第279話 無言
騒然となる中央大会議場。
アルジ「…うるせえ」
ガオス「なんだと…?」
政台上の者たちはアルジに敵意の目を向ける。
アルジはそれに構わず大声で言う。
アルジ「大前隊は各国に基地があるだろ!!
そこにいる隊員たちが!
手分けして魔真体を探せばいいだろ!!
オレももちろん探す!!全力で手伝う!!」
ガオス「バカが…!!」
さらにアルジは言う。
アルジ「ラグアの仲間が攻めてくるだって?
それは一体どこのどいつだ!名前は!?
言ってみろ!すぐに倒しに行ってやる!!」
ガオス「……!」
アルジ「それに本当に大丈夫なのか!?
本当に数百年後、数千年後のことなのか!?
魔真体が目覚めるまで…!
本当にそんな時間があるのか!!?
未知の力で動き出すんだろ!!?
なんでそんなことが言えるんだ!!?
本当なのか!!?
今日、明日にも動き出すかもしれないだろ!!
大陸が滅ぶかもしれないのに!
なんでそんなに呑気なんだ!!」
ガオス「………」
顔を真っ赤にして歯を食いしばるガオス。
その様子に真っ先に気づいたのはリイノ。
リイノ(ああ、これキレるわ…)
彼女はすっと手を挙げる。
リイノ「あの、よろしいですか?」
シノ姫が応じる。
シノ姫「どうぞ。リイノ院長。発言を…」
リイノ「はい」
彼女は立ち上がり、政台の前の方へ歩いていく。
彼女の目は中二階の真ん中に向けられている。
アルジをじっと見つめている。
アルジ「………」
リイノ「よく分かりました。アルジさん」
アルジ「…!」
リイノ「あなたのご意見は確かに聞きました」
アルジ「じゃあ…」
リイノ「ですが、採用しません」
アルジ「!!」
リイノ「今日、明日にも…
魔真体が目覚めるかもしれない。
だから、今すぐ戦うべき。
どこにいるのかは探せばいい。
大陸各地の基地にいる大前隊が探せばいい。
そういうことですよね。
この考えは政府として採用できません」
アルジ「なんで…」
リイノ「政府は専門家の意見を採用するからです」
アルジ「専門家…」
リイノ「あなたは確かに戦士としては立派です。
大陸猟進会でも倒せなかった古代獣。
それをあなた方は倒した。
そういう話も聞いております。
素晴らしいことだと思います。
ですが、古代文明の見識においては素人です。
この政台の上にいる学者たち。
彼らの足元にも及びません。
ここにいる学者のみなさんは、
あなたが訪れたことのない場所へ行き、
あなたの知らないことを知り、
とても深くまで研究されている。
そんな彼らが自信を持って言うのだから、
政府は信じます。政府は採用します。
わざわざ危険を冒してまで
魔真体をすぐに倒そうとは考えません。
魔真体を動かす力。
それは確かに未知の力といえます。
ですが、研究は日々進められています。
さっき話の中にあった『反転点流』という現象。
このほかにも続々と見つかっています。
さまざまな現象や法則が。
それらをあなたは知っていますか?
知らないでしょう。
数百年、数千年というのは…
決して当てずっぽうではない。
確かに…少しばかり幅はありますが、
専門的知見に裏づけされた数字なのです」
アルジ「………」
リイノ「それに、あなたはさっき言いましたね。
今よりも強い魔術とか兵器ができたとして、
本当にそれで魔真体を倒せるのか、と。
これについては具体的にお答えします」
アルジ「………」
リイノ「集合魔術というものがあります」
アルジ「集合…魔術…?」
エミカ「…?」
リイノ「ご存知ない方がほとんどでしょう。
知らなくて当然です。未発表の魔術ですから。
魔術院の機関誌『魔術研究』。
これに近々掲載される予定です。
集合魔術についての研究成果が。
その魔術がどのような魔術か。
魔術院から説明をお願いします」
魔術院の光術師ナコゼンが立ち上がる。
政台の上を静かに歩き、リイノの隣に立つ。
とても緊張した面持ちで。
ナコゼン「どうも。魔術院のナコゼンと申します。
これまで複数人による魔術は不可能でした。
魔波の波長を合わせるのが難しいからです。
例えば、2人が同時に同じ魔術を使ったとき。
同じ対象に向けて、王火などを使ったとき。
威力は倍増するでしょうか。いえ、しません。
両者の魔力の波が打ち消し合い、
威力は逆に弱くなってしまうのです。
集合魔術は、この常識を覆すものです。
1人より2人、2人より3人、3人より4人…
みんなで同時に同じ魔術を使えば、強くなる。
しかも、2人なら2倍、3人なら3倍の威力…
そんな単純な計算ではありません。
2人なら4倍、3人なら9倍、4人なら16倍…
大雑把な計算ですが、このように強くなります。
集合魔術は、そんな素晴らしい魔術です」
リイノ「どうやってそれを可能にしたのですか?」
ナコゼン「ある画期的な装置を開発したのです。
魔力の波長を制御し、強めたり弱めたりする。
そんな画期的な装置です。これにより…
複数の魔力の波長を合わせることができます。
魔力の波が打ち消し合うことなく、
むしろ互いに強め合うことができるのです」
リイノ「実用化の見通しはどうですか?」
ナコゼン「今後、数十年の間に…
実用化される見通しです。
数百人の魔術師による集合魔術。
そんなものも将来実現することでしょう」
リイノ「数百人ですか。すごい人数ですね。
その集合魔術はどれほどの威力になりますか?
例えば、みんなで王火を使ったら…」
ナコゼン「山を1つ…消し飛ばせることでしょう」
アルジ「山を…1つ…!?」
エミカ(そんな威力は出せない…。
天火でも…獄火でも…。
集合魔術…本当に…そんなのが…)
リイノ「素晴らしい。さて、いかがでしょうか。
みなさん。
そんな魔術で攻撃すれば…分かりますね?」
ナコゼン「魔真体といえども、
ひとたまりもないでしょう」
民の席の者たち「………」
集合魔術。
その規格外の強さにざわめく民の席。
リイノ「さて、アルジさん」
アルジ「………」
リイノ「まだ何か言いたいことはありますか?」
アルジ「………」
エミカ「…アルジ…」
アルジは振り向く。
エミカと目が合う。
彼女はアルジにほほえみかけた。
少し困ったような顔で。
それから、首を小さく横に振る。
アルジ「…エミカ…ごめん…」
リイノの方を見て、アルジは答えた。
アルジ「…ありません」
リイノ「そうですか」
アルジは席に座る。
シノ姫が立ち上がる。
民の席にいる者たちに問いかける。
シノ姫「念のため、聞きます。
まだ何か意見はありますか?
みなさん、分からないことなど、
なんでも聞いてくださいね。
私たちが責任を持って
詳しく分かりやすくお答えしましょう」
民の席の者たち「………」
誰からも声は上がらない。
シノ姫「それでは、これにて大政会を閉会します」
事務局員が立ち上がり、告げる。
今回の大政会に関する資料公表の日程について。
また、意見書の受付について。
そして、次回大政会の予定について。
事務局員「連絡は以上です」
こうして大政会は終わる。
政台の上から次々と去っていく。
シノ姫が、リイノが、ガオスが。
学者たちも魔術師たちもいなくなる。
事務局の役人たちも。
民の席からも人々がいなくなる。
次々と立ち上がり、中央大会議場から出ていった。
常連の男「…あんた」
アルジの隣にいた中年の男が声をかけてきた。
アルジ「…なんだ?」
常連の男「すげえな、あんた」
アルジ「………」
常連の男「あんなのは、初めてだ。
オレは今までいろんな大政会を見てきた。
だが、こんなに心震えたのは…初めてだ」
アルジ「………」
常連の男「あんたの本気が伝わってきた」
アルジ「…そうか」
常連の男「結果は残念だったが、
いいもん見せてもらった。
これからも頑張れよ。応援してるぜ」
アルジ「ああ、ありがとう」
去っていく常連の男。
アルジの目に涙が浮かぶ。
アルジ「ごめん、エミカ」
エミカ「アルジ…もういいよ…。
ありがとう…ごめん…」
アルジ「もう謝るなよ」
エミカ「………」
アルジ「行けると思ったんだけどな。
ダメだったか…」
エミカ「………」
アルジ「これからどうするか…」
エミカ「………」
アルジ「ガシマとオンダクに相談してみるか?」
エミカ「………」
アルジ「でも、あいつら今どこにいるんだろう。
探そうか…。いや、やっぱやめとくか…」
エミカ「…うん」
政台の上には誰もいなくなる。
民の席からも人の姿がほとんど消える。
そんなとき、アルジは気づく。
大覧席から注がれる視線に。
アルジ「!!」
大君はまだそこにいた。
椅子から立ち上がり、じっとアルジを見ている。
アルジ「大君…」
アルジも立ち上がり、大君を見る。
それは、目と目で行う無言の対話。
ほんのわずかな時間のこと。
大君はほほえみ、背を向けて、奥へと消えた。
アルジ「………」
再び椅子に腰掛けて、アルジはエミカに言う。
アルジ「飯にしないか?」
エミカ「え…?」
アルジ「でかい声出したら腹が減ったぜ。
ほら、城宿の飯がここにある」
エミカ「…ここで…食べるのか?」
アルジ「いいだろ。多分…」
メイニナがやってくる。
メイニナ「お疲れ様でした!」
振り向き、立ち上がるアルジとエミカ。
メイニナ「アルジさん、本当にお疲れ様でした。
素晴らしい演技でした!
聞き入ってしまいましたよ」
アルジ「そっか、名演だっただろ」
メイニナ「はい!!」
アルジ「………」
メイニナ「どうされましたか?」
アルジ「あれが演技に見えたのか?」
メイニナ「え…?昨夜、前会議をやったのでは?
そこでさっきの発言をすると…
打ち合わせをされたのでは…?」
アルジ「シノミワさんたちと話し合ったのは、
魔真体を阻止したと証言するところまでだ」
メイニナ「まさか…!」
アルジ「…そういうことだ」
メイニナ「…そんな…そんな…!」
困惑するメイニナにアルジは問いかける。
アルジ「なあ、少しここにいてもいいよな?」
メイニナ「…え?」
アルジ「腹が減ったから、ここで飯を食いたい」
城宿でもらった料理の箱を見せる。
メイニナ「あ、はい。
そんなに長居しなければ大丈夫かと…」
アルジ「助かるぜ。ありがとな」
メイニナ「それでは…私はこれにて…」
そそくさと去っていくメイニナ。
中央大会議場にはアルジとエミカだけになった。
アルジは箱を開けて、料理を食べ始める。
アルジ「食べようぜ。腹減ってるだろ」
エミカ「…うん」
静かに時間は過ぎる。
アルジはふと思い出して、エミカに言う。
アルジ「さっき…なんで急に笑ったんだ?」
エミカ「…?」
アルジ「オレが証言したときだ。
もう逃げられないぜってオレが言ったら…」
エミカ「エオクシさんにちょっと似てたから」
アルジ「………」
エミカ「言い方が…」
アルジ「…そうか」
エミカ「うん」
アルジ「うつったのかもな」
エミカ「そうかも」
アルジ「あいつの天地双竜剣も…
受け継ぎたかったぜ」
エミカ「エオクシさんの…あの技か」
アルジ「ああ。
エミカが魔術を受け継いだみたいにな」
エミカ「練習したらどうだ?」
アルジ「それもいいな。
あの技をオレが使えば魔真体も楽勝かもな!」
エミカ「…うん」
アルジ「天火の出番…
なくなっちまうかもしれないぜ!ははは!」
エミカ「…アルジ…」
食事を終えて会議場を出る。
広い廊下に立つ3人の姿。
アルジとエミカの方を向いて、立ちはだかる。
アルジ&エミカ「…!!」
その3人はシノ姫、リイノ、ガオスだった。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 34
◇ HP 4787/4787
◇ 攻撃
59★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
55★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
54★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、闘主の鎧
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、
壮刃破竜斬撃、雷刃剣
◇ 魔術 雷動
◇ エミカ ◇
◇ レベル 32
◇ HP 3388/3388
◇ 攻撃 11★★★★★★★★★★★
◇ 防御
32★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
45★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★
◇ 魔力
58★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、濃色魔術衣
◇ 魔術 火弾、火球、火砲、火樹、火海、王火
氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術
天火
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 30、活汁 4
◇ 創造の杖、安定の玉




