第278話 無謀
多くの視線がアルジに向けられる。
アルジ「ああ、えっと…」
声が響く。
アルジ(オレの声が…会場全体に…。
すごいな…。
これが魔音響ってやつか。
ていうか、すごい注目だぜ…。
まさか…本当に…
こんなとこで証言するなんて…)
政台の上、民の席の者たち、そして、大覧席。
会議場内を一通り眺めてからアルジは話す。
アルジ「オレはナキ村のアルジ。
3年前、オレの村の宝、安定の玉が奪われた。
宝を取り返すため、オレは旅をしてきた。
ここまでいろいろあったけど、
最後は勝ててよかった」
民の席の者たち「………」
アルジ「証言する前に言っておきたいことがある。
勝てたのはオレたちだけの力じゃない。
仲間たちがいたからだ。
特にエオクシとアヅミナさん。
2人が一緒に戦ってくれたから…
オレたちは勝てた。
そのことはここではっきり言っておきたい」
エミカ「…アルジ…」
エミカは席に座ったまま聴いていた。
アルジの背中を見つめている。
民の席の者たち「………」
シノ姫(…早く証言しなさい)
アルジは続ける。
アルジ「証言するぜ。
オレたちはラグアを倒した!
星の秘宝を取り返した!
魔真体の復活を阻止した!!」
民の席の者たち「…ぉぉおおおおおぉぉぉ…!」
シノ姫「………」
アルジ「あと…起動装置を傷つけると、
魔真体が目覚めるかもしれないって聞いた。
捧げた秘宝が2つだけだったとしても、
反転点流って現象が起きるらしくて。
力が安定的に供給されるみたいで。
オレは詳しいこと分からないんだけど…
昨日、そこの学者の人たちから聞いた」
民の席の者たち「……?」
アルジ「でも、傷つけてない。
オレたちは…起動装置を傷つけてない!!
オレたちの証言は…以上だ」
シノ姫「ありがとう」
盛り上がる会議場内。
歓喜と喝采の渦が巻き起こる。
シノ姫が笑顔で閉会を宣言しようする。
シノ姫「それでは…」
アルジ「待ってくれ」
シノ姫「…!」
民の席の者たち「………」
再びアルジは人々の注目を集める。
アルジ「いいのか?」
民の席の者たち「………」
アルジ「魔真体が目覚めるのは数百年後。
だから、今は戦わない。
本当にそれでいいのか?」
民の席の者たち「………」
アルジ「魔真体は今すぐ倒すべきじゃないのか。
目覚めてしまう前に倒すべきじゃないのか。
オレはそう思う」
シノ姫(この男…何を…!)
アルジ「今は力の流れが不安定。
だから、目覚めない。
それなら、今こそ倒すべきじゃないのか。
何があっても、何が起こっても、
目覚めないように。
魔真体が決して動き出すことがないように。
倒すべきじゃないのか。完全に。
そうだ、完全にだ!」
民の席の者たち「………」
シノ姫はふるふると顔を震わせる。
アルジ「もしも、数百年後に目覚めたとき、
手に負えなかったらどうするんだ?
今より強い魔術とか兵器ができたとして、
本当にそれで魔真体を倒せるのか?
倒せなかったらどうするんだ?オレは…」
リイノ&ガオス「………」
アルジ「オレは戦うべきだと思う。今すぐに。
戦って、魔真体を完全に倒すべきだと思う。
まだ目覚めていないうちに!力が弱いうちに!」
民の席の者たち「………」
集まった民はざわめき出す。
不安と困惑の波が押し寄せる。
リイノはうつむき、首を大きく横に振る。
ガオスは大きなため息をつき、腕を組む。
シノ姫は予期せぬアルジの発言に憤る。
シノ姫「………」
アルジ「だから、1つ、たった1つだ。
お願いがあるんだ。オレたちから、みんなへ」
エミカ「…アルジ…」
エミカは肩をすぼめ、うつむいている。
両手は膝の上で強く握られている。
左右の目からぽたんぽたんと涙が落ちた。
アルジ「そのお願いは…」
シノ姫が勢いよく立ち上がる。
シノ姫「お黙りなさい!!!」
アルジ「…!!!」
静まり返る中央大会議場。
心を落ち着けてシノ姫は言う。
シノ姫「証言者は…
証言するために来ているのです。
何か意見を述べるなど…許されません」
アルジ「………」
そのとき、大君が椅子から立ち上がる。
前の方へと歩み出る。
縁に設けられた白い手すり。
それの上に手を乗せて、口を開く。
トキノナガ「続けるのじゃ」
シノ姫「…!!」
アルジ「………」
トキノナガ「最後まで言うのじゃ」
シノ姫&リイノ&ガオス「………」
トキノナガ「記録係は書くのじゃ。何を話したか。
一言一句、誤りなく書き記すのじゃ」
記録係「はい…!」
民の席の者たち「………」
アルジ(ありがとう…。大君…)
シノ姫は力なく椅子に腰掛ける。
大君も席に戻って座る。
アルジは言おうとしていたことを最後まで言う。
アルジ「オレたちからお願いだ。
みんなの力を貸してくれ」
民の席の者たち「………」
アルジ「どんなことでもいいんだ。
魔真体を倒すために。
政府のみんなも力を貸してくれ。
どうか、お願いだ。
大前隊も、防衛隊も、警備隊も。
一緒に戦ってほしい。魔術院もだ。
強い魔術師が来てくれたら、ありがたい。
いい作戦があるなら、オレたちは手伝う。
オレたちにできることなら、なんでもやる
だから、お願いだ。みんなで行こう。
戦いにいこう。魔真体を…倒しにいこう!」
民の席の者たち「………」
アルジ「往戦だ」
民の席の者たち「…?」
アルジ「往戦するんだ」
シノ姫&リイノ&ガオス「………」
アルジ「敵を待つな。自分から行って戦うんだ。
敵が目覚めたときのため、備えるんじゃない。
敵の力が弱いうちにこっちから戦うんだ!
戦うなら今だ!今のうちだ!だから行こう!!
力を合わせて魔真体を倒しに行こうぜ!!」
エミカ「………」
エミカはもううつむかない。
涙をふいてアルジの背中をじっと見ていた。
アルジ「…オレの言いたいことは、これで全部だ」
アルジは椅子に座った。
ざわめく民の席の者たち。
政台上の者たちは困惑した表情。
シノ姫、リイノ、ガオスの3人を除いて。
3人は無表情。
静かに会議場内の様子を観察していた。
アルジ「エミカ」
エミカ「………」
アルジは笑いかけて彼女に告げた。
アルジ「これでもう逃げられねえぜ…!」
エミカ「………」
エミカはアルジの顔をしばらく見つめる。
それから、少し笑う。
エミカ「…ふふ…」
アルジ「?…なんだ…?」
民の席のざわめきは収まらない。
リイノ(流れが…変わった…)
シノ姫
ガオスが立ち上がる。
ガオス「みなさん、お静かに」
民の席の者たち「………」
ガオス「今のご意見についてお答えしましょう。
アルジさんが述べてくれた意見について。
政府として回答しましょう」
アルジ&エミカ「………」
ガオス「まず申し上げておきたいのは、
政府も大陸の平和を守りたいということ。
未知の脅威である魔真体。それを倒したい。
アルジさんの発言、勇気は立派なものだ。
政府としても平和を守る心は変わらない。
今すぐ倒せるものならそうしたい。そうだ。
その気持ちは同じなのだ。アルジさんも政府も。
まずはこのことをみなさんにお伝えしたい」
民の席の者たち「………」
ガオス「その上で3点お伝えする」
アルジ&エミカ「………」
ガオス「1点目。政府の金と力について。
今回の戦乱で多くの金と力が失われた。
古代獣との戦い、国潰しという悪行。
それらの対応に多くの金が使われた。
多くの兵士が命を落としてしまった。
政府は今、弱っている。弱ってしまっている。
こういうとき、大事なのは何か。守ることだ。
守って、守って、体勢を立て直すことだ。
人に例えるなら、風邪を引いて寝込んでいる。
政府は今、そんな状態に近いのだ。
治るまで静かにしている必要がある。
無理に動いてはいけない。外に出てはいけない。
まず、この現状について分かってもらいたい。
それに、敵は狙っているかもしれない。
ラグア一派の仲間が企んでいるかもしれない。
政府が弱っているうちに倒してしまおうと。
攻めてきたらどうする。戦わなければならない。
そのとき、大前隊が都にいなかったら?
魔真体を倒すため、遠くへ出かけていたら?
みなさんを…守れないかもしれない」
民の席の者たち「………」
ガオス「それは防衛隊も警備隊も同じこと」
アルジ&エミカ「………」
ガオス「続いて、2点目。魔真体について。
今、魔真体を攻めて本当によいのだろうか?
力の流れが不安定だから目覚めない。
目覚めないうちに攻めて、倒してしまえ。
この考えは、果たして正しいのだろうか?
魔真体がせっかく静かにしているのに、
無理に刺激してしまってもよいのだろうか?
専門家、見解を求めます」
リャクド「は…はい!」
緊張した面持ちでリャクドは立ち上がり、答える。
リャクド「先ほど…アルジさんも言いましたが、
『反転点流』という現象がございます。
これは強い熱や打撃など衝撃を加えることで、
力の流れが変わる現象を言います」
ガオス「ほう。力とは?なんですか?」
リャクド「星の秘宝に込められた未知の力です。
魔真体の起動もこの力が関係しております」
ガオス「その『反転点流』とやらが起きると
どんなことが起きますか?」
リャクド「魔真体が目覚めるかもしれません」
ガオス「…おお…なんと…」
民の席の者たち「………」
リャクド「せっかく眠りに就いている魔真体。
これを起こしてしまう可能性があります」
ガオス「それは大変ですね」
リャクド「はい。目覚めたら大陸はおしまいです。
現代の兵器、魔術では対抗できないでしょう」
ガオス「よく分かりました」
アルジ&エミカ「………」
ガオス「みなさん、
無理に刺激してはいけないようです」
民の席の者たち「………」
リャクドは胸をなで下ろし、椅子に座る。
ガオス「最後に3点目。方法について」
民の席の者たち「………」
ガオス「仮に…
魔真体をこれから倒しにいくとしましょう。
さて、魔真体は一体どこにいるのでしょうか?」
アルジ&エミカ「………」
ガオス「どうやって探したらよいでしょうか?
アルジさん、知っていますか?」
アルジは立ち上がって答える。
アルジ「…オレは知らない」
民の席の者たち「………」
ガオス「そうですか。分かりました」
アルジは力なく席に座る。
ガオスはため息をついて首を横に振る。
それから、学者たちに向かって問いかける。
ガオス「魔真体はどこにいますか?
専門家の見解を求めます」
ゼリが立ち上がる。
ゼリ「分かりません」
ガオス「専門家でも分からない」
ゼリ「はい」
民の席の者たち「………」
ゼリ「古代遺跡のどこか…。その可能性が高い…。
私たちに言えるのは、その程度です」
ガオス「古代遺跡なんて…
いくつもあるじゃないですか」
ゼリ「はい」
ガオス「大陸各地に」
ゼリ「そうです」
ガオス「魔真体の居場所を…
本気で突き止めようとするのなら、
くまなく探さなければならないと。
各地の古代遺跡を。そういうことですね」
ゼリ「はい」
ガオス「しかも…
古代遺跡にいる『可能性が高い』と。
では、もしかすると…
古代遺跡と関係ない場所にいるかもしれない。
…そうですね?」
ゼリ「はい」
ガオス「話になりませんね」
ゼリ「………」
ガオス「大前隊や警備隊を総動員して、
大陸中を探し回る。非現実的です。
みなさんもそうお思いでしょう」
民の席の者たち「………」
ガオス「それこそ、
その間に敵に攻められてしまいます」
民の席の者たち「………」
多くの者が無言でうなずく。
ガオスの話はもっともだ。
その感情が態度に表れていた。
エミカは気づいた。
アルジが隣で肩を震わせていることに。
アルジ「くっ……くそ…!」
エミカ「アルジ…」
ガオス「さあ、どうですか!!みなさん!!!
これでお分かりになったことでしょう!!
今すぐ魔真体を探しにいく!倒しにいく!!
これがいかに無謀なことか!愚かなことか!!
私たち政府は…」
そのときだった。
アルジは勢いよく立ち上がる。
そして、会議場全体を揺らすような大声を上げた。
アルジ「うるせえ!!!!!!!!!」
ガオス「!!!????」
民の席の者たち「…!」
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 34
◇ HP 4787/4787
◇ 攻撃
59★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
55★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
54★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、闘主の鎧
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、
壮刃破竜斬撃、雷刃剣
◇ 魔術 雷動
◇ エミカ ◇
◇ レベル 32
◇ HP 3388/3388
◇ 攻撃 11★★★★★★★★★★★
◇ 防御
32★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
45★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★
◇ 魔力
58★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、濃色魔術衣
◇ 魔術 火弾、火球、火砲、火樹、火海、王火
氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術
天火
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 30、活汁 4
◇ 創造の杖、安定の玉




