第287話 双方
エミカはシノミワに聞いた。
エミカ「試験は…どうなったんですか?」
シノミワ「絶望的です」
エミカ「………」
シノミワ「当然といえば当然です。
試験に備えて魔術を磨かなければならない。
そんなとき、ほかのことをしていたのですから。
ですが、私は決して諦めませんでした。
途中で投げ出すことはしませんでした。
試験の最後の最後まで私は真剣そのものでした。
合格したい。その気持ちは変わりませんでした」
アルジ&エミカ「………」
シノミワ「試験は筆記と実技で行われます。
午前中に筆記試験、午後は実技試験です。
実技試験は2種類から選ぶことになります。
『実演』と『模擬戦』の2種類から。
実演は、魔術を出して試験官に見せるもの。
模擬戦は、魔生体と戦って試験官に見せるもの。
上位合格が見込める受験者は実演を選びます。
得意な魔術を見せるだけでよいのですから。
わざわざ危険を冒して戦わなくてよいのです。
一方、模擬戦は成功すれば、高く評価されます。
筆記試験が振るわなかった者、
魔術を使った戦いに自信のある者、
単に魔術を見せただけでは合格が見込めない者、
そんな人が逆転合格のため模擬戦を選びます。
当時は当時で情勢がとても不安定でしたから、
戦える魔術師が重宝されておりました。
模擬戦で逆転合格が狙える仕組み…
それは、時代が求めていたものだったのです」
アルジ「シノミワさんは…」
シノミワ「魔術を見せただけでは通らない。
それははっきりしていました。
ですから、模擬戦を選びました」
エミカ「どうなったんですか?」
シノミワ「はい…」
アルジ&エミカ「………」
シノミワ「戦いが始まったときのこと。
あのときのことはよく覚えています。
試験官が大きな魔生体に魔力を込めます。
動き出します。じりじりと近寄ってきます。
鋭い眼光を向けてきます。うなり声を上げます。
まるで本物の獣が迫ってくるかのようでした。
あれは、本当によくできたものでした。
とてもとても恐ろしいものでした。
ですが、怖がっていては合格できません。
自らを奮い立たせ、立ち向かいます。
魔力を高め、得意の火術を使います。
1発、2発、3発と私の攻撃が命中します。
ですが、威力が足りません。
魔生体は倒れません。
あのとき、私は確かに聞きました。
傍観していた受験者がせせら笑っている声を。
悔しい。これでは試験に落ちてしまう。
そんな気持ちが私をある行動に駆り立てます。
もしかしたら、という淡い期待がありました。
許されるのではないか。
認められるのではないか。
そして、評価されるのではないか。
見てほしい。この力を見てほしい。
それで合格できるのなら…。
そして、私は…」
アルジ「秘術を使ったわけか」
シノミワ「………」
エミカ「…うまくいったんですか?」
シノミワ「私は分かっていました」
アルジ&エミカ「………」
シノミワ「私の魔力では合格できないと。
実演にしても、模擬戦にしても。
ですから、ああするしかありませんでした。
あるいは、見せたかったのかも。
ほかの誰にもない力を。
誇示して、満足したかった。
ただそれだけだったのかもしれません」
アルジ&エミカ「………」
シノミワ「制限時間がなくなりかけたときでした。
魔生体が突進してきます。ここしかない。
ここで決めるしかない。針と糸を出しました。
針を刺し、糸を通します。魔生体の体に。
突進を避けられず、私は腕を折られます。
模擬戦失敗。そこで試験終了。本来なら。
ですが…」
アルジ「赤滅を使ったのか」
シノミワ「………」
メイニナ「アルジさん」
アルジ「…ごめん。続きを頼む」
シノミワ「うずくまる私。駆け寄る試験官。
傷の手当てを始めます。そのときでした。
私の腕を折った魔生体が激しく体を震わせます。
うなり、転がり、やがてだらりと地に伏せます。
それっきり、それはもう動きません。
まだ動けるはず。十分な魔力を注いだはず。
試験官たちが不審に思って近寄ります。
叩いても、蹴っても、それは動き出しません。
すっかり息絶え、ただ腐敗していくかのように。
それから、針と糸が見つかります。
魔生体の体から。そして、協議が始まります。
私の試験をどうするか。協議が始まったのです。
シノミワは魔生体を倒した。倒したらしい。
だが、どうやって。どんな魔術で倒したのか。
分からない。不正があったのか。
不正なら許されない。
協議は長時間に及びました。そして…」
アルジ「どうなった?」
シノミワ「その日の試験は中止になりました。
後日、私は正式に不合格になりました」
エミカ「シノミワさんの秘術は…」
シノミワ「認められませんでした。
当然といえば当然です。
得体の知れない奇妙な力。
誰が魔術と認めるでしょう。
そして、私がしたことは政府内に広まります。
ある日、私は呼び出されました。
聞き取り調査を受けることになります」
アルジ「不正だと思われたのか」
シノミワ「いいえ。そうではありません」
アルジ「それなら…」
シノミワ「呼び出したのは大君でございました」
アルジ「…!」
エミカ「大君が…」
シノミワ「先代様…先代の大君でございます。
私の力に関心をお持ちになられたのです。
それから、聞き取りは何度も行われました。
最初は、護衛役など政府の者もおりました。
ですが、同席者は減っていきます。
聞き取りの回数を重ねるごとに。
そして、14回目のときでした。
大君と2人だけでお会いすることになりました。
秘術のことなどほとんど話題に上がりません。
身の上話をして、笑い合い、おしまいです。
先代様は、私をお気に召してくださったのです」
アルジ&エミカ「………」
シノミワ「私には、特別な地位が与えられました。
上位二事官。
これが初めていただいた職位でございます。
一級文官でも最短で9年かかる。
それほど高い職位といわれております。
そして、私は特別な任務に当たります。
大君のお近くで、秘術を使う任務でございます。
それは、なかなか大変で刺激的なものでした。
不慣れな任務に当たるときは、
家に資料を持ち帰り、事前に読み込み、
備えることも多々ございました。
役所のしきたりを知らない私には
苦労や困難の連続でした。
それでも、私は秘術を生かすことができ、
充実感に満ちた日々を送れておりました。
1年、2年と勤務年数を重ねるたび
私は昇進していきました。
お給料も上がっていきます。
もう十分な暮らしができていました。
その頃、父は体を壊して退官しておりました。
私はちょうどよい時期に職を得られたのです」
アルジは見た。
シノミワの顔がわずかに引きつったのを。
アルジ「シノミワさん…?」
シノミワ「すべてが順調に思えたある日のこと。
事件が起きました。
とても忌まわしい事件でございます」
エミカ「どんな事件ですか?」
シノミワ「その前に…」
アルジ&エミカ「………」
シノミワ「父は働き者でございました。
ノイ地方でも都でもせっせと働いておりました。
三日三晩、眠らずに働き続けたこともある…
満ち足りた顔で誇らしげに話しておりました。
自分の地位を名誉に思い、
激務に耐えておりました。
このことは…
政府からすれば都合がよかったと思います。
少ない給料で多くの仕事をしたのですから。
父の働きは双方にとってよいことでした。
父にとっても、政府にとっても。
双方にとって。そして、父は体を壊します」
アルジ&エミカ「………」
シノミワ「重い病を患って倒れて気を失います。
業院で働いていたときのことでした。
治療院へ運びこまれ、目を覚ましたのは翌々日。
それからはほぼ寝たきりの生活になりました。
私は介護人を雇い、父のお世話をさせました。
施設に入れることも考えました。
ですが、できませんでした。
父が頑なに拒んだためでございます。
弱った姿を人に見せたくなかったのでしょう。
幸いなことに、父は介護人と打ち解けました。
家に帰ると、よく親しげに話しておりました。
私も安心して職務に打ち込めたのです。
事件が起きたのは、そんなときでした」
アルジ「どんな事件なんだ?」
シノミワ「先代様が暗殺されかけたのです」
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 34
◇ HP 4787/4787
◇ 攻撃
59★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
55★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
54★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、闘主の鎧
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、
壮刃破竜斬撃、雷刃剣
◇ 魔術 雷動
◇ エミカ ◇
◇ レベル 32
◇ HP 3388/3388
◇ 攻撃 11★★★★★★★★★★★
◇ 防御
32★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
45★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★
◇ 魔力
58★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、濃色魔術衣
◇ 魔術 火弾、火球、火砲、火樹、火海、王火
氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術
天火
◇ シノミワ ◇
◇ レベル 41
◇ HP 822/822
◇ 攻撃 4★★★★
◇ 防御
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 秘力
40★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備
秘術道具(幻印、例札、思針、心糸)、高護貴帯
◇ 魔術 火弾、火砲、火刃
◇ 秘術 赤画、赤封、赤除、赤洪、赤滅
青画、青封、青跡、青結、青葬
白紋、白掃、白限、白威、白廃
黒紋、黒弦、黒貫、黒壊、黒破
◇ メイニナ ◇
◇ レベル 33
◇ HP 1947/1947
◇ 攻撃 7★★★★★★★
◇ 防御 16★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 魔力
29★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★
◇ 秘力
44★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★
◇ 装備 秘術道具(感紙、覚布)、風雅装衣
◇ 魔術 雷弾、雷砲、雷波、雷突、雷進、王雷
光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術
◇ 秘術 赤折、赤拡、赤絡、赤結、赤包
青折、青縮、青絡、青結、青包
白曲、白重、白束
黒曲、黒貫、黒巻
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 30、活汁 4
◇ 創造の杖、安定の玉




