第272話 生死
巨方庭の中心。
魔籠が地上に現れる。
振動も騒音もなく。
地下からするりとそれは現れた。
アルジたち4人を乗せて。
アルジ「もう…着いたのか」
エミカ「…信じられない」
秘術空間から地上まで。
かかったのはわずかな時間。
魔籠は静かに、そして、滑らかに浮上した。
暗く、長く、細い縦穴を通って。
エミカ「魔力は少しも与えてないのに」
アルジ「オレもだ」
エミカ「どういう仕組みなんだろう」
アルジ「秘術の力じゃないのか?
…とにかく行こう」
アルジとエミカは魔籠から降りて歩き出す。
巨方庭の外に向かって進む。
日没まで残された時間はあと少し。
空はかなり暗くなっていた。
アルジ「やけに静かだ…。なんか変だぜ」
エミカ「不気味だ」
巨方庭は静まり返っていた。
まるで時が止まっているかのように。
まるで周りのすべてが死んでいるかのように。
そんな不穏な静けさに満ちていた。
アルジ「見た感じ…来たときと変わらないけどな。
でも、何かがない。何かが足りない。
そんな気がする」
エミカ「大事な何かが…すっかり消えたような…」
アルジ「ああ、そうだ。そういう感じだ」
立ち止まり、辺りを眺めるアルジとエミカ。
近くの草木は枯れていない。
だが、生きている感じがまるでない。
アルジ&エミカ「………」
草木だけではない。
地面の土も転がっている石ころも様子がおかしい。
そこに存在しているようで、実は存在していない。
そんな印象を抱かせる。
周囲にあるものすべてがまがいものに見えた。
アルジ「これは…どういうことだ?」
エミカ「アルジ、とにかく行こう」
アルジ「ああ、まずはここを出るか」
ぐんぐん歩いて進んでいく。
空はどんどん暗くなる。
黙々と歩く。
エオクシとアヅミナ。
力尽きた2人の体を運んで進む。
アルジ&エミカ「………」
巨方庭の外まであと少し。
エミカは思う。
エミカ(アヅミナさん…こんなに軽いんだ…。
こんなに軽い体で…。こんなに細い体で…。
あんなに激しい魔術を…。
すごい人…本当に…すごい人だ…)
アルジも思う。
アルジ(エオクシ…
こんなに重い装備で戦ってたのか…。
こんなに重い防具を着て、
あんなに速く動いてたのか…。
剣も重い…。
これを…あんな速さで振り回してたのか…)
エオクシの体は戦究防護衣に包まれている。
壮刃剣は、アルジの腰に携えられている。
勇気の剣とともに。
アルジの脚、腰に大きな負担がかかる。
足取りはひどく重くなる。
エミカ「アルジ、大丈夫か?」
アルジ「ああ。少しキツいけど、大丈夫だ…。
……あれ…?…もう…外か…?」
エミカ「そうみたいだ」
気がつけば、巨方庭の外にいた。
整備された歩道の上で立ち止まる。
その歩道は、ソネヤとハイラが普段歩く道。
彼らの日課である巨方庭の観察。
そのために使われる道。
背負っていたエオクシとアヅミナを寝かせる。
歩道の上に2人を並べた。
エミカ「…ごめんなさい」
エミカはアヅミナの服を探る。
合離蝶を取り出した。
それは特別機の操縦士がくれたもの。
アルジ「そいつを投げたら…
迎えにくるって言ってたよな」
エミカ「投げよう。今、ここで。迎えを待とう」
アルジ「そうだな」
エミカが高く放ると、その合離蝶は飛んでいく。
都の方へ。
すっかり暗くなった空へ。
アルジとエミカは歩道の上に座り込む。
辺りの茂みから虫の音がいくつも聞こえていた。
アルジ「…エオクシ」
アルジはふと呼びかける。
だが、返事はない。
エミカ「………」
アルジ「アヅミナさん…」
返事はない。
アルジ「………」
エミカ「アルジ」
アルジ「ちょっと…呼んでみただけだ」
エミカ「アルジ…」
アルジの目に熱い涙が浮かんだ。
それから、彼は勢いよく立ち上がる。
強く、速く、勇気の剣を何度も振った。
歩道脇の高く生い茂った草に向かって。
アルジ「うおおお!うおおおおおおおおお!!」
ばっさばっさと刈っていく。
そのうち疲れて刈るのをやめる。
歩道の上で足を投げ出して座る。
エミカ「アルジ…」
アルジとエミカは静かに涙を流す。
ひとしきり涙を流すと、今度は眠気がやってくる。
座ったままうつらうつらとする2人。
すっかり日は沈み、夜が深まっていく頃。
遠い空から特別機がやってきた。
白い翼のその機体は、暗い夜空に浮かび上がる。
静かに地上に降りてくる。
操縦士「お疲れ様でした」
声を掛けられた。
その声はとても穏やか。
アルジ「都まで…お願いします…」
操縦士「はい」
エミカ「ありがとうございます」
操縦士「いいえ、任務ですから」
アルジとエミカは担いで乗せる。
エオクシとアヅミナを特別機に。
それから、アルジとエミカも乗る。
2人とも疲れ切った顔。
3人の操縦士たちは彼らに何も問いかけない。
エオクシとアヅミナを見ることもない。
静かに浮上する機体。
見下ろしても、町の明かりはほとんど見えない。
真夜中だった。
操縦士の1人が口を開く。
操縦士「ご伝言がございます」
アルジ「…なんだ?」
操縦士「行き先は大政堂でございます」
アルジ「大政堂…」
操縦士「シノ姫様はそちらでお待ちしております」
アルジ「………」
エミカ「お城じゃ…ないんですか?」
操縦士「場所が必要だったのです。
十分に広い場所が。
多くの方々を召集しましたから」
アルジ「誰が来るんだ?」
操縦士「学者、魔術師といった専門家の方々です」
エミカ「学者…魔術師…」
操縦士「財院長も業院長も来ております」
エミカ「そんな役職の人まで…」
操縦士「シノ姫様は、総合統合官でございます」
アルジ&エミカ「………」
操縦士「お声をかければ集まります。
深夜でも早朝でも」
アルジ「人を集めて、何をするんだ?」
操縦士「下準備でございます。
十分な下準備を行うのです。
何しろ今回の事件は、国家の存亡…いいえ…
大陸のすべての民の生死に関わるものですから」
アルジ「…すべての…民…」
エミカ「下準備というのはどういうことですか?」
操縦士「ご伝言は以上でございます」
アルジ&エミカ「………」
操縦士「あとのお話は、大政堂で…
シノ姫様から直接お聞きになってください」
アルジ「…分かった」
それから、アルジとエミカは静かに過ごす。
うつむき、目を閉じ、深く息をする。
2人とも眠くはない。
操縦士たち「………」
操縦士たちも終始無言。
都に向かってただ特別機を飛ばし続ける。
やがて遠くに城が見えてくる。
屋根に、壁に、赤い光が点々と灯されている。
特別機はその横を通過し、高度を下げていく。
ゆっくりと、静かに。
操縦士「到着です」
アルジ&エミカ「………」
大きな建物の前で着陸した。
その建物は、大政堂。
政府の重要な会議が行われる場所。
メイニナが特別機の近くまで来て、迎える。
メイニナ「おかえりなさいませ。よくぞご無事で。
シノ姫様は中央大会議場にいらっしゃいます。
どうぞ、こちらへ。ご案内します」
アルジとエミカは特別機から降りる。
力尽きた仲間の体を背負って。
アルジはエオクシを、エミカはアヅミナを。
メイニナ「その2人…」
アルジ「魔術師が集まってるんだろ」
メイニナ「はい」
アルジ「ちょうどいい。見てもらいたいんだ。
2人を生き返らせることができるかどうか。
だから、連れていく。いいよな?」
メイニナ「魔術師を集めたのは…
そのためでもあります」
アルジ「…え?」
メイニナ「シノ姫様はもう知っております」
アルジ&エミカ「………」
メイニナ「大前隊のエオクシ、魔術院のアヅミナ。
2人が戦いの末、命を落としたことを」
アルジ「…!」
エミカ(これも…秘術の力…?)
大政堂の方から4人の屈強な男たちがやってきた。
彼らは大前隊の二隊員たち。
アルジとエミカに手を差し伸べる。
エオクシとアヅミナの体を差し出すよう求めた。
アルジ「いや、いい」
エミカ「私たちが運びます」
二隊員たち「………」
アルジ「どいてくれ」
エミカ「4人で帰るって、約束したから」
小さく首を傾げて、メイニナは言った。
メイニナ「…行きましょう」
アルジ「ああ」
エミカ「はい」
メイニナに案内され、大政堂に入っていく。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 34
◇ HP 4577/4787
◇ 攻撃
59★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
55★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
54★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
19★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、闘主の鎧
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、
壮刃破竜斬撃、雷刃剣
◇ 魔術 雷動
◇ エミカ ◇
◇ レベル 32
◇ HP 3027/3388
◇ 攻撃 11★★★★★★★★★★★
◇ 防御
32★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
45★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★
◇ 魔力
58★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、濃色魔術衣
◇ 魔術 火弾、火球、火砲、火樹、火海、王火
氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術
天火
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 30、活汁 4
◇ 創造の杖、安定の玉、破壊の矛




