第263話 心配
シノ姫はアルジたちに言う。
彼女の提案について。
シノ姫「あなたたちの強さ…
それは分かっているつもりです。
ラッセイムスラの討伐もお見事でした。
ロニを生け捕りにしたことも素晴らしい。
巨方庭でも、うまくやってくれる。
そう信じています。
あなたたちのことは信用しています」
アルジ「ああ、ありがとう!」
シノ姫「…だけどね」
表情を曇らせてシノ姫は続けた。
シノ姫「巨方庭へあなたたちを送り出す…
それに当たって…とても心配なことある。
とてもとても心配なことが…」
アルジ&エミカ&エオクシ&アヅミナ「………」
シノ姫「もちろん…
実際にそうなることなんてないと思ってます。
こんなことは起こり得ない。
ええ、ほとんど、確実に。
だけど、もしかしたらって思うと恐ろしくて…」
アルジ「…なんの話だ?」
シノ姫は腕をすっと上げ、エミカを指差す。
エミカ「…え…?」
アルジ&エオクシ&アヅミナ「………」
シノ姫「それです」
戸惑うエミカ。
シノ姫は和やかな顔で伝える。
シノ姫「あなたが大事に抱えているその杖です…」
エミカ「………」
シノ姫「もし、よければ…
私に預けてくれませんか?
巨方庭に行く前に…。それが私の提案です」
エミカ「………」
アルジ「エミカ…」
シノ姫「もちろん…
政府が責任をもって厳重に管理します。
二重、三重に施錠された宝庫で保管します。
見張りを置きましょう。
あなたたちが出ている間…
ずっと厳戒態勢で見張らせます。
…いかがですか?」
エオクシとアヅミナがシノ姫の提案に賛同。
エオクシ「…そうだな」
アヅミナ「それがいいね…」
エオクシ「勝つ自信はある。
だが、何が起こるか分からねえ…」
アヅミナ「敵の実力もはっきりしてないし…」
エオクシ「杖が奪われたときの脅威は甚大だ」
アヅミナ「魔真体の覚醒だけは絶対避けなきゃ」
創造の杖を胸に抱いているエミカ。
アルジはそんな彼女の横顔を見ていた。
エミカもアルジの顔を見る。
エミカ「…アルジ」
アルジ「ああ」
アルジは小さな声で返事した。
それから、エミカはシノ姫を見る。
エミカ「お断りします」
シノ姫「………」
エオクシ「…は?」
アヅミナ「え…」
アルジ「…そっか」
エミカ「…ごもっともです。
シノミワさんのおっしゃることは。
ですが、今、この杖を…
誰かの手に渡したくありません…」
シノ姫「………」
エミカ「シノミワさんも…政府も…
信用できないのではありません。
決してそんなことはない…。
だけど…預けるのは…お断りします」
シノ姫「…どうして?」
エミカ「この杖は…
私に魔術を教えてくれた先生のもの。
先生の家で…大切にされてきたものです。
それを…やっと取り返すことができた。
今は…私がこうして持っていたい。
そう思っています…。
大事に…大事に持っています…。
決して離しません。
それが…先生のために…私ができること…。
先生は…もう死んでしまったけど…
この杖を大切に持っていることが…
先生に…私の思いを届けること…
そんな気がするから…持ち続けたい。
おかしな話かもしれませんが…
先生は…リネ先生は…私のそばで…
まだ…私を見てくれている気がして…。
ですので…ご提案はお断りします」
エオクシ「おい、待て、エミカ。そいつは…」
エオクシが言い終える前にエミカは言う。
力強く、シノ姫に向かって。
エミカ「それに、あり得ません。
私たちが負けるなんてことは」
エオクシ「…!」
シノ姫「………」
エミカ「巨方庭の敵も…必ず全部倒します」
シノ姫「………」
エミカ「エオクシさんの剣術があれば、
アヅミナさんの魔術があれば、
それに、アルジの剣術と私の魔術も…
全部の力を合わせれば…無敵です。
誰も敵うはずがありません。
私は信じています。一緒に戦う仲間の力を。
大切な人たちから受け継いだ力を。
それから、私自身の力も。
誰も勝てるわけがありません。
私たちは必ず勝ちます。
相手がラグアでも、生き返った大前隊でも、
私たちは勝ちます!
負けることなんかありません!!」
エオクシ&アヅミナ「………」
シノ姫「…そう」
エミカ「ですので、余計なご心配はいりません」
シノ姫「………」
アルジ「はは…」
シノ姫はわずかに顔を震わせた。
それきり彼女は黙り込む。
シノ姫(強い子…。この子は強い子…。
ゆえに…危うい子…。
強さゆえに…とても危うい子…。
さて…どうしたものか…)
今度はアルジの顔を見て問いかける。
シノ姫「…アルジさん。あなたは?
あなたはどうするのがいいと思うの?」
アルジ「オレもエミカと同じ意見だ。
負ける気がしない。
巨方庭でどんな敵が出てきても。
エオクシも、アヅミナさんも、最高の仲間だ。
戦いのお手本だ。心強くて、ありがたい」
エオクシ&アヅミナ「………」
アルジ「もちろんエミカも最高だ。
だから、オレは…
そんな仲間に囲まれて、負ける気がしない。
オレたちが戦えば、どんな敵だって倒せる。
だから、創造の杖は預けなくたっていい。
そう思う」
エミカ「アルジ…」
シノ姫「………」
シノ姫は大きなため息をついた。
エオクシが手を挙げる。
エオクシ「シノ姫様」
シノ姫「…何?」
エオクシ「こいつらは…
このとおり、こういうやつらです」
シノ姫「………」
エオクシ「もしものときは…
万が一の場合は…
このエオクシとアヅミナが…
なんとかしてみせます。
創造の杖は絶対に敵に渡しません。
守り抜きます。
たとえ命に替えてでも…!」
シノ姫「………」
部屋の外から声が聞こえてくる。
使いの女「カルスの準備ができました!!」
シノ姫が声をかける。
シノ姫「ご苦労様…」
アルジ「あれ?カルスの準備って…」
シノ姫「特別機で送ることにしたの。
あなたたちを巨方庭まで」
エミカ「………」
シノ姫「エミカさんも、アヅミナも、
戦うための魔力を残しておきたいでしょう?
無敵のあなたたちには…
余計なお世話かもしれないけど」
エオクシ&アヅミナ「ありがとうございます」
アルジ「ありがとう、シノミワさん」
エミカ「…ありがとうございます」
そして、アルジたちは出発する。
城を出て、カルスに乗る。
カルスは静かに浮上。
操縦士は5人。
5人の魔力が機体に注入され、調和する。
力強くカルスを動かす。
操縦士の1人が言う。
操縦士「夕刻前に到着します」
アヅミナ「ありがとう。お願い」
ぐんぐん加速し、飛んでいく。
振り返れば、大君の城は小指ほどの大きさ。
エミカ「速い…!」
アヅミナ「専門家は違うね」
エオクシが活汁を配る。
エオクシ「腹減っただろ」
アルジ「ああ…」
エミカ「ありがとう」
アヅミナ「………」
エオクシ「うめえもん食おうと思ったが…
結局これだぜ」
エオクシは笑って言う。
アヅミナが活汁を一口飲む。
アヅミナ「打ち上げをしよう」
アルジ&エミカ&エオクシ「………」
アヅミナ「今回の敵を倒したら…
きっとしばらく平和になる。
なると思うから…
そのときは4人で打ち上げをしよう」
エオクシ「…いいな」
アルジ「やろう」
アヅミナ「だから、みんなで都に帰ろう」
エミカ「うん!」
カルスは高速で飛び続ける。
西へ傾き始めた日の光を浴びて。
アルジとアヅミナは座ったまま浅い眠りに就く。
エミカ「エオクシさん」
エオクシ「なんだ?」
エミカ「さっきは…
シノミワさんに話をしてくれてありがとう」
エオクシ「どうってことねえ」
エミカ「でも、どうして…」
エオクシ「負ける気がしたからだ」
エミカ「負ける…?」
エオクシ「あんとき…
シノ姫に創造の杖を預けたら、
オレたちの気がいくらか緩むんじゃねえか。
そんな考えがオレの頭をよぎった…」
エミカ「ああ…」
エオクシ「ぜってえ譲れねえもんがある。
だから、力が出る。力が湧いてくる。
そういうことってあるだろ?」
エミカ「ああ」
エオクシ「だからだ。
創造の杖はオレたちで持ってた方がいい。
あんとき、そう思った」
エミカ「そういうこと…か」
エオクシ「ラグアも必死で来るぜ」
エミカ「………」
エオクシ「大事な仲間を殺されたんだ。
せっかく手に入れた宝を奪われたんだ。
向かい合えば…全力で倒しにくるだろう」
エミカ「ああ…」
エオクシ「そんとき…
杖を預けてたら…どうだ?
いくらか…ほんのわずかかもしれねえが、
安心して…心の隙を見せちまうかもしれねえ。
それが致命的な危機を招くかもしれねえ。
負ける気がしたってのは、そういうことだ」
エミカ「分かった…」
エオクシ「オレは…負けんのは大嫌えだからよ」
エミカ「そんな気がしてた」
エオクシ「魔獣はともかく…
試合じゃ負けたことねえんだぜ」
エミカ「………」
エオクシ「引き分けたままの試合はあるが…。
打ち上げが終わったら、再戦だ。
そこで寝てるやつとな。
昨夜、オレたちは約束した」
エミカ(…やっぱり約束してたのか!)
エオクシ「エミカ、ありがとな」
エミカ「…?」
エオクシ「光術使いがいてくれて助かってる。
ケガしてもいいやって全力で戦える」
エミカ「ケガはともかく…
命に替えるのは許さないからな」
エオクシ「はは、任せとけよ」
エミカ「………」
巨方庭が遥か遠くに見えてくる。
◇◇ ステータス ◇◇
◇ アルジ ◇
◇ レベル 33
◇ HP 4234/4234
◇ 攻撃
52★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
49★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★
◇ 素早さ
47★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 魔力 15★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 勇気の剣、闘主の鎧
◇ 技 円月斬り、剛刃波状斬撃、
壮刃破竜斬撃、雷刃剣
◇ 魔術 雷動
◇ エミカ ◇
◇ レベル 30
◇ HP 2821/2821
◇ 攻撃 11★★★★★★★★★★★
◇ 防御
31★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★
◇ 素早さ
39★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
53★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 天界石の杖、濃色魔術衣
◇ 魔術 火弾、火球、火砲、火樹、火海、王火
氷弾、氷柱、氷乱、氷渦、王氷
雷弾、雷砲、雷柱、王雷
岩弾、岩砲、岩壁、王岩
光玉、治療魔術、再生魔術
天火
◇ エオクシ ◇
◇ レベル 40
◇ HP 4488/4488
◇ 攻撃
56★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★
◇ 防御
47★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★
◇ 素早さ
52★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★
◇ 魔力
◇ 装備 壮刃剣、戦究防護衣
◇ 技 天裂剣、地破剣、天地双竜剣
◇ アヅミナ ◇
◇ レベル 39
◇ HP 509/509
◇ 攻撃 1★
◇ 防御 2★★
◇ 素早さ
49★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★
◇ 魔力
54★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
★★★★★★★★★★★★★★
◇ 装備 大法力の魔杖、漆黒の術衣
◇ 魔術
火弾、火矢、火球、火砲、火羅、火嵐、王火
氷弾、氷矢、氷球、氷刃、氷柱、氷舞、王氷
暗球、精神操作、五感鈍化、魔病感染、
酷死魔術
獄火
◇ 持ち物 ◇
◇ 治療魔術薬 10、魔力回復薬 50、活汁 8
◇ 創造の杖