第280話 月光
アルジとエミカは立ち止まる。
シノ姫、リイノ、ガオスの3人と向き合う。
正面玄関に続く広い廊下の真ん中で。
シノ姫「アルジさん」
アルジ「なんだ」
シノ姫「さっきはよくもやってくれましたね」
アルジ「………」
3人とも厳しい表情。
アルジとエミカは身構える。
シノ姫「ですが…」
シノ姫の顔が急に穏やかになる。
シノ姫「素晴らしかったです」
アルジ「…?」
シノ姫「あなたがあのような意見を述べたから、
今回の問題について、より深く話せたのです。
民もより深く分かってくれたと思います」
アルジ「あのような意見…」
シノ姫「はい。
あなたの誤った意見が契機となったのです。
私たちがあなたの意見を批判することで、
みなさんの理解が深まったのです。
今ではない。
魔真体が目覚めたとき、対処すればよいのだと」
アルジ「誤った意見…」
シノ姫「はい。
あなたの意見がいかに突飛で無責任か。
私たちが説き、民に知らせ、分かったのです。
大陸の平和のため、私たちが選ぶべき道は何か。
魔真体は触らず放っておくべきだということが」
アルジ「突飛で…無責任…」
シノ姫「はい。
あなたの愚かで浅はかな意見があったから、
私たち政府は批判し、民はそれを聞き、
みんなで正しく、深く理解できました。
魔真体の正しい対処法について、
私たちは正しく理解できたのです」
アルジ「………」
シノ姫「結果敵に素晴らしい大政会になりました。
最後のあなたの行動は許しがたいものですが、
お礼を言っておきましょう」
アルジ「………」
シノ姫「大変ありがとうございました」
シノ姫が小さく頭を下げる。
それに合わせてリイノとガオスも頭を下げた。
アルジ「役に立てたんならよかったぜ」
シノ姫「今夜は城宿でゆっくりお休みなさい。
お部屋はこちらで手配していましたので。
明日の朝、宿へ使いを送りましょう。
カルスであなた方の故郷まで送ります。
もちろん古代獣討伐の賞金もお届けします」
アルジ「ああ、分かった。ありがとう」
シノ姫「お元気で」
アルジ「シノミワさんたちもな」
シノ姫たち3人は道を開ける。
歩き出すアルジとエミカ。
大政堂を出た。
アルジ&エミカ「………」
空はどんよりとしていた。
雨がしとしとと降っている。
傘をさして歩く人の姿があちらこちらに見えた。
アルジ「雨か」
エミカ「ラアムを出すよ」
アルジ「頼む」
エミカ「少し濡れると思うけど」
アルジ「大丈夫だ」
2人はラアムに乗り、城宿へ向かう。
雨に打たれながら都を駆ける。
雨脚は次第に強くなる。
宿に着くと、2人ともずぶ濡れになっていた。
アルジ「ふぅ…さっさと風呂に入るぜ」
エミカ「うん」
受付で鍵を受け取り、部屋へ行く。
アルジとエミカ、1部屋ずつ押さえられていた。
隣り合う部屋の前。
廊下で立ち止まるアルジとエミカ。
アルジ「エミカ」
エミカ「1人にしてほしい」
アルジ「………」
エミカ「一緒にいたい。本当は。
だけど、今は1人でいたい」
アルジ「そっか。でも…」
エミカ「頼ってしまう。アルジがそばにいると」
アルジ「オレは別に…」
エミカ「頼り切ってしまいそうになるんだ。
任せちゃいけないことまで任せてしまう。
そんな気がして、どうしようもなく不安で…」
アルジ「…ああ」
エミカ「苦しいとき、支えてもらえるのは嬉しい。
さっきも…大政会のときも嬉しかった。
守られてるって思った。
でも、今は少しでも強くいたいって思う。
支えてもらっても、もたれかかりたくはない。
アルジに全部を押し付けるようなことは…
したくない」
アルジ「ああ」
エミカ「だから、今は1人にしてほしい。
それで、1人で考えたい。
揺らいでいる心を整えたい。
そうしないと…次の戦いは…
とても乗り切れない…」
アルジ「次の戦いか」
エミカ「魔真体との戦いだ…。覚悟を決める」
アルジ「オレもだ」
エミカ「………」
アルジ「エミカ」
エミカ「なんだ?」
アルジ「明日の朝、話し合おう」
エミカ「うん」
アルジ「魔真体を倒すための作戦会議だ。
政府の人が城宿に来る前に…
話し合って、どうするか決めよう」
エミカ「ああ」
アルジ「政府はあんな感じだから、
オレたちがやるしかない。
オレたちで探して、見つけて、倒すしかない。
今のところいい方法は見つからないけど…」
エミカ「考える」
アルジ「ああ」
エミカ「いい方法は、きっと見つかる」
アルジ「そうだな」
そして、2人はそれぞれの部屋に入った。
アルジは戸を閉めて荷物を置く。
アルジ(相変わらずすごい部屋だ…)
部屋の広さ、天井の高さに改めて驚くアルジ。
鎧を脱いで風呂に入る。
広い浴槽には熱めの湯が張られていた。
壁に設けられた湯口。
そこからこんこんと透明な湯が注がれている。
アルジ(相変わらずすごい風呂だ…)
首まで浸かり、考える。
アルジ(魔真体…。オレたちが倒さなきゃ。
でも、倒せるのか…?
大陸のすべてを壊してしまえる…。
そんな化け物を…
本当にオレたちは倒せるのか…?)
髪を洗い、顔を洗う。
アルジ(いや、やるしかない。倒すしかない。
そうじゃなきゃ…
ここまで戦ってきた意味が…)
入念に体を洗う。
アルジ(…練習してみるか。あいつの、あの技を)
浴室から出て、服を着る。
そして、勇気の剣を手にする。
跳び上がり、剣を振り上げて、振り下ろす。
アルジ(こうか…!?)
もう1回。
アルジ「なんか違う…」
さらに挑戦する。
3回目、4回目、5回目。
そして、6回目。
アルジ(これだ!!!できた!!)
不敵に笑い、アルジは思う。
アルジ(なんだ、オレにもできたじゃないか。
近くで見てたもんな。あいつの技を。何度も。
あいつの技には及ばないかもしれないが…
できるようになったぜ。お前の天地双竜剣を…。
今、戦ったら、今度は多分オレが勝つだろうな。
大陸最強の剣士は…このオレだ!)
そのとき、アルジの目から涙がこぼれる。
アルジ「………」
勇気の剣を床の上にそっと置く。
大きな寝台の上に座り、頭を抱えた。
アルジ「…なんでだ…」
涙は止まらない。
アルジ「お前は…なんで負けたんだ…。
エオクシ…。
なんで…お前はあんなやつに…負けたんだ…」
そのまま布団に潜り、眠りに就く。
たまった疲れがすぐさま彼を眠りへ導いた。
一方、エミカの部屋。
エミカ「………」
彼女は椅子に腰掛け、目を閉じている。
入浴を終え、服を着て、静かに心を落ち着ける。
そして、頭の中で問いかける。
エミカ(リネさん、私はどうしたらいいですか?
ミリ、私はどうしたらいい?)
返答はない。
エミカは受け継いだ2人の魔力を感じる。
体の中を流れているリネとミリの魔力を。
微かな揺らぎも感じ取ろうとする。
そこに質問の答えを見出そうとするかのように。
エミカ「………」
深呼吸して、魔波の流れを整える。
それから、エミカは切に願った。
エミカ(どうか…どうか…
私の魔力が…続きますように。
最後まで…最後の戦いまで…続きますように)
そのときだった。
アヅミナ「…大丈夫」
エミカ「え…?」
驚いて、目を開けて、部屋の中を見回す。
エミカ「………」
だが、誰もいない。
エミカ「…気のせいか。…疲れてるんだ」
エミカも布団に潜り、眠りに就いた。
アルジ「………」
大きな寝台の上で眠り続けるアルジ。
声が聞こえて目を覚ます。
????「寝てんじゃねえ」
アルジ「……?」
????「立て。今すぐ立ちやがれ」
アルジ「…は…?」
アルジは目を開ける。
薄暗い部屋の中を見回す。
近くに1人の男が立っていた。
アルジ「…!!!」
エオクシ「おい!アルジ!!
なぁにが大陸最強の剣士だ!!
笑わせんな!!
おめえの技はまだまだなっちゃいねえ!!
勝負だ!!さっさと立って剣を構えろ!!」
アルジ「エオクシ…!なんで…!ここに…!!」
エオクシ「早くしろ!!!」
アルジは起き上がり、勇気の剣を構えた。
エオクシは嬉しそうに笑う。
エオクシ「よう。約束どおり…
とことんやるぜ!!」
アルジ「…ああ!!」
窓から入る月明かり。
その光は壮刃剣の刃に当たる。
刃が妖しげに輝く。
アルジは勇気の剣を握りしめた。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 34
◇ HP 4787/4787
◇ 攻撃
59★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
55★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
54★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、闘主の鎧
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、
壮刃破竜斬撃、雷刃剣
◇ 魔術 雷動
◇ エミカ ◇
◇ レベル 32
◇ HP 3388/3388
◇ 攻撃 11★★★★★★★★★★★
◇ 防御
32★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
45★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★
◇ 魔力
58★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、濃色魔術衣
◇ 魔術 火弾、火球、火砲、火樹、火海、王火
氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術
天火
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 30、活汁 4
◇ 創造の杖、安定の玉




