表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルジ往戦記  作者: roak
287/300

第287話 双方

エミカはシノミワに聞いた。


エミカ「試験は…どうなったんですか?」

シノミワ「絶望的です」

エミカ「………」

シノミワ「当然といえば当然です。

 試験に備えて魔術を磨かなければならない。

 そんなとき、ほかのことをしていたのですから。

 ですが、私は決して諦めませんでした。

 途中で投げ出すことはしませんでした。

 試験の最後の最後まで私は真剣そのものでした。

 合格したい。その気持ちは変わりませんでした」

アルジ&エミカ「………」

シノミワ「試験は筆記と実技で行われます。

 午前中に筆記試験、午後は実技試験です。

 実技試験は2種類から選ぶことになります。

 『実演』と『模擬戦』の2種類から。

 実演は、魔術を出して試験官に見せるもの。

 模擬戦は、魔生体と戦って試験官に見せるもの。

 上位合格が見込める受験者は実演を選びます。

 得意な魔術を見せるだけでよいのですから。

 わざわざ危険を冒して戦わなくてよいのです。

 一方、模擬戦は成功すれば、高く評価されます。

 筆記試験が振るわなかった者、

 魔術を使った戦いに自信のある者、

 単に魔術を見せただけでは合格が見込めない者、

 そんな人が逆転合格のため模擬戦を選びます。

 当時は当時で情勢がとても不安定でしたから、

 戦える魔術師が重宝されておりました。

 模擬戦で逆転合格が狙える仕組み…

 それは、時代が求めていたものだったのです」

アルジ「シノミワさんは…」

シノミワ「魔術を見せただけでは通らない。

 それははっきりしていました。

 ですから、模擬戦を選びました」

エミカ「どうなったんですか?」

シノミワ「はい…」

アルジ&エミカ「………」

シノミワ「戦いが始まったときのこと。

 あのときのことはよく覚えています。

 試験官が大きな魔生体に魔力を込めます。

 動き出します。じりじりと近寄ってきます。

 鋭い眼光を向けてきます。うなり声を上げます。

 まるで本物の獣が迫ってくるかのようでした。

 あれは、本当によくできたものでした。

 とてもとても恐ろしいものでした。

 ですが、怖がっていては合格できません。

 自らを奮い立たせ、立ち向かいます。

 魔力を高め、得意の火術を使います。

 1発、2発、3発と私の攻撃が命中します。

 ですが、威力が足りません。

 魔生体は倒れません。

 あのとき、私は確かに聞きました。

 傍観していた受験者がせせら笑っている声を。

 悔しい。これでは試験に落ちてしまう。

 そんな気持ちが私をある行動に駆り立てます。

 もしかしたら、という淡い期待がありました。

 許されるのではないか。

 認められるのではないか。

 そして、評価されるのではないか。

 見てほしい。この力を見てほしい。

 それで合格できるのなら…。

 そして、私は…」

アルジ「秘術を使ったわけか」

シノミワ「………」

エミカ「…うまくいったんですか?」

シノミワ「私は分かっていました」

アルジ&エミカ「………」

シノミワ「私の魔力では合格できないと。

 実演にしても、模擬戦にしても。

 ですから、ああするしかありませんでした。

 あるいは、見せたかったのかも。

 ほかの誰にもない力を。

 誇示して、満足したかった。

 ただそれだけだったのかもしれません」

アルジ&エミカ「………」

シノミワ「制限時間がなくなりかけたときでした。

 魔生体が突進してきます。ここしかない。

 ここで決めるしかない。針と糸を出しました。

 針を刺し、糸を通します。魔生体の体に。

 突進を避けられず、私は腕を折られます。

 模擬戦失敗。そこで試験終了。本来なら。

 ですが…」

アルジ「赤滅を使ったのか」

シノミワ「………」

メイニナ「アルジさん」

アルジ「…ごめん。続きを頼む」

シノミワ「うずくまる私。駆け寄る試験官。

 傷の手当てを始めます。そのときでした。

 私の腕を折った魔生体が激しく体を震わせます。

 うなり、転がり、やがてだらりと地に伏せます。

 それっきり、それはもう動きません。

 まだ動けるはず。十分な魔力を注いだはず。

 試験官たちが不審に思って近寄ります。

 叩いても、蹴っても、それは動き出しません。

 すっかり息絶え、ただ腐敗していくかのように。

 それから、針と糸が見つかります。

 魔生体の体から。そして、協議が始まります。

 私の試験をどうするか。協議が始まったのです。

 シノミワは魔生体を倒した。倒したらしい。

 だが、どうやって。どんな魔術で倒したのか。

 分からない。不正があったのか。

 不正なら許されない。

 協議は長時間に及びました。そして…」

アルジ「どうなった?」

シノミワ「その日の試験は中止になりました。

 後日、私は正式に不合格になりました」

エミカ「シノミワさんの秘術は…」

シノミワ「認められませんでした。

 当然といえば当然です。

 得体の知れない奇妙な力。

 誰が魔術と認めるでしょう。

 そして、私がしたことは政府内に広まります。

 ある日、私は呼び出されました。

 聞き取り調査を受けることになります」

アルジ「不正だと思われたのか」

シノミワ「いいえ。そうではありません」

アルジ「それなら…」

シノミワ「呼び出したのは大君でございました」

アルジ「…!」

エミカ「大君が…」

シノミワ「先代様…先代の大君でございます。

 私の力に関心をお持ちになられたのです。

 それから、聞き取りは何度も行われました。

 最初は、護衛役など政府の者もおりました。

 ですが、同席者は減っていきます。

 聞き取りの回数を重ねるごとに。

 そして、14回目のときでした。

 大君と2人だけでお会いすることになりました。

 秘術のことなどほとんど話題に上がりません。

 身の上話をして、笑い合い、おしまいです。

 先代様は、私をお気に召してくださったのです」

アルジ&エミカ「………」

シノミワ「私には、特別な地位が与えられました。

 上位二事官じょういにじかん

 これが初めていただいた職位でございます。

 一級文官でも最短で9年かかる。

 それほど高い職位といわれております。

 そして、私は特別な任務に当たります。

 大君のお近くで、秘術を使う任務でございます。

 それは、なかなか大変で刺激的なものでした。

 不慣れな任務に当たるときは、

 家に資料を持ち帰り、事前に読み込み、

 備えることも多々ございました。

 役所のしきたりを知らない私には

 苦労や困難の連続でした。

 それでも、私は秘術を生かすことができ、

 充実感に満ちた日々を送れておりました。

 1年、2年と勤務年数を重ねるたび

 私は昇進していきました。

 お給料も上がっていきます。

 もう十分な暮らしができていました。

 その頃、父は体を壊して退官しておりました。

 私はちょうどよい時期に職を得られたのです」


アルジは見た。

シノミワの顔がわずかに引きつったのを。


アルジ「シノミワさん…?」

シノミワ「すべてが順調に思えたある日のこと。

 事件が起きました。

 とても忌まわしい事件でございます」

エミカ「どんな事件ですか?」

シノミワ「その前に…」

アルジ&エミカ「………」

シノミワ「父は働き者でございました。

 ノイ地方でも都でもせっせと働いておりました。

 三日三晩、眠らずに働き続けたこともある…

 満ち足りた顔で誇らしげに話しておりました。

 自分の地位を名誉に思い、

 激務に耐えておりました。

 このことは…

 政府からすれば都合がよかったと思います。

 少ない給料で多くの仕事をしたのですから。

 父の働きは双方にとってよいことでした。

 父にとっても、政府にとっても。

 双方にとって。そして、父は体を壊します」

アルジ&エミカ「………」

シノミワ「重い病を患って倒れて気を失います。

 業院で働いていたときのことでした。

 治療院へ運びこまれ、目を覚ましたのは翌々日。

 それからはほぼ寝たきりの生活になりました。

 私は介護人を雇い、父のお世話をさせました。

 施設に入れることも考えました。

 ですが、できませんでした。

 父が頑なに拒んだためでございます。

 弱った姿を人に見せたくなかったのでしょう。

 幸いなことに、父は介護人と打ち解けました。

 家に帰ると、よく親しげに話しておりました。

 私も安心して職務に打ち込めたのです。

 事件が起きたのは、そんなときでした」

アルジ「どんな事件なんだ?」

シノミワ「先代様が暗殺されかけたのです」



◇◇ ステータス ◇◇

◇ アルジ ◇

◇ レベル 34

◇ HP   4787/4787

◇ 攻撃

 59★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 防御

 55★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 素早さ

 54★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★

◇ 魔力

 19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 装備  勇気の剣、闘主の鎧

◇ 技   円月斬り、剛刃波状斬撃、

     壮刃破竜斬撃、雷刃剣

◇ 魔術  雷動


◇ エミカ ◇

◇ レベル 32

◇ HP   3388/3388

◇ 攻撃  11★★★★★★★★★★★

◇ 防御

  32★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★

◇ 素早さ

 45★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★

◇ 魔力

  58★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 装備  天界石の杖、濃色魔術衣

◇ 魔術  火弾、火球、火砲、火樹、火海、王火

      氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷

      雷弾、雷砲、雷柱、王雷

      岩弾、岩砲、岩壁、王岩

      光玉、治療魔術、再生魔術

      天火


◇ シノミワ ◇

◇ レベル 41

◇ HP   822/822

◇ 攻撃  4★★★★

◇ 防御

 18★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 素早さ

 18★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 魔力

19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 秘力

40★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

  ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 装備

 秘術道具(幻印、例札、思針、心糸)、高護貴帯

◇ 魔術  火弾、火砲、火刃

◇ 秘術  赤画、赤封、赤除、赤洪、赤滅

      青画、青封、青跡、青結、青葬

      白紋、白掃、白限、白威、白廃

      黒紋、黒弦、黒貫、黒壊、黒破


◇ メイニナ ◇

◇ レベル 33

◇ HP   1947/1947

◇ 攻撃  7★★★★★★★

◇ 防御  16★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 素早さ

 28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★

◇ 魔力

29★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

  ★★★★★★★★★

◇ 秘力

44★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★

◇ 装備  秘術道具(感紙、覚布)、風雅装衣

◇ 魔術  雷弾、雷砲、雷波、雷突、雷進、王雷

      光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術

◇ 秘術  赤折、赤拡、赤絡、赤結、赤包

      青折、青縮、青絡、青結、青包

      白曲、白重、白束

      黒曲、黒貫、黒巻


◇ 持ち物 ◇

◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 30、活汁 4

◇ 創造の杖、安定の玉

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ