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アルジ往戦記  作者: roak
286/300

第286話 解明

シノミワは語る。

彼女はどうやって秘術を覚えたのかを。


シノミワ「私はノイ地方で生まれました。

 もう40年以上も前のことです。

 その地に政府の統治が及んでまだ数年。

 新たに置かれた政府の機関、ノイ府では、

 当時、とにかく人手が不足しておりました。

 多くの者が集められ、働いておりました。

 父もそのような働き手の1人。

 私の父は、政府の下級文官でございました。

 ノイ府での勤務を命じられたとき、

 父はとても喜んだと聞いております。

 ノイ地方は、とても寒く、乾いたところ。

 決して住みやすいところではありません。

 そんな地への赴任など嫌がる者は多いでしょう。

 しかし、父は違っておりました。

 大陸のあちらこちらに引き回され、駆り出され、

 住居を構えることもなく、働き詰めの十数年、

 ようやく真っ当な仕事場にありつけた。

 当時のことをそのように振り返っておりました。

 ノイ府で働き始めてから数年が経ち、

 暮らしにわずかな余裕が生まれたとき、

 気晴らしで、ふらりと立ち寄った店。

 そこで父は母と知り合ったと聞いております。

 ノイ地方の盛り場にある1軒の小料理屋。

 私の母は、そこで働いておりました。

 父は店に通い、母とよく話すようになり、

 交際を始め、やがて結婚いたしました。

 それから、借金をして、土地を買い、

 家を建て、そこで暮らし始めます。

 子は2人。私と私の兄でございます。

 父は朝から夜まで働いておりました。

 母は昼から夜まで働いておりました。

 そういうわけですので、私は学校から帰ると、

 兄と2人でよく留守番をしておりました。

 兄はあまり体が丈夫でありませんでした。

 外で遊ぶより家で遊ぶことを好みました。

 私も外は好きでなく、家にいるのが好きでした。

 留守番のときは、母の使い古しの裁縫道具で、

 2人で手芸を楽しんでおりました。

 そういうわけですので、留守番が退屈とか、

 苦痛とか、そういうことはありませんでした。

 父と母が休みの日には、

 近くの川原へ行き、敷物を敷き、

 そこに4人で座り、食事することもありました。

 華やかな暮らしではありませんでしたが、

 幸せな日々だったと記憶しております」

アルジ&エミカ&メイニナ「………」

シノミワ「父は兄が好きではありませんでした。

 父は兄をたくましく育てようとしていました。

 近所の剣術道場に通わせたこともあります。

 ですが、長続きしませんでした。

 兄は静かで穏やかな性格でした。

 争ったり戦ったりすることが嫌いでした。

 しゃんとしろ、元気を出せ。

 そんな言葉を父はよく兄にかけておりました。

 兄はただ、はい、はい、と言うばかりでした。

 そんなある日のことでした。

 父を喜ばせる出来事が起こります。

 学校の学力試験で兄が1番になったのです。

 父は兄の努力を称え、兄は嬉しそうでした。

 さらに、よいことが重なります。

 父の栄転が決まったのです。

 新たな勤め先は業院。

 本院で働くことになったのです。

 下位三事官かいさんじかん

 これが父に与えられた職位でございます。

 一般に下級文官が本院で働くことはありません。

 抜擢でした。

 ノイ府での働きが認められたのです。

 母の小料理屋でささやかな祝宴を行い、

 私たち4人は都へ引っ越しました」

アルジ(そうか、シノミワさんはそれで都に。

 でも、秘術の話は?いつ出てくるんだ…?)

シノミワ「都で父を待っていたもの。

 それは、さらなる激務でした。

 日の出前には家を出て、

 帰ってくるのは夜が更けた頃。

 家で安らぐ日などほとんどありません。

 そんな父が楽しみにしていたもの。

 それが兄の成長でした。

 兄はノイ地方の学校を上位の成績で卒業し、

 都の名の通った文官養成学校に入りました。

 そこは、大陸中から秀才が集まるところ。

 兄の成績は芳しいものではなかったようです。

 父は怒りました。大声で何度も兄を叱りました。

 なぜできない、もっとやれ。

 罵声を浴びながら兄は勉学に励んでおりました」

アルジ&エミカ「………」

シノミワ「あのとき、兄は頑張りました。

 めげることなく、くじけることなく、

 毎日学校へ通い、成績を上げました。

 そして、兄はとうとう父の期待に応えます。

 学校の試験で27番の成績をとったのです」

アルジ「27番か」

シノミワ「この順位には大きな意味があります。

 例年、兄が通っていた学校から30人ほどが、

 一級文官登用試験に合格しておりました。

 登用されれば、本院で働くことになります。

 いわゆる高級文官といわれるものです。

 待遇は、中級文官や下級文官と一線を画します。

 出世競争に勝てば、国首や院長にもなれます。

 学校で27番目に優れた成績を上げた。

 それは、そういう道が見えてきたということ」

アルジ「すごいことなんだな」

シノミワ「父の期待はますます高まりました。

 一級文官になれ、一級文官になれ。

 家で顔を合わせるたび兄に言っていました。

 兄も期待に応えようと一生懸命でした。

 ですが、それは、ある朝のことでした。

 家の中から兄の姿が消えていました。

 前の晩まではいたのに、いなくなっていました。

 兄は旅立ったのです。遠い場所へ。

 たった1人で」

アルジ「…?」

シノミワ「旅立ったのです」

アルジ「どういうことだ?待ってくれ。

 旅立ったって…」

メイニナ「アルジさん」

アルジ「…ああ」

メイニナ「シノミワさんのお話はまだ続きます」

アルジ「ああ、だけど…」

エミカ「…アルジ」

アルジ「………」

エミカ「最後まで聞かないか」

アルジ「…ああ」

シノミワ「兄が旅立ってから…

 父と母の仲が悪くなりました。

 もともと母は不満を持っていました。

 父の兄への接し方について。

 ですが、抗議することはありませんでした。

 兄が旅立ってから、それが変わっていきました。

 母は感情をよく表に出すようになりました。

 夜遅く、2人の言い争いをよく耳にしました。

 私は布団の中で身を丸めているだけでした。

 そして、ある朝のことでした。

 今度は母がいなくなりました。

 旅立ったのです。遠い場所へ。

 父と私を残して」

アルジ「シノミワさん、それは…」

メイニナ「…アルジさん」

アルジ「………」

シノミワ「それから、父の激しい感情は、

 私に向けられるようになりました。

 怒り、疑い、望み。

 そういうものが入り混じった感情です。

 とても深く、激しく、恐ろしい感情です。

 当時、私は魔術院の研修生でした。

 正魔術師を目指して日夜勉強しておりました。

 年に1回行われる魔術院の正魔術師試験。

 合格すれば、魔術院の魔術師になれます。

 私は試験に向けて魔術を磨いておりました。

 そんな私に父はよく言いました。

 正魔術師になれと。

 正魔術師になれ、正魔術師になれ。

 何度も、何度も言われました。

 失敗できない。合格しなければならない。

 強く思っておりました。

 ですが、失敗してしまいます。

 翌年、もう1度受験します。試験は2回まで。

 2回とも失敗すれば、正魔術師になれません。

 必然的に魔術院を去らなければなりません。

 私の心は追い込まれておりました。

 今度こそ失敗できない。

 その思いが私を駆り立てます。

 ある行動に私を駆り立てます」

アルジ「…何をしたんだ?」

シノミワ「それは…

 魔術院の資料室の奥に眠っておりました。

 誰も手に取ることのない、ひどく傷んだ本です。

 魔術に関して書かれている大昔の本。

 そのように聞いておりました。

 ですが、それは無用の本。

 誰にも読めない、役立たずの本でした。

 なぜか。

 その本は、古代文字で書かれていたのです。

 どうやったら次の試験に合格できるのか。

 悩み、苦しんでいた私は手に取ります。

 導かれ、引き寄せられるかのように。

 その本を手に取ります。

 あのとき、思っていたのです。

 強く感じていたのです。

 ほかの受験生と同じではいけない。

 同じような魔術書を読み、

 同じような訓練をしたのでは、私は劣ったまま。

 抜きん出ることなどないのだと。

 私はその本を家に持ち帰り、読み始めます。

 私の母は古代文字が読めました。

 私は母から教わっておりました。

 古代文字の読み方を。

 なぜ母は私に教えたのか。

 それはよく分かりません。

 古代言語の使い手を絶やしてはいけない。

 そんな使命感があったのかもしれません。

 教えているとき、母はとても熱心でしたので。

 都に引っ越すとき、母は持ってきていました。

 自分の故郷で大切にしていた何冊もの書物を。

 大半は古代文字で書かれたものです。

 私はそれらの書物の記述とも見比べて、

 魔術院の資料を解明していきました。

 そして、しばらくして私は思い当たります。

 この本は、魔術書ではないと」

アルジ&エミカ「………」

シノミワ「試験までもう半年を切っていました。

 今さら引き返すことなどできません。

 誰にも会わず、誰とも話さず、たった1人、

 ひたすら家でその本を読み、実践します。

 私の体に眠っていた力が目覚め、

 研ぎ澄まされていきます。

 そして、私は秘術を習得しました」


そして、彼女は口を閉じた。



◇◇ ステータス ◇◇

◇ アルジ ◇

◇ レベル 34

◇ HP   4787/4787

◇ 攻撃

 59★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 防御

 55★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 素早さ

 54★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★

◇ 魔力

 19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 装備  勇気の剣、闘主の鎧

◇ 技   円月斬り、剛刃波状斬撃、

     壮刃破竜斬撃、雷刃剣

◇ 魔術  雷動


◇ エミカ ◇

◇ レベル 32

◇ HP   3388/3388

◇ 攻撃  11★★★★★★★★★★★

◇ 防御

  32★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★

◇ 素早さ

 45★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★

◇ 魔力

  58★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 装備  天界石の杖、濃色魔術衣

◇ 魔術  火弾、火球、火砲、火樹、火海、王火

      氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷

      雷弾、雷砲、雷柱、王雷

      岩弾、岩砲、岩壁、王岩

      光玉、治療魔術、再生魔術

      天火


◇ シノミワ ◇

◇ レベル 41

◇ HP   822/822

◇ 攻撃  4★★★★

◇ 防御

 18★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 素早さ

 18★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 魔力

19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 秘力

40★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

  ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 装備

 秘術道具(幻印、例札、思針、心糸)、高護貴帯

◇ 魔術  火弾、火砲、火刃

◇ 秘術  赤画、赤封、赤除、赤洪、赤滅

      青画、青封、青跡、青結、青葬

      白紋、白掃、白限、白威、白廃

      黒紋、黒弦、黒貫、黒壊、黒破


◇ メイニナ ◇

◇ レベル 33

◇ HP   1947/1947

◇ 攻撃  7★★★★★★★

◇ 防御  16★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 素早さ

 28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★

◇ 魔力

29★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

  ★★★★★★★★★

◇ 秘力

44★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★

◇ 装備  秘術道具(感紙、覚布)、風雅装衣

◇ 魔術  雷弾、雷砲、雷波、雷突、雷進、王雷

      光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術

◇ 秘術  赤折、赤拡、赤絡、赤結、赤包

      青折、青縮、青絡、青結、青包

      白曲、白重、白束

      黒曲、黒貫、黒巻


◇ 持ち物 ◇

◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 30、活汁 4

◇ 創造の杖、安定の玉

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