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アルジ往戦記  作者: roak
284/300

第284話 領域

シノミワが言う。


シノミワ「そろそろ行きましょうか」

アルジ「ああ」


アルジたちは食事を終えて立ち上がる。

会議室を出て、廊下を歩き、宿を出る。

外には1機のカルス。

3人の操縦士が近づいてきて言う。


操縦士「どうぞ。こちらへ」


アルジたちは進む。

真っ暗な空の下、その機体に跳び乗った。

魔力を込める操縦士たち。

静かに浮上を始める。

リャクドとゼリが見送る。

彼らは小さな声で言った。


ゼリ「どうか、ご無事で…」

リャクド「ご無事で…」


2人は機体を見上げ続ける。

夜空の中、見失ってしまうまで。



◆ カルスの上 ◆

クユの国へ向かう。

シノミワがアルジとエミカに告げる。


シノミワ「私からも朗報が」

アルジ「なんだ?」

シノミワ「私の秘術に関することです」

アルジ&エミカ「………」

シノミワ「魔真体は確かに恐ろしい魔生体。

 ですが、私の秘術が決まれば仕留められます」

アルジ「どうやるんだ?」


シノミワは懐から針と糸を出す。

針に通された黒い糸が赤い光を放つ。

その光には毒々しさがあった。


アルジ「………」

シノミワ「私には赤滅という秘術があります」

アルジ「ああ」

シノミワ「これを使えば、対象は一撃で死にます。

 生きとし生けるものを一撃で殺せるのです」

アルジ「一撃で…」

シノミワ「はい。赤は動かす力。

 その力で暴走させるのです。

 対象の生命活動を。

 激しく、激しく、壊れてしまうほど。

 それが赤滅という秘術です」

エミカ「魔真体にも…有効なんですか…?」

シノミワ「はい。魔真体も所詮、魔生体です。

 生きています。ですので、赤滅が効きます。

 決まれば、一撃で殺せます」

アルジ「本当なのか…?」


横からメイニナが口を出す。


メイニナ「本当ですよ」

アルジ「………」

エミカ「針と糸で…どうやって…」

シノミワ「縫いつけるのです。体に、直接」

メイニナ「最も確実な方法ですね」

シノミワ「ええ。ただ…

 そのためには接近しなければなりません。

 それなりに危険は伴います」

アルジ「縫いつけるって言っても…」

エミカ「魔真体に…そんな隙があるのか…」

シノミワ「それを…

 あなた方に作ってもらいたいのです」

アルジ&エミカ「………」

シノミワ「わずかな時間でいい。

 縫いつけてみせます。

 糸を縫い付けてしまえば、終わりです。

 私が赤の力を注ぎ、暴走させます。

 そして、魔真体を倒します。

 魔真体がどんなに頑丈でも関係ありません。

 自らの生命活動の暴走で殺すのですから。

 赤滅とは、そういう秘術です」

アルジ「…分かった」

エミカ「どれくらい糸を縫いつけるんですか?」

シノミワ「体に縫いつけるなら1針で十分です。

 縫い目の長さも指先くらいで十分でしょう」

エミカ(たった…それだけで…倒せる…)

アルジ(そのための時間を…

 オレたちが作ればいいわけか…)

メイニナ「私にもお手伝いさせてください」

シノミワ「よろしくお願いします」


アルジは少し安心した。


アルジ(朗報じゃないか…)


そして、考える。

どうやって赤滅のための時間を作るか。


アルジ(まずはエミカの魔術がいいだろう…。

 離れたところから距離を置いて攻撃だ。

 強力な魔術で…体力を一気に削る。

 次に…オレが行く。

 エミカの魔術でひるんだところに。

 勇気の剣で一気に攻める。

 …剛刃波状斬撃だ!

 壮刃破竜斬撃もいい。

 天地双竜剣もいいだろう。

 とにかく…魔真体を…斬る。斬りまくる!

 それで弱ったところを…

 シノミワさんが………これだ!!)


アルジは思わずニヤリと笑った。


エミカ「…アルジ?」

アルジ「天火だ…」

エミカ「………」


天火。

その言葉は、彼の口から自然と発せられた。


アルジ「まずは天火だ。天火から行こう」

メイニナ「…?」

エミカ「アルジ…」

メイニナ「あの…天火って…?」

アルジ「魔術だ。めちゃくちゃ強い魔術のことだ。

 エミカが使える。とっておきの魔術だ!」

メイニナ「火術の1つですか?」

アルジ「ああ、そんなところだ」


エミカが補足する。


エミカ「複合魔術です。火術と光術の」

メイニナ「火術と光術の複合魔術…。

 聞いたことがないです。そんな魔術が…」

アルジ「ある。エミカは使えるんだ」

メイニナ「………」

アルジ「天火があったから、オレたちは勝てた」

エミカ「………」

アルジ「天火だ。そうだ、天火だ!」

シノミワ「………」

アルジ「天火があったから、ラグアを倒せた。

 ラグアを阻止できたのは、天火のおかげだ。

 それに、その前のラッセイムスラとの戦いも…

 天火だ。天火がなければ勝てなかった!!」

シノミワ&メイニナ「………」

エミカ「アルジ…」

アルジ「オレたちは天火に救われたんだ。

 天火に生かされたんだ。よかった。

 エミカが天火を覚えて本当によかった」

シノミワ&メイニナ「………」

アルジ「オレは…心の底からそう思ってる」

エミカ「………」

アルジ「なあ、エミカ。やろうぜ。

 やってくれるよな?

 今度は天火を魔真体にぶちこんでやろうぜ!」

エミカ「………」

アルジ「うっかり目覚めちまった…

 気の毒な魔真体にな!!」

エミカ「アルジ…」


エミカの目に涙が浮かぶ。


エミカ「…やってみる」

アルジ「おしっ!!」

メイニナ「そんなに強い魔術なんですね。

 心強いです」

アルジ「メイニナさんもしっかり見ててくれ。

 ……あっ!!でもな!

 あんまり近づき過ぎるなよ。

 焼け焦げちまうかもしれないから!」

メイニナ「はは。気をつけますよ」

エミカ(アルジが明るく振る舞ってくれてる…。

 私もぐずぐずしてなんかいられない…!)


シノミワが静かに笑う。


シノミワ「私も見ていましたよ。

 巨方庭で使った天火を…」

アルジ「…え!!?」

シノミワ「天火…。素晴らしい魔術です。

 ラッセイムスラを撃ち落としたときも…

 ラグアの仲間たちを消し去ったときも…

 私は見ていました」

アルジ「どうやって…」


シノミワは黒い糸を手から垂らし、アルジに見せる。


シノミワ「秘術です」

アルジ「………」

シノミワ「これを…

 アヅミナの魔術衣に縫いつけていました」

アルジ「ああ…」

エミカ「黒は…つなげる力…」

シノミワ「知っているのですね」

エミカ「ノイ地方に行ったときに教わりました。

 秘術を使える人たちから」

シノミワ「そうですか。私の秘術、黒弦…。

 この術で他者とつながることができます。

 対象者とどんなに遠く離れていても。

 視覚や聴覚など感覚を共有できます」

アルジ「そんなことができるのか…」

シノミワ「とはいえ、不完全な感覚です。

 色の違いを見落としたり

 小さな音を聞き逃したり

 そういうことはたびたびあります。

 ですが、それでもいい。

 自分の目や耳で知れることは、価値が大きい」

エミカ「アヅミナさんは…」

シノミワ「彼女が死んでしまって…

 感覚の共有は途絶えました」

アルジ&エミカ「………」

シノミワ「エオクシもやられた。

 アヅミナでも無理だった。

 ラグアの実力をまざまざと見せられました。

 ですから、正直に言って思ってませんでした。

 あなた方がラグアに勝てるとは

 あの夜、政府は最悪の事態を考えていました。

 ですが…あなた方は帰ってきた。

 ラグアを倒し、魔真体を阻止して。

 エミカさん」

エミカ「…はい」

シノミワ「これだけは伝えさせてください。

 信じる、信じないはあなたの自由ですが。

 もしも信じてくれるなら、ありがたいのです」

エミカ「はい」

シノミワ「私はアヅミナを…

 騙していたわけではありません。

 彼女が知らないうちに

 糸を縫いつけていたのではありません。

 アヅミナは知っていました。

 自分の魔術衣に糸があることを。

 きっかけは彼女の言葉だったのですから。

 自分に秘術を使ってほしいと…

 アヅミナから私に言ってきたのですから」

エミカ「………」

アルジ「自分から…」

シノミワ「秘術について…

 彼女に話したことは1度もありません。

 ですが、彼女は考えて、分かったのでしょう。

 さまざまな場面での私の言動を考察した。

 そして、気づいたのでしょう。

 こういう術がなければ、

 ああいうことはできないだろうと。

 そして、私に申し出たのです。

 それは、もうずっと前のこと」

エミカ「………」

シノミワ「私は彼女の要求に応じました。

 その際、秘術について私は彼女に話しました。

 そして、彼女の魔術衣に糸を縫いつけたのです。

 彼女も私も…考えたのです。

 そうすることが政府にとって…いいえ、

 大陸の平和のためによいことだと」

エミカ「はい…」

アルジ「てことは…

 ラッセイムスラのときも…巨方庭のときも…」

シノミワ「はい。感覚を共有していました。

 アヅミナと」

アルジ「!!」

エミカ「………」

シノミワ「ですが…ずっとではありません」

アルジ「…そうなのか」

シノミワ「はい。

 感覚の共有には高い集中力が必要です。

 アヅミナが見ている景色をずっと見ている…

 アヅミナが聞いている音をずっと聞いている…

 といったことはできません。

 共有できていたのは、ごく限られた時間です。

 アヅミナが驚いたときなど共有していました。

 あの子が見たこと、聞いたことを

 私も秘術で見て、聞いていました」

アルジ「…そっか」

エミカ「………」

シノミワ「今まで言わないでいてごめんなさい。

 秘術のことは知られたくなかったものですから。

 それに…アヅミナを介して、

 私が見ている、聞いていることを知ったら、

 あなたたちの行動にも…

 いくらか影響があるかもしれない。

 そんなふうに思ったものですから。

 ごめんなさい」

エミカ「いいえ…」

アルジ「驚いたぜ…。でも…

 それが大陸の平和のためなら…

 仕方ないんじゃないか…」

エミカ(そうだ…。

 感覚の共有があるから…早く動ける。

 都にいながら…シノミワさんは…

 事態をすぐに把握できる。対処できる。

 ラグアとの戦いのときだって…そうだ)


シノミワはうつむいて言う。


シノミワ「エオクシも知っていたのだと思います。

 アヅミナと私が感覚を共有していることを」

アルジ&エミカ「………」

シノミワ「アヅミナは教えていたと思います。

 エオクシだけには。秘術のことを。

 もともとアヅミナと私、2人だけの秘密。

 そういうことにしようと決めていたのですが」

アルジ「そうなのか」

シノミワ「当人から聞いたわけではありません。

 ですが、そう感じることはありましたから」

エミカ「アヅミナさんには…

 聞かなかったのですか?」

シノミワ「聞けませんでした」

アルジ&エミカ「………」

シノミワ「あの2人には2人だけの…

 特別で…侵してはならない…

 そんな領域があるような気がしていました。

 そこに立ち入るのは大きな過ちに思えました。

 ですので、聞くことははばかられたのです」

アルジ&エミカ「………」

シノミワ「それに私はずっと思っていました。

 物事がうまく運んでくれるならそれでよいと。

 知っているのか、知らないのか。

 私は知らなくてよいと。

 私が無理に立ち入って、

 2人だけの領域に影響が出て、

 物事がうまく運んでくれなくなる。

 そうなることが怖かったのです。

 ですから、あえて聞くことはしませんでした」

アルジ&エミカ「………」

メイニナ「あの…みなさん」


メイニナが荷物入れから大きな容器を出す。

中には温かい茶がたっぷりと入っていた。


メイニナ「お茶はいかがですか?」

アルジ「ああ、ありがとう」

エミカ「いただきます。ありがとうございます」

シノミワ「私にも少しちょうだい」


香り豊かな温かい茶に4人の心は落ち着く。

空はまだ暗い。


アルジ「シノミワさん」

シノミワ「はい」

アルジ「エオクシとアヅミナさんは…

 一体どうなったんだ?」

シノミワ「…はい」


シノミワはアルジの問いに答える。



◇◇ ステータス ◇◇

◇ アルジ ◇

◇ レベル 34

◇ HP   4787/4787

◇ 攻撃

 59★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 防御

 55★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 素早さ

 54★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★

◇ 魔力

 19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 装備  勇気の剣、闘主の鎧

◇ 技   円月斬り、剛刃波状斬撃、

     壮刃破竜斬撃、雷刃剣

◇ 魔術  雷動


◇ エミカ ◇

◇ レベル 32

◇ HP   3388/3388

◇ 攻撃  11★★★★★★★★★★★

◇ 防御

  32★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★

◇ 素早さ

 45★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★

◇ 魔力

  58★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 装備  天界石の杖、濃色魔術衣

◇ 魔術  火弾、火球、火砲、火樹、火海、王火

      氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷

      雷弾、雷砲、雷柱、王雷

      岩弾、岩砲、岩壁、王岩

      光玉、治療魔術、再生魔術

      天火


◇ シノミワ ◇

◇ レベル 41

◇ HP   822/822

◇ 攻撃  4★★★★

◇ 防御

 18★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 素早さ

 18★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 魔力

19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 秘力

40★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

  ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 装備

 秘術道具(幻印、例札、思針、心糸)、高護貴帯

◇ 魔術  火弾、火砲、火刃

◇ 秘術  赤画、赤封、赤除、赤洪、赤滅

      青画、青封、青跡、青結、青葬

      白紋、白掃、白限、白威、白廃

      黒紋、黒弦、黒貫、黒壊、黒破


◇ メイニナ ◇

◇ レベル 33

◇ HP   1947/1947

◇ 攻撃  7★★★★★★★

◇ 防御  16★★★★★★★★★★★★★★★★

◇ 素早さ

 28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★

◇ 魔力

29★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

  ★★★★★★★★★

◇ 秘力

44★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

   ★★★★

◇ 装備  秘術道具(感紙、覚布)、風雅装衣

◇ 魔術  雷弾、雷砲、雷波、雷突、雷進、王雷

      光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術

◇ 秘術  赤折、赤拡、赤絡、赤結、赤包

      青折、青縮、青絡、青結、青包

      白曲、白重、白束

      黒曲、黒貫、黒巻


◇ 持ち物 ◇

◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 30、活汁 4

◇ 創造の杖、安定の玉

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