シノミワ「…はい」
エミカ「シノミワさんは、どう思いますか?
古代文字が失われたことについて…」
シノミワ「………」
エミカ「ヤマタンさんからお話を聞きました。
私たちの祖先は大昔、異大陸に住んでいたと。
北土の魔術研究所のホジタからも聞きました。
大昔、ミオ民とノイ民が争っていたのだと。
魔真実が古代文明を滅ぼして、
それから新たな文明が生まれたと。
古代文字もそのとき失われたと。だけど…
まだ何かある気がしています。それは何か…
私には考えつかないですけど」
シノミワ「そんなことを気にしているんですか。
こんなときに」
エミカ「…はい。どうもすっきりしないので…」
シノミワ「…いいでしょう」
シノミワはほほえむ。
シノミワ「ホジタの説は誤りです」
アルジ&エミカ「………」
シノミワ「正確に言えば、カタムラの説は…
ということになりますが」
アルジ「カタムラって…」
シノミワ「学術院の学者です」
エミカ「それなら…」
シノミワ「政府は秘密裏に続けています。
異大陸の調査を。
カタムラの説は誤りである。
その証拠は、いくつも見つかっています。
そして、今現在、最も有力な説は…」
エミカ「有力な説は…?」
シノミワ「あら…」
西へ、西へ。
近くで鳥たちが隊列を組んで飛んでいた。
シノミワは遠くの地上をじっと見つめる。
シノミワ「まもなく到着のようですね」
メイニナ「あれがゼゼ山で…
近くの小さな村がナキ村ですね」
アルジ「ち…小さくて悪いか」
メイニナ「いえいえ、素敵な村だと思います。
いくつかの文献で調べてきただけですが…。
ああいうのどかなところにも
いつか住んでみたいと思ってますよ」
アルジ「…のどかなのは間違いないぜ」
エミカ(古代の話は、また今度にしよう。
これからいよいよ…戦いが始まるんだから…)
操縦士が告げる。
操縦士「まもなく着陸の準備に入ります」
カルスは下降していく。
朝日を浴びながら。
ゆっくりと、そっと、地面にその機体を着ける。
アルジたちが着いたのは、広い休耕地。
◆ ナキ村 ◆
その村は、静かな朝を迎えていた。
そよそよと吹く風。
さらさらと揺れる木々の葉。
ちりちりと鳴く鳥たち。
空は、朝の色。
よく晴れた、朝の色。
平穏そのものと言えるような風景が広がる。
大陸のすべてを破壊してしまうかもしれない。
そんな危険な存在が近くにあるというのに。
カルスから最初に降りたのは、アルジ。
静かに辺りを見渡す。
アルジ(帰ってきた…。
ナキ村に…帰ってきたんだ。
でも…終わってない。
旅は…戦いは…まだ終わっていない…!)
エミカ、シノミワ、メイニナが続いて降り立つ。
エミカ(ナキ村…アルジの村…)
メイニナ「村の方々は…
あちらにいると聞いています」
指差すメイニナ。
アルジ「…公会堂か」
メイニナ「かなりの人数が留まっていると…
クユの国の防衛隊からの情報です」
アルジ「行くぜ!オレが説得する!!」
勢いよく歩き出すアルジ。
シノミワ「待って」
アルジ「…なんだ?」
シノミワ「まずは私に説得させてください。
元総合統合官として話をさせてください。
それでダメなら、あなたからもお願いします」
アルジ「なんで…」
シノミワ「それは…」
エミカ「責任…ですか?」
シノミワ「そうです」
アルジ「………」
シノミワ「…それでは、行きましょう」
歩き出すアルジたち。
3人の操縦士たちも降り立つ。
1人がカルスを圧縮して懐にしまう。
アルジたちについてくる。
エミカが振り返って尋ねる。
エミカ「あなた方も…?」
操縦士たち「………」
メイニナ「3人も私たちの作戦に同行します」
アルジ&エミカ「………」
メイニナ「残っている村人を避難先へ送るために」
アルジ「避難先は…」
メイニナ「隣町のワノエでございます」
アルジ「そっか」
そして、シノミワが公会堂の戸を叩く。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 34
◇ HP 4787/4787
◇ 攻撃
59★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
55★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
54★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、闘主の鎧
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、
壮刃破竜斬撃、雷刃剣
◇ 魔術 雷動
◇ エミカ ◇
◇ レベル 32
◇ HP 3388/3388
◇ 攻撃 11★★★★★★★★★★★
◇ 防御
32★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
45★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★
◇ 魔力
58★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、濃色魔術衣
◇ 魔術 火弾、火球、火砲、火樹、火海、王火
氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術
天火
◇ シノミワ ◇
◇ レベル 41
◇ HP 822/822
◇ 攻撃 4★★★★
◇ 防御
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 秘力
40★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備
秘術道具(幻印、例札、思針、心糸)、高護貴帯
◇ 魔術 火弾、火砲、火刃
◇ 秘術 赤画、赤封、赤除、赤洪、赤滅
青画、青封、青跡、青結、青葬
白紋、白掃、白限、白威、白廃
黒紋、黒弦、黒貫、黒壊、黒破
◇ メイニナ ◇
◇ レベル 33
◇ HP 1947/1947
◇ 攻撃 7★★★★★★★
◇ 防御 16★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 魔力
29★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★
◇ 秘力
44★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★
◇ 装備 秘術道具(感紙、覚布)、風雅装衣
◇ 魔術 雷弾、雷砲、雷波、雷突、雷進、王雷
光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術
◇ 秘術 赤折、赤拡、赤絡、赤結、赤包
青折、青縮、青絡、青結、青包
白曲、白重、白束
黒曲、黒貫、黒巻
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 30、活汁 4
◇ 創造の杖、安定の玉




