第282話 冷静
アルジは問いかける。
アルジ「どうするんだ?」
シノミワ「………」
アルジ「魔真体が目覚めたら…」
シノミワ「終わりです」
アルジ「………」
シノミワ「この大陸は、終わりです」
アルジ「終わりって…」
エミカは歯を食いしばり、肩を震わせている。
懸命にこらえている。
涙が再びあふれてしまわないように。
アルジは隣でエミカの手をそっと握った。
シノミワ「ですから、
出てくる前に叩く必要があります」
アルジ「いつ出てくる?」
シノミワ「明日か、明後日か。分かりません」
アルジ「………」
シノミワ「少なくとも数千年後のことではない。
数百年後のことでもありません。
数ヶ月後のことでもない。長くても1週間後。
いいえ、2、3日後には出てくるでしょう。
…そうですよね。リャクドさん、ゼリさん」
リャクド&ゼリ「………」
リャクドとゼリは無言でうなずく。
アルジ「だめじゃないか…」
シノミワ「………」
エミカ「大前隊は…?政府の方々は…?」
こらえていた涙がこぼれる。
1粒、2粒、彼女の頬を涙が伝う。
震える声で懇願するように彼女は問いかける。
エミカ「魔術院の方々は…?
助けてはくれないのですか?」
シノミワ「協議はしたそうです」
アルジ&エミカ「………」
シノミワ「政府は一生懸命話し合ったそうです」
アルジ「話し合った…そうです…?」
シノミワ「そして、話し合いの結論はこうです。
魔真体を封じ込めるための十分な戦力…
これを準備するには、最短でも3日は要する。
ガオス総合統合官の話によれば…」
アルジ&エミカ「…?」
シノミワ「………」
アルジ「待ってくれ。シノミワさん」
シノミワ「………」
アルジ「あいつは院長だろ。
総合統合官はあんただろ」
シノミワ「更迭されました」
アルジ&エミカ「………」
シノミワ「私は更迭されました」
アルジ「反転点流が…起きたからか…?」
シノミワ「いいえ」
アルジ「じゃあ…」
シノミワ「説得できなかったからです」
アルジ「説得…?」
シノミワ「十分な説明ができなかった。
それで、説得することができなかった。
だから、私は職を失うことになりました」
アルジ「説得って…?一体…どういうことだ…?」
シノミワ「アルジさん」
アルジ「………」
シノミワ「大君は…
最後まであなたの味方だったのです」
アルジ「それって…どういうことだ?」
シノミワ「大政会が終わったあとのことです。
大政会の結論をもとに意思決定を行います。
政府としてどうするか。本当の決定です。
決定には大君のご了解が必要です。
数百年後、数千年後に備え、政府は準備する。
魔真体には手を出さない。
これが大政会の結論でした。
普通なら、そのまま通ります。
大君は了解されます。
ですが、通らなかったのです」
アルジ「………」
シノミワ「何度も説明しました。
リイノもガオスも。
ほかの3人の総合統合官も。
大君に分かってもらおう。
その気持ちで一生懸命説明しました。
ですが、最後まで大君は了解されませんでした。
反対だと。
アルジさん、あなたの意見に賛成なのだと。
長時間に及ぶ私たちの説得をはねつけました」
アルジ「………」
シノミワ「そうなると、仕方ありません。
残された選択肢は2つ」
アルジ「………」
シノミワ「大君の命令に従うか…あるいは…」
アルジ「あるいは…?」
シノミワ「強行決定です」
アルジ「強行決定…?」
シノミワ「総合統合官4人の意思で決定するのです」
アルジ「大君は?」
シノミワ「大君のご意思は尊重しつつも、
お考えは却下します」
アルジ「そんなことが…できるのか?」
シノミワ「普通はできないこと。
ゆえに…罰を受けます」
アルジ「罰…」
シノミワ「説明に失敗した総合統合官は…
更迭されるのです」
アルジ「………」
シノミワ「本件は大陸の平和維持に関わること。
私が扱う問題です。
説得できなかったのはこの私です。
責任を負うべきは私です。
ゆえに私は更迭されたのです」
アルジ&エミカ「………」
アルジは怒りを込めた声で問いかける。
アルジ「なんとかならなかったのか?」
シノミワ「…何が?」
アルジ「戦力を集めるのに3日もかかるって…
3日もかかるって…一体どういうことだ?
それじゃあ間に合わないかもしれないんだろ?
どうにかして…
すぐに戦力をかき集められないのか?
人集めに3日もかけたら魔真体が出てくる。
そのことはガオスも知ってるんだろ?
大陸の平和のためだろ?
何がなんでもやるんじゃないのか!?
こんなときは…!」
シノミワ「リャクドさん。
彼に経緯を聞かせてください」
リャクド「…はい」
アルジ「……?」
気まずそうにリャクドは言った。
リャクド「私が答えました」
アルジ「…え?」
リャクド「3日であれば、大丈夫だと」
アルジ「…なんだって…?」
リャクド「本当は…
今日、明日にでも動き出す必要があります。
アルジさんのおっしゃるとおり…
無理にでも戦力をかき集めて…。
しかし、ガオスさんはどうしてもダメだと。
戦力を集めるにはどうしても3日はかかると。
強く主張されたのです。私を脅すような態度で」
アルジ「強く主張したからって…!」
リャクド「予算の問題があります」
アルジ「?」
エミカ「戦力を集めるのに…
予算が足りないということですか?」
震える声でエミカは問う。
リャクドは首を横に振って否定する。
リャクド「いいえ。そういうお話ではありません。
ガオスさんの意に沿わない回答…つまり…
『3日ではダメだ。間に合わない。
今すぐ動く必要がある』と私が答えたら、
ガオスさんは機嫌を損ねます。そうすると…
研究の予算がつかなくなるおそれがあります。
そうなったら、私は合わせる顔がありません。
学術院の仲間たちに…。さらには…
僻地の研究所に飛ばされるかもしれません。
それはどうしても嫌でした。
私は実際にそういう人たちを見てきました。
ですから、私は答えたのです。
3日でも大丈夫だと。回答したのです。
ガオスさんの機嫌を損ねないように。」
エミカ「そんな…!」
アルジ「バカヤロウ!!!!!!!」
アルジは激昂した。
リャクド「………」
アルジ「そんな…!そんなことが…!!」
シノミワ「これが大人の事情というものです」
アルジ「研究がどうとか!!
言ってる場合じゃないだろ!!!
魔真体が復活して!!大陸が壊されたら!!!
研究も何もないだろ!!!バカヤロウ!!!!」
リャクド「…………」
アルジに罵られ、しゅんとするリャクド。
シノミワはそんなアルジを見て静かに笑う。
アルジ「なんだ…?」
シノミワ「…ふふ…」
アルジ「何がおかしいんだ…?」
シノミワ「いいえ…ごめんなさい」
アルジ「………」
シノミワ「私たちは覚悟していました」
アルジ&エミカ「………」
シノミワ「アルジさん、あなたに叱られることを。
数百年度、数千年後のために備えていればいい。
そんな風に考えていた私たちを叱るだろうと。
それ見たことかと言って、非難するのだろうと。
城宿に来る前から覚悟していました」
アルジ「………」
シノミワ「違うのではないですか?」
アルジ「何が違うんだ…?」
シノミワ「あなたが大声で私たちを非難するのは」
アルジ「は…?」
シノミワ「私たちが…
結論を聞かせたときではないのですか?
予算の話をしたときではなく、
結論を聞かせたときではないのですか?
あなたが本来…怒るべきときは…」
アルジ「………」
シノミワ「反転点流が起きた。
魔真体が目覚めた。私はお伝えした。
でも、あなたは冷静でした」
アルジ「………」
シノミワ「まるで…そうなるのは当然かのように。
まるで…そうなることを知っていたかのように。
怒るどころか申し訳なさそうな表情さえ見せた」
アルジ「そんなわけが…」
シノミワ「あなたは見せた!!!!!」
アルジ「…!」
エミカ「………」
シノミワ「いいですか?アルジさん。
よく聞いてください。
もしも…もしもの話ですよ」
アルジ「………」
エミカ「…アルジ…」
エミカが名前を呼ぶ。
だが、そのか細い声はアルジの耳に届かない。
シノミワ「あなたが重大な事実を知っていて、
それを隠していて、打ち明けてこなかったなら、
あなたにも重い責任があるのではないですか?
魔真体復活につながる重大な事実を、
大政会の場で、いいえ、その前会議の場で、
言わなかったのなら、資格はありますか?
あなたに私たちを責める資格はあるのですか?」
アルジ「………」
シノミワ「あなたが…
言うべきことをきちんと言っていれば、
政府は適切に対処できたのではないですか?」
アルジ「………」
シノミワ「言いなさい」
アルジ「………」
シノミワ「今、ここで、真実を言いなさい」
アルジ「………」
シノミワ「あなた、知ってたんでしょ…?」
しばらく沈黙したのちにアルジは答えた。
アルジ「そんなわけが…ないだろう…!」
シノミワ「嘘おっしゃい!!!!!」
そのとき、エミカは駆け出した。
会議室から勢いよく出ていく。
アルジ「エミカ!!」
アルジは立ち上がる。
シノミワ「逃げる気…?」
アルジ「すぐ戻る…!少し…外させてくれ…!」
シノミワ&リャクド&ゼリ「………」
アルジはエミカを追いかけて会議室から出た。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 34
◇ HP 4787/4787
◇ 攻撃
59★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
55★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
54★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、闘主の鎧
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、
壮刃破竜斬撃、雷刃剣
◇ 魔術 雷動
◇ エミカ ◇
◇ レベル 32
◇ HP 3388/3388
◇ 攻撃 11★★★★★★★★★★★
◇ 防御
32★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
45★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★
◇ 魔力
58★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、濃色魔術衣
◇ 魔術 火弾、火球、火砲、火樹、火海、王火
氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術
天火
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 30、活汁 4
◇ 創造の杖、安定の玉




