第283話 朗報
アルジは廊下に出た。
すぐにエミカを見つける。
アルジ「エミカ…」
彼女は廊下の端でうずくまり、泣いていた。
アルジはしゃがんで彼女の肩にそっと手を置く。
エミカ「アルジ…だめだ…もう…」
アルジ「エミカ…それなら、オレが…」
エミカ「それもだめだ…!」
アルジ「………」
エミカ「…ごめん…ごめん…」
アルジ「…大丈夫だ。きっと…大丈夫だ…」
エミカ「………」
アルジ「居場所は分かった。
だから、あとはやるだけだ。
もういい。もういいから。
とりあえず…立とうぜ」
エミカ「アルジ…」
アルジはエミカの手を引く。
立ち上がる2人。
シノミワ「…何がだめなんですか?」
アルジ「げっ!!!!」
すぐ近くにシノミワが立っていた。
彼女は音を立てずに近づいてきていた。
シノミワ「お話は終わっていません」
アルジ「何を話すかは大体分かる」
シノミワ「………」
アルジ「オレたちだって覚悟はしてた。
今日、ここであんたたちに会う前から」
シノミワ「………」
アルジ「魔真体を倒しに行け。そういう話だろ?
オレとエミカで…魔真体を倒してこい。
あんたが言いたいのは、そういうことだろ?」
シノミワ「早合点しないでちょうだい」
アルジ「…?」
声が聞こえてくる。
アルジとエミカは振り向く。
薄暗い廊下に見えたのは、歩いてくる女の姿。
メイニナ「お待たせしました」
彼女の後ろには1人の男。
彼は城宿の従業員。
台車を使って何かを運んでくる。
アルジ「…なんだ?」
メイニナ「お食事の準備ができました」
アルジ「食事…」
メイニナ「旅立つ前に食べていきましょう。
宿に無理を言って、用意してもらったんです」
アルジ「真夜中だろ…。腹は確かに減ってるけど」
シノミワ「メイニナ、ありがとう」
メイニナ「いいえ。シノ姫様」
シノミワ「その呼び方はやめてちょうだい」
メイニナ「…失礼しました」
アルジ「………」
シノミワ「私はもう…
大君にお仕えする身分ではありません。
それにその呼び方は…
先代の大君が始められたもの。
ほかの者もそのように呼ぶようになりましたが、
正直なところあまり好きではありません。
その呼び方は…」
メイニナ「それは知りませんでした」
シノミワ「今はただの秘術使い。
名前でお呼びなさい」
メイニナ「はい」
アルジ&エミカ「………」
台車を押してきた男がシノミワに話しかける。
彼は城宿で料理長を務めている。
料理長「余り物を集めて、どうにか作りました。
どこまでご満足いただけるか…」
シノミワ「ありがとうございました。
私たちの無理なお願いを聞いてくださって」
料理長「会議室で召し上がりますか?」
シノミワ「はい」
料理長「それでは…」
台車を押す手をシノミワが止める。
シノミワ「あとは私たちが」
料理長「………」
シノミワ「早く帰ってお休みなさい。
明日もお仕事があるのでしょう」
料理長「ええ、まあ…。それでは、失礼します」
去っていく料理長。
そんな彼にシノミワは小袋を差し出す。
それには大金が入っていた。
料理長「は…?お代なら…」
戸惑う料理長に押しつけて受け取らせる。
シノミワ「ほんの気持ちです」
料理長「は…はぁ…。ありがとうございます」
シノミワはぼんやりと言う。
去っていく料理長の背中を見ながら。
シノミワ「過分な退職金のほんの一部です」
アルジ&エミカ&メイニナ「………」
シノミワ「さて、食事にしましょう。
旅に備えるのです」
メイニナ「はい」
アルジ「旅に備える…?」
台車には4つの箱。
アルジ「もしかして…」
シノミワ「…そうです」
メイニナ「私たちもお供させてください」
アルジ&エミカ「………」
シノミワ「メイニナは…
私から秘術を教わっています。
弟子たちの中で突出した素質を持っています。
きっとあなた方のお力になれることでしょう。
そして、もちろん…この私も…」
メイニナ「…いいでしょうか?」
アルジ「ああ…。もちろんだ。いいよな?エミカ」
エミカ「うん。でも、どうして…」
シノミワ「責任です」
エミカ「………」
シノミワ「私には責任があるのです」
エミカ「責任…」
シノミワ「こうなってしまったことに」
エミカ「………」
シノミワ「ですから、
できることはやらせてもらいます。
あなた方とご一緒に。よろしいですね?」
アルジ「…ああ」
エミカ「………」
メイニナ「断られなくてよかった」
アルジ&エミカ「………」
シノミワ「さあ、お食事にしましょう」
◇ シノミワが仲間になった。
◇ メイニナが仲間になった。
アルジが台車を押す。
4人は会議室に入る。
シノミワ「リャクド、ゼリ」
リャクド&ゼリ「はい」
シノミワ「話はつきました」
リャクド「…はい。
それでは、私たちから話をさせてください。
お食事のところすみません。
ですが、お耳だけ…こちらにお傾けください。
戦いに備え知っておいていただきたいのです」
アルジ「どんなことだ?」
リャクド「はい…」
リャクドは真剣な顔で深くうなずく。
リャクド「ああ、どうぞ、お食事を」
アルジ「ああ…」
リャクド「召し上がりながら
聞いていただければ…」
アルジたち4人は箱を開け、料理に手をつける。
メイニナ「いただきます」
エミカ「あの…ありがとうございます。
シノミワさん、メイニナさん」
シノミワ「どうぞ、遠慮せずに。
召し上がってください」
エミカ「はい…。いただきます」
シノミワ「いただきます」
箱には数々の料理が彩りよく詰められている。
そして、まだ温かい。
エミカ「おいしい」
シノミワ「よかったです」
リャクドが話し始める。
リャクド「魔真体の力は
果たしてどれほどでしょうか?」
アルジ&エミカ&シノミワ&メイニナ「………」
リャクド「その答えは、私たちにも分かりません。
どれほどの破壊力を秘めているのか。
どれほどの攻撃性を持っているのか。
分かりません。
ですが、紛れもない事実がございます。
歴史的な事実です。
過去に…天と地をひっくり返すような…
大惨事を…魔真体は招いた。
そして、古代国家を滅ぼした。
完全に滅ぼしたのです。
魔真体との戦いは厳しいものになるでしょう」
アルジ「!!」
アルジは思わず食事の手を止めた。
アルジ(あんたが余計に厳しくしたんだろ!!!
……って言いたいところだが、言えないぜ…。
オレにも…あるしな…。責任ってやつが…)
リャクド「ですが、2つ、朗報がございます」
アルジ「朗報…。どんなことだ?」
ゼリが答える。
ゼリ「魔真体は完全ではありません」
アルジ「………」
ゼリ「3つの星の秘宝。
安定の玉、創造の杖、破壊の矛。
これら3つのうち
魔真体が力を吸い上げたのは2つ。
安定の玉と破壊の矛の力でございます」
アルジ「ああ」
ゼリ「魔真体は3つの力で目覚めるものです。
安定の玉、創造の杖、破壊の矛、
3つの秘宝に込められた3つの力で。
ですが、今回は安定の玉と破壊の矛の2つだけ。
本来なら、目覚めることはないのですが、
反転点流が起きてしまったために
目覚めてしまった。
そういうことですので、
魔真体は完全ではないのです。
単純に考えて、完全なときの3分の2程度…」
リャクド「それでも…
古代獣とは比べものになりません。
国潰しに用いられたラッセイムスラでさえも…
魔真体と比べれば小さな羽虫も同然でしょう」
アルジ&エミカ「………」
ゼリ「もう1つ朗報がございます」
アルジ「なんだ…?」
ゼリ「今回の魔真体には司役がおりません」
アルジ「司役って…?」
ゼリ「魔真体を従え、操る者のことです」
リャクド「星の秘宝を祭壇に捧げた者。
それが司役となります」
ゼリ「今回、おそらくはラグアが捧げた。
古王の祭壇に、安定の玉と破壊の矛を」
リャクド「彼が司役となって
魔真体を動かす予定だった」
ゼリ「ですが、彼はもう死んでいます。
あなたたちが倒した」
アルジ「ああ」
リャクド「古代王国が滅んだとき。
そのときは司役がいたのです。
魔真体に命令を下し、動かした司役が」
アルジ&エミカ「………」
リャクド「魔真体は恐ろしい力を秘めています。
ですが、結局のところ魔生体でございます。
基本的に人が動かし、操るものでございます」
ゼリ「司役のいない魔真体。
これが一体どのような動きをするのか。
それは分かりません。しかし、もしかすると…」
アルジ「もしかすると?」
ゼリ「自分からは攻めてこないかもしれません」
アルジ「それなら…」
ゼリ「はい。倒すのは簡単です」
アルジ「そうか、そうなのか」
リャクド「とはいえ、分かりません」
アルジ「………」
リャクド「絶対にそうだとは言い切れないのです」
ゼリ「魔真体には秘術の力も使われています。
普通の魔生体と同じようには考えられません。
例えば…目の前で動くものすべてに襲いかかる…
そんな状態にならないとも言い切れません」
アルジ「そうなると…」
リャクド「はい。倒すのは非常に困難です」
アルジ&エミカ「………」
ゼリ「…魔真体と現地で向き合ってみて、
何もしてこなかったら、幸運だったと。
ひとまずそのように考えてください」
アルジ&エミカ「………」
リャクド「さて、いかがでしたでしょうか。
魔真体の力は不完全。魔真体の動きは未知。
私たちがお伝えしたかった2つの朗報は…
以上のようなものでございます」
アルジ(結局…魔真体はめちゃくちゃ強いし、
何をしてくるか分からないってことだろ…。
これは…本当に朗報なのか…?)
短い沈黙のあとでゼリが言う。
ゼリ「次に…悪いお知らせもございます」
アルジ「なんだ?」
ゼリ「目撃情報が寄せられております」
アルジ「魔真体を見つけたのか?」
ゼリ「いいえ。そうではありません」
リャクド「見つかったのは、番人です」
アルジ「番人…?」
リャクド「ゼゼ山で大規模な崖崩れがあった。
それで、半球体の構造が崩れた斜面に露出した。
ここまでは先ほどお伝えしました。いいですね」
アルジ「ああ」
リャクド「見つけたそうなのです。
そこで番人の姿を。
近くを調べていた防衛隊員たちが」
アルジ「番人ってなんだ?」
ゼリ「魔真体の復活を妨げるもの…
それを排除するのが番人でございます」
アルジ「…魔真体を守ってるってことか」
ゼリ「はい。
赤い体の番人と青い体の番人が1体ずつ。
崩れた崖の下、立っていたそうです。
じっと動かずに」
アルジ(赤と青…。
巨方庭にもそういうのがいたな。
秘術人形っていったっけ…)
ゼリ「じっと立っていたということから、
積極的に他者を攻撃する意思はないようです」
リャクド「ただ…」
アルジ「ただ…?」
リャクド「近づけば、それは動き出します」
アルジ&エミカ「………」
リャクド「強い力で攻撃してくることでしょう」
アルジ「そうなのか」
ゼリ「あなた方はまず、
番人を倒さなければなりません。
赤の番人と青の番人を。魔真体と戦う前に」
リャクド「ご健闘をお祈りします」
アルジ「防衛隊が倒してくれてたらいいけどな」
ゼリ「並の戦士ではまず勝負になりません」
リャクド「攻められ、倒され、終わります。
一瞬で戦いは終わります」
アルジ「………」
リャクド「ですが、巨方庭を攻略したあなた方なら…」
アルジ「ああ…。分かった。オレたちが倒す。
……無理して手を出していないといいな。
その番人ってやつに。防衛隊も…警備隊も…」
リャクド「全くそのとおりでございます」
エミカが問いかける。
エミカ「あの…リャクドさんとゼリさんは…」
リャクド「はい」
ゼリ「なんでしょう」
エミカ「どうして…そんなに魔真体のことを…?」
リャクドとゼリは答える。
リャクド「私たちは学術院の学者でございます」
ゼリ「日夜研究に取り組んでおります」
リャクド「ですから…
あなた方が訪れたことのない場所へ行き、
あなた方が知らないことを知っているのです」
エミカ「………」
アルジ「その話は大政会のときも聞いたぜ」
そのとき、アルジの頭の中で情報がつながる。
アルジ「…!もしかして…」
リャクド&ゼリ「…?」
アルジ「リャクドさんも…ゼリさんも…
異大陸に行った学者さん…なのか…?」
エミカ「…あ!」
アルジ「灰の大陸で…大君が入り口を見つけて…
その奥で…いくつも石碑を見つけたって…」
リャクド&ゼリ「!!!?」
シノミワがアルジに問う。
シノミワ「なぜそのことを…?
あれは…秘密のはずですが」
アルジ「ヤマタンさんから聞いたんだ!!」
シノミワ(あのバカ…!!)
リャクド「はっはっは…」
ゼリ「お察しのとおりです」
アルジ「いくつも石碑があったって聞いたけど…」
エミカ「そこには…
一体何が書かれていたんですか?」
リャクド「ええ…今ほどお伝えしたことです」
アルジ&エミカ「………」
ゼリ「あれらの石碑に刻まれていたのは警告文」
リャクド「魔真体についての警告だったのです」
アルジ&エミカ「………」
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 34
◇ HP 4787/4787
◇ 攻撃
59★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
55★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
54★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、闘主の鎧
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、
壮刃破竜斬撃、雷刃剣
◇ 魔術 雷動
◇ エミカ ◇
◇ レベル 32
◇ HP 3388/3388
◇ 攻撃 11★★★★★★★★★★★
◇ 防御
32★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
45★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★
◇ 魔力
58★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、濃色魔術衣
◇ 魔術 火弾、火球、火砲、火樹、火海、王火
氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術
天火
◇ シノミワ ◇
◇ レベル 41
◇ HP 822/822
◇ 攻撃 4★★★★
◇ 防御
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
18★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 秘力
40★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備
秘術道具(幻印、例札、思針、心糸)、高護貴帯
◇ 魔術 火弾、火砲、火刃
◇ 秘術 赤画、赤封、赤除、赤洪、赤滅
青画、青封、青跡、青結、青葬
白紋、白掃、白限、白威、白廃
黒紋、黒弦、黒貫、黒壊、黒破
◇ メイニナ ◇
◇ レベル 33
◇ HP 1947/1947
◇ 攻撃 7★★★★★★★
◇ 防御 16★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
28★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★
◇ 魔力
29★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★
◇ 秘力
44★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★
◇ 装備 秘術道具(感紙、覚布)、風雅装衣
◇ 魔術 雷弾、雷砲、雷波、雷突、雷進、王雷
光玉、治療魔術、再生魔術、蘇生魔術
◇ 秘術 赤折、赤拡、赤絡、赤結、赤包
青折、青縮、青絡、青結、青包
白曲、白重、白束
黒曲、黒貫、黒巻
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 30、活汁 4
◇ 創造の杖、安定の玉




