第275話 今回
シノ姫と目が合う。
アルジは驚き、跳び上がりそうになる。
アルジ「!!」
シノ姫「…どうしたの?」
アルジ「いや…なんでもない。
これから宿に向かうところだ」
シノ姫「そうなの…」
シノ姫はアルジの顔をじっと見つめる。
アルジはその場から動けない。
アルジ「………」
シノ姫「忘れちゃったから、
取りに戻ってきたの。破壊の矛を…」
アルジ「…そうか」
シノ姫「おやすみなさい」
アルジ「ああ、おやすみ」
エミカはずっと顔を伏せていた。
シノ姫に泣きはらした顔を見せないように。
シノ姫「エミカさん、どうしたの?」
エミカ「………」
シノ姫「エミカさん、泣いていたの…?」
エミカ「………」
アルジ「エミカはさっき…思い出しちまったんだ。
戦いで…アヅミナさんが死んだときのことを…」
シノ姫「仲良かったものね…。あなたたち」
エミカ「………」
アルジ「じゃあ、行くぜ」
歩き出すアルジとエミカ。
シノ姫が呼び止める。
シノ姫「…待ちなさい」
アルジ&エミカ「………」
シノ姫「大行記というものがあります」
アルジ「なんだ?それは」
シノ姫「大政会で話し合われたこと…
それを記録した書物です。
いつ、誰が、何を話したのか。
一言一句誤りなく記録されています」
アルジ「それがどうしたんだ?」
シノ姫「古いものだと…
千年以上も前のものがあります。
年に4回開かれる定例会。
急を要する事柄を扱う臨時会。
すべての大政会で話し合われたことが
記録されています」
アルジ「そういうのがあるのか」
シノ姫「もちろん…
明日話し合われることも記録されます。
そして、千年、二千年と残ることでしょう。
大行記に書かれていることこそが、
私たちの基本指針。
政府の、民の、大陸の基本指針となるのです」
アルジ「ああ」
シノ姫「あなたたちの発言は決まっています。
誤りがないように話してください。
さっきの前会議で決まったとおり。
賊を倒したと。魔真体の復活を阻止したと。
証言するのです。あなた方が、最後に。
それで、政府として何をするか結論を出します。
政府が何をするか。さっき言いましたね。
もう分かりますね。
それから、閉会を宣言します。
それで、明日の臨時会は終わりとなります」
アルジ「………」
シノ姫「それで一件落着です。
大陸に平和な日々が戻ります。
あなたたちも、もう戦う必要などありませんよ」
アルジとエミカにシノ姫はほほえみかける。
アルジ「…ああ」
シノ姫は大きな声で言った。
シノ姫「もっと喜びなさいよ!」
アルジ&エミカ「………」
シノ姫「もっと嬉しそうな顔してよ!
笑いなさいよ!何!?何かあるの!?
何か隠し事でもしてるの!!?
あなたたち!!
どうしてそんなしけた顔しているの!?
笑ってよ!もっと嬉しそうな顔してよ!!」
アルジ「ああ」
アルジは笑う。
ひどくぎこちなく。
大きなため息をつき、なおもシノ姫は言う。
シノ姫「何…?
政府の対応がそんなに気に食わないの?
そんなに面白くないの?ねえ?」
アルジ「………」
シノ姫「言ってよ!はっきり言ってよ!
不満があるんなら!!
不満があるんなら!ここで今!!
はっきり言ってよ!!!
説明が必要なら呼んでくる!!
専門家も!今!ここに!!
そのための前会議なんだから!!」
アルジ「いや」
シノ姫「………」
アルジ「説明とかは…もういいんだ」
シノ姫「………」
アルジは目に涙を浮かべて言う。
アルジ「大事な仲間が死んでしまったから」
シノ姫「………」
アルジ「約束してたことができなくなったから。
もう2度と会えないから。今は苦しくて悲しい。
戦いが終わった嬉しさよりも
そういう気持ちが強い。
だから、心から笑えない。オレもエミカも」
シノ姫「………」
アルジ「シノミワさん、それじゃ。
また明日。ここで…」
シノ姫「………」
アルジとエミカはシノ姫に背を向けて歩き出す。
広い廊下をまっすぐ進んでいく。
シノ姫は2人の後ろ姿をじっと見続けた。
大政堂から出ていくまで。
メイニナ「お宿はあちらでございます」
大政堂から出ると、メイニナが案内する。
彼女の指差す先には、見たことのある大きな建物。
城宿だった。
メイニナ「よかったら、案内しますが」
アルジ「ありがとう。大丈夫だ。
あれだよな。昨日も行った。
だから…オレたちだけで行けると思う」
メイニナ「そうですか。お気をつけて」
空はかなり白んでいた。
通りにはまばらに人が歩いている。
散歩する老夫婦。
青果物を台車で運ぶ男。
疲れた顔で店から出てきた女。
そんな人々とすれ違う。
大政堂からかなり離れて、小さな橋を渡ったとき。
エミカ「…ごめん…アルジ…ごめん…」
アルジ「エミカ…」
泣きながらエミカが何度も謝る。
ぽたん、ぽたん、と涙が地面に落ちる。
アルジ「…宿に着いてから話そう…」
エミカ「………」
できるだけ小さな声でエミカに伝える。
アルジ「…聞かれてるかも…」
エミカ「…うん」
◆ 城宿 ◆
受付で鍵をもらい、部屋に行く。
2部屋確保されていた。
アルジとエミカはそのうちの1部屋へ。
入るなり着ているものを脱ぐ。
アルジは闘主の鎧を。
エミカは濃色魔術衣を。
そして、2人で真剣に探す。
何か異物が仕込まれていないか。
黒い糸が縫い込まれていないか。
アルジ「大丈夫…みたいだ」
エミカ「………」
アルジ「でも、念のため、ここに入れておこう」
アルジは鎧と魔術衣をしまう。
部屋の隅に置かれた大きくて重厚な収納箱に。
アルジは宿が用意した寝巻きを着ようとする。
その色は、黒と濃紺。
エミカが止める。
エミカ「アルジ」
アルジ「…そうだな」
布団を入念に調べてから、下着のまま2人で入る。
大きな布団の中、並んで寝る。
時刻は早朝。
大政会は正午に始まる。
ぐっすり眠って、のんびり休む時間はない。
アルジはエミカの方を見る。
彼女は膝を抱え、頭を布団で覆っていた。
体は横向き。
アルジに背を向けている。
彼女の肩はガタガタと震えていた。
アルジは仰向けに寝ながら言った。
アルジ「もっとうまく言えばよかった」
エミカ「………」
アルジ「起動装置を…
ラグアが王火で何度も焼いてたとか。
ラグアの仲間が暴れまわって叩いてたとか。
いくらでも適当なこと言えたのにな…。
あんな場所、どうせ誰も行かないんだから。
本当かどうかなんて調べようがないんだから。
ああ、バカだぜ。オレは…。ははは…」
エミカは涙声で言う。
エミカ「…ごめん…ごめん…アルジ…」
アルジ「謝るなよ」
エミカ「…ごめん…アルジ…」
体をさらに丸めて、震え続けるエミカ。
アルジ「エミカが謝ることじゃないぜ。
知らなかったんだから。オレたちは…何も…」
エミカ「………」
アルジ「それに…
あのとき、もっともだと思った。
エミカの言ったことは…
もっともだと思ったんだ。
そうだ。あんなの…なければよかったんだ。
起動装置なんてもんがあったから、
オレたちはこんな目にあって…
オレも腹が立ったし、ぶっ壊したくなった。
エミカがやってなかったらオレがやってた!
ははは!」
エミカ「………」
今度は、真剣な口調でアルジは言う。
アルジ「…目覚めると思う」
エミカ「………」
アルジ「リャクドさんとゼリさんの…
あの言い方…本気の気がする…」
エミカ「…うん」
アルジ「オレたちは…
なんとかしなきゃならないと思う」
エミカ「………」
アルジ「倒せるか…」
エミカ「分からない。でも…」
アルジ「ああ、やるしかない」
エミカ「………」
アルジ「大政会のことはオレに任せてくれないか」
エミカ「………」
アルジ「エミカは隣で聞いててほしい。
オレが話すことを」
エミカ「アルジ、何を…」
エミカは体をアルジの方に向ける。
互いの顔を見つめ合う。
アルジは少し笑って言う。
アルジ「シノミワさん、怒るだろうな。はは…」
エミカ「アルジ、どうして…?」
アルジ「…ん?」
エミカが近づいてくる。
エミカ「どうして…そこまで…?」
アルジ「オレはあのとき…死んでいた」
エミカ「…?」
アルジ「ラグアの技で斬られたとき…
エミカが駆けつけて、
オレを治してくれなかったら、
あのままオレは死んでいた」
エミカ「………」
アルジ「それだけじゃない。
ラグアが最後…王雷をオレに撃ってたら…
やっぱりオレは死んでいた」
エミカ「………」
アルジ「このことは…間違いない。
そうだ、間違いないんだ」
エミカ「………」
アルジ「だから…
オレがここにいるのはエミカのおかげだ。
エミカがいてくれたからオレは今ここにいる」
エミカ「アルジ…」
アルジ「だから、オレはなんだってする。
エミカが苦しいなら、
苦しいことを取り除きたい。
エミカが困っているなら、
困ってることをなくしたい。
だから、今回のことは任せてくれよ。
オレは…」
エミカは泣き出した。
アルジはそっと抱きしめる。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 34
◇ HP 4577/4787
◇ 攻撃
59★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
55★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
54★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、闘主の鎧
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、
壮刃破竜斬撃、雷刃剣
◇ 魔術 雷動
◇ エミカ ◇
◇ レベル 32
◇ HP 3027/3388
◇ 攻撃 11★★★★★★★★★★★
◇ 防御
32★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
45★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★
◇ 魔力
58★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、濃色魔術衣
◇ 魔術 火弾、火球、火砲、火樹、火海、王火
氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術
天火
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 30、活汁 4
◇ 創造の杖、安定の玉